暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ! 作:土ノ子
青空の下、ただやることもなくのんびりと街を歩く。こんな時間は久しぶりだなと、元社畜は思った。
――1日で約40万オーラム。それがあの日、常太郎達が稼いだ金である。
ブライと
最後まで
ともかく中々の金額だ。宿の滞在費に食費と諸々の生活費からざっくり計算すると、確かに大分余裕をもって生活ができる。
「月に1度働けばあとは悠々自適の異世界生活……夢のスローライフを実現したな」
(転職成功だな……とでも言えばいいのか?)
「脱・社畜は夢に見てたけど、まさか死んでからようやく夢が叶うとは思わなかった」
『武士』とシニカルに笑い合う。カスタマイズした
とはいえある意味ブラック具合は地球にいた頃より上がっているかもしれない。
(タイムリミットがいつになるのか分からんクレアトールの依頼がなければな)
「……いくら何でも年単位で猶予はあるだろ。まともに探し物をするにはブロセリアンドは広すぎる」
なにせ国を複数飲み込んで余りあるという大樹海だ。武士の指摘をなんとか受け流しつつ、街を歩く。
今日は流石に
流石に武装は担いでいないが、その気になればいつでも手元に生み出せる。
(……いつもより人通りが多い気がするな)
「そうか? こんなもんだろ?」
コロニエ・ノワテッラは広い。おまけに第三層は最も広く、最も整理されていない、混沌とした街並みだ。
発展途上国の路地裏を歩いているような物珍しさと危なっかしさを感じる場所だが、いつもよりいきかう人の数が多い。
(それでどこに向かっている?)
「いや、別に目的地がある訳でもないんだが――って、あ……」
(ギルドか。何か用でもあったか?)
『武士』と小声で雑談を交わしながら適当に足を動かしていると、気が付いた時には冒険者ギルドに辿り着いていた。意識してのことではない。特に目的地がある訳ではないが気晴らしに歩いていたら無意識の内に知っている場所へ足を向けるアレだ。
「……まあ、宿に戻ってもやることはないしなぁ」
元社畜のはしくれとして
「この時間帯ってこんなに人が少ないんだな」
(いつもはもっと混んでいるからな)
初日の猥雑なまでに精力的だった空気はなく、人も少ないガランとした雰囲気だ。
依頼票が掲示板に貼り付けられる朝の喧騒が過ぎ、大半が既に稼ぎに出た時間帯。人が捌けてまばらにしかいないのも当然と言えた。
なんとはなしに掲示板の前に移動し、依頼票を眺める。
水上交易都市までへの護衛、樹海浅層で採れるキノコの採取、下水道に巣食う大鼠と巨大ゴキブリの排除などなど。
人が捌けても残ってるだけあって報酬はしょっぱそうな依頼ばかりだが、ここに来たばかりの常太郎の目には新鮮に映る。
「…………」
思わず依頼票を1枚ずつじっくり読み込んでしまった。日常的に情報洪水を浴びていた現代生活から環境ごと一変し、活字情報に飢え気味だったのもある。
「もしもし……もしもし? あの、よろしいですか?」
「おっと?」
少し抑えた、落ち着きのある声で呼びかけられ、振り向く。そこには。
「……フィオナさん?」
既に馴染みとなった感のある受付嬢の姿があった。
「何か用でも?」
「どちらかというとそれはこっちが聞きたくてですね……依頼を受けるにしてもずいぶん長く眺めていたので。私の上司から話を聞いてこいと」
「言われましたか」
「はい」
困った顔で受付奥の職員スペースへ軽く手のひらを向けたフィオナになるほどと頷きを返す。
隠す理由もないので口を開くが、すぐに言葉に詰まった。
「まあ、そう大した話でもなくて。今日はオフなので依頼を受けるつもりはないんですが……やることがなくて」
自分で言ってて相当に寂しい発言だなと思う。無趣味のボッチそのものだ。
(いやでも冷静に考えれば『武士』と『博士』がいるしな――)
(『
(流石にこう……僕らを友達にカウントするのは違くない? パーソナルスペースバグってるタイプ?)
一瞬思い直したがその思い上がりは当の仮想人格達のコメントで叩き潰されて終わった。常太郎は心の中でこっそり泣いた。
仮想人格達の舌鋒のキレ味が良すぎたが、常太郎の拗らせボッチ気質も大概なので判定が難しい。
「……なるほど? でもそれなら賭場や歓楽街の方に行けばそれなりに楽しめると思いますけど?」
「おお……やっぱりそういう所もあるんだ」
だいたいどんな時代のどんな地域にもある普遍的な娯楽だが、現代っ子の常太郎から見ると最初を除いて悪い大人が嗜む悪い遊びというイメージが強い。唯一抵抗のない酒だって飲み会を苦手にしていた身だ。
遊び慣れてもいない身で悪所へ行っても膨らんだ財布を空っぽにする未来がありありと想像できる。
「真っ昼間からそういうのはちょっと……」
「なんというか……本当に冒険者らしくないんですねぇ」
ほえ〜と珍しいものを見る目を向けるフィオナ。
倫理観の高さを褒められているのか、珍種の生態についてコメントされているのかいまいち分からない嘆声だった。
「うーん、でも他に遊べそうな所っていうと……………………アレ? 逆にちょうどいいかも?」
悩ましそうな顔で首を捻るフィオナだったが、何かを思いついたのかポンと掌を叩いた。そのままスッと、さりげない足取りで距離を縮めて顔を近づけてくる。
「――ちょっと口裏を合わせてくれませんか? 実は最近お仕事ばかりで気が滅入ってて」
耳元に息が吹きかかる。ヒソリと声を潜めての内緒話。
距離が、近い。
無論近いからと言って気があるとは限らないが、何もない相手と
「この後、一緒に街巡りをしましょう! 知ってるとお得な場所も色々教えられますよ? ご安心を! こう見えてこの街生まれの生え抜きですから!」
むん、と両手を握って力強く請け負うフィオナに押され、頷く。
常太郎の承諾にパッと顔を綻ばせたフィオナは上司と思しき壮年男性の下へ駆け寄り、なにやら早口で交渉を始めていた。思わず視線でその姿を追い、しばらく見ているとフィオナは不意に振り返り。
「――♪」
片目を閉じて軽くウィンクし、悪戯っぽく微笑む。
思わず片手を振ると、逆に手を振り返される。そして再び上司の方へ向き直り――何がキッカケとなったのか、ともかく交渉は決着したらしく渋い顔の上司が首を縦に振ったところだった。
◆
ギルドのカウンターで初めてその人を見た時の印象は正直、“変な人”でした。
どこから来たのか分からない風貌に、見慣れない装備。その割に妙に礼儀正しくて、お貴族様との縁もあって。でも騎士様らしい横柄さ……もとい、堅苦しさは全然ないんですよね。
ミステリアス……と言うとちょっと違うかもですね。才能のある
だからもう少し言葉を足すと変な人だけど、普通の人……かな。
――まあ、そんなイメージすぐに粉々にされたんですけどね???
絡んだチンピラを殴り倒して、あのジルヴェさんに一目置かれて、曲者のブライさんを交渉でねじ伏せて。挙句の果てにギガスオーロックを担いでギルドまで持ってくるし……凄く変な人? 凄いけど変な人? どっちでしょうね?
同僚の
冒険者のみなさんも噂のルーキーを気にしてましたよ。ピリピリした、物騒な感じの興味ですけど。
私が主にアサギさんの対応をしていたせいか、彼について聞かれる機会が妙に増えました。隠す理由もないですし、話せる範囲で話しましたよ? ギガスオーロックのくだりで聞き返されるのがお約束になってましたけど。
実際、コロニエ・ノワテッラにたくさんいる冒険者でも同じ真似ができるのは《
で、そんなスゴイ人がギルドに来て所在なさげにギルドのあちこちをウロウロと……。暇したみんながヒソヒソ内緒話をするので、上司から用件を聞いてこいって命令されて。
本人に事情を聞いてみたらこれがまあ
あ、でも誤解はしないでくださいね。誰にでもって訳じゃなくて、いつもはちゃんと真面目にお仕事こなしてるんですから!
いつも感想・評価・誤字修正ありがとうございます!
全てありがたく拝読しております。
本話で開拓前線都市・冒険者登竜門編のエピローグ1話目です。
何話か使ってエピローグを〆てからまた次の章の予定。
でも何話か本編とは違うお馬鹿な空気の短編を挟んでみたい気もする…。需要有るかな…。