【書籍化します】暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ! 作:土ノ子
今日もにぎやかなコロニエ・ノワテッラの雑踏をブライとともに歩く。
「――そも女神ラステルは八大眷属神の中で一番優しゅうて人間想いやて言われてる御方でな? やから当然《
神殿へと道すがらブライからそう説明を受けながら歩く。
これから向かう《
「ただしお固すぎる気風とゴリゴリの脳筋腕力主義が致命的に自由な冒険者と合わん。ワイあたりやと万が一入団できても一週間もすれば訓練で捻り潰されるか堅苦しさに窒息して死ぬやろな」
「脳筋腕力主義? 聖職者だろ?」
確かに悪人ではないが善人でもなく、腕力よりも世渡りが得意なブライとは相性が悪そうだ。
宗教と脳筋がいまいち結びつかない常太郎は、割と真面目に嫌そうな顔をしたブライへ素直にそう聞いた。
「
「戦う修道士って奴か……」
そういえば地球でも十字軍時代に宗教と武装勢力が強力に結びついた宗教騎士団が誕生したはずだ。この天秤世界では魔獣などの外敵も多いし確かな実物としての神が存在するとなればそうした組織が登場するのは自然な流れだろう。
「国との関係も深いしなぁ。ここの辺境伯家とはズブズブや、ズブズブ」
「詳しいな」
「この程度の情報は抑えとかんと流れの冒険者なんぞやれんわ」
お前も情報収集は怠るなと暗に忠告を受け、素直に頷く常太郎である。
「あと
「ちょっと待った」
なにやら聞き捨てならぬ言葉に一旦ストップをかける。ブライは訝し気な顔をした。
「え、《紋章》って神様から貰えるの? 生まれつきじゃなくて?」
「何言っとんのや。ワイみたいな凡夫にとっちゃそれが神さんに帰依する一番の理由やで? 神さんとの相性はあるし授かる《紋章》も千差万別やけどな」
必ずしも授かる訳ではなく、授かっても望み通りの《紋章》とは限らない。神意に逆らえば取り上げられることすらも。だが後天的に《紋章》を授かる方法はあると知った常太郎は驚きを隠せない。
(俺も驚いたが、冷静に考えると俺達も
だが胸の内で囁いた『武士』の指摘に思わずなるほどと唸る。
言われてみればクレアトールから3つの《紋章》を授かった件はまさにそれだ。となれば自分が鈍かっただけで本当なら驚くようなことではないと常太郎は納得した。
常太郎が頷いたのを見てブライは話を続けた。
「神さんから授かる《紋章》と言えば代行者である《使徒》が有名やが、サンドラはんも負けとらん。ただの村娘が
《ラステルの矛》に《
そう言って俗っぽくカラカラと笑ったブライは本気とも冗談ともつかない褒め言葉でそう〆た。
つまりはこの西方辺土で尊敬される非の打ち所がない
しかしいま微妙に話の流れに違和感があったような……。
「なあ――」
「おっ、なんや? 丁度神殿のあたりでなんかやっとるな……」
声をかけようとした矢先、前方の人だかりにブライの目が留まった。高くない背を補おうと爪先を伸ばし、なんとか人だかりの先を覗こうとしている。
常太郎もまた否応なく視界に飛び込んでくるその光景に耳目を集中した。
わああああぁぁ――――!
喜びと興奮の混じった声高なざわめきがその名を呼ぶ。サンドラ、女神の矛。サンドラ、ドラゴン殺し。
幾度となく呼ばれるその名とともに視界に映ったのは、光を失った半開きの眼を晒す――ドラゴンの首だった。少なくとも常太郎がそう誤認するレベルでドラゴンと似た生物だ。
馬車の荷台に載せられ運ばれる頭部は人を丸呑みできそうなほど巨大な
だが鈍色の鱗は太陽に照らされて輝き、光を失った目はなおも民衆を睥睨してその威容を知らしめている。骸となってなおドラゴンはその強大さを知らしめていた。
「《灰滅火竜》グリムドレイク。南の鉱山帯に火竜夫婦が棲みついたとは聞いとったが……討ち取ったか! 流石やな」
ブライが称賛とともに叫んだグリムドレイクは前肢と翼が一体化した
確か特徴は飛行能力と強烈な火炎放射の如き
無論真竜……智慧持つ竜に比べれば十把一絡げに過ぎないが、現実的に想定しうる脅威の中では最上位に近い強力な魔獣だ。
「しかし見えるのは1体だけ。もう1体はどこに……ひょっとして《
歓楽街を統べる大型
凱旋の戦列の先頭にあったドラゴンの首級が行き過ぎ、その次に並んでいた軍馬に跨る乙女へその歓声は向けられていた。
サンドラ、サンドラ、サンドラ!
「主役の登場やで。あのお人が例のサンドラはんや!」
「あの人が……
常太郎が困惑を漏らしたのも無理はない。ブライが指さした先にいたのは……耳にした前評判を裏切るうら若く小柄な
見かけだけなら小柄な尼僧の横で軍馬を進めている巨躯の鎧の方がよほど
シスターの身長は150㎝ほどか。後に続く傷だらけの鎧を着込んだ神官戦士達の体格がどれも逞しい分、一層その小柄さが目立つ。
しかも着込んでいるのが黒い修道服に
とはいえ黒のタイツで覆われた艶めかしい太股が覗くスカートのスリットは動きやすさを優先してのものだろう。さらにウェストを引き締めるように巻かれたベルトには短刀やポーチなどが引っ掛けられているあたりに実戦性と実用性が感じられた。
「アレで最低50歳以上は嘘だろ……別人と間違えてないか?」
ブライの言葉が正しければサンドラ・セクストンは最低50年以上の戦歴を誇る老女のはず。だがどう見ても20代前半を超えるようには見えなかった。
「そう思うのも無理はないわな。曰く、女神の加護であの人は歳を取らんのやと」
曰く、永遠の乙女。そのサンドラが常太郎達がいる方へ振り向き……目が合った。
そう感じた直後、サンドラはひらひらと挨拶するように手を振った――
ほのぼのとした笑みと、黒く汚れた返り血の強烈なギャップ。見えない何かに首筋を撫でられたような戦慄が背筋を走った。
凱旋の戦列に並ぶ神官戦士達の鎧も傷つきながら眩く輝く中、無傷のまま凄惨な笑顔を浮かべる彼女だけがひどく異質で浮いて見えた。