ヒーロー殺しステインとの戦闘から一夜明け、アタシたちは病院にいた。とはいっても性別の違うアタシは三人とは別の病室だ。
そこに来客を知らせるノックが鳴る。
「はーい。どうぞー」
「失礼する。保須警察署署長の面構だワン。怪我の具合はどうかな?」
「大丈夫です。もともとほとんど掠り傷でこんなの怪我に入りません」
「それなら良かったが体は大切にな。今回の事件で関わった君たち四名に話が合って来たんだワン。まとめて話がしたいから彼らの病室まで移動してもらっても良いかな?」
「ええ、わかりました」
病室の外で待っていた緑谷の職場体験先のグラントリノ、飯田の職場体験先のマニュアルとともに3人の病室まで行く。
面構さんとプロヒーロー二人は遠慮なく病室に入っていく。アタシの部屋への対応と全然違うわね……
「おおぉ、起きてるな怪我人共!グチグチ言いたい……が」
「あっ……す……?」
「その前に来客だぜ。保須警察署署長の面構犬嗣さんだ。」
「掛けたままで結構だワン」
面構さんは今回の事件の処理について話に来たようである。ヒーロー免許がない学生が個性を使ったことを問題視しているようだ。
「たとえ相手がヒーロー殺しであろうとも立派な規則違反だワン。君たち二名とプロヒーローマニュアル、グラントリノには厳正な処分が下されなければならない」
「俺たちはいいんですか?俺たちも戦ってますけど」
ショートが面構さんに尋ねる。
「轟君と松本さんに関しては事前にエンデヴァーの許可を取っていたことと非常事態なことを考慮すれば問題は少ない。だがあとの二人は違う。許可を取らずに個性を使用し戦闘した」
「待ってくださいよ」
「ちょっとショート、やめなさいよ」
だがここでショートが食って掛かる。
「飯田が動いてなきゃネイティブさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。誰もヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって⁉」
「ちょちょちょ」
緑谷がヒートアップしたショートを止める。だがこの話には続きがあり、公表しなければ違反を握り潰せるらしい。
功績がなくなることなんて問題ない。ここはこの話を受けるべきね。
結局、アタシたちが戦ったのは秘匿されエンデヴァーがヒーロー殺しを逮捕したこととなった。
面構さんやプロヒーローたちが帰ったあと、緑谷は病室の外に電話しに行った。アタシは暇なのでこの病室に居座ることにした。
「アタシの病室誰もいなくてさ……暇だからここに居座っていい?」
「俺は構わんぞ!」
「俺もいいがお前の病衣、サイズあってなくねえか?」
「たしかに胸を開きすぎだぞ、松本くん!」
「だって苦しいんだもん!別にいいでしょうが」
「日頃から思っていたが、松本くんは露出狂なのか?制服でも必要以上に露出している気がするのだが!」
「えー、いいじゃないの。別に減るもんじゃあるまいし。ショートも嬉しいわよね?」
「いや、他の奴に見られんのは良くないと思うぞ」
「まあショートがそういうなら気を付けるわ」
「どうして轟くんの言うことは聞くんだ……ところでどうして松本くんは轟くんのことを名前呼びなんだ?」
「え?普通にヒーローネームで呼んでるだけだけど。職場体験中はこれで通すつもりだったの。何か変?」
「いっ、いや変とかではない。ただそう、気になっただけだ……」
なんか妙に飯田が慌てている。
「フフフッ、何か変な想像でもした?心配しなくても職場体験が終わったら普通に呼ぶわよ」
「別に名前でいい」
「え?」
「職場体験が終わっても名前で呼んでいい」
「そう?じゃあ改めてよろしく、焦凍、天哉」
なんか流れで名前呼びになってしまった。まあ前世でも仲のいい隊員とは名前で呼び合っていたからあまり違和感はないけどね。
それよりも心を閉ざしがちだった彼がこんなに心を開いてくれて嬉しいわね。
「って俺も名前呼びなのか⁉、松本くん」
「当たり前でしょ!共にステインに立ち向かった仲なんだから。出久も名前呼びしてあげないとなー」
顔を真っ赤にして恥ずかしがりそうね。
話しているとドアが開き医師がやってきた。天哉の検査結果出たようだ。左手に後遺症が残る可能性があるらしい。
詳しいことはまだ生活してみなければわからないが、多少のしびれがあるかもしれないという程度らしい。利き手じゃないとはいえ、手に後遺症は辛いわね。
医師が去ったあと、出久が帰ってきた。
「あ、飯田君、今麗日さんがね……」
「緑谷。飯田、今診察終わったとこなんだが左手、後遺症が残るかもしれないそうだ」
天哉が出久に後遺症の説明をする。そしてそれを治療しないことも伝えた。
「飯田君、僕も……同じだ。一緒に強く……なろうね」
「ちょっとアタシたちのけ者にしないでくれる?ねえ焦凍」
「それはいいが、なんか……わりい……」
「何が……」
「俺が関わると……手がダメになるみてえな感じに……なってる……」
「あっはははは、何を言っているんだ!」
「轟君も冗談言ったりするんだね」
「焦凍としばらく一緒だったからわかるけど、こいつこれで天然なのよ」
「いや冗談じゃねえ。ハンドクラッシャー的存在に……」
「「「ハンドクラッシャーーーー!」」」
やっぱ焦凍は面白いわね。最近は張りつめたような表情じゃなくて、柔らかい表情になってるし。
「ところで出久がさっき言いかけてたお茶子との電話は何だったの?もしかして恋バナ?」
「いや違う違う、ただ女子との通話が……ってなんで名前呼び⁉」
ほーらやっぱり赤くなった!このクラスで一番揶揄い甲斐があるかもしれないわね。
「だってアタシたち四人でステインに立ち向かったわけじゃない?もう名前で呼んでもいい仲でしょ?男子はそういうのない?」
一斉に首を横に振る。確かにウチのクラスの男子は名前呼びなんて一人もいないか。
「まあいいや。とりあえず三人を呼ぶときは名前呼びだから。あと焦凍、アタシは今日中に退院して明日の職場体験に行くけどアンタはどうすんの?」
「俺も行くつもりだ。ホテルのロビーで待ち合わせでいいか?」
「ええ、いいわ」
「えっ!轟君と松本さんって同じホテルに泊まってるの⁉」
「なにっ!不純異性交遊はダメだぞ!」
「フジュン……なんだ?」
「焦凍はそのままでいなさい。このマセガキたちが悪いのよ。邪推しちゃってまあ」
でも雄英に入ってからは忙しくてこんな風にゆっくり喋る機会もなかったしちょうどいいわね。その後気が向くままにお喋りしてから退院し、ホテルまで戻った。
ついに職場体験最終日、アタシたちは朝からエンデヴァー事務所に来ていた。ただエンデヴァーは保須の一件の後始末があって忙しいらしく、姿を見せていない。
そしてアタシたちもステインとの戦闘で怪我をして回復したばかりなのであまり動けない。というわけで書類仕事を説明してもらいながら見せてもらった。
ヒーローと聞くと華々しい活躍をイメージするが、こういった書類仕事も大事な業務だと教えてくれた。
こういう仕事も大切なのはわかるんだけど嫌いなのよね。そうだ!
「ねえショート」
職場体験中なので一応ヒーローネームで呼ぶ。ほぼ名前だけど。
「もしアタシたちがヒーローになったらさ、一緒に事務所作ってアンタが書類仕事やってくれない?そうしたらなんでも言うこと聞いてあげるからさ!」
「ああ、いいぞ」
「ダメよね……っていいの⁉愛してるわ~」
ノリで抱き着く。やっぱイケメンは心までイケメンなのね。将来は彼に書類仕事はお任せしよう。
「いやナチュラルに仕事押し付けてるけどいいのかなー?というか友達の距離感ではないよな。付き合ってたりする?」
なんて説明していたサイドキックはぼやいていた。