暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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旧版 第十四話 命のストック

 RPG-7(ロケットランチャー)の有効射程距離はおおよそ100~200メートル。ただし、命中を度外視するなら最大900メートルはいける。

 常太郎と『武士』はその長射程を生かし、”伏兵”を森のあちこちに置いていた。

 

(クソッ、なんで研究担当の僕まで――)

(黙って撃て、『博士(ヒロシ)』。いまは猫の手でも借りたい)

(人を猫の手呼ばわりとはいいご身分だな『武士(タケシ)』!?)

 

 黒騎士に向けてロケランを撃ちこんでは潰され、そしてまた別の位置から新たなロケランが撃ちこまれる。

 

『――――』

 

 命を投げ捨てる特攻に流石の黒騎士も厭わしげだ。撃ち込まれるたびに素早く潰すが、次から次へと続く襲撃はゴキブリのようにしぶとく続いている。

 

(クソが、あの化け物を倒すまであと何度死ねばいいんだ僕は?)

(ボヤくな、”次”に行くぞ)

 

 本来常太郎1人ではありえない多方向からの襲撃を為した者達は、『武士』と『博士』。常太郎が生み出した仮想人格たち。

 ただしその”器”は浅葱常太郎の”本体”とは異なる、浅葱常太郎の顔と肉体に、《武装錬金》で生み出した装備を纏う男達。毛髪は一切なく、今は服に隠れているが局部に性器を持たない。

 

(まさか《生態兵装(セル・レギオン)》で人体錬成 (仮)がやれちゃうかー……いや、やれるかもって言ったの俺だけどさぁ……)

 

 と、彼らの後方で潜み続ける本体……常太郎が《紋章(チート)》のインチキっぷりに呆れていた。できるかもとは思ったけどまさか本当にできるとは、とセルフでドン引きしている。

 

(しかも細胞を介した脳波ネットワークまで……シ〇ターズかな?)

 

 『武士』と『博士』が宿る”器”の正体は、アラケネ・マドゥルガが遺した巨大な肉片に常太郎の細胞(セル)を植え付け、浸食させ、人の形に捏ね上げて生み出した出来損ないの生体人形(ホムンクルス)。数日程度で生命活動が停止する自我を持たない肉の器だ。だが一戦限りで使い潰す前提なら、それなりに有用な追加戦力となる。

 その”器”に”仮想人格”を移し替え、”器”が壊されたら次の”器”に移る。一人格一体操作の制限こそあるが、《仮想人格換装(ペルソナチェンジ)》と《生態兵装(セル・レギオン)》のシナジーは中々にエゲつなかった。

 

(――さて、あのチビ端末で上手くお嬢様と接触できればいいんだが)

 

 派手な陽動で目を引いている間に身長15cm程度の小型の”器”が貴族令嬢と接触する算段になっている。人格が宿らずとも簡単なお使い程度はこなせるのだ。

 常太郎は小型端末を中継にまずアウレリアと接触するつもりだった。

 

「きゃっ!? な、なにあなた……? え、あの方と話したい……?」

 

 彼女の足元に辿り着き、足元の裾をグイグイと引っ張る小型の”器”に戸惑うアウレリアとの接触に成功。そしてアウレリアの《交信(コンタクト)》を仲介に勇者とも意思疎通が完了する。

 

(何の用? いま訳分かんないことが起きててちょっと忙しくてさ)

(その件で丁度お話したいという方が――)

(はい?)

(――ドーモ、いま訳分かんないことを起こしてる者です――時間がないから単刀直入に。あの真っ黒くろすけぶっ殺したいんで協力してくれない?)

 

 最大戦力たる勇者を巻き込み、悪巧みが始まる。

 

 ◆

 

 アラケネ・マドゥルガから生み出せた素体のストックは36体。それが尽きるまでが勝負だった。ストックが尽きた時点で本体は全力で撤退しろ。それが『武士』が出した条件。

 アウレリアと勇者にコンタクトを取って手早く作戦をまとめるまでに潰された数は22体。時間稼ぎで既に2/3近くが潰されている。

 

(――うん、大体分かった。何とかなりそうだ)

 

 ()()()()()()()()()()()勇者とアウレリアの協力を得ると3人は手持ちの札を晒し合う。その上で常太郎が音頭をとって手早く作戦を組み上げた。

 なおその気負いのない宣言に1人は唖然とし、1人は面白がって笑っている。

 

(ほ、本当ですか……? これが女神(ラステル)様の言っていた――?)

(アッハッハッ、()()見て()()言えるんだ。すっげー!)

 

 ケラケラ笑う勇者が指さすアレ……黒騎士は興が乗ったとばかりに樹海を焼き払い恐ろしい速度で”器”のストックを摺り潰している。その蹂躙は子どもがアリの群れを執拗に潰し遊ぶさまに似ていた。《瘴気》から溢れ出る破壊衝動に引きずられているのだろうか。

 

(いいから一度しか言わないからよく聞けよ――)

 

 ともかく黒騎士がこちらに意識を向けていないいまがチャンス。常太郎は手早く組み上げた作戦を2人へ伝える。

 それは間違えようがないくらい単純で短く明快な作戦だった。

 

(――なるほど。了解、()()()()()()()

 

 恐れ知らずの蛮勇者(ドレッドノート)が真っ先に頷き。

 

(わ、私がこんな重要な役割を……?)

 

 戦闘経験のないアウレリアは顔を暗くして俯く。今も《聖域(サンクチュアリ)》の結界で兵士達を守り、その肩に何人もの命を載せているからこその恐怖だった。

 

(大丈夫、大丈夫。だって大丈夫にしなきゃ死ぬだけだからネ!)

(一回大丈夫の定義を辞書で引き直してこい)

 

 だがその恐怖を勇者が軽やかに笑い、吹き飛ばす。呑気に呆れる青年の声もまたアウレリアの暗い気持ちを拭い去ってくれた。

 どちらも今日出会ったばかりの顔見知りとも言えない間柄。だがまるではるか昔に別れた兄妹のような懐かしさと慕わしさは、アウレリアの額に輝く《紋章》のせいだろうか。

 

(――フフッ。そうですね、では私達で大丈夫に()()()()()()()()!!)

 

 戸惑っていたアウレリアも最後には彼らの小粋なジョーク(ではない)にクスリと笑い、凛々しく頷いた。腕力や《紋章》と無関係に彼女は”強い”。苦境にあってなお足を止めず、前を向ける少女なのだ。

 

(それじゃ作戦開始(ファーストアタック)のタイミングは任せた)

(任された!)

(私もが、頑張ります!)

 

 即席の作戦は極力シンプルに。勇者が止め、アウレリアが削り、常太郎がトドメだ。

 最大戦力を足止めに使う贅沢な作戦だが、そうでもしなければあの黒騎士は抑えられない。

 常太郎が抱く最大の懸念はロケランを正面からぶちこんでも耐えきってしまいそうな黒騎士の底知れなさだが、後はもう運を天に任せる他ないだろう――切り札はあるのだし。

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