終わってる世界で都合の良いエネルギーがあるなら好きに使っていいじゃない   作:AmanatuTaruTaru

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君が望むならそれは

 

 

ホロウ災害

 

それはこの世界に文明を剥ぎ取り、命を奪い、尊厳を穢す異常なる空間から起きる災厄

発生の予期は不可能

食い止めるのも不可能

そして災厄に巻き込まれた力無き者が生き残るのもまた…不可能

 

いったいいつからそれが現れるようになったかもはや定かではない

ただ一つ言えるのは災厄であっても"現象"でしかなく、星に生きる命は終焉を迎えるものだと感じさせる無情なものであった

 

そして今、一つの都市にホロウは産まれた

きらびやかな街並みも、自然豊かな通りも、暖かな昼の時間には子供たちが遊んでいた公園も、歴史ある建造物も

全てが等しく炎に包まれ、血で彩られていく

 

動かなくなった親を揺する子供の泣き声が聞こえる

血に濡れた子どもを抱き抱えて呆然とする母親の姿がある

人から化け物に転じるホラー映画のワンシーンのような光景が町中に存在している

 

そのような地獄に等しい中でまたひとつの悲劇が起きようとしてる

古くから東の国より伝わるサムライの家系を持つ旧家の屋敷

今はあまり見ることのない木造式の建築物はそれ故に雅さを感じさせ、旧家に相応しき威厳を保ち続けていた

それが今やどうだろう

ひとたびの災害が起きれば古くも新しくも等しく炎に包まれ、人は無惨に死んでゆく

 

屋敷の奥には一つの命を終えようとしている

否、終わらせようとしているのだ

 

ホロウ災害がただ命を奪うだけならそれで終わっただろう

しかし真なる地獄とはホロウへの適正のない者を怪物へと変えてしまう尊厳の凌辱こそが本質

 

見るがいい。己の命運を悟った母親が、己の子に刃を握らせ突き刺せようとする瞬間を

これほどの悲劇がどれほど溢れているのか。これほどの悲劇がありふれた地獄があっていいものなのか

 

子は涙を流す。母をこの手で介錯しなければ目の前で母は怪物になってしまうだろう現実に

母は子に愛を伝える。怪物となり世に災いを撒く前にせめて子が地獄のような世界でも生き抜けるように

 

もはや猶予はない

母も握る子の刃は、その命を終わらせるべく突き付けられ───

 

「いっでぇぇぇええ!!とっさに握ったけど刃物は手で止めるもんじゃねーわ!!」

 

胸元に届く瞬間に、何処ともしれない第三者の手によって止められた

 

「はっ…?あ、あなた、いったい何処から!」

 

「手から血が止まらねぇ…いやそんなことよりも…侵蝕度合いは7割程度か…」

 

「うっ!」

 

「ははうえ!?」

 

突如として現れた謎の男が介錯の瞬間を止めた挙句、その男は母の首に注射針のようなものを打ち込む

子からすれば混乱する出来事であり、気づけば流した涙も引っ込んでいるほどだ

 

「こ、れは…?」

 

「完治とはまでは行かんがエーテルの侵蝕を吸収した。後は脱出した後に適切な治療を受ければ問題はないだろう。……EBR-1!」

 

『ここに』

 

「彼女らと残りの救助者を連れてホロウからの脱出をしろ。EBR-2とEBR-3も護衛として連れていけ」

 

『了解……隊長が運ばないのですか?』

 

「ダメだ。どう見ても人妻なのに私が触れようものなら無駄な訴訟リスクを抱え込む。だからお前が良い。お前で良い」

 

「むらさきの…きかいへい…?」

 

いったい何時からそこにいたのか

男の呼びかけと同時に姿を現したのは紫を基調とする巨大なロボットであった

 

『それでは…失礼します』

 

「ははうえ…!」

 

『ご安心ください。あなたのお母様は隊長のエーテル緩和剤と吸収処置により安定しています。30分以内のホロウの脱出を行えば命の心配はないでしょう』

 

母子がロボットに運ばれる形となるが、子は最後まで母の身を案じていた

意識こそ失っているが呼吸の乱れは正常となり、冷たい刃ではなく己の掌で頬を触れればまだ暖かな命を宿している事に子は安堵する

炎に包まれ、崩れ行く我が家を抜け出せばかつて暮らしていた街もまた地獄となっていることを目にした

 

子には夢があったのだ

誇りある祖先のように英雄となり、悪を倒して、誰もが光の中に生きていけるようなヒーローになる事を

 

だが、目の前のこれはなんだ

討つべき悪は何処にある?

救うべき命は手の届かない場所にある

 

『これより現時点でのホロウ脱出キャロットの生成開始……プロセス完了。それはご武運を』

 

「ああ。脱出して救助者を外の軍に渡したらお前も再突入をしろよ。この規模となると先は長いからな」

 

人型のロボットが突如として変形を始め、それは車の形状となると母子を乗せて発進する

機械兵が別の形状に変形するとなればいつもの子であれば興奮してたかもしれないが、今は到底そのような気分になれなかった

自身の夢が一切及ばない地獄のような現実が、理想という泡沫の夢を細切れにされていくような気持ちであった

 

車の窓を覗けば何処も災厄によって火は周り、人は倒れ、怪物たちが我が物のように蠢いている

自身の命が、母が助かった事だけでも運が良かったのだろう

だが、子にとってその誰かを助ける"運"そのものになりたかったのだ

 

『……エーテルの急速な増大の反応を確認。他の先行部隊から支援を向けますか?』

 

"「こちらも確認した。問題ない、お前たちは脱出を優先しろ」"

 

ホロウ災害はその発生原因こそ不明であるものの、未知のエネルギー"エーテル"の活性化こそがホロウ足らしめているのは分かっている

そうした活性化が進めば物質の侵蝕が始まり、適応されなかった生物や機械は"異化"をすることで怪物エーテリアスに変貌する

そして一つの町を呑み込むほどの超巨大ホロウであればそれだけエーテルの活性化は相応に跳ね上がり、怪物の強さもまた変わっていく

人から変貌したエーテリアスは精々同じ人型の怪物でしかならないというのに、町一つ分のホロウであればその人をも呑み込む大きさの怪物が誕生するのだ

 

子は見た。見てしまった

崩れる大きな建物を這い回るように蠢く怪物の大きさは果たして子の何百倍、何千倍の大きさか

感じたのは恐怖、そして理想の夢が今度こそ砕けてしまうような衝撃

あんなものが、人の手で倒せるのか

しかし子の夢は人知れずに守られる。薄暗く、炎に包まれた地獄の世を照らすとばかりの光の巨人が降り立ったのだ

 

怪物を大きく上回る体格

赤の線が入った銀の肉体は今も輝きを放ち、微笑みを浮かべたような穏やかな顔をしている

その巨人を前にして、畏れを持つかのように怪物は襲い掛かるが原始的なパンチやキックで持っての応戦で持っていともたやすく返り討ちにされる

 

『シェアッ!』

 

巨人は発せられたその声は、ホロウに呑まれた町中に響き渡る

断じてそれはエーテリアスに属する怪物ではない

あれが、あれこそが子が夢を見たヒーローの姿そのものだった

 

巨人と怪物の戦いを見届けるよりも先にホロウの脱出が成功し、その結末は伺い知れない

だが、子は確かに見たのだ

世が地獄となり、理不尽が蔓延るどうしようもない暗闇の中でも光を見た

 

そして子は思った

私も、あの光となりたいと

 

 

 

 

 

 

 

「ホロウの活性化止まりません!」

「救助隊はまだか!手遅れになるぞ!!」

「ホロウ「アルゴス」、前例のない拡張速度で尚も広まっています!」

「くそ!あの〇〇〇〇博士が他のホロウでいない時に限って!!」

「活性が早すぎる!このまま式興の塔も呑まれたらゼンレス限界になりかねない!」

「大型ホロウが増えるのか!?冗談は辞めてほしいぞ!!」

 

 

 

「それで?執行官殿はどうケリを付けるつもりなんです?」

 

「あの時はTOPSの手前、五分と言ったが…10秒もあれば十分だ」

 

「雅執行官、くれぐれも暴れすぎには注意を…むしろこの後の救助の方が大事となりますので」

 

「ああ…では行ってくる」

 

 

 

ホロウという災厄はいつだって唐突にやってくる

発生の予期は不可能

食い止めるのも不可能

そして災厄に巻き込まれた力無き者が生き残るのもまた…不可能

 

かつての多くの人が住んでいた街は壊滅し、それでも新しい住処を切り開いて人は文明を築き上げていく

新エリー都と名付けられた街に人は住処を移してもう少しで二桁の年数が経とうとしている

 

失われた命は戻ってこない

奪われた尊厳はそのままだ

 

そして今もまた、その新たな都に災厄が訪れようとした

逸れた犬は飼い主を探して吠えている

迫りくる脅威に母親は子を抱えて震えている

人々はたった一つの命を守るために逃げ惑うしかない

 

かつての自分もそうだった

英雄となり、悪を討ち、人々に安息という光を与えるヒーローを夢見ながら何もできなかった

 

だが、それは過去の話だ

 

ホロウの活性化によって再び町を呑み込まんと大型に成長し続ける姿はさながら地上に出現したブラックホール

様々な色のノイズが帯びた黒塗りの球体は何度見ても現実味を感じるものではなく、生理的な嫌悪感を出さずにいられない

そのホロウの遥か上空を飛ぶ一台のヘリから、一人の少女が身を投じた

 

手に握るのは一族から受け継いだ人類の刃

かつては人々を護るために作られた刀は、歴代の使い手たちの様々な執念と怨念すらも染み込まれている

刀に眠る狂気はいつしか人々を護る理念を忘れ、精神を侵して修羅へと誘う妖刀へと成り果てた

しかしこれから少女が斬るのは人ではない。悪でもない

目指す道はこの世の不条理を切り開いて光の道を照らす真なる天下無双

 

そしてもう片方の手に握られのは、なりたいと願った光そのもの

今の世界にとってあれほど厄介な人間はいないだろうと常にお騒がせな博士の作り出した対ホロウの究極決戦兵器

新エリー都に存在する多くの科学者、技術者が解析しようにも何も分からない未知の原理としか言いようのないそれはエーテルの活性化したホロウのみで使う事ができる

そしてそれを使える資格を持つのもまた、少女を含んで極僅かという貴重な代物だ

 

少女にとってこの二つはただの道具ではない

偉大なる先祖、英雄たちが紡いできた歴史そのものであった

まだ何もできなかった子の夢を護り、そしてこれから少女自身が人々を護るための光だった

 

大型ホロウになるまで残り数分にも満たないホロウ「アルゴス」に少女は空から侵入開始

目に広がるのは出現して一時間にも満たない間に荒れ果て、炎に包まれ、今も尚も命と尊厳が失われる地獄の空間

 

少女は手に握るカプセルを掲げる

これからは私が人々の光とならんという意思表示の元に

 

そして、ホロウ「アルゴス」の内部に光が放たれた

逃げ遅れ、誰もが倒れ伏して死の恐怖に震える中で───

 

『…デュワ!』

 

光の巨人は希望と共に現れる───

 

 

 

 




報告

新エリー都〇〇区から発生したホロウを確認
ホロウは前例のない急速な拡大を行い、30分で式興の塔7号塔を取り込むと同時にゼンレス限界に到達を予測
大型ホロウへの成長の見込みを立てられる
活性の阻止と状況の鎮静化のために塔の爆破を行おうとするが、星見雅の案と希望により、単独でのホロウ強襲作戦を決行
内部には異常共生体エーテリアス「レルナ」は確認されたが本人の言と月城柳、浅羽悠真の両名からの証言から10秒で討滅を完了
「アルゴス」は沈静化、現在ではホロウの縮小傾向とのため、本報告から〇〇日で消滅の予測がされている


異常共生体エーテリアス「レルナ」
ホロウ「アルガス」の核となった超大型エーテリアス
核が身体と分離しており、攪乱用のダミーコアの大量生産能力を持っている
早期討伐の難しさから上述の七号塔の爆破の解決を成されようとしていたが星見雅の手によって討滅
光の巨人と化した星見雅は大型の妖刀で用いて10秒弱で全てのコアと肉体を消滅まで切り刻んだ
この功績を持って星見雅は歴代最年少「虚狩り」の称号授与とされた
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