林間合宿三日目の朝、不思議と目覚ましよりも早く起きた。みんなはまだ寝てるし起こさないようにそっと部屋を出る。
喉が渇いたからキッチンに行き水を飲んでいると、誰かがこちらに歩いてくる。それは洸汰くんだった。
「おはよう、こんな朝早くに起きるなんて偉いわね」
「ん……んっ!なんだお前!ヒーロー科のやつか!」
なんだか寝ぼけていたみたいだけどアタシのことを認識したみたい。
「松本乱菊よ。この前は覗きを防いでくれてありがとう。助かったわ!」
「いや……というかあんなのがヒーロー目指していいのかよ」
「それは同感よ。でもやるときはやる奴みたいだからね。それよりももしかして泣いてた?目が赤いわよ」
「⁉泣いてない!」
洸汰くんは慌てながら否定するが、嘘がバレバレだ。
「涙の跡がついてるし、目をこすったのか赤くなってるわ。アンタくらいの年なら泣いたっていいじゃないのよ。ご両親の夢でも見たの?」
「お前も聞いたのか。どいつもこいつも構ってきやがって!お前に関係ないだろ!」
どいつもってことは出久と話したのかしら?
「アタシは正直ヒーローにあんまり興味ないの」
「え?」
「というか有名どころのヒーローすらあんまり知らないし。ヒーロー目指したのも親が喜ぶかなーっていう軽い理由だしね。アタシもね、アンタみたいに大事な人がアタシを残して死んでしまったことがあるの。安易にアンタの気持ちが分かるとは言えないけど、残された側の辛さは想像できる。悲しいなら泣けばいいし、ヒーローが嫌いなら嫌いなままでいいと思うわ。そうしていれば乗り越えられる日も来るかもしれない。だからもっと周りを頼りなさい。みんなアンタのことを心配してるんだから」
洸汰くんも少しは考えるところがありそうでアタシに尋ねる。
「お前はどうやって乗り越えたんだよ」
「まだ乗り越えてないわ。ずっと忘れられない。だからこそ今を楽しまないとね。そうしていれば乗り越える日が来るとアタシは信じてる。ほらっ」
そう言ってアタシは洸汰くんを抱きしめる。
「何すんだよ⁉」
「この前……と言っても5月くらいかな?お前に抱きしめられると癒されるって言われたの。だから抱きしめてあげる」
最初は暴れていたがだんだん大人しくなる。
「こうやってされると落ち着くでしょ。少しはマンダレイにも甘えてあげなさい。あの人アンタにどう接すればいいか悩んでそうだったし。わかった?」
「……うん」
「よしっ!じゃあアタシはそろそろ行くわね。アンタはもう少し寝なさい。寝ないと大きくなれないわよ」
洸汰くんと別れ、部屋に戻る。よーし今日も気合入れて鍛錬するぞー!
――その時のアタシは知らなかった。一人の少年の性癖を壊してしまっていた事を……
今日の鍛錬も終わり、夕食の準備をする。今日のメニューは肉じゃがらしい。
「オールマイトに用でもあったのか?相澤先生に聞いてたろ」
焦凍が出久に問いかけた。
「ああ……っと……うん、洸汰くんのことで……」
「洸汰?誰だ?」
「ええ?あの子だよ。ホラ、えと……あれ……またいない」
そこでアタシも会話に加わる。
「マンダレイの親戚の男の子よ。爆豪に似てるって言ってた子」
「ああ、あの子か。その子がどうかしたか?」
「その子がさ、ヒーロー……いや個性ありきの超人社会そのものを嫌ってて、僕は何もその子の為になるような事言えなくてさ。オールマイトなら……何て返したんだろって思って……轟くんと松本さんなら何て言う?」
「…………場合による」
「そりゃ場合によるけど……!」
「素性もわかんねぇ通りすがりに正論吐かれても煩わしいだけだろ。言葉単体で動くようならそれだけの重さだったってだけで……大事なのは、何をした何をしている人間に言われるかだ。言葉には常に行動が伴う……と思う」
「そうだね……確かに……通りすがりが何言ってんだって感じだ」
「焦凍も成長したわね。入学した当初だったら、関係ねぇやつはすっこんでろ、くらい言いそうなのに」
「うるせぇ。でお前ならなんて言うんだ?」
「アタシ?アタシは今朝ちょうど洸汰くんに会ったけど、ヒーロー嫌いなままでもいいんじゃない?って言ったわ。アタシ自身そんな好きでもないし」
「そうなの⁉松本さん強いしずっとヒーロー目指してたのかなって思ってたけど……じゃあどうして……?」
ちょっと悩む。表向きというか表面的には親の為って思ってたけど……この際だから思ってることを言ってみよう。
「最初は親が喜んでくれそうだからっていうのが大きかったはずなんだけど、本当は戦う生き方しか知らないからかな?他にしたいこともなかったし」
「親の為か……ちょっと前の俺と似てるか?複雑な家庭だったりするのか?」
「ちょっと轟くん⁉そういうことはあんまり……」
「いいのよ。別に何か特殊な家庭ってわけじゃないわよ。ただ両親がいるってことが嬉しかったから恩返ししたかったのよ」
「僕は素敵なことだと思うよ!ご両親に感謝してヒーローになるって!」
「そう言ってもらえると照れるわね……」
「気になったんだがさっき言ってた戦う生き方しかってのは……」
「君たち、手が止まっているぞ!最高の肉じゃがを作るんだ!」
お喋りに夢中になっていたら天哉が注意に来た。その後は黙々と調理を続け、美味しい肉じゃがを味わった。
「肝を試す時間だー!」
食事の後は肝試しの時間だ。ただその前に相澤先生から話があるよう。
「その前に大変心苦しいが、補習修連中は……これから俺と補習授業だ」
「「「「ウソだろ」」」」
というわけで補習組の三奈、上鳴、切島、瀬呂は補修のため相澤先生に引きずられていった。
B組が先に脅かす側で、A組は二人一組でルートを回るらしい。アタシは透と一緒に3番目に出発することになった。
「じゃあ3組目……トウメイキティとマツモトキティ、ゴー!」
スタートするはいいが透がさっきからアタシに抱き着いたまんま離れない。
「うー……楽しみにしてたけど、怖いなぁ。思ってた以上に真っ暗だし」
「怖いならしっかりアタシの腕掴んでなさいよ」
「うん……そうするー……」
B組の脅かし方は個性を活かしていて面白かった。
少ししたら中間地点というところで何やら変な臭いと煙みたいなのが流れてくる。これってB組の個性かしら?でも体育祭でこんな個性見た記憶がない。
迷ったのは一瞬だった。灰の竜巻を小規模でいくつか作って辺りの煙を晴らす。
「急にどうしたの⁉」
透に聞かれるが今はあまりかまってられない。
「B組の子たちいる⁉緊急事態かもしれない!」
そう叫ぶと近くにいたB組の面々が4人ほど出てくる。
「どうした?緊急事態って?」
そう話しかけてきたのは確か……取陰?だったかしら?
『皆!!
マンダレイからのテレパスだ。ここに
「今の聞いたでしょ?とにかくここはすぐに施設まで戻りましょう。さっきの煙も多分
「私も本気出した方がいいかな⁉」
「裸になるってこと?それは最後の手段ね。森で服を脱ぐのはかなり危ないわ。アタシたちが誰も動けなくなって一人だけ逃げれそうな状況が来たら、その時は服を脱ぎなさい」
「うん!わかった!」
「B組のみんなもこの方針でいい?それと簡単に個性でできることを教えてくれると助かるわ」
突然のことに驚いている様子のB組。ここは時間かけたくないのだけど……
「やっぱA組のほうがこういう緊急事態での対応力はすごいね。私は取陰切奈、個性はトカゲのしっぽ切りっていって体を細かく分割できる。ほらこんな風に」
そう言って取陰は頭をバラバラにした。
順に聞いていくと、取陰の他には小森希乃子、黒色支配、鎌切尖の3人で個性も聞いた。同時にこちらの自己紹介も済ませた。
「有毒っぽい煙は吸わないように気を付けましょう。ただそれを掃えるのがアタシくらいしかいなそうね。取陰と黒色に負担がなければ索敵お願いしたいのだけどいいかしら?」
「私に関しては任せて。目と耳だけ飛ばせばいきなり会敵なんてことにはならないはず」
「俺も大丈夫だ」
「よしっ、見つからないように慎重に行こう」
そうまとまって進もうとしたときにまたもやマンダレイのテレパスが聞こえる。
『A組B組総員、戦闘を許可する!』
「戦闘が許可された?これはアタシたちも会敵する可能性が高いってことかしら?厄介ね」
「どうする?
『
「爆豪が狙われてる?理由はよくわからないけど、この場にいないし気にしないようにしましょう。それより
「私は乱菊ちゃんに任せるよ!私じゃまともに戦うことすらできないし……」
透はアタシに任せるようだ。たしかに直接戦闘できる個性じゃないしね。
「私は戦うべきじゃないってわかってるけど、正直めちゃくちゃムカついてんだよね」
取陰は理性ではわかってるけど感情的には戦いたいと。
「戦うのは怖いノコ」
「小森、もし戦うことになっても俺が守ってやるよ」
「黒色……」
小森と黒色はラブコメやってる?なんかいい感じなんだけど……
「俺は戦いたいぜ!こんな機会中々ないしな!」
鎌切は随分と交戦的ね。爆豪みたい。
「じゃあこうしましょう。
「本当に大丈夫?松本の強さは体育祭でも見たけどさ……」
取陰に心配されたがその必要はない。アタシはいつでも命を懸けているつもりだ。それに、
「会敵したら戦闘向きでない子は逃がさなくちゃ。アタシと鎌切が残るのが最善よ。取陰には他のメンバーを先導してほしいし」
「わかったよ。鎌切、女の子に怪我させんじゃないよ?」
「わかってる!俺が
「じゃあ行きましょう。話すのに時間かけちゃったし」
一行は森の中を静かに進む。とその時、
「止まって。誰かがすぐ近くにいる。あれは生徒か
「アタシと鎌切は様子を見に行きましょう。他は迂回して施設を目指して」
「「「「了解」」」」」
二手に分かれて行動する。取陰の言っていた方へ向かうと、暗がりで木に火をつけた。これで
もう一人人影が見える。二人組か、こちらも二人で良かったわ。これが一人だったら迷わず撤退を選んでた。
「鎌切、殺しはなしで動きだけ止めるのいける?」
「もちろん。俺が炎の奴でいいか?」
「アタシがもう一人の個性不明な方ね。アンタの動きに合わせるから合図して」
「3・2・1、行くぞ!」
鎌切の合図で彼は突撃する。アタシは灰を
「んん?なんだあ?ぎゃー!!痛えー!!痛くない!!」
「トゥワイス!クソッ!こんなとこにも学生かよ」
腕から血が出ているところをみると、鎌切の攻撃は当たってみたいだが動けないほどではないみたいだ。
「すまん松本、しくじった。思ってた以上に反応が早い」
「仕方ないわよ。こっちは四肢をずたずたにしてやったから動けないはず」
「流石だぜ!」
これで二対一だ。こちらが相当有利なハズ。
「酷いことするぜ。ホントにヒーロー志望か?もしよければこちら側に来いよ」
「遠慮するわ。それよりずいぶん辛そうね。切られた腕が痛いのかしら?」
「そうか。じゃあ焼け死ね!」
蒼い炎を放つ
「あの炎、焦凍のよりも上かも。鎌切大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ!また庇われちまったな……」
「近接のアンタじゃ相性が悪いわね。アタシのフォローお願いね」
「おっしゃ!任せろ!」
作戦が決まったところで奴が近づいてくる。
「おいおい今のを防ぐなんて最近の学生は優秀だな。だがこっちも時間が来たんでな。お遊びはここまでだ」
さっきの炎を超える勢いの炎が向かってくる。だがそれを極限まで圧縮した灰の壁で受ける。だいぶ削られたがなんとか防げた。
そして全力で灰を出す。林間合宿で鍛えたことで以前よりも出せる量が増えた灰が
大量の灰を竜巻状にして奴を切り刻む。だけどとんでもない火力を誇る
しかし攻撃の効果はあったようで、左腕の肘から先がなくなっている。
「クソガキがあああ!!ふざけやがって!!チッ!もう行かないと時間がねえ。命拾いしたな、お前ら」
そういって
アタシたちは当然それを防ごうとする。
「そうだよな。ヒーローだもんな!
そう言って
そのまま捕らえた
「そういや松本、この
「あぁ、ブラフよ。切ったけどそこまでじゃないわ。ちゃんとリハビリしてサポートアイテムがあれば動くわよ」
アタシがそう言うとドン引きしたようだった。
「こんな状況でしょ?手加減しすぎるのも難しいと思ってね」
「でも松本は調整上手いよな。体育祭でもすごいなってずっと尊敬してたんだ。俺も斬撃の個性だし」
「そう言ってくれると嬉しいけど、確かに扱いにくいわよね。まあ慣れるしかないわね」
「俺のミスの尻拭いまでさせちまったし……そうだ!姉御って呼んでもいいか?敬意をこめて!」
「え~、まあダメではないけど……」
「おっしゃ!じゃあ姉御、この
「ちゃんと拾ってたのね。偉いじゃない。身元の確認に使えそうだし警察に引き渡しましょう。まあいつ来るか分からないけど……」
そんな会話をしつつ宿泊施設まで戻ってきた。そこにはブラドキング先生が待ち構えていた。
「お前たち!無事だったか!」
「アタシたちは無傷です。それより先にこっちに来てるはずの透や取陰たちは?」
「そっちも無事だ。いくら許可が出たとはいえ戦闘のために残ったと聞いて肝が冷えたぞ。んで背負ってる奴は?生徒じゃないよな?」
「
「は?連れてきたのか⁉」
「捕らえたのですが炎の勢いがすごくて放置できなかったので」
「わかった。そいつはこっちに任せて中に入ってなさい」
「あと、もう一人の腕を切ったので身元を照合に役立ててください」
「そいつはどうしたんだ?」
「逃げられました。結構重症だと思うんですが、炎の個性だったので止血はしてるでしょうし、残念ながら生きてる可能性が高そうです」
「はぁ。わかった。もうないな?とりあえずもう休んでおけ」
なんかブラドキング先生に呆れられてた気がするけど気のせいよね?模範的なヒーロー志望の行動だったはずなのに……
この時のアタシは想像もしてなかった。まさかあの爆豪が誘拐されるだなんて……