シーラカンスの俺が人間と世界を救う話   作:ニコール

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オーシャンバトル

あの夜から一週間後、俺とアオはついにこの日を迎えた。千年ぶりのオーシャンバトルが開催され、アトランティスの国民たちはお祭り騒ぎだ。しかし、そんな国民たちはオーシャンバトルの裏で、アトランティスの未来を掛けた戦いがあることを知らない。

 

「凄い人だぁ!」

「はぐれるなよ」

「はは!私ははぐれないよ」

 

アオは得意げに答えるが、この前の買い出しで迷子になったことを俺は知っている。

 

「この前迷子になった奴が何を…」

「あ、アレは迷子じゃない!本屋さんで…その……」

「まぁいい、とりあえず会場に行くぞ。皆が待ってる」

 

俺はアオの手を引き、会場へ向かった。会場に近づくにつれて人混みが増え、人々の会話が耳に入ってくる。

 

「ちょっと見てよ!あれ!セラ様よ!」

「まさしく、才色兼備って言葉が似合うくらい、カッコよく美しく、強く逞しい…!」

 

時期のせいもあり、鰭人にとってこういう祭事は番探しにはうってつけの場所だ。

 

「まさかあのセラ様が…あんな地味な女と番だなんて」

「ぶっさいくだしー」

 

アオに対する妬みの会話が耳に入ってくる。

こんなにも不愉快で、今すぐでも問い詰めたいところだが、そんなことをすればアオが危険な目に遭いかねない。

俺はアオに声を掛けようとするが、彼女の表情を見て一瞬言葉を失ってしまった。

 

「……」

 

こんな彼女の表情を見るのは初めてで、まるで心を殺しているような静かな表情で、隣にいるはずなのに存在感が無くなっていた。

 

「お、おい、アオ」

「……ん?」

 

俺の呼びかけにより、いつもの彼女の表情に戻った。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫だよ!」

 

彼女の言葉に少し引っかかるが、無理に聞くのも野暮だ。

それに彼女なら話してくれるだろう。

そう内心思いながら、俺はアオと共に会場に向かった。

 

一方、会場では――。

 

「セラの奴、遅いな。まさか、あいつアオとヤッ……」

 

セイルが言いかけたその時、セイルの頭に拳が入り、ゴンッ!と音が鳴った。

 

「痛てぇ!なんで殴るんだよ!」

「アンタがデリカシーのない発言をしたからよ」

 

セイルの番、冲クルミ(オキクルミ)は呆れた様子を浮かべた。そんなクルミの発言に同意するかのように、イッカクが入ってきた。

 

「そうだぞ、セイル。クルミの言う通りだ。お前は静かに待つことを覚えろ」

「そんな師匠、俺を養豚所の豚を見るような目で見ないでくださいよ」

 

そんなやり取りの声が待合室から聞こえ、俺たちは待合室に入った。

 

「そんなこと考えるのはお前くらいだぞ、セイル」

「セラ!一週間ぶりに会ったと思えば、吹っ切れた表情してるな」

「まぁな」

 

セイルは俺の様子を察し、肩に手を置いた。

 

「お前のその様子を見る限り、話したんだな」

「どこかの誰かが、あんなに言えば話すしかないだろう?」

「はっ!もっと褒めてくれ!」

 

セイルは満足げな表情を浮かべ、話を続けた。

 

「俺も、クルミに話したよ」

「セイル、お前は話さなくても……」

「俺にあんなことを言ったのに、話さないのは筋が通らないだろ」

 

相変わらずセイルは真っすぐな奴だ。その性格のおかげで、俺は助けられた。今回のこともそうだ。セイルの言葉が無かったら、俺はアオに話すことは無かっただろう。

 

「セイル、ありがとう」

 

お礼を伝えると、セイルは少し恥ずかしそうな様子を見せたが、それを隠すかのように話題を変えた。

 

「アオの奴、相変わらずだな」

 

アオの方に視線を向けると、彼女は相変わらず学者らしさを発揮していた。

 

「おー!すごー!全員揃ってる!イッカク、モンハナシャコ、シャチ、タチウオ、ハダカカメガイ、バショウカジキ、シーラカンス…やべぇ…」

 

アオは瞳を輝かせて、子どもみたいに興奮していた。

 

「おい、セラ、お前の番は、あれで大丈夫か?」

 

イッカクがアオの様子を見て、呆れながら俺に話しかけてきた。

 

「大丈夫だ。あいつは海洋生物学者だからな。俺たちが集まってるのを見て興奮してるんだろ」

「そういうことじゃない」

 

イッカクは俺の返答に両眉を上げて答えた。

元々師匠の部下だったこともあり、アオのあの様子を見たら懸念するのも無理はない。

 

「アンタが何を言いたいのかは分かる」

「それなら、棄権するべきだ」

 

イッカクの言葉はもっともだ。アオを思うなら、棄権するべきなのだろう。

しかし、覚悟を決めた俺とアオにはそんな選択肢はない。

 

「それでも戦う」

「そうか…。あと、お前に聞きたい。あの娘は本当にあの男の娘なのか?」

 

イッカクがアオのことを知っているということは、クレイの奴から彼女のことを聞いたのだろう。

 

「そうだ、アオは師匠の娘だ」

「…そうか」

 

イッカクは俺よりも先に部下として師匠と共に戦ってきた者だ。彼女は禁忌を犯そうとした師匠を止められなかったことに強い自戒の念を持っており、自ら自戒の戦士になった。だからこそ、師匠の娘が目の前にいるのは複雑なのだろう。

 

そんなことをアオが知ることはなく、彼女は皆と談笑している。

 

「でね、セラと一緒にさー」

 

そろそろ時間だと思い、彼女を呼んだ。

 

「アオ、そろそろ時間だ」

「分かった!」

 

アオが俺のところに戻ってくると、俺は彼女の手を引いて入場口へ向かった。隣で一緒に歩いているアオは少し緊張した様子を浮かべているが、目線を真っ直ぐに見つめて歩き続ける。

 

「アオ、大丈夫か?」

「大丈夫」

「セラは?」

「大丈夫だ」

 

入場口手前で、俺とアオは立ち止まり、向かい合うようにして彼女の両手を握った。

 

「アオ、覚悟は出来たか?」

「もちろん」

「その意気やよし…行くぞ」

 

俺とアオは深呼吸し、互いの魔力を供給し始めると、魔力に反応して彼女が青く輝きだした。そして、俺は彼女と合体するために詠唱した。

 

「我、汝と契約を結びし者なり、我が身と汝の身に宿りし魔力、其れは我が唯一の命の煌きなり、森羅万象、幾億の命、幾億の運命、幾億に広がるは無限の海。双璧の名をもとに生命の根源の扉を開く者として命ずる…」

 

俺の身体とアオの身体が魔力の波に飲まれ、意識と身体が重なっていった。アオの姿にはシーラカンス特有の耳鰭と尾鰭があり、彼女と俺の魔力に反応して鱗が美しく輝いている。

 

「よし!行くぞ!」

 

俺たちは拳を握りしめ、そのまま入場した。

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