林間合宿は終わってみれば最悪の結末という他なかった。
生徒の被害は有毒ガスによって意識不明の重体が9名。重・軽傷者11名。無傷で済んだのは19名。行方不明が1名。しかもプロヒーローが1名行方不明。
まさかあの爆豪が簡単に誘拐されるとは思いもしなかった。
林間合宿の翌日からアタシたちは警察からあの日の状況を聴取された。できる限り気づいたことは話したが、正直役に立つような情報は持ってなかった。
切断した
その次の日、そんなわけで特になにもわからない不透明な状況ではあったが、A組みんなで入院している出久と百のお見舞いに来た。
出久の病室へ行くともう目が覚めていた。
「テレビ見たか⁉学校いまマスコミやべーぞ」
「春も酷かったけど今回はそれ以上ね」
「メロンあるぞ、皆で買ったんだ!」
「迷惑かけたな、緑谷……」
常闇が出久に謝った。来る途中に聞いたが常闇は個性を暴走させてしまったらしい。それにあと一歩で誘拐される寸前だったとも。
「ううん……僕の方こそ……A組皆で来てくれたの?」
出久が尋ねたが、それに天哉が答える。
「いや、八百万くんが頭を酷くやられここに入院している。昨日丁度意識が戻ったそうだ。だから彼女を除いた……」
「……17人だよ」
「爆豪いねえからな」
「ちょっ轟……」
「そういうこと言わないの」
焦凍がデリカシーのないことを言うので肘で小突く。
「オールマイトがさ……言ってたんだ。手の届かない場所には救けに行けないって。だから手の届く範囲は必ず救け出すんだ。僕は……手の届く場所にいた。必ず救けなきゃいけなかった……!僕の個性はそのための個性なんだ。相澤先生の言ったとおりになった……体……動かなかった……」
出久は悔しそうに語った。目の前で幼馴染が攫われるのに何もできなかったのは辛いわね。
ここで切島が口を開く。
「じゃあ今度は救けよう」
「「「「「へ⁉」」」」」
一同が困惑していると、切島は昨日百の病室を訪ねたときに聞いた話をした。百は
これを聞いた天哉は激高した。
「オールマイトの仰る通りだ!プロに任せるべき案件だ!俺たちの出ていい舞台ではないんだ、馬鹿者!」
「んなもんわかってるよ!でもさぁ!何っも出来なかったんだ!ダチが狙われてるって聞いてさぁ!何っも出来なかった!しなかった!ここで動かなきゃ俺ぁ、ヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ」
切島の言うこともわからなくはない。だけど皆の反応は悪い。
「切島、落ち着けよ。こだわりはいいけどよ、今回は……」
「飯田ちゃんが正しいわ」
「飯田が皆が正しいよ、でも!まだ手は届くんだよ!」
「
焦凍も行くみたいだ。これが切島単独の暴走なら押さえつけて終わりだけどそうじゃないならどうするべきかしら?
「ふっ、ふざけるのも大概にしたまえ!」
「待て落ち着け。切島の何もできなかった悔しさも、轟の眼前で奪われた悔しさもわかる。俺だって悔しい。だがこれは感情で動いていい問題じゃない」
障子は彼らしい冷静な意見だ。
「オールマイトに任せようよ……戦闘許可は解除されてるし」
「青山の言うとおりだ……救けられてばかりだった俺には強く言えんが……」
ここで梅雨ちゃんも口を開く。
「皆爆豪ちゃんが攫われてショックなのよ。でも冷静になりましょう。どれ程正当な感情であろうとまた戦闘を行うというのなら、ルールを破るというのなら、その行為は
梅雨ちゃんの正論に皆口を閉ざす。そしてその時病室のドアが開く。
「お話し中ごめんね。緑谷くんの診察の時間なんだが……」
医者が診察に来たみたいだ。
「い……行こか。ここにいても邪魔だし……」
「八百万には昨日話をした。行くなら即行……今晩だ。重症のおめーが動けるかは知らねえ。それでも誘ってんのはおめーが一番悔しいと思うからだ。今晩病院前で待つ」
切島は今日の夜に決行するようね。アタシは焦凍に声を掛ける。
「焦凍、ちょっといい?」
「あぁ……」
病院のロビーの人が少ないところに移動する。
「ホントに行くつもりなのね?」
焦凍の目を真っすぐ見ながら問いかけた。
「行く。きっとここで何もしなかったら後悔する」
焦凍は目を逸らさずにそう答えた。ならこうするしかない。
「止めても無駄なようね。ならアタシも行くわ。アンタたちだけじゃ心配だしね」
「……お前も来るのか?」
焦凍はアタシの選択を意外に思っている様子。
「そりゃ救出に行くのは反対よ。正直何考えてんだって思ったわ。でもアンタたちが行くっていうのならついて行く。感情面での暴走が心配ってのと、アタシ自身何もできなかったっていう悔しさもあるから」
「そうか、助かる」
ホント、世話が焼ける子たちよねー。相澤先生もきっと問題児だと思ってるに違いないわ……
その日の夜、病院前ではアタシと焦凍と切島が集結していた。
「松本も来てくれたのか!」
「ええ。アンタたちだけじゃ心配だもの」
「信用ねえな……」
とは言ってもアタシができることは多くない。戦闘なら役に立てる自信があるけど、今回はそういうのじゃなさそうだし。
「八百万……考えさせてっつってくれた……どうだろうな……」
「まぁ……いくら逸っても結局あいつ次第……」
「お、来た」
「あれ?出久まで……まだ動いていい体じゃないでしょうに……」
来そうとは思っていたけどホントに来るとは……
「八百万、答え……」
「私は……」
「待て」
背後からから声がして振り返ると天哉がいた。
「……何で何でよりにもよって君たちなんだ……!俺の私的暴走を止めてくれた君たち二人が……!何で俺と同じ過ちを犯そうとしている⁉あんまりじゃないか……!」
「何の話してんだよ……」
「俺たちはまだ保護下にいる。ただでさえ雄英が大変な時なんだぞ。君らの行動の責任は誰が取るのかわかっているのか⁉」
「飯田くん、違うんだよ。僕らだってルールを破っていいなんて……」
出久がそう言っている最中に天哉が顔を思いっきり殴った。普段真面目で融通がきかない天哉が友達を殴るだなんて……
「俺だって悔しいさ!心配さ!当然だ!俺は学級委員長だ!クラスメイトを心配するんだ!爆豪くんだけじゃない!君の怪我を見て床に臥せる兄の姿を重ねた!君たちが暴走した挙句、兄のように取り返しのつかない事態になったら……!僕の心配はどうでもいいっていうのか!僕の気持ちは……どうでもいいっていうのか……!」
「飯田くん……」
「飯田」
そこで焦凍が口を開く。
「俺たちだって何も正面切ってかち込む気なんざねえよ。戦闘なしで救けだす」
「ようは隠密活動!それが俺ら卵ができる、ルールにギリ触れねえ戦い方だろ」
やっぱり二人はそんなことを考えていたのね。ただそれでなにかできるかといえば、正直できることはほぼない。
「私は轟さんを信頼しています……が!万が一を考え私がストッパーとなれるよう……同行するつもりで参りました」
「八百万くん⁉」
「八百万!」
「アタシは救けに行くのには反対だけど、止めてもどうせ行くだろうから付いて行くわ。百が一人で三人もお守りをするのは大変そうだしね」
「松本くんまで⁉」
「僕も……自分でもわからないんだ……手が届くと言われて……居ても立っても居られなくなって……救けたいと思っちゃうんだ」
「…………平行線か……ならば、俺も連れて行け」
え、アンタまで行くの?
天哉も一緒に行くことになり、発信機の示した横浜市神野区まで行く。道中に今なら引き返せるなんて会話もあったが、誰も帰る気はなさそうだった。
とうとう神野区に到着した。
「さあどこだ!八百万!」
「お待ちください!ここからは用心に用心を重ねませんと!私たち
「うん、オンミツだ」
「しかしそれでは偵察もままならんな」
「アタシが空から探すってわけにもいかないしね」
「そこで私、提案がありましてよ⁉」
百の提案により、ドンキで変装することになった。この周辺が夜の繁華街なだけあって子供がいたら目立つ。
だから変装するのはいいんだけど、なんで水商売のお姉さんみたいな服装なのよ。我ながら似合っているのがなんともいえない……
「お?雄英じゃん!」
その声の持ち主の視線を辿ると、ビルのスクリーンに雄英の謝罪会見の様子が映し出されていた。
マスコミは雄英の責任を追及したくて仕方がないみたいだ。しかもそれを見ていた市民からの雄英の評判は悪い。
実際被害が出ていることを考えると仕方のないことなのかもしれないけれど、気分が悪いわね。
その後発信機の示す場所までやってきたが、寂れた小さな工場という外見の建物だった。中の様子を伺っていると酔っ払いが絡んでくる。
「裏に回ってみようどれだけか細くても僕らにはここしか情報がない」
出久の提案で建物横の細い路地に入る。
「狭いですわ……つっかえそう」
「アタシも胸が邪魔で苦しいわ」
「安全を確認できない限り動けない……ここなら一目はないし……!あの高さなら中の様子が見れそうだよ!」
ここで出久が建物に窓があることに気付く。切島が暗視鏡を持ってきていたみたいでそれを使う。
出久と切島が焦凍と天哉の上に乗って見るみたいだ。アタシたちはどうしようか。
「百、アタシの上に乗る?」
「やめておきますわ。お二人がみれば十分でしょうし」
というわけで切島から覗いている。
「様子を教えたまえ。切島くんどうなっている⁉」
「んあー……きたねーだけで、特には……うおっ!」
「切島くん⁉」
「おい!」
「どうした、何見えた⁉切島!」
「ちょっと、何があるのか言いなさいよ!」
切島の狼狽え方が尋常じゃない。何かが見えたみたいだ。
「左奥……!緑谷左奥!見ろ!」
「⁉うそだろ……⁉あんな……無造作に……アレ……全部、脳無……⁉」
脳無⁉それってUSJや保須で現れたやつじゃない⁉そんなもんがなんでここにいんのよ!
アタシたちが衝撃を受けていると、突然建物が破壊される轟音が響いた。
「ど……どうなっているんだ⁉」
「いってててて」
「アンタたち大丈夫?衝撃で倒れたけど」
切島と百が建物の中をのぞく。
「Mt.レディにギャングオルカ……No.4のベストジーニストまで……!」
「虎さんもいますわ……!」
ヒーローがこんなにも集結しているとは……
「ヒーローは俺たちなどよりもずっと早く動いていたんだ……!」
「すんげえ……」
「さぁすぐに去ろう。俺たちにもうすべき事はない!」
天哉の意見に賛成だ。
「そうね。邪魔にならないようにさっさと帰りましょう」
「オールマイトのほう……かっちゃんはそっちにいるのか……」
「オールマイトがいらっしゃるのなら猶更安心です!さぁ早く……」
その時中の様子が慌ただしくなる。そしてそれは一瞬だった。一瞬のうちに正体不明の何者かによる攻撃でヒーローたちごと辺りを吹き飛ばした。
あまりの威力と圧力にアタシたちは動けなくなる。アタシ以外は完全に恐怖に飲まれてしまっている。
「ゲッホ!くっせぇぇ……んっじゃこりゃあ!」
いきなり爆豪が現れた。USJの
その後
「やはり……来てるな……」
その時オールマイトがやって来た。オールマイトと敵の親玉との戦いが繰り広げられるが、オールマイトが劣勢だ。そして出久が口を開く。
「飯田くん、皆!」
「だめだぞ……緑谷くん……!」
「違うんだよ、あるんだよ!決して戦闘行為にはならない!僕らもこの場から去れる!それでもかっちゃんを救け出せる!方法が!」
そこから出久が作戦を伝える。たしかにこれならいけるかもしれない。ただ個性を使う以上グレーゾーンではあるけど。
「アタシは賛成よ。グレーゾーンではあるけどこれならバレても言い訳できる範囲だしね」
「飯田さん……」
「……バクチではあるが、状況を考えれば俺たちへのリスクは少ない……何より成功すればすべてが好転する……やろう」
というわけで出久の作戦を実行する。
まず出久のフルカウルと天哉のレシプロで推進力をつけ、切島の硬化で壁をぶち抜く。すぐに焦凍の氷結で高く跳べるように道を形成し、空中から切島が爆豪に呼びかける。
「来い!!」
爆豪が爆破で切島たちのところへ飛ぶ。それを確認してアタシは空に煙幕を張る。これなら逃げ切れるでしょ。
向こうにくぎ付けになっている間にアタシたちもこの場を離れた。
ある程度離れてから焦凍が出久に電話を掛ける。あっちも無事なようだ。
この後のことは避難中で見れなかったが親玉対オールマイトの戦いは辛うじてオールマイトが勝利したが、オールマイトの弱体化と本当の姿が明らかになってしまったらしい。
戦いが終わった後出久たちと合流し、爆豪を警察に送り届けた。そして半日以上をかけてアタシたちは家路を辿った。
今回のことは結果的に成功したし爆豪は取り戻せた。だけどこれからのことが心配になる事件だったわね。どうなることやら……