番は、一般的に動物のペアやカップルを指し、特定の相手と結びついている関係を強調する言葉。
しかし、この世界での番は一心同体を示す言葉だ。
鰭人同士の番は互いの魔力を供給するだけだが、鰭人と人間の番は互いの力を解放し、魂までも一心同体となる。
暗い洞窟の中、リヴィアタンとメガロドンがいた。
「本当にいいのか?リヴィアタン」
「…あぁ。俺の番はあいつだけだ。俺の体にあいつの魂を常時合体させる…できるのはお前と俺だけ。それに、お前も番を呼び出したいだろ?」
「……そうだな。この計画は何としても成功しなければならない。たとえそれが世界を敵に回すことになってもな」
リヴィアタンとメガロドンは地面に術式を展開した。
「この魂の呼び寄せには代償が伴う。もし、お前が無事だったら、計画を実行しろ」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
魂の呼び寄せ。代償を払い、生死問わず魂を呼び寄せることができる。
しかし、魂を呼ぶには相応の魔力が必要となり、代償の大きさや必要な魔力量から考えて、魂の呼び寄せは禁術とされている。
メガロドンとリヴィアタンは魔力を術式に流し込むと、術式は魔力に反応した。
反応した術式から、魔力の渦が現れ、リヴィアタンとメガロドンを呑み込んだ瞬間、魔力の渦と共に赤い血が吹き出した。
「つっ…はぁはぁ…禁術と言われている以上、代償は大きい…」
「はぁはぁ……その代償は呼び寄せる魂との関わりがあるものだ…」
魔力の渦が収まり、再び2人の姿が現れたが、2人は身体の一部を失っていた。
リヴィアタンは左目、メガロドンは右腕を失った。
「止血を……つ!?」
2人は止血をするため、自力で治癒術をかけようとするが、先ほどの術のせいで魔力がほとんど残っていなかった。
「……魔力が残っていないだと」
このまま止血できなければ、最悪死んでしまう。
2人は最悪な考えが過ぎったとき、1人の男が姿を現した。
「これだから肉体系は…。カヲルちゃんから話を聞いて来てみれば、なんなのよこの有様は」
「リィゲリア!?なんでここに……」
「そんなことはどうでもいいから!ほら、メガロドン、腕を見せなさい。今止血してあげるから。そのあとにリヴィアタンね」
リィゲリアはメガロドンの腕に優しく触れ、術式を展開すると、無数の医療器具が現れ、メガロドンの腕の傷口を瞬時に治していった。
続けて、リヴィアタンの傷を治しながら話し始めた。
「本当に私たち鰭人は番を持つと厄介になるわね。番は一心同体。それに、人間の番を持てばなおさら…自分を犠牲にしてまで番と一緒に居ようとする」
「……」
リヴィアタンは静かに瞳を閉じ、再び開くと、失われたはずの左目に赤い瞳が現れた。
「どうやら、術は成功したみたいね」
2人の様子を見て、リィゲリアは少し安心した表情を浮かべた。
「さてと…私はそろそろ行くわ。……あ、そうそう!神殿にいる私の教え子からの情報だけど、オーシャンバトルの対戦相手が分かったみたい。一回戦……リヴィアタン。相手はあの坊とアオちゃんよ」
リィゲリアの言葉にリヴィアタンは温かい表情をした。
「……そうか」
「あの2人頑張っているみたいだから、アンタも手加減しないようにしないと」
リヴィアタンは一呼吸して、先ほどの表情から鋭い表情に変えた。
「当然だ。たとえ弟子だとしても手加減はしない」
「ふふ、相変わらずね。じゃぁ、試合の時は幼なじみとして観に行ってあげるから」
そう言ってリィゲリアは洞窟を後にした。
その頃、修行場ではセラとアオが修行に励んでいた。
「右、左!」
「っ、ちょっと早い!」
あの後、クレイに性質について教わった後、俺はアオに合わせた修行メニューを考案した。
合体型は番において、最も一心同体と称される型だ。
互いの肉体と精神を融合させるため、二人の身体と心を鍛えることにした。
「っつ……きつい……」
「……」
アオはその集中力のおかげで修行を難なくこなし、その結果、魔力量が増加している。
それに伴い、肉体も成長しているのだが……どうしても視線が下に行ってしまう。
頑張っている彼女に対して不謹慎だと自覚しているが、彼女の姿が愛らしく、目のやり場に困ってしまう。
「ん?大丈夫?」
「ん、あぁ。だ、大丈夫だ」
「ならいいけど……」
心配そうに見つめる彼女の表情は、汗で濡れた肌のせいで俺の心を揺さぶる。
冷静になろうと自分に言い聞かせるが、どうやらその気持ちは収まりそうにない。
アオと番になってから暫く経つが、あの夜以降交尾はしていない。
それにオーシャンバトルも近い。クレイが言っていた同調率を上げないといけないのだが……。
アイツが言うには、手っ取り早く上げるには交尾が一番いいらしいのだが、俺自身彼女にそれを持ち掛けるのが恥ずかしくて言えない。
「はぁ……」
「おっ、珍しく溜息をついているじゃねーの」
「ん?任務から帰ってきたのか、オルカ」
「まぁな。今さっき帰ってきたんだが、腹が減ってな。食堂に来たら、お前が恋する乙女みたいな状態だもんだから……なにかあったのか?」
興味ありげに聞いてくるこの男は、精進の戦士オルカ。
シャチ族をまとめている族長でありながら、七戦士としてアトランティスの国境を守っている。
「何かあったというか…。どうやって相手に交尾を持ち掛けようか分からなくてな」
「あははは!なんだよ、凄い悩んでいる表情していたから何かと思えば、そういうことかよ!真面目なお前から、そんな悩みが出るなんてな」
愉快そうに笑うオルカだが、俺の悩みに対して答えてくれた。
「そういう時は、寝る前とかに誘えばいいんだよ。後ろから抱きしめて、甘い言葉を囁けばいちころだ」
「相変わらずお前ってやつは…」
番ができてからはやらなくなったらしいが、この男はかなりの女好きだ。それもあって、女が喜びそうなことを軽く言えるのがちょっと残念な部分なのだが……。この際だ、オルカの提案に乗っても良いのかもしれない。
「お前の案、試しにやってみるか」
「おっ、やれ!やれ!報告待っているぞ~」
俺はアオと交尾をするために、準備することにした。
俺はオルカの案を実行するため家に帰ろうと廊下を歩いていたら、クレイが俺を呼び止めた。
「こんなところにいたのね」
「なにか用か?」
「今さっき、オーシャンバトルの対戦相手が決まってね。丁度皆に報告していたところなの」
クレイはそう言いながら、俺に一枚の紙を渡してきた。
「早いな。もう決まったのか、対戦相手」
クレイから渡された紙を受け取り、それに目を通すと、そこには師匠の名前があった。
「まさか第一回戦で俺たちと師匠か……」
「あの男のことだから、アトランティスの要とも言われているあなたを潰したいのかも」
「あの人ならありえるな」
師匠とアオは親子だ。もしできるなら二人を戦わせたくないのが本音だ。
でも、アトランティスを守るためなら戦わないといけない。
それに、アオも師匠に会いたい気持ちがあるのは確かだ。
「それと、あの子とは
「……」
クレイの言葉に思わず嫌悪な表情をしてしまった。
「なによ、その表情は。先輩が心配して聞いているのだから、そんな表情はしないの」
「するしないも、お前が変なことしなければいいだけのこと」
「あら、バレてた」
俺の言葉にクレイは瞠目し、隠し持っていた媚薬入りの注射器を出してきた。
「別に良いのよ?私の媚薬を使っても」
「いや、お前の媚薬は
「そう、つまんないわね」
不満そうな様子を見せるクレイ。俺からしたらこの女の媚薬を使うくらいなら、オルカの案の方がまだアオを傷つけずに済む。
「アオが家で待っているから、俺はそろそろ行く」
「そう。アオさんによろしくね~」
クレイは嬉しそうに俺に軽く手を振って、俺はその場を後にした。
そういえばアオの奴、なんで先に帰ったんだ?魚の研究をするなら、神殿で調べるのがいいだろうに。
「ただいま」
家の玄関を開け、一言声を掛ければ、リビングの方からアオの声が聞こえてきた。
「セラ!おかえり」
俺はそのままリビングの方に行くと、彼女は机に魔石や布のハギレなどを広げて、何か作業をしていた。
「何をしているんだ?」
「あっ、いや。か、片付けるね!」
アオは慌てて机の上を片付け始め、作業道具や材料などを自室に持っていった。
何故、そんなに慌てるんだ?別に慌てることもないだろうに……。彼女のそんな様子を見て俺は不思議に思うものの、気にすることはなかった。
「そういえば、オーシャンバトルの対戦相手が決まったぞ」
「え?もう決まったの?」
クレイから渡された対戦相手の紙を、アオに渡すと彼女はそれを受け取った。
「あぁ、俺も早いとは思ったが……ポセイドン様と向こうはさっさと終わらせたいらしい」
「私たちの対戦相手、やっぱりお父さんなんだね」
アオは紙に書かれた師匠の名前を見て愁色な顔をし、手に持った紙を机に置いた。
「もし、辛いなら…戦うのをやめるか?」
俺の問いにアオは戸惑うものの、一呼吸し俺の方を真っすぐと見つめた。
「やめないよ。確かに、お父さんと戦うのは辛いよ。でもね、ここで戦わず逃げ出したら、私は一生後悔する」
「……しかし、師匠となれば生きて帰れる保証は……」
「だから、なんで君は私たちが死ぬ前提で話す?私と君はオーシャンバトルに向けて、お互いを信じて今日まで修行をしてきたんだ。だから、私と君は絶対に生きて帰る。もちろんお父さんも連れてきて、事情を聞き出す!」
アオの真剣な眼差しは俺を話すことなく、ただ一点を見つめていた。
あぁ、そうだった……今まで、彼女は絶対に諦めたり逃げ出すことなんてしなかった。
「そこまで言われたら、心配なんて要らないな」
「もちろん。それに、セラがこんな素敵な家を建てたんだ。お父さんにも見てもらわないとね」
「あ~それはちょっと……」
アオは父親としての師匠しか見ていないため、弟子から見た師匠は何においても厳しくて、何回も半殺しにされてきた。
そんな師匠が、俺が建てたこの家を見たらどう思うのだろうか?
俺の技術的にも不安と恐怖でしかないが、今考えてもしょうがない。
師匠のことを考えていたら、アオが声を掛けた。
「あ、セラにあげたいものがあるんだよ」
「あげたいもの?」
アオは何か取りに自室へ行き、小さな何かを手に持って戻ってきた。
「はい、これ」
アオから渡されたのは、手のひらサイズの小さな布袋だった。
「これは?」
「お守り!この世界のお守りはよく分からなかったから、こっちの世界のお守りを作ったんだ。中には綺麗な魔石が入っているよ」
彼女の手作りお守りは可愛らしく、お守りの真ん中にはこっちの文字で「必勝」と刺繍されていた。
俺は嬉しさのあまり、彼女を優しく抱きしめた。
「セ、セラ!?」
「ありがとう……アオ」
これは絶対に勝たないといけないな。
師匠に勝つ為にも、今夜絶対に
「ア、アオ……」
「なに?」
俺に呼ばれて、彼女は顔を見上げる。
海のような青く綺麗な瞳、童顔もあるさいか彼女の可愛い差が増し直視できない。
恥ずかしさと己の欲が沸々と込み上げてくる。
「そ、その……えっと……クレイの奴が言ってたんだ。同調率上げるには愛が必要だって!その、あ、愛を手っ取り早く上げるには……」
「手っ取り早く上げるには?」
ほら!言うんだ俺、ここまで来てなんで出てこないんだよ。
「その、えっと……お前と交尾がしたい」
俺の言葉にアオは一瞬固まるものの、俺の言葉をすぐに理解した。
「交尾……あー!なるほど、そういうこと!もちろんいいよ」
「…は?」
あっさりとした返答に、俺は思わず間抜けな返事をしてしまった。
「ほら、
「ちょ、ちょまっ」
アオは俺の手を強く引き、俺は彼女に寝室へ連れて行かれた。