【書籍化します】暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第三話 属性/信仰/アライメント 

 冒険者ギルドが有料で貸し出す会議室。防音と防諜がしっかり対策された空間でその会話は始まった。

 

「おおぅ、マジで《聖罰騎士団(ホーリーアヴェンジャー)》と《巨人の血族(ティターンズ)》への紹介状が揃っとる。しかもヴェスペリア家の家門付き……確認やが偽造やないよな? バレたら縛り首じゃ済まんで? ワイまで巻き添えになるやつ」

「おい」

 

 ヴィキシーより渡された2通の紹介状と使命依頼についてブライに話すと返って来た台詞である。なお半年間で黄金級(ゴールド)への昇格というのは無茶過ぎる話は流石に伏せていた。

 思い切り眉に唾を付けた顔つきで失礼な発言をかますブライへジト目を向けると数秒視線が合い、沈黙。そしてブライのそれはすぐにカラリとした笑みに変わった。

 

「――ま! 見た感じこの精巧さは本物やし、すぐバレるような浅い嘘を吐くアサギはんやないやろ。とはいえまあ、それくらい珍しいっちゅーか。アサギはんはヴェスペリア家にぶっといツテでも?」

「傭兵働きでちょっと。それ以上は企業秘密で」

「おう、そうか。まあ人には色々あるもんやしな、色々」

 

 好奇心と疑いを8:2くらいでブレンドさせた視線を向けられる。どうやらこの紹介状は相当に異例の代物らしかった。とはいえあまり気楽に話せる話ではない。適当に答えるとそれ以上深入りすることなく何か悟った様子で頷いている。

 

「しかし派閥(フラクション)か。確かにこのどっちかに潜り込めれば昇格が相当楽になるで。そうなると信仰(アライメント)が合致するかが重要やな……」

「?」

「いや、首を傾げるなや。組織の行動方針と噛み合わん構成員なんぞ所属するだけお互い不幸やろ?」

 

 聞きなれない単語と、何故信仰が重要なのか分からず首を傾げる常太郎を他所に腕を組んだブライは思慮深げに話を続けた。

 

「そういやワイらもお互い信仰(アライメント)を聞いたことなかったわなぁ。アサギはんはどちらの神さんに帰依しとるん? ちなみにワイは『中立・悪(ニュートラル・イービル)』の神さんやな。冒険者なら大抵この神さんを――なんやその妖精に悪戯されたような顔。悪いもんでも食ったんか?」

 

 と、ここで常太郎の浮かべている鳩が豆鉄砲を食ったような顔にブライが気付いた。

 

「……信仰(アライメント)って、なに?」

「えぇ……」

 

 そして困惑も露わに問い返す常太郎の声に、ブライはマジかこいつという顔をした。余程ありえない常識レベルの質問だったらしい。

 

「あー……この世界には8柱の神さんがおる。ここまではエエよな?」

「名前くらいなら」

 

 流石にこれくらいは知ってるよな、というニュアンスの問いかけへ神妙に頷く。この天秤世界(コスモ・リブラ)にも大分慣れたが、やはりこういう細かいところで異邦人の無知というか、常識の差が出てしまう。

 

「で、神さん方は各々の性格や立ち位置(スタンス)がこれまたキッパリ別れとってな? それを一言で表すのが『秩序・中立・混沌』と『善・中立・悪』の2軸を組み合わせた属性(アライメント)や。神さん方の親にあたる創造神がそう創ったと言われとる」

 

 己の外にある“法”に従う『秩序(ロウ)』、己の内にある“意志”を貫く『混沌(カオス)』。

 利他(ダレカのため)に動く『(グッド)』、利己(オノレのため)に動く『(イービル)』。

 そしてこれら四つの極点の狭間にどっちつかずの『中立』があるという。

 

「分かりやすいんが『法による平和』を目指した『秩序・善(ラステル)』に、『束縛を嫌う一匹狼』の『混沌・悪(ノクティア)』の双子姉妹か? この属性(アライメント)が全対立しとる神さんは仲がゴッツ悪いでぇ……」

「なるほどなぁ……どの神様もキャラが濃そうだ」

 

 頭の中でいま聞いた情報を整理し、さらにその2軸を組み合わせてできる属性(アライメント)の概要を思い浮かべる。

 

 秩序にして善(ロウフル・グッド)。規律正しく善行を施す聖職者や騎士などが該当。

 中立にして善(ニュートラル・グッド)。時に法すら破り他者を助ける正義の闇医者や自警団などが該当。

 混沌にして善(カオス・グッド)。他者を救うため法を超えて自らの意志を貫く革命家や義賊などが該当。

 

 秩序にして中立(ロウフル・ニュートラル)。善悪よりも秩序の維持を重視する兵士や官僚などが該当。

 真なる中立(トゥルーニュートラル)。その時々でどう動くか捉えどころがなく分類困難。

 混沌にして中立(カオス・ニュートラル)。自由を尊び社会に縛られない世捨て人や自然の化身である竜などが該当。

 

 秩序にして悪(ロウフル・イービル)。秩序の中で我欲を追求する詐欺師や独裁者などが該当。

 中立にして悪(ニュートラル・イービル)。社会に属しつつも我欲のため時に他者を侵す冒険者や傭兵などが該当。

 混沌にして悪(カオス・イービル)。法も他者も気にせず、我欲と意志を貫き通す一匹狼や復讐鬼などが該当。

 

 数えて9つ。数が合わないと常太郎は顔をしかめた。

 

「質問」

「おう、なんや。言ってみ、アサギクン」

 

 何時の間にか講義っぽくなってきたので挙手して聞いてみるとビシッとノリの良い返しが来る。説明もよどみがなく予備校の講師あたりをやらせたら人気が出そうな男である。

 

「その2軸の組み合わせなら3×3で9柱じゃないか? 残りの1柱は?」

「それなら中立にして中立、つまり『真なる中立(トゥルーニュートラル)』は創造神クレアトールが創世記の終わりにこの世界を離れてからずーっと空位やで」

「……クレアトール?」

 

 それはこの世界に送り込まれた時に聞いた名だ。

 ようやくこの名に辿り着いたかと若干の感慨を覚えながらオウム返しに呟く。

 

「おう。世界……つまり人類(ワイら)を含む『全て』を造った造物主(おとん)やな! 一説にゃ『秩序であり混沌であり善であり悪であるが故の真なる中立』――要するに何にでもなれて何でもできる(全知全能の)神さんやったんやと」

「はえー」

 

 己をこの世界へ送り込んだ存在が思った以上のビッグネームだったことに気の抜けた声で相槌を打つ常太郎。いや、世界を創ったと豪語するなら当然と言えば当然か。

 

「そんなえらーい神さんやから創世記の頃は眷属神(コドモ)にあたる8柱の神さん方も強く慕ってまさに盤石やったんやが。創世記が終わり、クレアトールがこの世界を去った後の神代になって風向きが変わった」

 

 考えてもみろとブライは続けた。

 

「絶対的なトップが消えて、残された眷属神(コドモ)達はみーんな好みも行動方針もバラバラ。なのに互いに同格。仲いい奴らも反りの合わん奴らもおる。となれば起こるのは――」

 

 造物主が去り、やって来たのは神代……神々が力を振るった時代の幕開けだ。

 

「誰が次の盟主になるかで仁義なき身内争い……ですかねぇ」

 

 常太郎が素直に感想を漏らせばブライも深々と頷いた。

 誰もが慕う親分亡き後の後継者争い。一気に展開がヤクザ映画じみてきた。神も人も考えることは大して変わらないようだ。

 

「おう。実際神さん同士が直接矛を交えたこともあったらしいで。そん時にできたんが大陸最大の天険臥竜山脈とか……まあ、嘘か真か分からん伝説も多い」

「流石神様。スケールが大きい」

「まーそれから神さんが自分に従う勢力を率いて主導権争いしながら勢力の拡大と縮小を繰り返す神代は続き……最後にゃ神さんの大半が肉体を喪う《人代開闢戦争(じんだいかいびゃくせんそう)》が起きる」

「《人代開闢戦争》」

 

 神代から人代……人の時代が開闢する重大な転換点(ターニングポイント)となった戦争の名を鸚鵡返しに呟いた。

 

「……控えめに言って地獄やったと歴史書にはある。なにせ神さん同士が直接矛を交えた挙句大半が肉体を喪っての共倒れやからな。巻き込まれた連中にとっちゃマジで地獄やろ」

「死んだ、のか……? 神が?」

「ちゃうちゃう。あくまで喪ったのは肉体で、魂の方は無事や」

「それは一般的に言って死んだって言うんじゃないですかね」

 

 少なくとも常太郎には違いが分からなかった。異世界事情複雑怪奇なり、カルチャーギャップが激しすぎる。

 

「ワイも理屈はよう分からんが、神さん方にとって肉体はあくまで自分の魂を降ろして地上で動くための器っちゅー扱いらしい。あれば便利な道具やが、ないならないで天界? 幽世? から魂だけで眷属に神託を下すことも叶うんやと」

 

 別にワイも詳しいわけやないからな? と前置きしつつブライの解説は続く。

 安心しろ。普通に考えて十分詳しいしむしろオメー何者だよという疑惑が湧いてきてるところだゾ。深くは突っ込まないが。

 

「とはいえ地上の信徒へ命令一つ下すのもやりにくくなったっちゅー話でなぁ。神さんの肉体を造り直すのにゴッツイ手間がかかるっちゅーお寒い懐事情もあって八大眷属神は《人代開闢戦争》の反省から全員で《大協定(グランドコード)》を結んだ」

「ちょっと専門用語多すぎない? そろそろ頭がパンクしそうなんだけど」

「安心せい、これで最後や。《大協定(グランドコード)》は要するに神さんが地上へ干渉するのは程ほどにしつつルールを守って楽しく戦争(ケンカ)しましょうっちゅー人間にとっちゃありがたい協定でな。神さんの代理人である《使徒》の扱いやらなんやらもそこで定められたって訳やな」

 

 以来、神が直接地上に君臨する神代は終わり人をはじめとした被造物が地上を統べる人代が始まった。

 

「とはいえ神さん方がこの世界の調和を支える天秤なんは変わらん。この天秤世界(コスモ・リブラ)は個性溢れる眷属神(コドモ)達が均衡(バランス)を取って発展してきたっちゅー訳や」

 

 故にここは八極天秤世界コスモ・リブラ。8柱の神と彼らを奉じる勢力が協力し対立し偏り反発しながら発展していくよう創造(デザイン)された世界なのだと。

 極めて簡潔に創世記、神代、《人代開闢戦争》と現在(イマ)へと至る流れを説明しながらブライはそう結論をまとめた。

 

「で、アライメントの話に戻るんやが」

「そういえばそこから始まったんだったっけ」

「いや忘れんなや」

 

 ビシリ、とブライの鋭い裏拳(ツッコミ)が常太郎の肩に突き刺さる。そこそこ痛かった。

 

「ともかく神さん方を象徴する属性(アライメント)はそのまま帰依した連中の行動指針にもなった。火精(サラマンドラ)は火山に、水精(ウンディーネ)は水辺にって言うやろ? やっぱ神さんを慕う運中も似た気質のが集まりやすかったんよ。実利もあるし今じゃ神さんに帰依しとらん奴はほぼおらん。そこで必要な時に自分が帰依している神さんを開示する風習が自然とできたんやな……つまりそれが」

「――信仰(アライメント)って訳だ」

「正解」

 

 ブライ曰く、冒険者だと徒党(パーティ)を組む時に信仰(アライメント)を開示し合うことが多いらしい。

 例えば善行と修行のため冒険者になった『秩序・善』の神官戦士と、借金で首が回らない『中立・悪』の斥候が組むと報酬への価値観で十中八九破綻する。そうした目に見える危機を避けるための知恵なのだとか。

 

「はっー。なるほど、どんな風習にも歴史ありって感じだな」

 

 異世界とのカルチャーギャップに驚きつつも感心して頷く常太郎である。

 

「昔からある国や組織は大抵神さんが設立に絡んどってな。ほぼ100%組織風土は神さんの属性(アライメント)に染まる」

「となるとこの紹介状にある《聖罰騎士団(ホーリーアヴェンジャー)》も?」

「当然アライメントは『秩序・善』や。そもそもこのセレスタリア教国自体が女神ラステルの創った宗教国家で、《聖罰騎士団(ホーリーアヴェンジャー)》はその影響を強く受け取る。まー生真面目で頭コチコチの神官ばっかやでー」

 

 そう言うブライの顔はなんとも微妙なもの。悪口というほど悪意はないが、愚痴に近い。そんな調子だ。

 

「ま、あそこがどんなどころかは自分の目で見た方が早いやろ。これから神殿までどないや? 案内くらいならできるで?」

「それは助かる」

 

 言うが早いかはブライは机から立ち上がった。常太郎も机の上の紹介状を回収しながらそれに続く。

 

「とはいえ騎士団にはツテもないし案内くらいしかできひんのやけどな。その紹介状があれば団長のサンドラはんにも会えるやろ」

「サンドラ……その人が例の黄金級(ゴールド)か」

「神殿騎士団のトップ兼筆頭戦力やな。基本めっっっっっちゃエエ人やで? 曲者揃いの黄金級(ゴールド)の中では文句なしに一番の人格者や」

 

 扉を潜りながら説明を続けるブライの顔に浮かぶのは恐怖に近い畏怖と純粋な尊敬が入り混じった複雑な感情だ。このしぶとい男にこんな顔をさせるとは……俄然興味が湧いてきた常太郎である。

 

「ただしあの人と会うなら絶対に触れたらアカン禁忌(タブー)が一つある。忘れんなよ、あの人の二つ名は――」

 

 眉を寄せた険しい表情でブライが告げた称号を、常太郎は深く脳裏に刻み付けた。

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