ここはどこだろうか……?どこかに寝かされている?確か、逃げる死柄木たちを追いかけていて……
「あ!目、覚めた?松本、痛みはどう?」
「松本さん!心配しましたわ!」
響香の声がする。それと百も。視界がはっきりしてきた。どうやらアタシは病院にいるらしい。無理矢理起き上がる。
「痛みは……ちょっと背中が痛いけど問題ないわ。これくらい大したことない」
「そっか……ならまだ良かった。でも無理に起き上がらない方が」
「ところで今日はいつ?死柄木たちはどうなったの?皆は無事?」
「あれからまだ一日だよ」
「落ち着いて聞いてくださいね」
そこからの話は良いものではなかった。死柄木、スピナー、荼毘は逃走、脳無3体を仕留めるも、7体に逃げられた。群訝山荘でもリ・デストロ、外典、トランペット、スケプティックを捕らえたものの、幹部を含む100人以上に逃走を許した。
「そう……やっぱり死柄木たちを捕らえるのことは出来なかったのね」
「ええ……捜索しようにもタルタロスや刑務所から受刑者が解き放たれてしまったのでそちらに戦力を割く余裕もなく、今は混乱が続いているという状況です」
タルタロス襲撃だけでもまずいのに、刑務所まで襲撃か……とことん嫌な所をついてくるわね。
「気になっていると思いますから言いますが、轟さんは全身の火傷、爆豪さんは危なかったそうですが命に別状はないとのことです。緑谷さんも酷い怪我ですがいずれ意識が戻るとのお話でしたわ」
あの激戦じゃあ命が助かっただけマシかもしれないわね。そもそもアタシたちが戦場に到着する前から不利な状況で戦っていたみたいだし。
「相澤先生は片足と片眼を失ったけど命だけはなんとか……エンデヴァーも重症だけど助かったって」
相澤先生が足を失っているのは見えていたけど、眼までなんて……先生の個性は眼を使うのに……と、そこで違和感に気が付く。
「あれ、何か頭が軽いような。髪が短い?」
「荼毘の炎を受けたでしょ?その時に……」
「せっかく綺麗な髪でしたのに、許せませんわ!」
そっか、あの時はそんな余裕なくて気が付かなかったけど、背中が燃えたってことは髪も燃えてるわよね。
「今何時かしら?たしか病院ってアレあるはずよね?」
目覚めた翌日、まだ背中の痛みを感じつつ焦凍の病室を訪れる。こんな時くらい明るく行かなくちゃね。
「焦凍ー!大丈夫ー?」
元気よく扉を開ける。病室にはベッドに座っている包帯グルグル巻きの焦凍と、百、三奈、切島、障子の姿が。
「乱菊……来てくれた…………その髪、どうした……?」
掠れた声で焦凍は尋ねる。そう、アタシは荼毘に髪を中途半端に燃やされたのでザックリ切ってショートカットにしたのだった。
「イメチェンってやつよ、イメチェン。意外とショートカットも似合うでしょ?」
そう自慢げに見せるけど焦凍は真顔のままこちらを見ている。
「ええ!松本さん、よくお似合いですわ!」
「いい感じじゃん」
百と響香が褒めてくれるが何だか棒読み感がある。演劇の才能はなさそうだ。彼女たちには髪を切ると事前に言ったせいかしらね。
「俺のせいか……俺が燈矢兄を止めれなかったから、俺が弱かったからお前が狙われた……もっと俺の炎が強ければ、お前は燃やされてこんなことにならずに済んだはずだ……」
俯いていて表情は分からないけれど、掠れた声でそう自分を責める彼の言葉はとても痛々しかった。誰も何も言えない。アタシが声を掛けるべき場面だろう。それがアタシの役割だ。
「そんなことない、って言うのは簡単よね……でもアンタに言うべき言葉はそれじゃない気がする。アタシは自分の意志で戦ってる。別に誰かに強制されたわけではないし、自分の怪我を人のせいにはしない。だから、いくら恋人とは言え焦凍が自分のせいとか言っちゃってるのは正直ムカつく」
「悪い……」
ああ、もう。何でこの男はこんなにも面倒なんだろう。でもそれが良いところでもあるから嫌いになれないんだけど。
「そこはね、『お前のためにあのクソ兄貴を氷漬けにしてやるよ!』くらい言いなさいよね。そう言ってくれたらアタシも『人の獲物取るんじゃない!アタシが斬ってやるんだから!』って怒れるのに」
「いや、アイツは俺がやらなきゃダメなんだ。他の人じゃ勝てない」
「まあね、そうかもしれない。でももう忘れたの?アタシ、アイツの片腕切り飛ばした女よ?次会った時は負ける気はないわ」
アタシがここまで啖呵を切ると、焦凍も少し考えたのか顔を上げる。
「一緒に戦ってくれるか?」
「ええ、もちろん」
「頼んだ」
ようやく焦凍の体から力が抜けたみたいだ。ホントに面倒な男だわ。どうしてこれを恋人にしてしまったのかしらね?あ、そういえば忘れてた。
「ねえ、さっきから空気になってる男子二人。アタシの新しいヘアスタイルの感想は?」
「は?あぁ、悪い、いい感じだぜ!」
「あまり異性の容姿にとやかく言うのは良くないのでな。しかも恋人がいる前では特に」
うんうん、障子は良く分かってる。流石は察しがいい男。
「切島の彼女は苦労しそうね……」
「酷え!」
冗談を言っているうちに雰囲気が少し明るくなる。切島もあえて乗って来てくれたのだろう。やっぱアンタも良い奴よね。というかウチのクラスには良い奴しかいないけど。
「焦凍」
扉の方から呼ぶ声が聞こえる。そこには冬美さんと夏雄さんがいた。
「ちゃす……!」
「冬美さんに夏雄さん……!」
焦凍の家族が来たならアタシも病室に戻ろうかな。ここにいちゃ邪魔だろうし。
「じゃあ焦凍、アタシはもう戻るけど、重症なんだからしっかり治しなさいよ?」
「ああ、わかってる」
アタシは冬美さんたちに挨拶して自分の病室に戻る。百と三奈もついて来た。
「ねえねえ、轟のお姉さんたちと知り合いなの?」
「ええ、何度かお家にお邪魔させてもらったから」
「じゃあ轟の部屋に残っても良かったんじゃない?」
うーん、それはどうかしらね。やっぱり家族は家族の空間があるだろうし。
「まぁそれは家族になった時かな?」
「まぁ……!」
「え?どういう意味?ヤオモモは分かったの?教えてよ~」
あれから数日が経った。退院できた生徒たちは雄英に戻って来た。世間の評価を見ると、やはりヒーローを責める声が大きい。
公安が機能していない中で雄英などヒーロー科のある学校に市民を避難させることが決定。生徒の家族はもう既に避難を開始していた。
批判に晒される中でこれからヒーローたちも反撃を開始していく、そうアタシたちが考えていた中での出来事だった。
「ドアに緑谷からの手紙が……!」
「お前も……⁉」
「なんだよこれ……」
「オールフォーワン……⁉ヴィランが狙ってる……⁉」
「緑谷……何なんだよ、これ……!」
A組の皆が混乱していた。あるいは情報を受け止めきれない。出久の個性はオールマイトから授かった物で、それを死柄木たちが狙っている?だから雄英にいられないから出ていくってこと?そんなことって……
それから数日後。寮の談話スペースに出久以外のA組が集合していた。
「それ……本当に?」
「推測でしかねえけど……」
「十中八九エンデヴァーたちといる、あのクソナード!」
皆の前に立った爆豪が出久の手紙を破きながらそう言った。
「推測……?連絡をして確認を取ったんじゃないのか?君たち3人の師に……」
「幾度のしたさ。でも電話には出なかった」
「ジーパンも」
「親父もだ。忙しいとはいえ不自然だ。俺たちに隠し事してるとしか思えねえ」
天哉の疑問に常闇、爆豪、焦凍が答える。たしかに意外とマメなエンデヴァーがこんな時とは言え電話にすら出ないのは違和感が有る。
「たしか……オールマイトも戻ってないんだよね」
「らしい」
「授業は停止、進級も留め置かれてる。ヒーロー科生徒は基本寮待機と周辺の警備協力。細かい情報を得にくい環境だ……ジーパンとヘラ鳥は病院でデクと接触してる。オールマイトとも……この手紙……雄英に近付くことさえビビってんなら誰がコソコソ真夜中にドアに挟み込んだ?オールマイトしかいねぇ……!あいつらきっと組んで動いてる!」
たしかに爆豪の言う通りかもしれない。状況のつじつまが合う。
「……大人といるならむしろ安心していいんじゃなウィ☆?」
「トップ3のチームアップしかニュースにないぜ?オールマイトは入ってない」
「だからだよ。俺はエンデヴァーたちよりデクの事もオールマイトの事も知ってる。多分、考え得る最悪のパターンだ」
上鳴の疑問に対して爆豪は明確に危惧するものがあるらしい。たしかに彼らの自己犠牲の精神には危ういものがあるのかもしれない。
「じゃあ連絡手段はどうするか⁉だな!」
「電話に出ないとなると、連絡できる人を頼るしかないわね」
「エンデヴァーって雄英卒だよね……強引に行こう」
アタシたちは今、校長室でエンデヴァーと向かい合っている。エンデヴァーが電話に出る相手として校長を使うのは中々すごいわね。お茶子もめちゃくちゃする出久に影響されているのかしら?
「校長、ハメましたね……⁉」
「彼らの話を聞いて対話の余地があると判断した。私は常にアップデートするのさ」
「何で俺のことスルーした?エンデヴァー、デクとオールマイトを二人にしてるだろ」
エンデヴァーは焦凍の問いかけに無言だったがそれが答えだった。
「っぱな……ああ、正しいと思うぜ。概ね正しい選択だよ……!デクの事……わかってねぇんだ……デクは……イカレてんだよ頭ぁ。自分を勘定に入れねぇ、大丈夫だって……オールマイトもそうやって平和の象徴になったからデクを止められねえ。エンデヴァー!二人にしちゃいけねえ奴らなんだよ!」
爆豪の出久への思い、初めて聞いた気がする。何だかんだ爆豪が一番彼のことを理解しているのかもしれない。
そこでエンデヴァーが何やらデバイスを取り出す。
「それ、GPSのやつっすか?」
そう言って瀬呂はデバイスに飛びついた。同時に口田や峰田たちも同様の動きを見せた。
「こっ……これ!借りていーすか⁉あのっ俺!偶々同じクラスになっただけスけど!」
「僕も……一年一緒に過ごしただけ、だけど」
「ワンフォーオールの悩みを打ち明けてくれなかったのも、あんな手紙で納得すると思われてんのもショックだけど……」
「我々A組は彼について行き彼と行動します。ワンフォーオールがどれだけ大きな責任を伴っていようが、緑谷くんは友達です。友人が茨の道を歩んでいると知りながら明日を笑うことは出来ません」
えぇ、完全に天哉に同意ね。アタシたちだけ安全な所でぬくぬくとしているわけにはいかない。エンデヴァーが外は危険だとかぐちゃぐちゃ言っているけど、その危険な外に一人の学生をほっぽり出している人が言うセリフじゃないわね。
「私は……ヴィランの目的である彼が雄英に戻りたがらない事を踏まえ、チームアップを是とした。でも、いいのさ、戻って来ても。合格通知を出した以上は私たちが守るべき生徒さ」
「しかし避難者の安全が……彼らの中にはまだ……」
「何も敷地面積だけで指定避難所を受け入れたわけではない。彼らには私から何とか伝えよう。文化祭開催に伴い強化したが結局出番のなかったセキュリティ、雄英バリア。その真価と共にね。良いんだよ……オールマイトだってここで育った!君たちの手で……連れ戻してあげておくれ」
こうして校長からも許可が下り、エンデヴァーのGPSデバイスを使って出久の位置を絞り込むことが出来た。
そして今……
『クソがっ、いたぞてめぇら』