畏と青春を背負うもの 作:灰色の男
「今年も、見事な桜が咲いてやがるな……」
夜。障子を開けた外には、大きな桜が満開を迎えていた。
布団の中にてそれを見上げるのは一人の男。
大きな屋敷。妖怪任侠として関東最大の規模を誇る極道組織、《奴良組》。
その二千年にもなろうという歴史の中、最も大きな戦いを経た男、奴良リクオ。
祖父に"妖怪の総大将"ぬらりひょんをもつ、《ぬらりひょんの孫》である。
「……いよいよ俺もここまでか」
鵺……安倍晴明との戦いから、多くの年月が流れた。
ヒトとして、妖怪として。数多の出会いと別れを繰り返した。
《畏》を率いるようになって四百と少し。
妖怪としては短く、人としては長すぎる。
しかしてリクオはその4分の3は人間。
故に妖怪よりも遥かに寿命が短いのだ。
リクオは今、その生の幕を閉じようとしていた。
「カナ、清継、島、ゆら、鳥居、巻……」
思い出せばキリがない。妖怪でありながらヒトでもあろうとしたリクオは、数々の《人間として》の友人を見送ってきた。次は自分の番ということだ。
段々と、じわじわと身体の感覚が薄れて行く
子供ができた。孫ができた。
されどその生き様を見ること叶わず。
しかして、その一生に悔いはなし。
「つらら……後、頼んだ……」
近くにいるであろう伴侶にそう呼び掛け、目を閉じる。
「■■■■■■■、■■■■■」
どこか遠くで、冷気と共に優しい言葉を受けた気がした。
──私のミスでした
しかして、再びその幕は開かれる
──私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況
気付けばリクオは、電車の席に座っていた。
最も色濃い体験を経て、組を継いだあの時代の身体と服を着て。
──結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったこをと悟るだなんて……
己の他の人は、対面に座る青い髪の少女のみ。
──……今更図々しいですが、お願いします。
「あんた、一体何を言って……ここは一体……!?」
日の光を浴びながら、リクオの姿は妖怪としての姿のそれ。
──リクオ先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。
目の前の少女は応えない。
──何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……
ただ、語るのみ。
──ですから……大事なのは経験ではなく、選択。
あなたにしかできない選択の数々
眩い光が差し込む外は、みたこともない景色で
──責任を負うものについて、話したことがありましたね
「……!おい、あんたその血は……!」
──あの時の私には分かりませんでしたが……。今なら理解できます。大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。
それが意味する心延えも。
少女は左肩の辺りから出血していた。
今もまだ流れ続けるそれは、放置すれば死に至るであろう量である。
それでも、痛む素振りすらなく語り続ける。
──……。ですから、先生
その声には、決意が。
どうしようもなく力強い、意志が宿っていた。
それに気付いたリクオに、彼女の言葉を遮る術はなかった。
──私が信じられる大人である、あなたなら
それは、懺悔。あるいは、後悔。
あるいは……懇願。
──この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……
リクオの意識は薄れていく。
きっとこの言葉を、己は忘れてしまうのだろうと自覚しながらもなお。
──そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです。だから先生……どうか
この少女の願いに報いたいと、そう思った
もう少し書いて好評なら続きます