寮に入った翌日の教室、A組全員がそろっている。
「昨日話した通り、まずは仮免取得が当面の目標だ」
「「「「「はい!」」」」」
相澤先生の話に皆元気よく返事をする。
「ヒーロー免許ってのは人命に直接係わる責任重大な資格だ。当然取得の為の試験はとても厳しい。仮免といえどその合格率は例年5割を切る」
「仮免でそんなにキツイのかよ」
峰田が弱音を吐く。5割というのはかなり厳しい数字ね。
「そこで今日から君らには一人最低でも二つ、必殺技を作ってもらう!」
「「「「「学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタアアア!」」」」」
エクトプラズム、セメントス、ミッドナイトが教室に入って来た。詳しい話は実演を交えて説明するとのことで、体育館γへ移動する。
「トレーニングの台所ランド、略してTDL!ここは俺考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できる。台所ってのはそういう意味だよ」
なるほど、セメントスの個性ならあらゆる地形で訓練できるわね。
「質問をお許しください!何故仮免の取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います!」
天哉の質問に先生方が答える。これからの時代、特に戦闘力が必要とされる中で、どんな状況でも安定行動を取れれば戦闘力が高いこととなる。
必殺技自体は攻撃である必要はなく、天哉のレシプロバーストも必殺技と呼べるらしい。アタシの灰雲も必殺技でいいのかしら?
「中断されてしまった合宿での個性伸ばしは、この必殺技を作り上げる為のプロセスだった。つまりこれから後期始業まで、残り十日余りの夏休みは個性を伸ばしつつ必殺技を編み出す、圧縮訓練となる!尚、個性の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの改良も並行して考えていくように。プルスウルトラの精神で乗り越えろ。準備はいいか?」
「「「「「「……ワクワクしてきたぁ!!」」」」」
皆夏休み中に訓練なのに元気ね……アタシは少し憂鬱よ……
セメントスがそれぞれの訓練場所を作り、エクトプラズムの分身を配置する。さて、アタシはどうしようかしら?
「君はどうする?さっそく必殺技開発に移るか、個性を伸ばすか」
「迷ってるんですけど、とりあえず今まで使ってた必殺技っぽいものを見てもらってもいいですか?」
「もちろん」
まずは移動技の灰雲から軽く辺りを移動してみる。
「どうですか?」
「移動技トシテ、イイノデハナイカ?要救助者ヲ運ブ際ニモ使エソウダ」
なかなか高評価だった。どんどん技候補を見せていく。
I・アイランドで使った灰を弾にして放つ灰時雨は改良の余地ありとのことだった。もっと形状を工夫すべきとのこと。
たしかに形はあんまり気にしてなかったわね。尖がらせたりした方が良さそう。あと、距離が離れると制御が甘くなるのか威力が微妙とのこと……
次は拘束技の灰塵柩。これは対象の周りをガチガチに固めて身動きを封じる。エクトプラズムの評価は結構良さそう。ヒーローは不殺だからね。アタシの個性はただでさえ攻撃力高いし。
どんどん見せていこう。いつも使っている竜巻にも名前を付ける。何がいいかしら。『灰塵旋風』にしよう。
「ソノ技ハ体育祭デモ見セテタナ。相手二文字通リ出血ヲ強イル技ダ、扱イニハ気ヲツケルヨウニ」
たしかにこれ使うと相手が血まみれなのよね。林間合宿では相手の腕切っちゃったし。
次にいつも防御技として使っている圧縮した灰の壁はそのまま『灰塵壁』でいいか。なんだか考えるのが面倒になってきた。言いやすいしね。
「君ノ個性デコレ程ノ防御力ヲ出セルトハ思ッテイナカッタ。ヨク研鑽ヲ積ンデイルナ」
褒められてちょっと嬉しい。相澤先生ってツンデレだからかあんまり褒めてくれないのよね。
「先生、ここまでは今まで使っていたもので、考えていた技も試してもいいですか?」
「フム、セッカクダカラ色々試シテミルトイイ」
試してみたい技というのは鬼道の再現だ。今まで使っていたのは必要に駆られてというのが大きいけど、改めて必殺技を開発するなら鬼道がイメージしやすい。
まずは今までの使い方に近いものから。闐嵐を再現する。腕から灰塵旋風を横向きにするイメージ……結構上手くいったわね。
「これはどうですか?」
「先程ノ技ニ近イガ別ノ相手ヲ吹キ飛バスナド別ノ使イ道ガアリソウダ」
この技はそのまま『灰闐嵐』と名付けた。
次に黒棺を模した技をエクトプラズムに試す。大量の灰を出し、それで対象を覆いつくして直方体状にする。そもまま中に圧力をかけていく。
前世でこの鬼道は使えなかったけど、こんな感じだったはず……そして気が付いたらエクトプラズムの分身がやられてしまっていた。やりすぎちゃった?
「恐ロシイ技ダ。コレナラ耐久力ガ高イ相手ニモ通用シソウダ」
「そうですかね?ただこれはコントロールが甘いと突破されそうな気がします。あと焦凍とか爆豪みたいな火力のある個性だと一時しのぎにしかならないかも」
「ソレヲ含メテ訓練シテイコウ。コレデ考エテイタノハ全テカ?」
「まだあります」
これは『灰棺』と名付けた。
次に這縄を試してみるがこれは全く上手くいかなかった。縄状にはできるが弾性がないせいで折れてしまう。
次は赤煙遁をアレンジしてみよう。あれは逃走技だけど煙幕としても使えるはず。とりあえず試してみるが、普通に姿を隠すくらいはできる。ただもう少し完全に見えなくしたい。
「もっと隠れるようにしたいんですけど、アドバイスありますか?」
「ソウダナ……モウ少シ粒子ヲ小サクシテミルノハドウダロウ?」
「やってみます!」
アドバイス通りにやってみるとさっきより見えづらくなったし範囲も増やせそう。流石は雄英の先生なだけある。
嘴突三閃と六杖光牢は灰で再現したらすんなりできた。
嘴突三閃はいい名前が思いつかないわね……名前このままでいいかしら?壁に拘束する技だから建物壊しちゃいそうで使いづらい。
六杖光牢は『六杖灰牢』と名付けた。帯状に固めた灰で相手を浮かせたまま拘束できるのが長所と言われた。今までの技は地上に拘束する技だったからこれはこれで使い道があるかも?
「必殺技ノアイデアガ凄イナ。発想力ハヒーローニトッテ武器トナル。コノ調子デ行コウ」
「でも次でラストですよ」
アタシはそう言って最後の技を試す。鎖条鎖縛を真似た技を披露する。灰を太い鎖状にしてエクトプラズムに巻き付かせ、拘束する。
「他ノ拘束技モ良イガ、コレハ同時ニ多数ヲ拘束シヤスソウナ技ダナ。応用モキキソウダ」
「ありがとうございます。それと一つ相談なのですが、新しい戦闘スタイルを考えてまして……」
「新シイ戦闘スタイル?今ノママデモ十分強力ダト思ウガ……?」
「考えていたんですけど、今のままでは近接戦闘が厳しいなと思いまして。そのためにサポートアイテムを使おうかと……」
アタシの考えをエクトプラズムに説明する。もっと強くなるためには今以上に強化が必要だわ。
「フム。ソウイウコトナラ開発工房ヲ訪レルト良イ。キット君ニ合ッタアイテムヲ作ッテクレルダロウ」
そう言われたので訓練終わりにさっそく訪れてみると、そこにはパワーローダーがいた。
「こんにちは~」
「ん?おー、いらっしゃい。今日はいろんな人が訪れるね。さっきまで緑谷くんや麗日さんたちも来てたよ。君もコスチューム改良?」
「コスチューム改良というか作って欲しいアイテムがありまして。刀の柄と鞘なんですけど……」
そう、アタシが考えていたのは刀を武器として使うことだ。柄と鞘だけアイテムとして作ってもらい、刀身は個性で作る。
全て個性で作ることも考えたが、握る部分だけは実物の方がサイズ調整が無くてやりやすそうだし、鞘も含めて装備していた方がしっくりきそう。
「柄と鞘?刀身はいいのかい?」
「刀身は個性で作ろうかと思ってまして。それに刀剣類は規制が厳しいですよね?」
「それもそうだ。刀剣はそれに関係する個性くらいじゃないと許可出なかったりするしね。わかった、じゃあサイズとか決めようか」
というわけで細かい注文をする。重さや長さや握りやすさが重要なのでここは適当にはできないわ。
数日中にはできると言われたのでお礼を言って退出した。ところで横にいた汚い子は何だったのかしら?
圧縮訓練開始から4日後、刀ができたので早速装備して訓練に向かう。
「緑谷!コスチューム変えたのか!」
「うん!腕の負担を減らしてくれるサポーターだよ」
「どうせなら全とっかえでイメチェンすりゃいいのに!地味目だしよ」
「いいんだ。ベースはなるべく……崩さない」
出久と峰田がそんな会話をしている。
「出久にはそのコスチューム似合ってると思うわ。派手さより堅実さが表れてるのがいいわよね」
アタシも口を挟んだ。
「オイラは⁉オイラはどうなんだ松本!」
「アンタも似合ってるんじゃない?本性隠してかわいいキャラで売れば人気出るかも?」
ただ峰田の変態性がバレれば女性人気は壊滅的ね……
「そうか……グヘへ……女子ファン獲得してやるぞ~!」
これは無理そう。顔がもうね……涎垂らしてるし。
「ところで松本はコスチューム変えないのか?あんまり初期から変えてるように見えないけどよ。まあエロいから布面積増やしてほしくないけど」
「アタシはいいのよ。防御性能は十分だしね。あとこれもあるし」
「え、刀⁉いいのかそれ⁉」
「たしか刀剣類は許可が出ないとダメなんじゃなかったっけ?」
「この刀はね……」
刀身がないことを説明する。
「なるほど。松本さんの個性なら近接戦闘が弱点かと思ってたけどこうやって埋めてくるのか。僕は反対に近接戦闘しかできない。遠距離攻撃の手段も考えるべきか?いやでもここは攻撃力や立ち回りを強化する方が先決か?……」
また出久がブツブツモードに入っちゃった。
「でも松本って刀使えんのか?刀の扱いは難しいって聞いたことあるぞ」
「これから訓練するし使ってるとこ見る?」
「いいのか⁉見てみてぇ!」
「俺も見ていいか?興味ある」
「あら、焦凍も?出久はどうする?」
「いやでもやっぱり……あっ、見させてもらうよ」
「そう。じゃあ今日も訓練頑張りましょう」
TDLに移動し、エクトプラズム相手に刀を抜く。そして瞬時に圧縮した灰の刃を形成する。
「今日は近接戦闘よろしくお願いします」
「ウム。カカッテキナサイ」
エクトプラズムの言葉を合図に刀を振るう。初撃は躱されたがそれを見越して刀を振るう。それが腕に当たるが浅い。エクトプラズムの蹴りが連続して放たれるが刀で避けつつ隙を伺う。流石にこのレベルだと近接も強い。だが一瞬の攻撃が途切れたタイミングで胴を切った。結構な刀傷を受けて分身は消えてしまった。
う~ん……初戦にしてはよくやった方かしら?ブランクを感じる動きになってしまった。
「松本サン、刀ノ扱イ方ニ慣レテイルケド何カ習ッテイタノカナ?」
「あ~、昔に少々かじったことがあって……」
「ソウカ。イイ動キダッタ。コチラモ本気デヤッタノダガ」
エクトプラズムから褒められていると、
「松本さん、すごい動きだったよ!体の使い方とかすごい参考になったし!」
「松本お前すげえけど怖えよ……あんな躊躇いなく切りやがって……」
出久が褒めてくれた。峰田は怖がってるわね。
「二人ともありがとう。峰田は今度変なことしたらこれでちょん切るわよ」
「ちょん切る⁉どこをっ⁉」
「焦凍はどうだった?」
さっきから無言の焦凍に尋ねる。
「やっぱ強いな、お前。保須での一件の時に前に出た理由がわかった。俺も負けねえようにしねえと……」
焦凍にも火が付いたみたい。元々結構熱いとこあるけど最近はそれが表に出てきてて嬉しいわね。
その後も必殺技や近接戦闘の訓練をした。ちなみにこの灰の刀は『灰塵の太刀』と名付けた。
訓練も終わった夜、寮の共有スペースでA組女子はくつろいでいた。
「フヘエエエ、毎日大変だぁ……!」
「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」
「あと一週間もないですわ」
「ヤオモモは必殺技どう?」
「うーん。やりたいことはあるのですがまだ体が追い付かないので少しでも個性を伸ばしておく必要がありますわ」
「乱菊ちゃんは?」
透が質問してきた。
「そうねえ……必殺技はいくつかあるけどもっと精度をあげたいわね。それと近接も」
「梅雨ちゃんは?」
「私はより蛙らしい技が完成しつつあるわ。きっと透ちゃんもびっくりよ」
「お茶子ちゃんは?」
お茶子はボーっとしていて返事をしない。心ここにあらずという感じね。
「お茶子?」
「うひゃん!」
「お疲れ様のようね」
「いやいやいや!疲れてなんかいられへん。まだまだこっから!……のハズなんだけど、何だろうねえ。最近ムダに心がざわつくんが多くてねえ」
「恋だ」
三奈がズバリ言う。
「な、何⁉故意⁉知らん知らん!」
「緑谷か飯田⁉一緒にいること多いよねえ!」
「チャウワチャウワ」
「誰ー⁉どっち⁉誰なのー⁉」
「ゲロっちまいな?自白したほうが罪軽くなるんだよ」
「違うよ本当に!私そういうの本当……わからんし……」
「無理に詮索するのは良くないわ」
梅雨ちゃんが止めた。
「そうよ。デリケートな話題なんだからあんまりいじっちゃダメよ」
「そう言う松本こそどうなんだい!轟との仲は!」
「そうそう!乱菊ちゃんこそ恋愛話してよ!」
「もう!だからそんなんじゃないってば。仲はいいけどまだアタシに釣り合わないわ!」
とりあえず冗談めかして否定する。上手く笑えているかしら?
正直焦凍に対してどう思ってるのか自分でもよくわからない。最初は弟のように思っていたはずなんだけど、たまにドキッとすることもあるし……
「今日も疲れたしさっさと寝ましょうよ」
「ええ、明日も早いですしね」
「ええー!やだ、もっと聞きたいー!何でもない話でも強引に恋愛に結び付けたいー!」
とはいっても恋愛してる暇はしばらくないかもしれないわね。
ここでお開きとなり解散するタイミングで焦凍が現れる。もう!タイミングがいいのか、悪いのか……
「女子はここで集まってたのか。邪魔して悪いが松本借りていいか?」
「どうぞ、どうぞ!」
「好きに持ってちゃって!」
「悪いな」
焦凍の問いに三奈と透が悪乗りした。焦凍に連れ出され寮の外に出る。
「もう!なんでいつも皆の前で誘うのよ!それにもうこんな時間だからあんまり長い時間は取れないわよ?」
「わかってる。相談があるんだ」
焦凍の表情からわかる。これは真面目なやつだと。焦凍の話を聞いていくと、その理由が分かった。
「エンデヴァーの様子がおかしい?」
「ああ。最初はオールマイト引退で暴れてたんだが、ちょっと前から「そんなはずない」だの「死んだはずなんだ」だのうわ言ばっか言うようになっちまった。食事にも顔出さねえしまるで魂が抜けたようだ。これから繰り上がりでナンバーワンになるってのに全然ヒーロー活動してないみたいだし……姉さんが困ってるから何とかしてぇ」
あのエンデヴァーがそんな状態に?ヒーローとしての自分にプライドがあってナンバーワンをあれ程欲していた人がね……
「正直言えばよくわからないわね。なにかショックになるようなことがあったってことかしら?そうなったのはいつくらいから?」
「神野の一件の数日後からだ。俺は寮に入ってるから見れてないが、ここ数日でも姉さんからやっぱ様子がおかしいって連絡が来てる」
「冬美さんから……アタシは冬美さんとは連絡とってるけどエンデヴァーとは取ってないのよね。仕事に関することかもしれないし安易に聞くわけにもいかないか……」
「それもあるが話しかけても全然反応しねえ。上の空だ」
「こちらからできることは多くないわ。こまめに様子を見るくらいしかできないわよね。でもアンタ寮暮らしだし、冬美さんにこれ以上負担かけたくないしで難しいわね……」
「様子見しかないか……時間取らせたな、松本」
「いいのよ。役に立てなくてごめんなさいね」
「いや、話したらスッキリした。ありがとな」
「困った事があったら相談しなさいよ。アタシでも先生とかでもいいし」
「ああ、わかってる」
「じゃあアタシは寝るわ。明日も早いし」
「遅くまですまん」
「いーえ、おやすみなさい」
自室に戻ってさっきの話を思い返す。焦凍からの相談は思いもしないことだった。そういえばあんまりエンデヴァーのニュース見てないわね。
アタシになにかできることがあればいいのだけど……そう考えながらいつの間にか寝てしまっていた。