授業、訓練、インターンを繰り返しているうちに気づけば3月も下旬、春休みになっていた。そんなある日、アタシたちは何故か蛇腔市で街の住民を避難させる任務に就かされている。
「それにしてもここまで大規模な住民の避難だなんて、一体何事なのかしらね……」
避難も終盤に近付きそう呟いていると、隣にいた焦凍が反応する。
「考えても仕方ねえ。今はやることやるだけだろ」
「それはそうだけど気になるじゃないの」
病院にもたくさんヒーローが向かっているらしいし、大規模な戦闘でもあるのかしら?いまいち状況が掴めない中、与えられた任務をこなしていく。
「ご家庭や近隣に身動きの取れない方がいましたらお教えください!この街一帯、対ヴィラン戦闘区域になる恐れがあります!」
バーニンらプロヒーローとも連携しながら住民の避難を進めていく。ただ爆豪は市民に対してもいつも通りだった。
「こっからは護送車だ。街から出ろ」
「ありがとうねぇ。ふわチョコ饅頭あげるよ」
「口乾くわ!いーから行け!」
「ご厚意だよ。もらっときん」
「てめーはふわチョコ饅頭が気になるだけだろ!」
「お年寄りにもああなのね」
「ホントね。いつか治る日は来るのかしら?」
まあそれはそれとして、お茶子がふわチョコ饅頭が気になっているという爆豪の発言はホントだと思う。あの子、いつも食べ物のこと考えてるし……
あと少しで完全に避難が終わる……そう思っていた時だった。
「緑谷、どうした」
「サボってんじゃねーぞ!どういう了見だ!」
焦凍と爆豪が何やら止まって動かない出久に声を掛ける。爆豪は出久に対して相変わらずの言葉使いね。
「どうしたの?何か気になることでも?」
「デクくん……?」
アタシとお茶子に対しても返答がない。あっちの方角は……病院の方を見てる?と、その時だった。突如病院の建物が崩れ、それが瞬く間に広がっていく。というかこっちに来てる……!まだ住民もいるってのに。
「何事⁉」
「市民の避難を!」
「全員走らせろ!」
「皆逃げて!」
出久が破壊の方へ向かっていく。蹴りの風圧で食い止めようとしたがそれでも止まらない。
「止まらない!衝撃波の類じゃない!」
「全部塵になっていくわ……」
「しかもスピードが速すぎる!」
アタシたちは一斉に走り出した。とてもじゃないけどあれに巻き込まれたら助からないと肌で分かる。焦凍が氷結で壁を作るがそれすらもなすすべもなく塵に変わった。
灰で車両や人ごと運びながら逃げる。多少手荒になっても許して欲しい。というかアタシはあくまで灰を操っているから重すぎるものを浮かせるのはキツイ。
「お茶子!できる限り浮かせて!アタシが運ぶわ!」
「了解!」
お茶子に浮かせてもらった人や車を灰で掴んで急上昇。どうやら地面や触れたものを伝っているようで空中なら無事なようだ。とにかく塵になる現象を回避することは出来た。
塵になる範囲外まで市民を避難させたが、一向に状況がつかめない。
「一体全体何が起こっているのかしら……」
アタシが思わず呟くが、状況は差し迫っているようだった。
「あ⁉ワン・フォー何⁉とりあえずアシストへ向かう!」
「バーニン待って!」
「君たちは残るヒーローと避難を!警察の指示に従って!もっと遠くへ!」
バーニンたちヒーローはエンデヴァーの援護に向かうようで、アタシたちインターン生は避難を任される。
「急げ!一分一秒を争うぞ!アレが来る!次来たら終わりだ!」
「ウソでしょ、ファンクマンが……そんな……!」
「悲しむのは後にしろ!早く、一刻も早く避難を……」
場が混乱している。この場にいるプロヒーローでさえもさっきの攻撃が何なのか分かっていないみたいだった。
「天哉、今はバーニンの指示通り住民の避難を」
「そうだな、我々も突っ立っているわけには……」
行動を開始しようとした時、出久と爆豪がさっきの攻撃での被害があった方へ駆けていく。
「おい!どこ行くんだ!」
「あっと!忘れ物!すぐ戻るから!」
忘れ物ってそんなわけ……
「まったくあの謹慎ボーイズは……俺たちは俺たちのやるべきことをするぞ!」
「ええ。とにかく住民をここから離さないと……ってアンタまでどこ行くの⁉」
天哉の言葉に同意して動き出そうって時に、焦凍まで出久たちの後を追って行ってしまう。
「連れ戻す!あいつらのことは俺に任せて、お前らは住民の避難を優先しろ!」
焦凍はそう言い残して去って行った。心配だし意味が分からないが、アタシはアタシのやるべきことをするしかない。
その後、アタシたちは警察と残りのヒーローの指示に従って住民の避難誘導を行っていた。どこまで戦闘区域が広がるのか不透明で、かなりの範囲が避難区域になる。
「轟くんともつながらない!もぉぉ!謹慎ボーイズを連れ戻すと言ったっきり!」
「一定範囲が音信不通にされたようね」
天哉の苛立ちの声に梅雨ちゃんがそう返す。
「……やっぱ私たちも行くべきじゃ……」
「3人の様子は気になる。とはいえ向こうの状況が分からないのに安易に持ち場を離れるわけにもいかないわね」
アタシも気になるけど、今勝手にここを離れて住民の避難が遅れたら元も子もない。
「ちょっとちょっと、待ってちょっと何このニュース!」
「どうなってんだよ、この国!」
住民から何やら大声が聞こえてくる。内容も気になるわ。
「聞かせて下さい」
天哉が声を掛けると携帯の画面を見せてくれる。
『該当地域の方はすぐに避難を始めて下さい。繰り返します。現在超大型のヴィランが和歌山県群訝山から京都府蛇腔までまっすぐ北上しております。予想進路、未野市、香薫市、根羽呂市、播土市、藻周市…………』
これって、超大型のヴィランがこっちに向かってきているという事?どうしてそんなことに……
「……ヒーロー、今回の作戦でほとんど出張っとんねやろ」
「そうね、道中にヒーローがいないとなると、アレを止められる戦力なんて……」
アタシたちがあまりの事態に絶句していると、ヒーローから指示が飛ぶ。
「蛇腔市民の誘導は救助隊・警察に任せる!ヒーローはこれから大型ヴィランの進路先へ!住民の避難・救助及びヴィランの進行阻止に移る!死柄木の下へ向かった者たちはまだ状況を知らないはずだ!通信障害により連絡が取れない!伝達を頼む!行くぞ、走れ!少しでも速く!一人でも多く……命を救え!」
「君たちは浮けるから伝令を頼むよ!病院で戦っている者たちにこのことを伝えてくれ!」
「わかりました」
「俺も同行します!」
浮けることからアタシも病院方面に行くことになった。ところで何で天哉もこっちに来ているの?
「ねぇねぇインゲニウムくん、何でこっち来たの?」
波動先輩が天哉に尋ねる。この人、ズバッと聞くわよね……
「規律を乱した罰ならいくらでも受けます!クラスメイトが3人……まだ帰ってきていないんです……!内二人は……俺を正してくれた親友なんです……!」
「波動先輩、最悪アタシが彼を浮かせます。あと怪我人がいたら彼の機動力は必要になるかもしれません」
「松本くん……!またフォローを頼むことになるかもしれず済まん!」
「そこはありがとう、でしょ?アンタの暴走癖には慣れてるから気にしないで」
辿り着いたそこはまさしく戦場だった。一面が破壊され、脳無とプロヒーローが戦闘を繰り広げていた。巨大ヴィランがこちらに向かってきていることをヒーローたちに伝えていく。そして戦闘を抜けてエンデヴァーに伝えに来たが、そこには満身創痍のエンデヴァーたちが。
「皆!」
「大型ヴィランがここに向かってる!向こうで脳無と戦っているヒーローにも伝えてある!」
「エンデヴァーも出久も爆豪も酷い怪我……!早く処置しないと」
ここまで彼らが大怪我をするなんて一体どれほどの激闘が……
「来てくれたのか。飯田!緑谷たちを運んでくれ!」
「……全くどおりで帰ってこないわけだよ!」
「こんなことなら追いかけてくるべきだったわね」
向こうに抱えられているのは相澤先生?足が……許せないわね。
「僕は……死柄木と……いなきゃ……!死柄木はまだ……僕を狙ってる……!かっちゃんとエンデヴァーを……!」
「アンタも重症でしょうが。動いちゃダメよ」
出久がまだ戦おうとしている。ただこれ以上の戦闘はとても無理そうな怪我に見える。
「再生能力も牛歩……だいぶ弱ってる!乱菊!波動先輩!」
「ええ!」
「うん!」
だがここで巨大ヴィランが姿を現す。死柄木と同時に対処するのは無理。ならアタシたちが取るべき行動は、死柄木を先に倒す!
灰の嵐を起こしてズタズタに切り裂く、灰闐嵐!
「逃げろおお!!」
エンデヴァーが叫んだ時には、巨大ヴィランによって吹き飛ばされていた。だけど吹き飛ばされる方向に動いていたから怪我はほぼなし。ただ死柄木とこいつの両方を相手取るのは厳しい。せめて万全のエンデヴァーがいれば……
「おーういたいた、こっから見るとどいつもちっさくて。お⁉焦凍もいんのか、こりゃいいや!しかもクソ女までいるじゃねえか」
「あ⁉」
「荼毘!……いや燈矢!!」
あれはヴィラン連合の荼毘か。いや、燈矢と呼ぶべき?アタシが腕を切り落とした男。大型ヴィランだけでも厄介なのにヴィラン連合まで背中に乗っているようだ。
「酷えなぁ……久しぶりの長男との再会で第一声がヴィラン名だなんて。燈矢って立派な名前があるんだからさぁ!」
「燈矢!福岡ではお前に逃げられたが、今日こそお前を捕らえる!」
「俺だって不本意なんだぜ?本当は幸せの絶頂からどん底に落とすつもりだったんだ。でも全然上手くいかなかった!余計なことをして俺の正体を明らかにした上に、お前を改心させちまった馬鹿女がいてなぁ!お前ら3人纏めて一緒に地獄に送ってやるよ!」
荼毘がそう言ってエンデヴァーと焦凍の方に向かう。先に手負いのエンデヴァーを狙っているのか?と、その時空からワイヤーが降って来る。
「遅れてすまない!ベストジーニスト、今日より活動復帰する!」
それはベストジーニストだった。行方不明とは聞いていたけどここで救援に来てくれるだなんて。ワイヤーでヴィラン連合や巨大ヴィランを拘束してくれた。
死柄木に攻撃しようとした時、青い炎が波動先輩に向かうのが見え、咄嗟に庇う。先輩を灰で移動させるなんて隙すらなかった。
「ぎゃっ!!」
熱い!これは背中が焼けたかな……意識が朦朧とする……落下しようとするのを波動先輩が掴んでくれていた。
「松本さん!ごめんね!私を庇って……」
「乱菊!!」
波動先輩と焦凍の声が聞こえる。大丈夫だと伝えたいけど声が出ない。
「ははは!大変だぁ、まただ!また焼けちまった!未来ある若者が!……でもやっぱりそうだよなぁ?ヒーローは、手の届く範囲は助けたくなっちまうもんだよなぁ?狙い通り炎に飛び込んでくれてありがとう、クソ女」
「てめえ!最初からそれが狙いで……!」
「そうだぜ!焦凍ォ~、お前の彼女焼けちまったなぁ!ははは!」
朦朧とする意識の中、上空から焦凍と荼毘の争う声が聞こえる。波動先輩が地上の天哉のところに下してくれたようだ。少しずつ意識がはっきりしてきた。
ベストジーニストの方に脳無が向かっている。それを波動先輩と、いつの間にか現れた通形先輩が防いでくれた。
アタシも動かなくちゃね。痛みは酷い。でも動けないほどではない!
脳無たちに向けて灰闐嵐を放つ。でもその必要もなかったかもしれない。通形先輩、波動先輩、天哉、爆豪が間に合っていた。
「外は見えたか?バクゴー」
「それは仮の名だ。あんたに聞かせようと思ってた。今日から俺はぁ……大・爆・殺・神ダイナマイトだ!!」
酷いネーミングセンスね……それはそうと、彼らを拘束している生命線のベストジーニストだけは守らなければ。
荼毘の方も気になるけど焦凍とエンデヴァーがいる。今は脳無への対処が最優先。灰塵の太刀で攻撃をいなし続けるが、動くたびに体中に痛みが走り意識が飛びそう。
このまま奴らを全員捕らえられる。そう思っていたが、ここでMr.コンプレスが拘束から脱出、連合が逃がされるのが横目に見えた。通形先輩が対処するが、その瞬間、衝撃波に吹き飛ばされる。これは……死柄木の仕業?もしかして目が覚めている?考えている間に脳無が一斉に死柄木を連れて逃げ出した。
「荼毘もそっちだ!!逃がすな!」
アタシたちは必死で追撃を掛けるが、それも及ばず逃げられたのだった。