海のアドリブ作品集〜転生者コンビの紡ぐ物語〜   作:月日は花客

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2:スミスミの実

 

「文庫本で大体8〜10万字として、テーマは『海』。短編集で1話につき挿絵が1枚ずつ、プラスで口絵が2枚、かぁ」

「けっこうハードじゃね? 一から書くとなると骨が折れるぞ」

「過去作からいけそうなやつ引っ張ってきて改変する?」

「となると前短編連作書いただろ? それでいいんじゃないか」

 

 私とスミは昨日言われたテキンおじいちゃんの出版計画の会議を今日も行っていた。

 村は今日も平和で、外では同世代の子どもたちがサッカーなんかをしていたが、私とスミはアトリエに引きこもって真剣に物語を作る上での前提条件を組んでいた。

 一般的に文庫本の文字数は10〜12万字だが、短編集なので多少薄くていいだろう。挿絵もついているからあまりページ数が嵩むと印刷代が怖い。この世界でフルカラー印刷がいくらかかるか知らないが、日本よりお高いはず。なんせ印刷技術が現代日本とは比べ物にならない未熟さだろうから。

 明確な締切は言われていないが、早いに越したことはないし締切を設定した方がちゃんと作業は進む。何事も締切設定は大切だ。

 原稿締切を大体一ヶ月後に設定して、過去作を改造していく方向にした。

 

「あれ寺山修司の詩歌モチーフのやつじゃん、いいのかな」

「転生した時点で盗作もなにもねーべや。リスペクトを忘れてなければ大丈夫よ」

「……まぁ寺山修司の良さをこの世界にも広めると言うことで一つ」

 

 私とスミの共通点の一つに「寺山修司が好き」と言うことがある。寺山修司は近代の歌人、詩人、劇作家であり小説家だ。国語の教科書に出ていた短歌を見て一目惚れ。そこから詩集や歌集を買ったりして、私とスミの創作傾向に大きな影響を及ぼした。

 そんな彼の詩歌をテーマに連作した短編物語があるのだ。アレは確か私がなんとなく寺山修司成分を欲する発作が起きて徹夜で書いたものだった。スミも私が久しぶりに書いた一次創作に珍しがって絵をつけていたはず。

 推敲も殆どしてないライブ感の塊で書いたものだったが、それを元に書き直すのはアリかもしれない。

 徹夜で書いたから文字数は足りないが、そこはこれから調節していけばいいだろう。

 なにより寺山修司は海の詩歌を多く残していた。あの連作もその海に関する詩歌をモチーフに書いたものだ。

 

「400字詰め原稿用紙何枚分?」

「えー……200越え」

「きっつ〜頑張って」

「そっちこそ作品の分挿絵描いてもらうんだからね」

「それはそう」

 

 まず私が小説を書き上げ、次にスミが挿絵を完成させる。私の締切は一ヶ月後。これは戦場になるぞ。

 私はまず過去作を引っ張り出し、読み、改善点と追加設定を練らなければならない。

 スミは私が執筆している間はインクの調合や補充、構図ラフを作っててもらう。

 私は窓際の机に向かった。私はこのデスクで小説を書く。インクで汚れた机はそれだけ私が作品を書いてきた証であり、並べられたガラスペンは私が気分で使うものを変えている。

 今日は海色の波の紋様を施した細字のガラスペンにした。硬質な音が部屋に響き始める。

 

 スミは床で絵を描く派である。前世でもキャンバスは基本床に置いていたし、寝っ転がったり膝立ちになって線を引いていた。

 その方が描きやすいらしい。腰と首と肩が死ぬらしいが、私も椅子に片足を乗っけて書く癖があるので何も言えなかった。

 この世界にゲーミングチェアなど無い。将来の腰痛が心配である。

 

「初めはとっかかりやすいように恋愛ものにしようか。この世界でもラブロマンスは人気だよね」

「ケイちゃんの書く恋愛っていつも切ないやつじゃん。初めから悲恋でいける?」

「ハッピーな恋愛も書けますが〜?」

 

 そう言いつつも今持っている元原稿は少女側が病で死ぬ。クソ、何も言い返せない。

 そんなこと言うならスミの作品にだって必ずメカクレキャラが出てくるじゃないか。そして重い過去を背負ってるじゃないか。

 いやしかしこの世界では割と恋愛作品はハッピーエンドが多い。平民と平民同士がくっつくものが多いのは、規制されているのかなんなのか。

 流石に天竜人レベルの身分差は出さないが、島一番のお屋敷のお嬢様とお屋敷に忍び込む平民の男の子の話にしよう。

 なんかこれウソップとカヤみたいになるけど、私はウソカヤはハピエン派だったので今回はなんとかハッピーエンドに持っていきたい。

 病気に寝込み海を知らない女の子と、海の広さと青さをどうにかして伝えようとする男の子の話。

 元になった短歌は「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり」だ。

 麦わら帽子を出すとルフィ感が強くなるが、逆に要素を混ぜた方が特定の人物を想起させなくて良いかもしれない。

 私は漫画を通して彼らを知っているが、彼らは私を知らないのだ。

 海というものをどうやって説明しよう。彼女にどうやって海を見せてあげよう。

 そう考えた男の子が奮闘する話だ。

 

「泣ける話の方が序盤のインパクトが強いとかさぁ、無いかなぁ」

「この世界の需要わかんないからなんとも言えないわ。悲恋が少ないのは人気がないのかまだ広まってないのかどっちなんだろうね」

「でも私の得意となると悲恋だからさ……」

 

 私は前世二次創作系の同人作家だったが、作品の6割はカップリングものの悲恋だった。私は男女も男男も女女もイケる雑食だったし夢もイケる人間であった。

 しかし何故か本気で恋愛作品を書くと悲恋になる。

 息抜きに書いたコメディなんかは普通なのだが、恋愛、しかも同人誌にするような気合の入った作品は何故かバッドエンドかメリーバッドエンドになる。不思議だ。

 界隈の人からは「これがK(私のアカウント名)のいつもの味だよ」と肯定的に言われていたが、自分としては別に最初から悲恋を書こうとしているわけじゃない。彼ら彼女らのことを真剣に考えて、お話を汲み上げた結果どちらかが死んだり別れたりする。

 不思議だ……。

 なので私の作風としてはコメディやホラー、日常を描きつつ基本は悲恋というスタイルに落ち着いている。

 界隈で「悲恋ならKさん」と呼ばれていた。

 

 ちなみにスミは所謂「更新頻度は低いが神絵師と呼ばれるタイプの絵師」だった。

 一作品一作品がハイクオリティで、同人誌を売った時は壁サーだった時もあった。

 しかしそのクオリティの分投稿頻度は低め。だが投稿された時はお祭り騒ぎ……という感じになっていた。

 私は二次創作界隈から「もずく酢(スミのアカウント名)さんが作品を更新したぞ!」と湧き上がる一次創作界隈を眺めていたりした。

 スミ本人は別に遅筆ではない。むしろ早い方だ。毎回100ページとかの漫画やイラスト本を出しているからおかしいのである。

 そんなに描けて何故本職をイラストレーターや漫画家にしないのか聞いてみたら、「趣味は趣味としてやりたい」という真っ当な答えが返ってきた。

 スミは自分の作風を縛られることが何より嫌いだったから、読者に合わせないといけない商業作家は肌に合わないのだろう。

 

「んー、テキンじーちゃんに特色インク使って良いか聞かないと」

「そもそもCMYKなの?」

「それもわからんから聞かんといかん」

 

 スミのインクは特殊だ。様々な成分を調合し鮮やかな色を作り出している。

 伸びが良く、長持ちし、しっかり色が出る。

 ものによっては香り付きのインクなんかも作れる。

 だからこそ印刷でどれだけの完成度になるかわからないのは厳しい。この世界は写真を電伝虫というカタツムリが撮るような世界だ。RGB、CMYK、特色、モノクロ、グレースケール。

 どういったレベルのものになるか知識が無い。

 スミはテキンおじいちゃんにそれを聞きに部屋を出た。

 

 私はひたすらペンを走らせる。

 前世では構想〜プロットはアナログで、下書きから清書をデジタルでやっていたが、今世では全てアナログでやらなければならない。

 おかげで私の左手にはすっかりペンダコができている。

 言っていなかったが、私は左利き、スミは右利きだ。

 ブルーブラックのインクが原稿用紙を埋めていく。

 この原稿用紙は私がお小遣いで買った安いものなので、少し毛羽立っていてたまにペンが引っかかる。

 それでガラスペンが欠けることはないが、次買う時はもうちょっと良いやつにしよう。そう思った。

 

 潮風の香りが窓からふわりと香ってくる。

 それが紙に染み込むように、私は文字を連ね続けた。

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