【書籍化します】暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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予約投稿ミスりました。すみません。
これにてWEB版は一区切りとなります。


第五話 《滅竜聖女》

 《灰滅火竜》グリムドレイクの首とそれを討ったサンドラ。まさに英雄の凱旋という光景を目にした後。

 常太郎達はそのまま《聖罰騎士団(ホーリーアヴェンジャー)》の拠点、教会へと足を運んだ。

 元々の目的だったサンドラとの顔合わせは、流石に帰還したばかりでは難しいだろう。だが次に会う約束(アポ)だけでも取り付けておこうと思ってのことだった。

 

「流石はヴェスペリア家の紹介状やな。まさかその日に会って話せるとは思っとらんかったわ」

「そりゃ俺もだよ。大したご利益だ。足を向けて寝れないな」

 

 が、意外なことに紹介状を渡し用件を告げると即日サンドラと会える許可が出た。

 そのまま来客用の応接間に通され、待つことしばし。ちなみに応接間は清貧を旨とする協会らしく質素で簡素。だが調度品は綺麗に磨かれており、開け放たれた窓から差し込む太陽の光が明るい清潔で心地よい空間だった。

 ソファの背に軽くもたれかかるブライと雑談しながら時間を潰しながら待っていたところ。

 

「――ようこそ、教会へ。《聖罰騎士団(ホーリーアヴェンジャー)》の代表としてお客人を心から歓迎いたしますわ」

 

 屈託のない笑みを浮かべてティーセットを運ぶサンドラ・セクストンその人が現れた。

 常太郎達が待っている間に身繕いを済ませたのか、あの横顔にベッタリと貼り付いたどす黒い血痕は綺麗さっぱり拭われている。雰囲気も楚々と穏やかで、見かけは本当にどこにでもいる尼僧(シスター)だ。

 

「こんにちは、シスター・サンドラ。今日はお忙しいところ、ありがとうございます」

 

 立ち上がり、軽く頭を下げる。挨拶はブライから聞いたアドバイスを参考に極力フラットに、しかし誠意を込めて。彼女が堅苦しいことは好まない人柄なのは結構知られた話らしい。

 ちなみにそのブライだが席を立ったまま常太郎の背後で影のように気配を殺して控えていた。交渉の矢面に立つ気はないという意思表示だろう。

 

「いえいえ、実は私の方こそあなたにはお会いしたかったのです。いま、お茶を淹れましょう」

 

 サンドラはリラックスした雰囲気のまま挨拶を受け、小さな机にティーセットを置く。ふわりと身体に染み入るような香気が漂った。

 

「うちの薬草園で採れた薬草茶(ハーブティー)です。苦いですが、身体にいいのですよ?」

 

 そう言って手ずから薬草茶をカップに注ぎ、そっと差し出してくる。手慣れた仕草に、飾らない空気。自然体だ。

 礼を言って温かなカップを手に取り、澄んだ橙色の液体を口に含む。やや薬臭く、苦みが強い。だが飲み干すと口内が洗われたようにスッキリとした後味が残った。

 

(……飲み慣れない風味だけど悪くないな。うん、いける)

(気に入ったか。俺は苦手だな。薬を仕込まれた時に分かりづらい)

(うーん、実戦的ぃ)

 

 一方サンドラを見れば温かい薬草茶をホゥッと一息つきながらゆっくりと喫している。見た目は妙齢の美女ながらどこか老成した雰囲気。やはり噂の通り相応の年齢を重ねているのだろう。

 ジロリ。何故か背筋に走った一瞬の寒気を気のせいだと振り払い、常太郎は今日の訪問の本題を口にする。

 

「ところで今日伺ったのは――」

「ああ、ヴィキシー殿から仔細は伺っています。ですが、フフ……」

「……なにか?」

 

 意味ありげに微笑みを向けられ、常太郎が戸惑いを見せる。優し気な微笑みだが、妙な含みが滲んでいるような……。

 

「彼女からあなたのことを多少なり聞いていたので。フフフ、どんな殿方かと実はお会いするのを楽しみにしていたのですよ?」

「そうですか……」

 

 クスクスとからかいの籠った微笑みを向けられ、困った顔をするしかない常太郎である。

 

「既に事情は聞き、納得しています。思うところはありますが、いまが危急の時であるのも確か。その実力を自ら証明し、人格を辺境伯家が保証する限り私はひとまずあなたを支持します」

「ありがとうございます」

 

 何をどう言い繕おうと常太郎達がやろうとしているのは横紙破りだ。先達の黄金級(ゴールド)から強い反発があってもおかしくはない。だがサンドラがそうした反発を抑えてくれるのなら大分マシになるだろう。

 

「ですが《聖罰騎士団(ホーリーアヴェンジャー)》への所属は止めておいた方がいいでしょう。確かにメリットはありますが、それ以上にデメリットが大きい」

「何故でしょう?」

 

 ブライの話を聞いたことで所属する意欲は薄かったが、こうもキッパリ断られれば逆に興味が湧く。

 

「細かい理屈は脇に置き、率直に。あなたは女神ラステルに帰依していますか?」

「いいえ」

 

 全てを見透かすような柔らかくも鋭い視線。その視線につまらない嘘をつく意味もないと素直に首を横に振った。サンドラもでしょうねと頷く。

 

「であればやはり所属ではなく協力に留めた方が無難かと。ただの信徒ならばともかく《聖罰騎士団(ホーリーアヴェンジャー)》に属するとなると戒律はずっと厳しくなりますし、四六時中同胞達と寝起きしながら常に鍛錬・奉仕・労働の日々なので……」

「……なるほど」

 

 魔獣討伐、治安活動、農耕、炊き出し、治療、清掃、etc.

 命がけの奉仕活動(ボランティア)が延々と終わらず続く日々。戒律は多く、プライベートな時間はほぼなく、個々の欲望より共同体の利益が重視される極めて禁欲的(ストイック)なライフスタイル。

 どう考えても現代日本人にはキツすぎる。一週間で音を上げる未来しか見えない。常太郎は即座に白旗を上げ、頷いた。

 

「我ら秩序にして善の尖兵。法による平和を守る矛にして盾――それが《聖罰騎士団(ホーリーアヴェンジャー)》です。

 女神ラステルが授けた教典に服し、その神意の代行者たること。無論、深淵樹海(ブロセリアンド)から溢れ出る脅威を押し留める壁となり身命を(なげう)つこともその役割の1つ」

 

 身命を(なげう)つ。

 いかにも聖職者らしく大仰で献身的な決意を全くの自然体で口にするサンドラを見て何故か常太郎の背筋が粟立った。

 

(本気で言ってるな)

(ああ。信仰者とはこういうものか)

 

 ごく自然にこぼれ落ちるくらい日頃から口にし、実行してきたのだろう。()()()()()()()()

 その献身は素直に凄い。だが、重い。重すぎる。

 常太郎も()()()()()()()と理屈抜きに直感せざるを得なかった。嫋やかな乙女に見えて根っこに金剛石(ダイヤモンド)のような決意が揺ぎ無く座っている。乙女ではなく女傑と呼ぶべき傑物だろう。

 

「挺身の覚悟がない者に入団許可は与えられません。不足ではなく、不適故に」

「無理に入団しても互いにひずみを生むだけと」

「はい」

 

 不足ではなく不適。要するに実力ではなく相性の問題なのだろう。なるほど、これがアライメントが合わないということか。

 確かに自分のような俗物は彼女のようになれないし、同調もできないだろうと静かな納得が常太郎の腑に落ちた。

 であればさて、己はどんな黄金級を目指すべきなのか……思考が脇に逸れかけた辺りでサンドラが継いだ言葉に意識が引き戻される。

 

「ですがもちろん助力が必要な時はいつでも言って下さいね! 相応の喜捨さえ頂けるのなら我々もかなりの協力をお約束できます。なにせヴェスペリア家(スポンサー)のご意向ですので」

「財布のひもがしっかりしてますねぇ」

 

 感心と呆れを半々に呟くとサンドラは我が意を得たりと頷く。彼女は信仰に生きる一方で1つの組織の長としてしっかりとした経済観念を持ち合わせているのだ。

 

「それはもう。街で住み暮らしていく以上信仰に生きていようとお金の問題は避けて通れませんもの。強欲は悪徳ですが、適度な金銭のやり取りは大事です」

 

 団員達を食べさせていくのも大変なんです、とため息を吐く横顔は家庭の財布をやりくりする主婦じみていた。

 が、この都市を統治するヴェスペリア家とも太いコネを繋げて持ちつ持たれつやっているあたり政治力まで兼ね揃えている。オールジャンルでハイスペックが過ぎる。

 

「なにより人類というひ弱な種族が深淵樹海(ブロセリアンド)から湧き出す脅威に抗うには協力と団結が重要です。ともにこの開拓前線都市の盾として手を取り合っていきましょう!」

 

 ムン、と両手を拳の形に握って気合を入れるその姿はどこか童女のように純粋で、キラキラと目が輝いている。己の正しさを欠片も疑っていない目だ。現代風に言うなら()()()()()()()()

 良くも悪くも強い芯を持つ人間は周囲を強烈に吸引する魅力(カリスマ)を持つ。

 華やかさはないが清楚な美人。自ら最前線に立ち、非の打ち所のない正論を率先垂範で有言実行。理想と現実を擦り合わせるバランス感覚を持ち合わせ、しかも独り身で歳を取らない。この魅力に()()()()信者は多いだろうな、と地球で山ほど偶像(アイドル)を見た経験からそう思う。娯楽が少ない天秤世界ならなおさらに。

 

深淵樹海(ブロセリアンド)にひしめく魔獣は数多くどれも強大です。我らは開拓前線都市の盾として『混沌・悪』の尖兵を()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魔獣。ただの獣と一線を画す、異常に高い攻撃性と戦闘力を誇る魔の獣達。彼らの多くは神代に『混沌・悪』の女神ノクティアが生み出した戦の尖兵だったという。《復讐の女王蜘蛛》や亜竜種もノクティアが生み出した眷属の末裔だ。

 ノクティアの本拠地である深淵樹海(ブロセリアンド)現代(イマ)に至るまで魔獣達の楽園であり続ける一方、隣接する人類圏の脅威としてもあり続けた。

 その生涯の大半を戦場に生きたサンドラは樹海の魔獣が起こす悲劇を目にし続けた。だがその中でも極めつけが――。

 

「――特に“竜”は」

 

 ()()()、と。

 一瞬。だが地獄の溶鉱炉に似た、焼けるような空気がサンドラから溢れ出す。さっきまでのほのぼのとした空気から一転、ここが戦場かと錯覚するほどに濃厚な殺気が部屋中に満ちた。

 

(これは――)

(――ヤバいな)

 

 ピリピリと肌が粟立つ。まるで針でつつかれているかのような……。恐怖に鈍感な『武士』が思わずそう漏らすほどに熟成され、研ぎ澄まされた殺意だ。

 背後にいたブライをチラリと見れば、露骨に顔を蒼褪め腰が引けていた。だが常太郎はそれを無様だとは思わない。

 

(確か彼女の一番古い異名は――)

 

 ブライが話してくれた、サンドラにまつわる逸話の中で最も有名な悲劇について思い出す。

 彼女が女神の加護享けし50と余年前に起きた惨劇。悪竜の吐息で焼き払われた開拓村の残骸から生まれた復讐鬼――。

 

(《滅竜聖女(ドラゴンスローター)》サンドラ。噂以上の狂気だな)

 

 竜に対する異常な殺意と虐殺(スローター)に近い苛烈さ故に付けられた仇名(アダナ)である。

 

「あら、ごめんなさい。私ったらはしたない真似を……」

 

 ちょっと粗相をしてしまいました、とでも言いたげに頬を染めて謝るサンドラだが漏れ出た殺気は絶対にそんな生易しい憎悪(モノ)ではなかった。

 ゾワゾワとサンドラの影が不吉に()()()()()のは絶対に気のせいではあるまい。彼女の高ぶりにその《紋章》が反応したのだ。

 

(……ひょっとして黄金級(ゴールド)ってクセの強い奴しかいないのかな?)

(諦めろ。俺はもう諦めた)

(俺、この人達と同格(イロモノ)にならなきゃなのかぁ……キャラ変した方がいいのかな)

 

 ジルヴェに引き続き出会った2人目の黄金級(ゴールド)、サンドラ。

 聞く人が聞けば鼻で笑いそうな悩みとともに、常太郎は半ば現実逃避のようにそう思った。




ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

今回投稿した5話分は、以前WEB版の続きを想定して書いていた未公開分です。
そして、この話をもってWEB版の更新は一区切りとなります。

物語としては未完の形になってしまいます。
続きを待ってくださっていた方には、改めて申し訳ありません。

未完という形で区切りをつけることには迷いがありました。
ただ、この原稿を完全に眠らせてしまうよりも、WEB版を読んでくださった方に、最後に少しでもお届けしたいと思いました。

長く更新が止まっていたにもかかわらず、また読みに来てくださった方。
ブックマーク、評価、感想などで応援してくださった方。
本当にありがとうございました。

WEB版としての『暴ゼロ』は、ここで一区切りです。
ですが、『暴ゼロ』という作品そのものは、ここで終わりません。

書籍版では、WEB版をプロトタイプに位置付けつつ大幅に書き直しました。
単なる加筆修正ではなく、完全な新規ストーリーとなっています。

WEB版を楽しんでくださった方ほど、
「ここを残したのか」
「ここはこう変えたのか」
「このキャラはこう掘り下げたのか」
という違いも楽しんでいただけると思います。

WEB版があったからこそ、書籍版の『暴ゼロ』へ進むことができました。
ここまで一緒に来てくださり、本当にありがとうございました。
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