文化祭当日、アタシはミスコンの準備があるためA組のライブは見られなかった。相澤先生に録画するように頼んだけど大丈夫かしら?
「もう終わって今片付け中かな?」
透がそんなことを尋ねてくる。
「そうねぇ。たぶんそのくらい。ごめんなさいね、付き合わせちゃって」
「いいんだよ!私がやりたくてやってるんだもん!」
「そっか……あ、そろそろ移動の時間だわ」
「ホントだ!じゃあ行こうか」
アタシと透は廊下を移動する。今日は10月なのに半袖でもいいくらいの陽気だから着物姿は暑いわね。
「暑いよね、大丈夫?」
透が心配して声を掛けてくる。
「大丈夫だけどお水貰える?」
「はい!」
貰った水を飲んで生き返る。着物を最近着る機会が少ないからか新鮮な気持ちになるわね。
そのままミスコン会場後ろの控室に着いた。なんだか拳藤と波動先輩が気合を入れていたようだ。ちょっと状況が良くわからない。困惑していると有名人が入って来る。
「オホホホホホホ!ごきげんよう!皆さん!」
それは絢爛崎先輩だった。二年連続してミスコンで優勝しているらしい。
「今日は決戦の日、お互い悔いの残らない戦いをしましょう!」
やっぱりミスコンの女王だけあって堂々とした姿だった。この人と勝負するのは大変そうね……
絢爛崎先輩が波動先輩に近付く。なんだかバチバチしている様子だ。それはどこかお互い分かってやっている感じだったが、そこに波動先輩の付き添いの甲矢先輩が嚙みついた結果場の空気が凍ってしまった。
アタシがどうしようか悩んでいる間にミスコン実行委員が入って来てリハーサルの順番などを説明し始めた。
リハーサルは学年順にやるらしくアタシはトップバッターだった。最初なのは戸惑ったけどいつも通りやるだけね。
リハーサルが終わり、それぞれの控室に戻って来た。
「なんか女同士の戦いって感じで怖かったね」
透がさっきの控室でのバチバチに関して言った。
「そうね。でもだからこそ燃えるんじゃない?」
アタシは結構やる気になっていた。峰田に言われて参加することになったけど、やるからには勝ちたい。
「そろそろお昼ご飯の時間だけどどうする?」
「ん~、やめておくわ。終わってからいっぱい食べることにする。透は何か食べてきたら?」
今食べたら踊れなくなりそうだしね。
「私も後でいいや。なんだか緊張してきて喉を通らなそう……」
「どうしてアンタが緊張するのよ。リラックス、リラックス!」
そうして本番までの間待機していると、ノックが鳴る。返事をするとぞろぞろと入って来る。A組女子となぜか峰田と障子と尾白だった。
「あれ!皆どうしたの?」
透がそう尋ねる。
「私たちも片付けが終わったから応援に来たんだ!」
お茶子が代表して答える。そっか、皆来てくれたんだ……嬉しいわね。でも男子たちはなぜ……?
「乱菊ちゃん、凄く綺麗だわ」
「松本さん、流石お着物が似合いますわ!」
「松本、普段とは雰囲気変わるね。いいじゃん」
「うわぁー!綺麗ー!」
女子の皆はアタシの姿を褒めてくれる。自信はあるけどそう言われると余計にやる気が出てくるわ。
「ところで女子の皆は分かるけど、男子たちは何しに来たの?」
アタシがそう言うと障子と尾白は困った顔をしながら顔を見合わせる。何かあったのかしら?
「本番前にすまないな」
「俺たちここにいて良いのかな?いや……それがさ……」
「松本!どういうことだよ!」
黙っていた峰田が大声をあげる。どういうこととは?
「ん?何が?」
「どうしてドエロイ服着てねえんだよ!もっと胸も足もさらけ出して露出増やせよ!もしかしてあれか?ステージで着物脱いでいく感じか?オイラが言ってた通りストリッ……ブッ!!」
峰田のセクハラ発言が限界に来たところで梅雨ちゃんが舌でぶっ叩いてくれた。
「やっぱり峰田ちゃん一人で来させなくて良かったわ。障子ちゃん、尾白ちゃん、お願いね」
梅雨ちゃんがそういうと、障子と尾白が峰田を拘束して運んでいく。
「予想通りとはいえ、俺たち来て良かったな……」
「そうだね……松本さん、本番は俺たちも見てるよ。頑張ってね」
二人はそう言って部屋を出ていく。
「二人ともありがとねー!行っちゃった……」
二人は峰田のお目付け役兼排除係だったわけね……今までの峰田の行いからそれも納得だけど。
そこからしばらくお喋りしていたら本番まであと少しという時間になっていた。
「そろそろ時間じゃない?お暇した方が……」
響香が気を使ってそう言ってくれる。
「あ!ホントだ!」
「そうですわね。松本さん、応援してますわ!」
「楽しみに見てるわ、乱菊ちゃん」
「ファイトだよ!」
最後に激励してくれる女子一同。
「任せておきなさい!A組を代表して出るんですもの。無様な真似はしないわ」
アタシはそう言って皆を安心させる。女子が出て行って部屋の中はアタシと透の二人だけになった。
「透、緊張ほぐれた?」
「うん!やっぱり皆が来てくれると安心するね!でも乱菊ちゃんは変わらないみたい!」
「まぁそうかしら?来てくれて嬉しいかったわ。元々あんまり緊張とかはしないタイプだし、むしろ楽しみになって来たわ」
「やっぱり乱菊ちゃんが出て正解だったよ!」
「だといいわねぇ」
その後もしばらくお喋りしていると、ミスコン実行委員がもうすぐ本番だと知らせてくれた。舞台袖に移動する。
少し遅れて波動先輩や絢爛崎先輩、B組の拳藤が来たけど何かあったのかしら?
他の人は気にせず集中しないとね。ふぅー。よし、楽しんでいきますか!
※※※
轟焦凍side
A組の出し物であるバンドとダンスは大成功した。轟も練習通りの動きができたと満足している。
轟はA組の皆と、A組を代表してミスコンに出る乱菊の応援に来ていた。峰田は性欲の籠った眼でミスコン参加者を凝視していたが……
ある生徒のパフォーマンスが終わり、いよいよ次に乱菊の出番がやって来る。それを緊張した面持ちで見守るA組。
「次はいよいよ松本くんか。A組を代表して出てもらっているんだ。しっかり応援しなくては!」
「だな……」
飯田はいつも通り張り切っている。轟も少しワクワクしている自分がいた。
いよいよ乱菊がステージに上がって来た。乱菊は艶やかな着物姿で扇を持っている。その姿を見ただけでも轟の胸は高まる。登場しただけでもその姿は見る物の視線を釘付けにしていた。
乱菊のパフォーマンスが始まる。事前に日本舞踊をやるとは聞いていたが、いまいちどんなものか分からない轟だった。
和楽器の音に合わせて舞い踊る乱菊の様子は圧巻だった。あまりに綺麗で美しく、見る物を魅了する踊りだ。
乱菊の舞踊はこれまでの圧倒的な経験がそうさせるのか、まるで天女の踊りを見ているようだった。そして露出は大してないはずなのにとんでもなく色気があった。
轟も思わず呼吸を止めるくらいの衝撃だった。観客たちも乱菊の踊りに酔いしれてるようで夢見心地な様子であった。会場の視線が全て乱菊の一挙手一投足に向けられているのが肌で感じられる空気である。
しばらく舞い踊り、音楽の音が止まるのに合わせて乱菊の動きもピタッと止まる。扇で顔の大半を隠し、目だけを出して流し目をする姿に会場の人々はメロメロであった。
轟も当然、乱菊から目を離せなくなっていた。最後、ステージから降りる際に目が合ったような気がした。そして笑いかけてくれたような……
『艶やかな着物を着ての日本舞踊!とんでもない美しさと色気が感じられましたね!私も思わず言葉を失ってしまいました!素晴らしいパフォーマンスをありがとうございました!』
司会の言葉が轟の頭に入って来ないくらい、彼は茫然としていた。だんだんと意識が戻って来ると、隣にいた飯田が話しかけてくる。
「松本くん、素晴らしかったな!思わず見とれてしまった!」
「そうだな。俺もだ……」
飯田と会話していると周囲の声も聞こえてくる。
「あれで1年か……色気やべえな」
「これは3年生にとって強敵だなぁ」
「綺麗だったなー。付き合いてえ」
「馬鹿、お前が釣り合うわけねえだろ」
「鏡見ろよな」
「酷え!でも夢見るくらいはいいだろうが!」
「普通にキモイ」
「理想と現実のギャップに押しつぶされていいなら夢見とけ」
そんな会話を聞いている轟はふと思う。
(松本が他の奴と付き合う……想像するだけでイライラしてくる……誰かに渡したくはねえな……なんだこの気持ち)
どういたらいいか分からなかった轟は隣の飯田に尋ねる。
「なぁ飯田」
「何だい轟くん」
「ある人に対して、他の誰にも渡したくないって思う気持ちはなんだと思う?」
突然の質問に飯田は面食らったようだが悩みつつも答える。
「そうだな……他の誰にも渡したくない……一般的には独占欲というものではないか?それが異性であれば恋愛感情であるとも考えられそうだが。だがそれがどうしたんだい?もしや現代文の設問であったのか⁉」
「いや、そうじゃねえ。忘れてくれ」
「そうかい?ならば忘れよう」
轟は乱菊に対する恋心を自覚した。だが今すぐに何か言うつもりはなかった。
(せめてお前に胸張って並べるようになるまでは……言えねえな……)
※※※
松本乱菊side
「ふー、疲れたぁー」
アタシは控室に戻って制服に着替え、だらーっとしていた。緊張はしなかったが大勢の前で踊るのは疲れる。
「お疲れ様、乱菊ちゃん!この後どうする?」
「ミスコンの発表までは時間あるし何か買いに行きましょうか」
「そうだね!お腹空いちゃった!」
アタシたちはは連れ立って出店を周ることにした。控室を出た辺りで百と響香が待っていた。
「あ、来た!」
「松本さん!葉隠さん!お待ちしていましたわ!」
どうやらアタシたちが出てくると予想していたらしい。
「待っててくれたのね、ありがとう」
「そんなの別にいいよ。それよりお疲れ様」
「素晴らしかったですわ!思わず感動してしまいました!」
話しながらも移動する。お腹が空いていたのもあって出店の食事を食べていく。
「美味しいわね」
「ね!やっぱりお腹空いてるからいくらでも食べれそう」
アタシと透が食事を買っている間に響香と百はセメントスカップのジュースを買ってきていた。
「こっちも美味しいよ。しかも良くできたカップだし」
「大人気ですわね」
「響香、一口ちょうだーい」
アタシがそう言うと仕方ないなぁと言いつつ飲ませてくれた。
「甘くて美味しいわね。これは……ココナッツジュース?」
「セメントス先生と全然関係ない」
「本当に」
その後、アタシたち4人は人ごみを避けて階段に腰かけた。
「でも、アタシも生ライブ見たかったわ~」
「ね、仕方ないけど見たかったよね!」
アタシと透が言っていると、百も同調する。
「耳郎さんのお歌は最高でしたわ。出来れば前から最前列で見たかったのですが、ライトを浴びて歌う後ろ姿もカッコよかったですわ」
「やめてよ……恥ずい……」
恥ずかしがる響香の様子に皆ニヨニヨしてしまう。
「でもそれを言ったら松本もすごかったよ。思わず見とれちゃった」
「私もですわ。気づいたら終わってしまっていました」
「私は舞台袖から見てたけど良かったよ~。ミスコン参加者も驚いてたし」
話は変わってアタシのミスコンになっていた。しかも大絶賛してくれる。
「そう言ってもらえるのは嬉しいわね。もうすぐ結果発表もあるし」
その後三奈とも合流して色々と出し物を見て回った。そして5時近くになって結果発表が行われるのでミスコン会場に行く。
そこでは人で溢れかえっていた。ミスコンの注目度の高さが分かるわね。ステージにミスコン参加者が並ぶ。
『多くの投票、ありがとうございました!早速ですが本年度のグランプリを発表いたします!グランプリは………………1年A組、松本乱菊さん!!』
まさかアタシの名前が呼ばれるとは。でも素直に嬉しいわぁ!司会から感想を聞かれたので投票してくれたお礼を言って嬉しさを語った。
グランプリのティアラも頭にのせてくれた。これは毎年優勝者に送られるらしい。最後に観客に挨拶して舞台を降りた。
こうして今年の文化祭は終わりを迎えた。とてもいい思い出になったわ。あとで先生からA組のライブの様子を見せてもらわないと!