暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第二話 樹海の隅でこんにちわ

 《西方深淵樹海ブロセリアンド》。国を幾つも飲み込んで余りある大面積を誇る、大陸西方に広がる魔獣の楽園である。

 未知の大樹海の一画に身一つで放り込まれ、最初に現れた場所の大木を起点に東へと進んで一時間ほど経ったころ。人里や川筋の気配はない。

 が、それよりも重大かつ奇妙な違和感を常太郎はじわりと覚え始めていた。

 

(さっきから蜘蛛しか出てこないな……?)

「確かに異常だ。深淵樹海は魔獣の巣窟のはずだが……」

 

 ここまで遭遇した怪物は大蜘蛛ばかりが6匹。常太郎を見かけるや興奮した様子で襲い掛かってきた。どれもショットガンでの引き撃ちで始末できているが、3匹同時に囲まれた時は危なかった。今のところ対処できているが、やや訝しいモノを感じる。

 

(うーん……偏ってる、か? それとも……何か別の原因?)

(判断材料が足りない。分析は『博士(ヒロシ)』に任せよう」

 

 ()()()()について軽く言及しつつ、『武士』は潔く話題を打ち切った。いくら考えても手がかりがなければ詮無いこと。常太郎もそれを理解し、黙って足を動かし続ける。

 そしてもう何十度目かの、目の前を塞ぐ立木と藪を切り払うため腰の大鉈(マチェット)を抜き――戻した。

 

「ふむ」

(どうした?)

()()()()

 

 他の大木よりは細身だがそれでも十分に肉厚な低木の枝を握り、力を籠め――ベキリと、()()()()()()()()()()()()()()

 太さで言えば公園の鉄棒ほどもある、中までみっしりと身の詰まった木の枝を片手だけでろくに力も入れず折ったのだ。枝が折れてできた、身を屈めれば通り抜けられるスペースを潜りながら呟く。

 

「……これが魔獣討伐の肉体強化(ブーステッド)か」

(すげえ、空気にプロテイン混ざってんのかこの世界)

 

 この世界に満ちる魔力を特に強く取り込んだ魔獣と呼ばれる獣を倒すことで人もまた魔力を肉体に取り込んで強化されるという。オベリスクに与えられた知識でこの世界の”仕様”は知っていたが、やはり2人とも驚きが強い。

 

「……アレを6匹ばかり倒しただけでこの上がりよう、か。異世界人は超人だらけか?」

 

 人里も決して安全ではないかもと現実的な脅威として捉え始めた『武士』に常太郎が異論を挟む。

 

(いや、単にあの大蜘蛛が俺達の思うより手強いだけじゃね?)

「どういうことだ?」

(普通に考えてショットガン撃ち込んでも立ち上がってきた大蜘蛛を立て続けに6体はスゲーだろ)

 

 一般人の視点から見て普通にあの大蜘蛛は怪物だ。出くわしたら餌になる自信がある。一方でゲーマーの視点から見るとぶっちゃけ雑魚敵に見える。

 このギャップを埋めるのがクレアトールから与えられた《紋章》だ。

 大蜘蛛を問題なく倒せているのはやはり《武装錬金》と《仮想人格換装》が大きい。ならばそんなチートを持たない現地民が早々大蜘蛛を倒せなくても不思議ではない。

 

(強敵を連続で倒して連続レベルアップ。俺自身はLv.1だから成長も早い。そういうことなんじゃないか?)

「なるほどな」

 

 そう言われ、特に反論を思いつかない『武士』が沈思黙考する。

 

「まあいい。それより早く街が見つかるといいんだがな」

 

 そう呟きながら強くなってきた足の裏の痛みに小休止を考えながらさらに東へ足を進めるのだった。

 

 ◆

 

 小休憩を取って足を丹念に揉み解す。身体をメンテして痛みを和らげつつ、さらに一時間ほど歩いたころ。

 ふと前方の森の奥から微かな物音が響いてきた。立木が折れる音、獣ではありえない怒鳴り声、金属を打ち合わせる音。風や魔獣とは違う、明らかに人工的な気配だ。

 

(人の音……? おい、やったぞ『武士』! 第一村人発見だ!)

「待て、これは殺し合いの音だ。迂闊に近づかず様子を見る」

 

 反射的に期待の籠った声を上げた常太郎だが、『武士』はあくまで冷静に制止した。肉体の主導権は常太郎にあり、その気になれば『武士』から取り戻すのも容易いと知っているからだ。

 

(……殺し合い? それって――)

「わざわざ巻き込まれることもない。遠くから様子を窺うに留めるぞ」

(了解)

 

 身を伏せた常太郎は息を殺して前へと進みながら新しく双眼鏡を錬金。戦闘音の発生音源へ視界が通る位置を確保すると樹木の陰に身を潜めて双眼鏡を覗き込んだ。

 

『円陣を組んで迂闊に飛び出すな! なんとしてもお嬢様をお守りしろ!』

 

 鋭く、澄んだ声質が常太郎のいる場所にまで届く。

 視線の先は緑陰に覆われた立木林の中、鎧を纏った騎士と兵士達が必死で抵抗を繰り広げていた。円陣の中央に護られているのは、明らかに高貴な出自と思われる衣装の少女。

 少女を守るべく円陣の外縁に立って声を張り上げる騎士の鎧は随分と細身だ。そのシルエットと声の高さから気付く――女騎士だ。

 

(おおぉ、すごいな。リアル女騎士か……!? 初めて見た!)

「急にどうした。気味が悪い」

 

 押し殺した声にオタク臭い興奮を詰め込んで感動の声を上げる常太郎へ『武士』が冷たくも妥当な感想を投げ付ける。

 

(いいか。女騎士は――浪漫(ロマン)だ)

「?」

 

 が、返ってきた頭の悪い回答に『武士』はさらに首を傾げた。戦闘に特化させた思考形態を持つ『武士』に社交性や性欲、趣味といった方面の理解はほぼない。

 いわゆる『女騎士』は常太郎の趣味から外れていたが、直に目にすればありがたみが湧くというもの。届かないと知りつつ思わず拝む程度には。

 

「それよりも騎士達の相手を見てみろ。中々面白いぞ」

(その面白いって絶対血腥い面白さだよな。見るけど」

 

 浪漫(ロマン)を解さないセメントな提言に常太郎の意識が女騎士から逸れ、彼女達が対峙する“敵”へ向かう。

 

「ギィィ……ガッガッガッ!」

 

 円陣の周囲を取り巻くのは、人よりも獣に近い形相の小鬼(ゴブリン)の群れだった。

 緑色の肌を持つ醜悪な小鬼たち。薄汚れた革鎧を着込み、切っ先が鈍く光る鉄槍を手にギャァギャァと汚い罵声を投げている。一部のボス格と見られるゴブリンは鞍と手綱を付けた騎獣に跨り、狭い森を鮮やかに駆け回っている。馬並みの巨体を持つ狼に似た獣だ。

 まさに盗賊、蛮族といった風情だが……。

 

(思ったよりも文化的だな)

 

 と、素直な感想を漏らす。

 蛮族チックな見かけではあるのだが、ケダモノ同然というゴブリンのイメージからは外れている。畜獣の馴致技術が必要な騎乗兵という兵種がいることが一層意外性を強めていた。

 

「ゴブリンどもの装備を見ろ。あれだけの鉄器を揃えているのは自前の冶金技術を持つか、少なくとも供給源があるということだぞ。ゴブリンと言えば雑魚の定番だが現実は中々侮れんな」

 

 『武士』の感心した声が意味するのはゴブリンは異世界ファンタジーものにありがちな人型の害獣ではなく、徒党を組んで一定以上の文明を築き上げる知性種族ということだ。

 ある程度状況を把握した常太郎は頭を抱えた。よくありそうなトラブルシーンだが、ゲームのように分かりやすくはないようだ。

 

(……どっちに加勢すべきかね?)

「決断は主人格(オマエ)の仕事だ。その上で提言するなら()()()()()()()()()()()

(だよなぁ……)

 

 ビジュアルと心情面で言うなら人間一択だが、状況が不明すぎる。

 もしかしたらゴブリン側が侵略者の人間を迎撃しているのかもしれないし、高貴そうな少女はその実邪悪な外道かもしれない。もちろん人間側が善玉であるかもしれないし、一番ありそうなシチュエーションは人間とゴブリンによる仁義なき勢力抗争だ。

 

(ここは様子見が無難かね)

「…………」

(『武士』?)

 

 形勢は徐々に人間側へ不利になってきている。見捨てる形になる少女たちへ良心の呵責を覚えつつ保守的でチキン気味な常太郎が現実的な決断を下した。

 決断に返ってきた沈黙にやや訝しさを覚え、呼びかける。

 

「――スマン、前言撤回だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

(――は?)

 

 先ほどとは180度正反対の提言に思わず脳内で疑問を上げる常太郎。

 常太郎達の背後。屋久島の縄文杉クラスの大木が立ち並ぶ森でバキバキと何かがへし折れる音が連続で聞こえる。

 繰り返す、()()()()()()()()()()()()だ。どう考えても尋常ではない異音に振り向くとショットガンを構えたまま厳戒態勢を取った。

 

「遅かったか……」

(なんだよアレ――!)

 

 そうして数秒の間が空き、遂に巨木の陰から顔を覗かせたソレと()()()()()

 

 キチキチキチキチキチキチキチキチ――――。

 

 無機質な殺意を宿す八つの複眼。これまでに倒してきた()()()とは比較にならない、胴体だけで乗用車ほどもありそうな巨体を持つ巨大蜘蛛の”母親”。

 樹海に立ち並ぶ屋久島の縄文杉クラスの巨木。その幹の裏に巨大な脚が六本張りつき、残りの二本は静かに枝を撓らせていた。全長10メートルはあろうかという八脚は太く節くれ立ち、一本一本が大人の胴ほどもあろうか。

 そしてパンパンに膨れた大きな腹部には《紋章》が不吉な赤黒い光を放っていた。

 

「いま『博士』から分析が来た。大蜘蛛との連続遭遇は最初の蜘蛛を殺した時、ハチの警報フェロモンに似た物質をマーキングされたからだ。このフェロモンを追って奴らは延々報復に来ていたんだろう。いわば復讐フェロモンだな」

(あの時光った《紋章》はフェロモンの散布用か!? だけど母親(こいつ)はなんで今更になってここに……?)

「子蜘蛛を殺しすぎればあの腹にある《紋章》が反応するのかもしれんな」

 

 『武士』の推測は当たっていた。

 自身の縄張りに大量の子蜘蛛を産み落とし、縄張り全域のニッチをただ一種で独占する。挙句、子蜘蛛を殺した時に撒き散らされる復讐フェロモンはしっかり洗い落とさない限り延々狙われ続ける刻印(マーキング)となる。

 それでもなお子蜘蛛の被害が収まらない場合、怒り狂った”母親”が復讐鬼と化して一族の仇を喰い殺す。

 彼女こそ復讐の女王蜘蛛、《アラケネ・マドゥルガ》。森の主と呼ばれる頂点捕食者の一角である。

 

(そうか、なるほどなぁ――――ちなみに勝算は?)

「ゼロよりは高い」

(生存確率なら?)

「似たようなものだ」

(死ぬ気は?)

「ない」

(いいね、最高――頼りない主人格でスマンが、任せた)

全て問題ない(オールグリーン)。そのための『武士(オレ)』だ」

 

 ガシャン、とショットガンのレバーを引き戻す音が響く。装弾、完了。

 その音が一人と一匹の間にあった張り詰めた糸のような緊張を断ち、()()()と弾けた。

 

 キチキチキチキチキチキチキチキチ――――!

 

 巨体に見合わぬ身軽さを見せた巨大蜘蛛が、大顎を打ち鳴らす威嚇音を上げながら子殺しの仇敵目がけて樹上から飛びかかった。

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