「うたかたのゆめ 〜京都千年歌〜」   作:熊乃八幡

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数年ぶりに本格的な二次創作に手を出す。
今度こそ打ち切らない様に頑張りたい…


第一話 そして時計は動き出し

 

「千年の都」とは、古い人は見事に喩えたものである。

帝が東京に「遷都」してはや150年が経つが、しかしその栄光というか貫禄は未だ色褪せない。それは歴史の重みであり、また長い時が作り上げた「深み」なのだろう。

 

場所は移り、東海道新幹線。そんな京都へ向かう文明の利器に跨り、黙々と読書に耽る男が1人。名を「氷室 冬夜」といった。

 

「…しかし急な話だ。大叔父上、何を考えているのか…」

おもむろに頁をめくる手をとめ、そうひとりごつ。

彼がそう語ったのには理由がある。話は数ヶ月前に遡る…

 

 

数ヶ月前 東京・冬夜宅

「…大叔父上からの手紙?なんの要件だろうか」

ようやく春の暖かさを覚え始めた3月中旬。大学受験をようやく終え、家探しと引っ越しの準備に追われる彼に、母からとある手紙を渡された。曰く「大事な手紙」とのこと。

 

ネットやスマホで事足りる今時に手紙を送ってくる人間など、心当たりは1人しかいなかった。

京都に住む彼の大叔父である。読み始めると、以下の様に綴られていた。

 

「冬夜へ。合格おめでとう。で、おそらく家を探している頃だと思うが、丁度私の家が空いている。もし良かったらおいでなさい」

 

渡りに船とはこの事である。しかし、彼の話には大概裏があるのを経験からよく知っていた。

 

それは彼の中学時代の校外学習に向けた予習を行なっていたある日のこと。

「最近面白い貸本屋ができたから友達連れて寄っていきな」と言われ、図書館ではなくなぜ貸本屋…と思いつつ、まぁ資料を探すのには向いているかと思い、おもむろに赴くと待ち構えていたのはなんと店員の格好をした大叔父。曰く「店主と友人だから紛れ込んでも問題ない」との事。頭を抱える冬夜を横目に、友人たちは目を輝かせて大叔父が繰り出す様々な雑学を聞いていた。なまじ話術が巧みで引き出しも多い分タチが悪い。

結局校外学習本番ではクラスどころか学年の注目を集め、校長にも褒められる始末。もちろん嬉しかったが「乗せられた感が否めない…」と内心複雑であった。

 

「…あの後も折に触れ振り回された記憶しかない。今度は何が起こるやら…」

 

そうひとりごつ。とはいえ両親には「せっかくの好意なんだし甘えなさい」と言われた上、条件と言ってもどうせ「家事手伝いをやる代わりに家賃無料」などだろう…とたかを括っていた。

 

 

「…というわけで、お前にはこの子達を何かと気にかけてやって欲しいんだ。何、みんないい子だから大丈夫だ。まして変人と呼ばれるお前には良い薬にもなるだろう?」

 

前言を撤回させて欲しい。本当にこの人は食えない人だった。

京都駅に降り立った冬夜を出迎えた大叔父の車に乗り込みおよそ30分。純和風な雰囲気の家に着くなり、彼はさながらフライパンで頭を殴られた様な感覚に陥っていた。

家に着くと出迎えたのは3人の姉妹とおぼしき女の子達。曰く「隣家の姉妹」、しかも本当はもう2人姉妹がいるが、それぞれ東京に住んでいて今はこの3人と母親で暮らしているとの事。

てっきり挨拶回りに来たのかと思った矢先に投げられたのが先ほどの言葉。そりゃ無茶苦茶も良いところである。3人に家で待ってもらうように伝え、彼は面と向かって本音をぶつけた。

 

 

「…大叔父上。率直に言えば薄々裏があるとは思っていました。あまりにも話がうますぎる上にデメリットが少なすぎる。何をお考えで…」

「まぁまぁ…。何も四六時中付き添えって話じゃない。ハジメちゃんとサエちゃんはしっかり者だし、ユキミちゃんもああ見えて芯の通った所があるんだぞ?」

「そういう事を聞いているのではないのです。ただでさえこれから不慣れな大学生活で忙しくなるのに、年頃の女の子を気にかけるなど…」

「当然報酬…というかバイト代は出るぞ。お前の頭なら勉強はそれなりに教えてやれるだろうし、何よりお前は根っこが優しい。何より変に外から引っ張ってくるより、知り合いの人に紹介してもらう方が余程健全だろうて」

「おっしゃることはごもっともですが…しかし私はあくまでも貴方の親戚に過ぎない。確かにここに転がり込んでくる事で結果的に隣人にはなるけれど、私は男だ。女の人の方が良いだろうし、そもそもあの子達には両親が…」

 

そこまで言いかけた彼は「両親」というワードでピクリと眉が動いたのを見逃さなかった。そして、今まで笑って流していたのに、おもむろに真面目な顔つきに変わったのを見て「コレは何か事情がある」と悟った。

 

「…両親で何か、訳があるのですか。まさか…」

「…相変わらずお前は勘が鋭い。ただ、お前が考える最悪の状況ではない。だとしたら私が見逃さないからね」

「では…」

彼の問いかけに、大叔父はしばし沈黙した。天井を見やり、外の鳥の声に耳を傾け、そして首を一捻り。それなりに長い付き合いの冬夜は、そのルーチンから「これは真面目な話だ」と悟った。

 

「…あの子達の両親は私とそれなりに長い付き合いだった。母親がゼミの後輩でね、よく勉強を手伝ってやったものだ。結婚するときは仲人をやったし、子供…あの姉妹だな、ができた時には真っ先に教えてくれた。ただ神様ってのはどうも残酷らしい。父親は10年前に事故で他界。以来母親が女手一つであの子達を育ててきた」

「…」

「末っ子のユキミちゃんは覚えていないんだが、上の子は大層ショックを受けていた。私も折に触れてフォローに回ったし、母親も気丈に振る舞っていた。まぁ両親揃って大学で先生をしていたからお金には困っていなかったが、それがいきなり1人だ。色々親子で苦労はあっただろう。言い方は悪くなるが、一番上のカコちゃんが社会人だったのがせめてもの救いかな。ただ…」

「ただ?」

 

「ただ…神様というのはどこまでも残酷らしい。結論から言うが、その母親も長くない。医者曰くもって半年だそうだ。ユキミちゃんは甘えたい盛りなのに…」

 

瞬間、時が止まったように見えた。そして、穏やかな春の陽気が今日だけは憎らしく感じた。いや…そう感じてしまったのかもしれない。

 

「…あの子達は知っているのですか?」

「知っている。努めて平静を装っているが、心の奥底は泣いているだろうね。天涯孤独ではないのがせめてもの救い、と言えばそうだが。肉親を亡くすというのは、それだけで相当堪える。しかも二度となれば」

「…それで、私を?」

「…本音半分、嘘半分だな。その上で後見人じゃないが、そこに近しい立ち位置でいて欲しいってのは偽りのない話だ。今まで続けてきた以上、本当は俺がそれをやれたら良かったんだが、もう歳が歳だ。それに歳で言えばお前のほうがよっぽど近い。いわゆる"おじさま"よりは向いてるだろう」

 

「では、嘘というのは」

「…お前に世界を知って欲しかった。東京は良くも悪くも"他人"が多い。それはここもそうだが、しかし優しさもまだある。言い方を乱暴にしてしまえば、少なくとも視野を広げるという点において、"最高の環境を用意できる"と思う」

「…口が悪いですね、本当に」

「自覚はあるよ。ただあの子らを今ここで切り捨てられるほど私はドライじゃない。上の2人が戻ってくるならまた話も変わるだろうが、今はまだ分からない。だからこうせざるを得なかった」

 

告げられた衝撃の事実。そして託された「願い」。

逃げるのは楽だ、しかしそれは私の性分ではない。難しい話だが、答えは決まっていた。

 

「…"良心に恥じぬという事だけが、我々の確かな報酬である。"この言葉を、私の答えとさせていただきます」

「セオドア・ソレンセンか。持ってくる言葉が博識のお前らしい。本当に協力ありがとう、私もできる限り手伝うから」

「はい」

 

その後、3人と母親に改めて挨拶。この春から大学進学のため引っ越してきた事、事情を理解した上で最大限協力することを伝えた。

彼女らは多少なりとも驚きつつ、最後には「よろしくお願いします」と礼儀正しく応対してくれた。

 

「良心に恥じぬ、か…。やれるだけの事を、やるしかないか」

 

 

半年後。医者の予想とほぼ同じ時期に母親は死去。諸々の手続きを済ませた矢先、一番上のカコ、次女フミカがそれぞれの事情から実家へ帰宅。そのまま5姉妹での暮らしが始まることになる。

当然隣人として事情を話すことになる訳だが、2人は快く受け入れてくれた。

曰く

「弟ができたみたいで嬉しい」

「歳の近い男の人という事で驚きますが、その親切心が何よりも嬉しかった」

との事。

 

弟扱いには驚いたが(大叔父は笑って「面白いだろう?」とリアクションしていた)、それでも悪い気はしなかった。

こうして、てんやわんやの末に始まることになった5姉妹+風変わりな男2人の奇妙な生活。

京の都に吹く春風が連れてきたのは未来への希望か、それとも…

 




夕星灯のドラマCDみたいなのが存在しないため、「無いなら作ったろ」で投稿です。
こんな姉妹リアルにいたら近所どころの騒ぎじゃないやろ…
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