CAELIFERA   作:MATTSUN

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2.混乱

目が覚める…眩しい。頭に鈍い痛みが走る。誰かが顔を覗き込んで来る。

 

「湊さん!!分かりますか!?」

「吉…村?」

 

腕にはチューブ?点滴?ここは…病院?

 

「勘弁してくださいよ!!急性アルコール中毒なんて!!大学生じゃないんすから」

 

吉村が笑う。

 

「…は?俺が?」

「そうっすよ!!しかも俺が見つけたんすよ!!湊さん道端寝てんだもん」

「痛っつ…俺が?どこでだ?」

「どこって…いつも湊さんが通る裏路地じゃないですか!」

「お前…何で?」

「いや、昨日思い詰めた顔で上がったから心配になって」

 

思い詰めた?俺は思い詰めた顔なんかしていない。どちらかと言えば呆れた顔だ。いや、違う。吉村に問うた「何で?」はそこじゃない。

 

「お前…何で俺があの道を通ることを知っている?」

あの道は1人になりたい時に通る道。誰かを連れて通ったことはない。それに…

 

「今お前は「いつも俺があそこを通ると」言ったな?いつも通らないんだよ!あそこはたまにしか…」

 

吉村の顔は笑っているが、目が笑っていない。

湊を違和感が襲う。

 

「やだなぁ、湊さん!落ち着いてくださいよ!何怒ってんすか」

「それにお前…それは何だ?」

 

湊は吉村の右腕を指差す。昨日まではなかったギプス。

 

「いや、これは…俺も転んじゃって昨日!」

 

湊は吉村の目を見ながら言った。

「お前、やられたんじゃないのか?バイクに乗った男に。」

 

吉村の顔から表情が消えた。

いや、こいつは吉村ではない。

「吉村を着た何か」だ。

刑事の直感が冴える。

 

「お前は誰だ、吉村をどこへやった。」

「…死んださ」

 

変な声だ。

ノイズを纏ったような…ガサガサとした、それなのに妙にはっきり聞こえる声。

 

「君の着眼点は見事だよ。私も自身の毛までは気が回らなかった。ここでお前も殺してしまいたいが…生憎まだ回復に時間がかかる。あやつめ、派手にやってくれるわ。今日は警告に留めるとしよう。いいか、刑事さん…世の中には知らなくていいことがある。あまり首を突っ込むなよ。死にたくなければな」

 

突如湊を激しい頭痛が襲う。

吉村を着た何かの薄気味悪い笑みを見ながら、また意識が遠のく…

 

…ブー…ブッ、ブッ、ブー…ブッブッ

 

スマートフォンの振動で目が覚める。

 

やはり病院のベッドの上…夢?一体どこからが夢だ?

画面には佐々木の名前。

出ようとした所で切れる。

 

ロック画面を見てぎょっとする。

「不在着信 44件」

…その殆どが佐々木、所々、金本捜査一課長の名前もある。

胸騒ぎを抑えながら、佐々木に折り返す。

佐々木はすぐに出た。

 

「湊か!どこにいるんだ!?昨日から何度もかけたんだぞ!!」

「それが…病院みたいだ…」

「病院…?それより、おい!戻れるか!?例の事件だよ。4人目の犠牲者が出た。」

 

湊の背中を冷や汗がつたう。佐々木は続けた。

 

「落ち着いて聞けよ。犠牲者は…吉村だ。」 

 

湊は点滴を引き抜き服を着替えた。

激しく脈打つ鼓動に合わせて、頭にガンガンと痛みが響く。しかしそれも構わず病室を飛び出した。

 

佐々木に指示された現場に着くと規制線の向こうにブルーシートがあった。

「おう…来たか」

佐々木が手を上げる。

ブルーシートをはぐると、そこには無惨な姿の吉村がいた。

「酷いな…何だってこんな…」

佐々木が口元を抑える。

湊は込み上げるものを飲み込み、手を合わせた後佐々木に問う。

 

「遺体の近くに茶色い毛はなかったか?」

 

佐々木は湊の言葉に顔をしかめながらも、メモをめくって答える。

 

「ああ、あったよ。お前よく知ってたな。鑑識が回収してる。猫か犬の毛だろうって話してたが…」

「イタチだ。カマイタチ…と言えばいいのかもしれない。」

 

湊の声には自嘲が混じっていた。だが、もう現実逃避はできない。

目の前には、かつて自分を慕ってくれた部下の変わり果てた姿。

 

佐々木が怪訝な表情で問い返す。

 

「おい湊、お前何か知ってるのか?カマイタチって…それ、なんの冗談だよ。」

 

湊は目を閉じたまま答えた。

 

「冗談なら…どれだけよかったか。」

 

——その時、風が吹いた。

ビルの隙間から、冷たく、鋭い風。

そして、その風に乗って、どこからともなく、あのノイズがかった笑い声が聞こえた気がした。

 

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