「アイツへの手土産は…うん、こんなもんでいいか。」
茶菓子をお土産屋さんで買い、友達の家へと向かう。彼女のところには、ちょっとした悩み相談に行くのだ。
「ハァ…俺の何がダメだったんだよ…」
思わずため息をつく。今の俺のメンタルはかなりドン底に近い状態にあった。まさか俺の彼女が浮気なんて…
「い、いやいや…まだそうと決まったわけじゃないしな、うん…」
ブツブツ独り言を言っているうちに、いつの間にか友達の家にたどり着いた。
インターホンを押し、友達ーー笹原理乃が出てくるのを待つ。
「あ、獅子神じゃ〜ん。やほやほ〜。本日はどのようなご用件で?」
「おぅ、笹原。悪いな、いきなり訪ねて。差し入れあるから、上がっていい?」
先ほどお土産屋さんで買った茶菓子の袋を差し出す。笹原は嬉しそうにそれを受け取ってくれた。
ちなみに、獅子神というのは俺の苗字。すげー強そうな苗字だと小学生の頃から言われていたのは、ご愛嬌。
「あ、あんがと〜。ちょうど茶菓子、切らしてたとこだったんだ〜。あ、上がってどーぞ。」
笹原の言葉に従い、玄関で靴を脱いで、部屋に上がる。
相変わらず、部屋はシンプルに綺麗だ。女の子の部屋なのに、全然ドキドキしない。
友達だからってのもあるが、部屋の中身があまりにシンプルイズベストだからだろう。
まぁ、サッパリした性格の笹原だからこそ、俺もこうして下心なく友達付き合いできてるわけだが。
「あ、そういや、最近どう〜?彼女さんと仲良くやれてる?」
俺が先ほど渡した袋を開封して、茶菓子の中身を吟味していた笹原が尋ねてくる。
…いきなり核心を突いてくるとはやるな、コイツ。
「あ〜、いや…実はそれがそうでもなくてだな…」
俺の絶不調さを察したのか、笹原が俺の顔を覗き込んでくる。
「ん?どったの?そんな深刻そうな顔してさ〜…もしかして浮気された?」
…図星である。い、いや、まだ浮気されたと決まったわけでは…
「あ、いや…確証があるわけじゃないんだけど、その可能性があるってだけの話なんだけど…」
煮え切らない俺の返事に、少し考え込むような素振りを見せる笹原。
「ん〜…そうなんだ?ちなみに実際はどんな感じ?話してみてよ。イチ親友として、聞いたげるよ?」
俺は笹原に全てを話した。
彼女が最近大学で、俺の知らない男と仲良さげに話していること、彼女曰く、ただの仲の良い男友達であること、でもその距離感がなんか友達って感じがしないこと…
相槌を打ちながら聞いてくれていた笹原だったが、やがて話を要約するように言った。
「んーと…要するに、彼女に仲の良い男友達がいて、彼が浮気相手かもしれない…でも、明確な証拠がないから確証はない、と。」
「まぁ、大体そんな感じ…そのせいで、最近夜もまともに眠れねえよ…」
思わず弱音を吐き出す俺。あぁ、友達とはいえ、仮にも女の前でこんな情けない姿見せちまうなんて…
「はは…たしかによく見たら、目のクマ酷いね。とりあえず、膝枕する?ほら、お姉さんの膝においでー?」
そう言ってベッドの上に座り、自分の膝をポンポンする笹原。っていうか、お姉さんって…
「一応、俺の方が年上のはずなんだが…」
「まぁまぁ…そんな細かいこと気にしなくて、いーから。ほら、とにかくここ、おいでー?」
ま、まぁ、いいか…女友達に膝枕されるくらいならセーフ、だよな…?
俺は笹原に誘われるがまま、ベッドの上に寝転がり、彼女の膝の上に頭を乗っける。
すると笹原はニッと爽やかな笑みを浮かべると、俺の頭を撫で始めた。
「お、存外素直じゃ〜ん…えらい、えらい。よしよ〜し…」
……まさか大学生にもなって、年下の女友達にガキ扱いされる日が来ようとは。まぁ、でも悪い気はしないな…
「ふふ…なんか眠そうだね?このまま寝る?」
俺の顔を見て、尋ねてくる笹原。まぁ、実際かなり眠くはあるが…
「あー、そうだな…できれば、朱美にも同じことをしてもらいたい…」
朱美というのは俺の彼女の名前。そういや、最近は膝枕どころか、まともに手すら繋いでいなかったっけ…
はは…そう考えると、俺って本当に彼女と付き合ってるんだろうか…
「ま、今はあたしの膝で我慢しな〜?これを彼女さんの膝だと思って、ね?」
眠気と共にメンタルが暗黒面に堕ちようとしていた俺に、笹原が優しく声をかけてきた。
ホント優しいよな、コイツって…こんな情けない年上男なんか見たら、普通幻滅しそうなもんだが。まぁ、コイツはコイツで、彼氏とかいるんだろうが。
「……んー?あたしに、彼氏?いないけど、どーして?」
「…何も言ってねえんだけど。まさかエスパー?」
「あはは…口について出てたよ?コイツはコイツで彼氏いるんだろーなーって。」
マジか、心の中で思ってたことが独り言で勝手に出てくるとは。そろそろ俺も末期かもしれん。
「はは〜ん…獅子神も浮気ごっこ、したくなった〜?悪い子だね〜。」
笹原がニヤリと口角を上げて、俺をからかってくる。いや、だってさぁ…
「…彼女に浮気されてるかもしれねえんだ。これくらい許してくれ…」
「まぁねー。自分だけ一方的にモヤモヤするのって、不公平だよねー。わかるわかる。」
軽やかに笑いながら、俺の言葉に同意してくれる笹原は、さらに言葉を続けた。
「あたしもさー、実は絶賛モヤモヤタイムしてんだー。片想い中の男の子が他の女に夢中でさ〜。」
マジか、ついに笹原にも好きな人が…
というか、なんだソイツ。笹原みたいな優良物件に好かれといて、他の女に見向きするたぁ、どういう了見だ。俺からガツンと一発言っといてやろうか。
「へ〜…そうなんだ。あんまり男にがっつくタイプじゃないと思ってたけど…」
「そ〜なのよ〜。あたし、これでも恋する乙女なわけ。いい歳してるけど、恋する時はしちゃうよね〜。」
笹原のこれまで見たことないニヤケヅラに思わず目を見開く。
誰にでも分け隔てなく接してそうな、フラットな性格の笹原にここまで言わせるとは…その男、恐るべし。
「…ちなみにソイツってば、どんな性格?」
「んーとね…あたしより年上だけど、どこか抜けてて、でも何事にも一生懸命で……あ、たまにね?甘えに来てくれることもあるんだよ?悩み相談とか、よくしてくれてさ〜。年上なのに、可愛いんだな〜、これが。」
お、おぉ…なるほど。今の俺と同じで、悩み相談まで…やっぱ色んな人から頼られてるんだな、コイツ。俺だって真っ先に頼ろうと思ったし。
でも、そうだな…今の俺と似たような境遇みたいだし、案外いい友達になれるかもしれん。
「そっか…じゃあ今度紹介してくれよ。多分、ソイツとはなんだか気が合いそうな気がする。」
「ん、そーだね…まぁ、そのうちね。」
ちょっと言葉を濁された。なんだ?俺とソイツを会わせたくない理由でもあるのか?
「あー、安心しろって。笹原がめっちゃ良い奴だって、俺からも言っとくから。」
なぜか複雑そうな顔をする笹原だったが、すぐにいつもの笑顔に戻り、答える。
「ふふっ…そりゃどーも。その人にちゃんとあたしのこと、アピールしといてね?」
あぁ、いくらでもアピールしてやるさ。なんたって、俺の自慢の友達だからな。
「ふぁ…わり、ちょっとだけ、寝てもいいか…?」
「いいよ〜…お疲れみたいだし、このまま寝ちゃって?完全に寝付くまで、ヨシヨシしといてあげる。よし、よし…よし、よし…」
眠気を訴えた俺の頭を優しく撫でてくれる。笹原の彼氏になれた奴はきっと幸せなんだろうな…
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「……もう寝た?実はまだ起きてたりしない?」
そう声をかけるが、返事がない。ただの獅子神くんのようだ。
「ん、大丈夫そうだね〜…膝枕で寝ちゃうなんて、よっぽど疲れてたんだな〜…」
疲れるのも無理ないだろう。浮気をするようなクソ女に振り回されて、疲れない男なんていないだろうし。
「…ごめんね?今のうちに謝っとく…君の彼女、浮気してるよ?だってその男、あたしが紹介したから。」
そう、彼が眠れないほど思い悩んでいるのは、あたしの責任だ。あたしが彼女を浮気女に仕立て上げた。
だって、邪魔なんだもん…きちんと健全に距離を詰めてから、付き合おうと思ったのに、ぽっと出の女ごときが邪魔しやがって…
「悪いのは君だよ?こっちの気も知らないで、あんな見るからに軽そうな女を好きになるから…そもそも、あんなののどこがいいのかが、全然理解できない。」
あぁ、自分の内に溜め込んだ黒い部分を止められそうにない。こんな醜いあたしを知ったら、彼はどう思うだろうか。
「けど、よかった…浮気寝取り作戦、上手くいきそうだし♪ あの女が単純で助かった〜♪」
正直、ここまで事がスムーズに運ぶとは思ってもみなかった。それもこれも全て、あの女が尻軽だったおかげ。
中の上くらいのレベルの男を紹介しただけでホイホイついていくなんて。あんなのに、獅子神くんはふさわしくない。
友達のツテで知り合ったけど、木山朱美…だっけ?一見良い奴だけど、ちょっと化けの皮を剥いでみればこの通り。彼女のくせして、さっさと獅子神くんを裏切りやがって。
「あんなのに、君の彼女を名乗る資格はない…君の彼女は、年下でも抱擁力があって、常に君だけを見ている人のことを言うんだよ?」
尚も気持ち良さそうに眠る獅子神くんに語りかける。邪魔者への未練を断ち切ったら、今度はあたしが彼女に立候補してあげるね♪
「これから辛い思いをしちゃうかもしれないけど…その時はまたあたしのところにおいで?いつでも慰めてあげる。」
彼が苦しんでいるのはあたしの責任だ。あたしのせいで、夜もろくに眠れないほど悩んでいる。
だからこそ、きちんと慰めてあげないといけない…君の本当の彼女として。その責任は全部背負うよ?
「君にふさわしいのは、あたししかいないんだって、わかってもらうから…何が何でも。」
彼の寝顔を見続けていると、なんだか下心が湧いてきた。ヤバい、襲いたい。
でも、ここで襲うと失望されちゃうかも…いくらなんでも段階を飛ばしすぎだし。今までの実績を自分から崩すことは、さすがに避けたい。
「でもちょっとだけ…ちょっとだけなら、いいよね?」
自分に言い訳をしつつ、彼の頬に唇をそっと当てる。とても良い感触だ。
「ふふ/// ほっぺ、柔らかい/// リップ、ちゃんと塗っといてよかった〜///」
友達から恋人へとステップアップできるように、いつでも準備はしてある。あとは彼の心を完全にこちらへ傾けさせることができれば…
「本格的に付き合うことになったら、その時は唇にするから…楽しみにしてて〜/// へへへ♪」
いずれ来る彼との未来を想像し、あたしは頬を緩ませるのだった…
寝込みを襲わない方のヤンデレ(尚、その後)