暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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 新作序盤が書きあがったのでテスト投稿。
 評判が良かったら続くかもしれません。


新版
プロローグ


 ()()()()は言った。

 

『見ろ』

 

 見た。突如脳裏に叩き込まれる幻像(ヴィジョン)を。

 綺麗な、とても綺麗な蒼の宝石(ブループラネット)。真っ黒な宇宙(カーテン)の上に唯一つ輝くそれは(ソラ)から眺めた惑星(ホシ)そのもの。

 空高くから世界を見下ろす、カミサマの視点。

 気付いたらいた真っ白な空間で浅葱(あさぎ) 常太郎(じょうたろう)()()に出会った。山より(おお)きく、岩より(いか)めしく、逞しい肉体(カラダ)と同じサイズの金槌を背負う隻眼の神様だ。

 その隻眼がジロリと常太郎を睨む。

 

(――ヤバ)

 

 本能ですらなく魂で理解する。この神様は、文字通り人間を羽虫扱いで潰せる上位存在(カミサマ)なのだと。

 その神様が、吼える。

 

『我が造りし至高の傑作(セカイ)である!  地形・生態・種族の調和に至るまで悉く我が手で磨き上げた至宝よっ!』

 

 轟くような雷声は誇らしげだった。子を自慢する親のような稚気さえあった。

 クリエイターの端くれである常太郎はそのドヤ顔に思わず頷く。

 

(自分が手塩にかけた作品()は可愛いよな……)

 

 気のせいか、常太郎が頷いたタイミングで神様も頷いた気がした。

 なんとなく通じ合った気がすると常太郎が神様へ僅かな親しみを抱いたのも束の間、稚気はすぐに消えた。

 

()れど聞け! この至宝に”不具(バグ)”が紛れ込んだ……なにゆえか!?』

 

 稚気に代わって怒りが溢れ出す。

 視界に映る規模(スケール)が”惑星”から”大陸”へと切り替わる。

 常太郎が知るどの大陸とも似ていない、独特の形をした大地。今視界に映るものは人工衛星から撮影した超高解像度の衛星画像と言えば多少は近いか。

 青い海にくっきりと浮かび上がる自然の緑と大地の赤。ところどころに浮かぶ小さな点は人工の都市か。

 眺めているだけで楽しいパノラマ画像のような光景――そこに染みのように浮かび上がる()()()()()()()()()()()()

 

『戦火は絶えず、善と悪が睨み合い、混沌と秩序の天秤は固着された。流転は螺旋へ繋がらず、ただ循環し摩耗していくばかり。嗚呼(ああ)我が眷属()らは何をしておるのか!? 『対立』と『均衡』を担い『善き』を為すが汝らの使命ぞっ!』

 

 そのまま常太郎を無視して大声で独り言ちる巨神(カミサマ)

 完全にガチな空気。ふざけたらケツバットですまない”凄味”がこの神様にはあった。

 社畜時代に鍛えた常太郎のエアリーディングスキルがレッドアラートを鳴らしている。ヤバさ加減は納期前日にクライアントから【至急修正】のメールが5通同時に来た時に劣らない。

 怒れる神の視線が改めて常太郎へ向いた。

 

『……”力”を与える。汝、”不具(バグ)”の探究に身を捧げよ。我が傑作(セカイ)へ降り、この忌まわしき不具を見つけ出し、滅すべし!』

「はい、喜んで!」

 

 この上位存在はどう見ても機嫌が悪かった。ブチ切れていた。常太郎は一瞬も迷わず平伏して答えた。

 例えるならせっかくの有給で寝溜めしようとした矢先にシステムダウンで呼び出され、3日間徹夜でリカバリーしたのに「これじゃない」と一蹴され成果ゼロに終わったエンジニアのような……。今にも堪忍袋がパージして魂がシュレッダーにかけられそうな空気だ。

 上司に睨まれた社畜の如く、この状況で『はい』以外の答えはないと誰もが頷くだろう。

 

『詳しくはアレを使い、知れ』

 

 と、視線で示した先には……常太郎の背後にそびえ立つ巨大な黒の碑石(オベリスク)。つるりと滑らかな断面に刻まれた文字の上を赤い光が走っている。神様由来のアイテムだろうか。マニュアルやFAQの類は見当たらないなと常太郎は乾いた笑みを浮かべた。

 

『我への問いは、あるか』

 

 そして、去り際に面倒見がいいことを言いだす神様に一瞬迷い、えいままよと口を開く。

 

「お、お名前を伺っても……?」

『……………………』

 

 何が起こっているのか、何をすればいいのか。それに目の前の神様についても何一つ分からない。()()()()()()()()()()()

 名前というのは調べる手段さえあれば普通の人が考えるよりずっと多くの情報を引き出せる。そうと踏んでの問いかけだった。

 

『ふむ……』

 

 厳めしい顔を崩さないまま呟いた神様は巨大な手で顎髭を撫でる。石と金属を擦り合わせたようなギャリギャリという音が響き、常太郎は思わず首を竦めた。ほとんど初めて神様の視線が”常太郎”を捉える。

 ジロリ。魂の奥底まで見通すような視線に常太郎の背筋がザワつく。不味いことを言ったか、と後悔が始まった一瞬後。

 

『……造化の神、クレアトール』

 

 神様(クレアトール)はそう名乗り……その巨体は幻だったかのように目の前から消えた。魂を圧し潰す巨大なプレッシャーとともに。

 

「……………………はあああああぁぁぁぁ――」

 

 緊張から解放され、胸に溜め込んだ息を思い切り吐き出す。

 そのまましばらく深呼吸を繰り返し、自分でも落ち着いたと実感してから常太郎はさらなる情報を求めて黒い碑石(オベリスク)へ向かった。

 

 ◆

 

 マニュアルもFAQもないオベリスクの使い方はあっさり分かった。

 ツルリとした滑らかな断面に触れた瞬間に常太郎の頭の中へ情報が濁流のように流れ込んできたのだ。これの使い方も含めて。

 ひとまず分かったことを箇条書きにすれば――

 

 ①常太郎は既に死んでおり、リスポーン先はクレアトールが造った異世界。地球に戻るチケットは無い。

 

 ②世界中に《不具(バグ)》が蔓延しており、戦乱が異常に長引いていたり奇形児の発生確率が上昇の一途。なおタイムリミットが来るとクレアトールが『最初からやり直す』コマンドを選ぶのでヤバイ。

 

 ③常太郎に与えられたミッションは《不具(バグ)》の発見と消去。なお消去の手段は物理的排除一択。

  Q.つまり?

  A.見つけ出して物理で殺せ。

 

 ④現地にはクレアトールが生み出した8柱の眷属神がいていずれかが《不具(バグ)》に関わっている可能性が高い。協力も敵対も起こりうる。

 

 ⑤報酬はチート能力の先払い。現地で《紋章》と呼ばれるスキル群から自由に3スロット分を選択可能。

 

 ①の死んでいたことには薄々自覚があるので驚きはない。12連勤5徹は流石に無理があったなと、反省しきりの社畜である。

 それはさておき、目の前のことに意識を戻す。

 

「つまり俺の仕事は異世界(リアル)のテスター……いや、デバッガーか。え、前職の経験を生かせと? 神様にヘッドハンティングされた? 暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ(マジレス)」

 

 ゲーム開発企業に勤め、チマチマとバグを見つけては潰していた経験を思い返した常太郎は思わず唸った。確かにちょっとした違和感(バグ)にも気づく目敏さには自信がある。ゲーマーとしてもかなりやり込んだクチだ。それも常太郎が選ばれた理由かもしれない。

 

「……でもこの《紋章》ってシステム、めちゃくちゃ()()()()()()んだよな」

 

 黒のオベリスクから流れ込んできた《紋章》リストは――圧巻だった。

 膨大すぎる。

 自由度、固有性、相互補完性が全部盛り。リストを眺めて頭の中で組み合わせるだけでもう楽しい。TRPGとMMOとスキルツリー式ローグライクを同時に遊んでるような高揚感がある。

 

「なにこれ自由度高すぎ楽しすぎる……組み合わせ次第で大抵のキャラの模倣再現(エミュレート)できるし。これは暇を持て余して作り込んだと見た」

 

 スキル名といい、シナジーの利いた組み合わせといい中二心が大いに刺激された。

 例えば《肉体芸術(マーシャル・アーツ)》に《全脳解放(ブレインコントロール)》を組み合わせたら着込んだ革ジャンをバンプアップで破裂させたり、相手の身体を突いてボンッ! できそうだ。他にも流し見しただけで爆発力のありそうな組み合わせがゴロゴロ見つかる。

 正直クレアトールの創作センスは嫉妬するレベルで一流だ。キャラクリのたびにいろんな試行錯誤で一生遊び倒せるだろう。

 だが、生憎これは"遊び"ではない。

 

「……ただし向かう先は戦乱の世、と。まず生き残れないとシャレにならんよな」

 

 オベリスクが見せてくれた大陸の情報を改めて思い返す。

 

 ①世界観はいわゆる剣と魔法のファンタジー。魔法・スキル枠が《紋章》システムで統一運用されているのが特徴と言えば特徴か。

 ②大陸中が戦乱続きで街の外は野盗やモンスターだらけ。

 ③クレアトールの“依頼”は《不具(バグ)》の修正だが、詳しい情報はなく現地で出たとこ勝負。

 ④その《不具》は(恐らく)現地の管理神格で最高権力者でもある眷属神とも関係がある。

 

「やること多いな。ここから逆算して俺に必要な《紋章》の条件は……こうか」

 

 ①ひよわな現代人でも使いこなせて最低限戦える使い勝手の良さ。

 ②調査・戦闘・交渉と幅広い局面に対応可能な高い汎用性。

 ③スキルのシナジーを生かした眷属神(カミサマ)にも通じる爆発力。

 

 プラスアルファとして常太郎自身が持つ知識やスキルとも組み合わせて活きると尚良しというところか。

 安定と保守に寄った堅実なビルド方針だが、リアルMMOならそれくらい慎重で丁度いい。なにせオベリスクによると現地でチュートリアルをしてくれる親切なヒロインはいないのだから。

 

「……チュートリアル無しとか鬼か。甘ったれの現代っ子にはキツすぎるな」

 

 キャラメイクが楽しいタイプのゲーマーとして幸せに悩む時間を噛み締めつつ、「ここでミスったら死ぬ」という寒気が常太郎の背筋へじわじわと染みてくる。

 必然、唯一にして最大の武器である《紋章》の選択は慎重になった。

 

「俺のリスポーンポイントは……《西方深淵樹海ブロセリアンド》。近年、魔獣災害が異常に多発してる人類未踏の秘境……え、リアルでモン〇ンやれと?」

 

 オベリスクをもう少し詳しく調べると最もあのドス黒い()()()が色濃く漂っている地点らしい。難易度調整を間違えてないだろうかと常太郎は遠い目をした。

 

「……いや、付近に開拓都市はあるのか。拠点作って仲間を集めて樹海(ブロセリアンド)を探索。または金を稼いで人を雇う方向もありか」

 

 どちらも《紋章》で下駄を履けば難しくない。

 難易度ハードだが、自由に《紋章》を選択できるチートを加味すれば常太郎が取れる選択肢はかなり多い。賭けになるが、分は悪くないのだ。

 

「戦えない、生き延びられない、調査もできないじゃ元も子もない。……よし、候補を絞るか」

 

 荒事が苦手な現代人(常太郎)に使いこなせて、大抵の状況に対応できる。都合がいいが、それがベストな方針だろう。常太郎は該当する《紋章》のシナジーを求め、オベリスクの前で腰を据えてバカみたいな量がある《紋章》リストから一つ一つ選別を始めた。

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