どれくらい走っただろうか…
何時間も走った気もするが、あの施設から抜け出したのがついさっきのようにも思う。
朝日がさす。街が見える。
標識を確認した。足利市ー
県道に出た章の前をタンクローリーが走る。
飲料を運ぶステンレス製の銀色のタンク。
その背面に映った自分の姿を見て、章は目を疑った。
慌ててコンビニの駐車場へ入る。止めてある車の窓を見る。体を確認する。あの日、あの研究棟が爆発した日の服装…灰色のパーカーにジーンズ、黒のMA-1。顔を覆うのは仮面ではなくフルフェイスのヘルメット。
章はそれを脱ぎ、店内のトイレに駆け込んだ。鏡を見る。自分の顔だ。疲れてはいるが…「人間の顔」だ。
顔を洗う…冷たい。頬をつねる…痛い。
夢ではない。いや、それはそうだ。自分は今、大学のある文京区から100キロ以上も離れた足利市にいる。何より、コンビニのガラス越しに見える、鈍く光るバイク。そう、ライトニングが現実であることを示している。
コンビニの前に腰掛けてライトニングを眺める。
「何がどうなってんだよ…」
力なく呟いた章の後ろから女の声がした。
「知りたい?」
ハッとして振り返ると、懐かしい顔があった。
「麻生…先輩?」
「久しぶりだね、飛山君」
「なぜここに…?」
麻生夏樹ー葵川研究室の元研究員、章の3学年上にあたる。大学院卒業後も大学に残り研究を続け、葵川の優秀な右腕だったが、1年前に結婚を理由に退職していた。
しかしながら、その退職の仕方が不自然だった。真面目で研究熱心な彼女が、ある日突然連絡もなしに休んだ。ざわつく研究室に葵川の口から「彼女は退職する。まあ…寿退社だ。」と伝えられた。
挨拶もなく突然退職し、その後誰も連絡が取れなくなったことに、疑問を持つ者が多かったのは言うまでもないが…皆次第に彼女がいないことに慣れていった。
「何してたんですか!?結婚を理由に退職されてから、連絡もつかないで…」
「へぇ…そういうことにされてたんだ?下手な嘘ね。」
混乱なのか、安堵なのか…章の目から涙が溢れる。
「…教えてください。何もかも。」
「ここじゃなんだから、乗って。」
章は夏樹の車に乗る。
「博士が極秘で進めていた計画…知っているよね?」
「はい、B.O.R.N計画。」
「私はそれの専門研究施設に行くよう指示されたの。出向という程で。」
「それじゃあ…」
「そう、騙されていた。あの計画はまだ立ち上げ間もなく、人手が足りないと聞かされていたわ…でもいざ施設に入るとすぐその異常性に気づいた。もうほぼ完成していたの。」
章は言葉を失うー
「博士は人類の進化と語ったわ、でもそれは違う。作っているのは人間と他の生物、機械を組みわせた兵器よ」
「誰がそんな…」
「さぁ…私もそこまでは分からない。ただね飛山君、なぜ国立大の東城大の葵川研究室があそこまで最新鋭の機器を揃え、高度な研究をできたと思う?その資金はどこから?」
「まさか!!」
「そう、この国にはいるの。秘密裏に研究を重ね、日本を根っこからひっくり返そうとしている人間が。」
「じゃあ、俺はつまり…その兵器?」
「あなたは【MASKED RIDERシステム】の初号機、通称CAELIFERA(ケリフラ)。ケリフラはバッタの学名ね。バッタの脚力と跳躍力、それに専用バイクのライトニングを組み合わせ戦う、陸上兵士型兵器よ」
「でも今は人間…」
「そうね、君の腹部にはベルト型の変身装置【Tornado】が収納されている。君の感情が昂り、体が人間から兵器へ変貌を始めると、と体の外に現れあなたの衣服と高機能スーツを変換するわ。感情が落ち着き、再び人間に戻り始めると着ているものも元に戻る。コツを掴めば、自分で変身のコントロールもできるわ。」
「そんなこと可能なんですか?」
「現に変身したでしょ?機械的な仕組みは私の専門外。そっちはそっちで詳しい人間が作ったみたいね。」
「先輩…俺はこれからどうすれば…」
「私が知る限りこの近くにもう一つ研究拠点があるわ。どうする?探りにいく?」
分からない。受け入れられない。悲しい。
なんだこれは。脳が丸ごとぐるぐる回転するようだ。自分の体が兵器?夢なら醒めて欲しい。
…元に戻る手はないのか?いや…そうだ、じっとしていても仕方ない。何か情報があるなら欲しい。
章は顔を上げた。
「行きましょう。」