【書籍化します】暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ! 作:土ノ子
冒険者ギルドが有料で貸し出す会議室。防音と防諜がしっかり対策された空間でその会話は始まった。
「おおぅ、マジで《
「おい」
ヴィキシーより渡された2通の紹介状と使命依頼についてブライに話すと返って来た台詞である。なお半年間で
思い切り眉に唾を付けた顔つきで失礼な発言をかますブライへジト目を向けると数秒視線が合い、沈黙。そしてブライのそれはすぐにカラリとした笑みに変わった。
「――ま! 見た感じこの精巧さは本物やし、すぐバレるような浅い嘘を吐くアサギはんやないやろ。とはいえまあ、それくらい珍しいっちゅーか。アサギはんはヴェスペリア家にぶっといツテでも?」
「傭兵働きでちょっと。それ以上は企業秘密で」
「おう、そうか。まあ人には色々あるもんやしな、色々」
好奇心と疑いを8:2くらいでブレンドさせた視線を向けられる。どうやらこの紹介状は相当に異例の代物らしかった。とはいえあまり気楽に話せる話ではない。適当に答えるとそれ以上深入りすることなく何か悟った様子で頷いている。
「しかし
「?」
「いや、首を傾げるなや。組織の行動方針と噛み合わん構成員なんぞ所属するだけお互い不幸やろ?」
聞きなれない単語と、何故信仰が重要なのか分からず首を傾げる常太郎を他所に腕を組んだブライは思慮深げに話を続けた。
「そういやワイらもお互い
と、ここで常太郎の浮かべている鳩が豆鉄砲を食ったような顔にブライが気付いた。
「……
「えぇ……」
そして困惑も露わに問い返す常太郎の声に、ブライはマジかこいつという顔をした。余程ありえない常識レベルの質問だったらしい。
「あー……この世界には8柱の神さんがおる。ここまではエエよな?」
「名前くらいなら」
流石にこれくらいは知ってるよな、というニュアンスの問いかけへ神妙に頷く。この
「で、神さん方は各々の性格や
己の外にある“法”に従う『
そしてこれら四つの極点の狭間にどっちつかずの『中立』があるという。
「分かりやすいんが『法による平和』を目指した『
「なるほどなぁ……どの神様もキャラが濃そうだ」
頭の中でいま聞いた情報を整理し、さらにその2軸を組み合わせてできる
数えて9つ。数が合わないと常太郎は顔をしかめた。
「質問」
「おう、なんや。言ってみ、アサギクン」
何時の間にか講義っぽくなってきたので挙手して聞いてみるとビシッとノリの良い返しが来る。説明もよどみがなく予備校の講師あたりをやらせたら人気が出そうな男である。
「その2軸の組み合わせなら3×3で9柱じゃないか? 残りの1柱は?」
「それなら中立にして中立、つまり『
「……クレアトール?」
それはこの世界に送り込まれた時に聞いた名だ。
ようやくこの名に辿り着いたかと若干の感慨を覚えながらオウム返しに呟く。
「おう。世界……つまり
「はえー」
己をこの世界へ送り込んだ存在が思った以上のビッグネームだったことに気の抜けた声で相槌を打つ常太郎。いや、世界を創ったと豪語するなら当然と言えば当然か。
「そんなえらーい神さんやから創世記の頃は
考えてもみろとブライは続けた。
「絶対的なトップが消えて、残された
造物主が去り、やって来たのは神代……神々が力を振るった時代の幕開けだ。
「誰が次の盟主になるかで仁義なき身内争い……ですかねぇ」
常太郎が素直に感想を漏らせばブライも深々と頷いた。
誰もが慕う親分亡き後の後継者争い。一気に展開がヤクザ映画じみてきた。神も人も考えることは大して変わらないようだ。
「おう。実際神さん同士が直接矛を交えたこともあったらしいで。そん時にできたんが大陸最大の天険臥竜山脈とか……まあ、嘘か真か分からん伝説も多い」
「流石神様。スケールが大きい」
「まーそれから神さんが自分に従う勢力を率いて主導権争いしながら勢力の拡大と縮小を繰り返す神代は続き……最後にゃ神さんの大半が肉体を喪う《
「《人代開闢戦争》」
神代から人代……人の時代が開闢する重大な
「……控えめに言って地獄やったと歴史書にはある。なにせ神さん同士が直接矛を交えた挙句大半が肉体を喪っての共倒れやからな。巻き込まれた連中にとっちゃマジで地獄やろ」
「死んだ、のか……? 神が?」
「ちゃうちゃう。あくまで喪ったのは肉体で、魂の方は無事や」
「それは一般的に言って死んだって言うんじゃないですかね」
少なくとも常太郎には違いが分からなかった。異世界事情複雑怪奇なり、カルチャーギャップが激しすぎる。
「ワイも理屈はよう分からんが、神さん方にとって肉体はあくまで自分の魂を降ろして地上で動くための器っちゅー扱いらしい。あれば便利な道具やが、ないならないで天界? 幽世? から魂だけで眷属に神託を下すことも叶うんやと」
別にワイも詳しいわけやないからな? と前置きしつつブライの解説は続く。
安心しろ。普通に考えて十分詳しいしむしろオメー何者だよという疑惑が湧いてきてるところだゾ。深くは突っ込まないが。
「とはいえ地上の信徒へ命令一つ下すのもやりにくくなったっちゅー話でなぁ。神さんの肉体を造り直すのにゴッツイ手間がかかるっちゅーお寒い懐事情もあって八大眷属神は《人代開闢戦争》の反省から全員で《
「ちょっと専門用語多すぎない? そろそろ頭がパンクしそうなんだけど」
「安心せい、これで最後や。《
以来、神が直接地上に君臨する神代は終わり人をはじめとした被造物が地上を統べる人代が始まった。
「とはいえ神さん方がこの世界の調和を支える天秤なんは変わらん。この
故にここは八極天秤世界コスモ・リブラ。8柱の神と彼らを奉じる勢力が協力し対立し偏り反発しながら発展していくよう
極めて簡潔に創世記、神代、《人代開闢戦争》と
「で、アライメントの話に戻るんやが」
「そういえばそこから始まったんだったっけ」
「いや忘れんなや」
ビシリ、とブライの鋭い
「ともかく神さん方を象徴する
「――
「正解」
ブライ曰く、冒険者だと
例えば善行と修行のため冒険者になった『秩序・善』の神官戦士と、借金で首が回らない『中立・悪』の斥候が組むと報酬への価値観で十中八九破綻する。そうした目に見える危機を避けるための知恵なのだとか。
「はっー。なるほど、どんな風習にも歴史ありって感じだな」
異世界とのカルチャーギャップに驚きつつも感心して頷く常太郎である。
「昔からある国や組織は大抵神さんが設立に絡んどってな。ほぼ100%組織風土は神さんの
「となるとこの紹介状にある《
「当然アライメントは『秩序・善』や。そもそもこのセレスタリア教国自体が女神ラステルの創った宗教国家で、《
そう言うブライの顔はなんとも微妙なもの。悪口というほど悪意はないが、愚痴に近い。そんな調子だ。
「ま、あそこがどんなどころかは自分の目で見た方が早いやろ。これから神殿までどないや? 案内くらいならできるで?」
「それは助かる」
言うが早いかはブライは机から立ち上がった。常太郎も机の上の紹介状を回収しながらそれに続く。
「とはいえ騎士団にはツテもないし案内くらいしかできひんのやけどな。その紹介状があれば団長のサンドラはんにも会えるやろ」
「サンドラ……その人が例の
「神殿騎士団のトップ兼筆頭戦力やな。基本めっっっっっちゃエエ人やで? 曲者揃いの
扉を潜りながら説明を続けるブライの顔に浮かぶのは恐怖に近い畏怖と純粋な尊敬が入り混じった複雑な感情だ。このしぶとい男にこんな顔をさせるとは……俄然興味が湧いてきた常太郎である。
「ただしあの人と会うなら絶対に触れたらアカン
眉を寄せた険しい表情でブライが告げた称号を、常太郎は深く脳裏に刻み付けた。