冬休みが終わり始業日の朝がやって来た。とは言えアタシはゆっくりしている暇はなかった。なぜなら……
「寝坊した!昨日帰って来るの遅かったからなぁ……急いで準備しても結構ギリギリね」
目覚ましは掛けていたはずなのに寝坊してしまい、大急ぎで朝の支度をしている。流石に寝癖付いたままで行くとかはありえないしね。
今日から演習の授業もあるのに朝ごはん食べないわけにもいかない。食べなきゃ空腹で倒れるかも。急いで支度して朝食も食べる。一階の食事スペースにはもう誰もいなかった。
朝食を食べ終えて走って教室まで向かう。ただし廊下は見つかると面倒なので早歩きで。そうしてアタシはチャイムが鳴る直前に教室に滑り込んだ。
「ふう……ギリギリセーフ」
「松本くん!もう予鈴が鳴るぞ!」
ギリギリに駆け込んできたから天哉に怒られる。昨日帰って来たのが遅かったのが悪いのよ。そう、アタシのせいではない……はず……そうよね?
叱られながら席に着くが、そこで皆のアタシを見る目がおかしいことに気が付く。
「ねえ出久、アタシ何か変?」
前の席の爆豪はまともな返事を期待できないから後ろの席の出久に尋ねる。
「えっと、松本さん、ネット見てない?これとか」
「寝坊しちゃって今朝は時間なくて……ってなにこれ?」
出久が差し出した携帯の画面を見る。ネットニュースのようだ。タイトルは『【美男美女】エンデヴァーの息子ショート、同級生のミスコン女王と熱愛か!ヴィラン退治後に熱烈に抱き合っている姿を激写!』とある。
「うわっ、がっつり撮られてるじゃないの……はぁ、面倒だわ……」
「あはは……」
出久の愛想笑いが辛い。そりゃあんなところで抱きしめられてたら誰かが写真撮ってるわよね。あとこの記事間違ってるわ。抱き合ってるんじゃないくて、抱きしめられてるだけなのに。
「明けましておめでとう、諸君!」
そうしていると天哉が前に出て話し出したので前を向いて話を聞く。
「今日の授業は実践報告会だ。冬休みの間に得た成果・課題等を共有する。さぁスーツを纏いグラウンドαへ!」
「いつまで喋って……」
天哉が話し終えたところで相澤先生が教室に入って来た。
「先生あけおめー!」
「本日の概要伝達済みです。今朝伺った通りに」
三奈が先生に明るく挨拶して出ていく。アタシもしれっと出て行こうとする。
「轟、松本、節度は守れよ」
「はい」
「……はい」
まぁ言われるわよね。アタシじゃなくて焦凍に重点的に言って欲しいわ。バレたのも焦凍のせいだし。その後更衣室に移動してから女子たちの尋問が始まった。
「で、話聞かせてもらえるよね⁉いつから付き合ってたの?」
「ねぇねぇ!どっちから告白したの?」
三奈と透から聞かれる。やっぱり聞いてくるとしたらこの2人よね。
「本当はこうなるから言わないつもりだったのに……まぁもう隠しておく意味ないから言うけど、付き合ったのはクリスマスからで告白は焦凍から」
「クリスマス!いいなぁー!私も彼氏欲しいー!」
「やっぱり轟くんからかぁ」
コスチュームに着替えつつも聞かれたことに答える。彼氏とは言ってもあんまり恋人らしいことしてないけどね。一緒にヴィラン追いかけてたくらい?
「てか松本、ネットの反応とか見てる?阿鼻叫喚だけど」
「え、そんなに?」
響香に言われて、携帯でさっき出久に見せてもらった記事のコメント欄を開く。
『マジか……』
『俺たちの灰猫ちゃんがー……』
『信じない、俺は信じないぞ』
『くそう!やっぱり顔なのか』
『ハァ……ハァ……なんか逆に興奮してきたな』
『俺のショートくんが……』
『ショートくん、君には失望しました。エンデヴァーのファン辞めます』
『↑エンデヴァー関係なくて草!って言おうとしたけど……親子だから関係あるか?いややっぱないか?』
『次世代の女性ヒーローのホープがイケメンに取られてしまった……』
『雄英ヒーロー科ってとんでもなくモテそうだよな。しかもイケメンなら猶更』
『体育祭、職場体験、インターンとフラグは立ってたんだよなー。俺でなきゃ見逃しちゃうね!』
『でも怒らせたら玉無しステインみたいに玉潰されるぞ。その覚悟がある奴だけ嫉妬しろ』
『闇深家庭に突っ込んでいく勇気は凄いわ。俺なら逃げる』
『応援はする。でもそれはそれとして残念!』
『閃いた!この二人が結婚して子供生まれて英才教育したら、強個性の子供生まれるんじゃね!』
『↑頭エンデヴァーかよw』
『うわー、ショートくんがこんな体だけの女に引っかかるなんて残念だわー』
『ショートくんは私のお婿さん検定合格者なのに……』
『売女が調子こくな』
『男は変態、女も阿鼻叫喚、地獄みたいなコメ欄だなw』
そこからは言い争いが酷くなってきていたので記事を閉じる。やっぱ体育祭だったりインターンもしてるしで注目度あるわよね。少し舐めてたかも。しかも焦凍はエンデヴァーの息子ってのもあるし。
「気にすることないわ、乱菊ちゃん」
「そうですわ。交際するのは自由なのですから」
アタシが携帯を見て固まっていると、ショックを受けたと思ったのか梅雨ちゃんと百が励ましてくれる。
「ありがとう、大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけ。特に気にしてないわ」
それよりもさっきチラッと見えた実家からの着信履歴のが気になる。お父さんたちも知ってるだろうしな……後で折り返そうと考えていると、話題はお茶子と出久との仲に移っていた。またこっちに戻って来るといけないから静かにしておこう。
※※※
一方その頃、男子更衣室。そこでは轟が女子と同じ話題で追及されていた。
「轟よう、今朝はお前も遅く来て話せなかったけどよう、松本と付き合ってるってマジなのか⁉」
「そうだぜ!マジなら早く言えよな!」
峰田と上鳴が轟に顔を近付かせて尋ねる。峰田に至っては血涙を流している。
「ああ。そうだが」
轟はしれっとそう言った。これには若干気になって聞き耳を立てていたクラスメイト達もびっくりだった。まさか本人の口からこうもはっきり聞けるとは思っていなかった。
「おめでとう、轟」
「祝福するぞ」
「ありがとな」
障子や常闇が祝うと他の皆も口々に祝福する。
「くそう……!祝福する気持ちと羨ましい気持ちがせめぎ合ってる……!オイラはどっちを優先すればいいんだ!」
「いや、普通に祝福しろよ……」
峰田の二つの相反する気持ちに対し瀬呂が突っ込む。
「でも二人が付き合うのは意外じゃないけど、こんなに早くとは思わなかったな。轟から言ったのか?」
「ボーっとしてると欲しいもんを失っちまうような気がした。だから俺から付き合ってくれって頼んだ」
意外にも尾白が轟に話してきた。轟はそれに対して真剣な顔で答える。彼女のことを語る時、心なしかいつもより表情が柔らかい。
「ケッ!色ボケやがって。インターン中も乳繰り合っててうぜーんだよ」
「かっちゃん!……そういえばかっちゃんはあんまりモテないもんね」
「うるせー!!クソデク!!余計なこと言うんじゃねぇ!!」
「マジかー、爆豪。気にすんなよ!」
「気にしてねーわ!!」
爆豪と緑谷がいつものように言い合いになっている。慰める切島にも突っかかる爆豪であった。
「皆、轟くんと松本くんの話が気になるのは分かるが、これから授業なんだぞ!早く着替えてグラウンドに行かなければ!」
「飯田、クラスメイトの一大事にそんな細かい事気にしてられねーよ!」
「そうだ、そうだ!これは重大事件なんだぞ!」
飯田が早く授業に向かうよう促すが、峰田と上鳴はそれに反論する。ただし授業時間は迫っているのであまり猶予はない。
「む?たしかにこれはクラスメイトの一大事とも言える……授業とクラスメイト、どっちを優先するべきか……」
「ぶっちゃけ俺は二人が付き合うのは時間の問題かと思ってたけどな」
「僕も☆」
分かりきっていることに悩む飯田を放っておいて、瀬呂はいずれ乱菊と轟が付き合うだろうと思っていたと話す。ついでに青山もだ。
「俺、そんなに分かりやすかったか?」
「そりゃ俺ともなれば気づいちゃうよ。というか他にもそう思ってたんじゃねーか?」
轟の疑問に瀬呂はいたずらっぽく答える。客観的に見て轟の乱菊に対する態度は他のクラスメイトへのものとは明らかに異なるものであった。察しの良い瀬呂や障子なんかは轟の恋心にも気づいていたようだった。
「うーむ…………やはり授業が大事だ。皆、グラウンドへ急ごう!そろそろ授業時間が迫っている!」
「やべっ!飯田の言う通りだ、急げっ」
「相澤先生に怒られるのは勘弁だぜ!」
「君たち!廊下は走ってはいけないぞ!」
飯田の言う通り時間が迫っており慌てて移動を開始する。そして轟は見守ってくれていた仲間たちの後を追った。
※※※
アタシたちA組女子がグラウンドに到着するとまだ誰も来ていなかった。おかしいわね、いつもなら男子が先に来ているものなんだけど。それに相澤先生もいないし。
授業開始ギリギリになって男子たちが来た。どうやら話していて遅くなったらしい。
「わーたーがーしー機だ!!」
「「「「「オールマイト!」」」」」
どうしてここにオールマイトが?この授業は相澤先生の担当のハズだけど……
「あれ?相澤先生は?」
「ヘイガイズ、私の渾身のギャグを受け流すこと、水の如し。相澤くんは本当今さっき急用ができてしまってね」
そういえば着替える前に呼び出されていたわね、相澤先生。というわけでそれぞれのインターンの成果の発表に入る。
まず最初はヨロイムシャの所に行っていた青山、透、三奈の三人からで、どうやら攻防一体の策について行くためにコンボや新技を開発したらしい。
青山のレーザーを透が曲げるのはいいわね。アタシもコンボ攻撃できるようにしたいけどエンデヴァーは自分がメインって感じで教えてくれるからなぁ。
「透、レーザー曲げれたのね。カッコよかったわよ」
「ホント?私、攻撃が全裸で殴る蹴るしかできないから手札を増やそうと思って!」
その後もそれぞれの成果を見せていく。
そしてアタシたちエンデヴァー事務所組の番が来た。爆豪も焦凍もそれぞれ仮想ヴィランを破壊している。
アタシは何体もの仮想ヴィランを相手に大量の灰を放出し、繊細なコントロールで各部を切断する。仮想ヴィラン相手だから分かりづらいけど、人間相手でも致命傷にならないくらいの傷になっていそう。
「大規模でのコントロール」
これまでは大規模だと相手に致命傷を与えかねないと考えてあまり使わなかったけど、これからは実戦でも大規模攻撃が使えそう。今まではリカバリーガールがいる雄英だからこそ自由に個性を使えていたのもあるし。最近は灰塵の太刀に頼る場面が多かったのも改善できそう。
出久が黒い紐みたいなので仮想ヴィランを一纏めにして蹴りで破壊して終了だ。というか普通にあの力使えているわね。
「松本、刀は使わないんだね」
「使うは使うけど、やっぱり大規模攻撃での操作は課題だったから。相手が複数だったりすると刀だけだと大変だしね」
「たしかに……万能な個性だと思ってたけど苦労してんだね」
「そうなのよ。ヴィランと言えども生死に関わるような大怪我させるわけにはいかないし」
響香とそんなことを話していると、出久とお茶子が何かいい感じになっている。あの二人仲いいわよね。そして授業も終わりの時間となった。
「皆しっかり揉まれたようだね。録画しといたから相澤くんに渡しておくよ!引き続きインターン、頑張ってくれ!更なる向上を……」
放課後になって予定していた鍋パが始まる。準備中に電話が来たりして途中で抜けたりしたけど、皆で鍋作りするのも中々悪くないわね。
「では!『インターン意見交換会』兼『始業一発気合入魂鍋パだぜ!会』を始めよう!!」
天哉の音頭によって鍋を食べ始める。アタシは何故か焦凍の隣に座らされた。そんなところでわざわざ気を使わなくてもいいんだけど、焦凍が心なしか嬉しそうだからいいか。
「腹減ったな」
「そうね。今日も実技あって体動かしたし。あ、これ美味しい。ほら、アンタも食べなさいよ」
「おう」
焦凍がぼそっと言っているのに返事をして鍋を勧める。
「暖かくなったらもうウチら2年生だね」
「あっという間ね」
「怒涛だった」
「後輩できちゃうねえ」
「ヒーロー科部活無理だからあんま絡み無いんじゃね」
「有望な奴来ちゃうなぁや~だ~」
「君たち!まだ三カ月残っているぞ!期末が控えていることも忘れずに!」
「やめろ飯田、鍋が不味くなる!」
天哉は嫌なことを思い出させるわね。期末かぁ……先が思いやられるわ。また焦凍に教えてもらわないと今度こそ赤点取りそう。
「味は変わんねえぞ」
「おっ……お前それもう天然とかじゃなくね……⁉」
「皮肉でしょ。『期末慌てててんの?』って」
「高度!」
焦凍のそれ、それアタシにも効くからあんまり言わないで欲しいわ。いや、アタシだって努力してるのよ。ただ忙しいのと雄英の授業が難易度高すぎなだけで……
「それやめて焦凍、それアタシにも効くから」
「お前には俺が教えるから問題ないだろ」
さらっと焦凍がそう言ってくれる。あ、こっちのお鍋も美味しい。
「カーッ!!やっぱ彼女持ちのイケメン死すべしッ!!」
「峰田くん!それは言いすぎだぞ!」
「言わせときなよ。モテない男の僻みだよ」
「むっ!それは申し訳ない!」
「謝るんじゃねえ!オイラが余計にみじめじゃねえか……!」
また峰田がバカやってるわね。
「なぁ……さっき誰かと通話してなかったか?」
唐突に焦凍が尋ねてきた。そっか、さっきの急に電話来てたの気づいてたんだ。何でもないって言うのは簡単だけどあんまり隠す意味もないか。
「あー……親から例の件でどういうことなのか確認の電話が来たのよ。それだけ」
「もしかして反対されたか?俺の家の事情を知ってたら嫌がられることも理解できる」
「いや、反対とかではないの。ただお母さんが少し心配してるというか……」
そう、お父さんの方が反対したり大騒ぎしたりするかと思ったら、意外と冷静な反応だった。逆に『さっさと彼氏くらい作れば?』と言わんばかりだったのお母さんの方がちょっとね……
「でもちゃんと説明しておいたから不安がらなくていいわよ。それで納得してくれたしね」
「落ち着いたら俺からもきちんと挨拶に行くよ」
「いや結婚するわけでもないんだからそこまでしなくても……」
アタシがそう言うと焦凍が少しムッとした?ような気がする。え、付き合っただけで親に挨拶するものなの?なんか違うような……そして焦凍の手がアタシの手を握る。
「ともかく、俺の家の事情が問題なら俺から説明させてくれ」
「そう?そこまで言うならそうしましょうか」
焦凍がその方が納得できるというならそうした方がいいか。と、そこに三奈が目ざとく繋いでいる手を見つける。
「あ~!!松本と轟、手繋いでイチャイチャしてる~!!」
「えっ!ホントだ!そういえば二人の話聞こうと思ってたのに忘れてたね」
「そうだぞ轟!このクラス唯一の彼女持ちとして話聞かせろや!」
透や上鳴もそれに乗っかって一気に話題がアタシたちのことになる。やっぱり忘れてはくれないみたいね。その後も天哉や百が止めるまで根掘り葉掘り聞かれた鍋パであった。