元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!! 作:あばなたらたやた
夕暮れの街角で、私はベンチに腰を下ろしていた。空は薄オレンジに染まり、棒付きキャンディーをくわえたまま、スマホの画面を指で滑らせている。
行き交う人々のざわめきと、遠くのクラクションが耳に溶け込んでいく。キヴォトスらしい、いつもの喧騒だ。時間ぴったりに、軽やかな足音が近づいてきた。
見上げると、やっぱりウタハだった。
彼女は私を見つけるなり、柔らかい笑みを浮かべて声をかけてくる。
「やぁ、カノ。久しぶり」
私はキャンディーを口から外して、ちらりと彼女を見上げた。少しだけ目つきが鋭くなった自分に気付いて、すぐに緩める。
「久しぶり、ウタハ。調子はどうかな?」
彼女は肩をすくめながら、ベンチの背もたれに手を置いた。
「まぁまぁかな。良くも悪くもない。けど楽しい日々を送れているよ」
「そう。それは良いことだね」
「カノはどうだい?」
「うーん、私も普通かな。山あり谷ありかな。嫌なことはいっぱいあるし、嬉しいこともいっぱいある」
キャンディーをもう一度くわえて、遠くの空を見やった。自分でも少し達観したような響きになってしまった気がする。ウタハは小さく笑う。
「お互い普通か。らしいと言えばらしいね。それで、呼び出した理由は? 何かあるんだろう?」
私は唇の端を少し上げて、スマホをポケットにしまった。そして彼女をまっすぐ見つめた。
「会いたかった。では駄目かい?」
「駄目ではないけど意外だ。カノはそういうの縁がないと思っていた」
「私だって人並みの感性はあるさ」
「それはそれとして、ACが完成してね」
ウタハの声に急に好奇心が滲んだ。身を乗り出してくる彼女が、少し懐かしくて、ちょっとだけ胸が疼いた。
「3系のクレスト強襲型。再現には結構気を使ったよ。ウタハと付き合っていた頃からコツコツ作って、やっと完成した」
「大した執念だ。ロマンがあるね」
「ロマンか……嫌いな言葉だ」
「君は昔からロマンよりもリアルを優先していたね」
ウタハは懐かしそうに笑って立ち上がった。
「それで、見せてくれるんだろう? 何処にあるんだい?」
「アジトに案内するよ」
「アジト……! 良いね、秘密基地はロマンがある」
私たちは笑い合いながら、夕暮れの街を並んで歩き始めた。背中に、なんだか妙に誇らしい気持ちが漂っているのを感じていた。
歩いていると、突然地響きのような衝撃が街を揺らした。遠くのビル群の間で赤黒い炎が空を裂き、爆音が耳を叩く。黒煙が渦を巻き、ガラスの破片が夕陽に反射しながら降ってくる。
人々が悲鳴を上げて逃げ惑う中、私は立ち止まって爆発の方向を見やった。
「派手にやってるね」
キャンディーを外して、冷静に呟いた。ウタハは肩をすくめる。
「元気だ」
彼女の軽口には微かな緊張が混じっていた。キヴォトスでは爆発なんて日常だけど、私はすぐに気付いた。
あの位置は――。
「ミレニアムの発電システムの近く……このままでは大規模停電が起きてしまうね」
「それは良くないな。ぜひ、完成したばかりのACの力を見せてもらおうか」
私はキャンディーを噛み砕いて、ウタハを一瞥した。
「良いよ。あの程度ならばすぐに始末できる」
私たちは即座に走り出した。
秘密基地のシャッターが軋みながら開く。薄暗い内部に足音が響いた。中央に鎮座しているのは、私が作り上げたクレスト強襲型。
重厚な装甲、鋭角的なシルエット。眠る獣みたいに静かで、でもどこか私自身を映している気がした。
私はコックピットに飛び乗り、スイッチを入れる。ディスプレイが青白く光り、機体が低く唸り始めた。ウタハはオペレーター席に滑り込んで、ヘッドセットを装着する。
「システム、異常なし。エネルギー供給、安定。カノ、準備はいい?」
ハッチを閉めて、バイザーを下ろした。
「元鞘カノ、出撃する」
夜空を赤と黒が汚している広場に、ブースターの青白い炎を噴きながら降り立った。
地面が震えて、足元に亀裂が走る。対峙するのは量産型の破壊ロボット。
10機以上。四脚で、赤い単眼が私を捉えている。無機質で、ただ壊すことしか知らない連中だ。
「ウタハ、敵のスペックは?」
「量産型破壊ロボ、型番不明。装甲はそこそこ、火力はミサイルと近接ブレードが主。数は多いけど、単体じゃ君のACの敵じゃない。……ま、油断は禁物だけどね」「了解。すぐに片付ける」
ブースター全開。地面を抉りながら突進した。ミサイルが飛んでくるけど、側方に滑らせてかわす。背後で爆風が炸裂する。
右腕のエネルギーライフルを回転させて、弾幕を叩き込んだ。一機が瞬時にスクラップになる。
左右からブレードを振り上げてくる二機には、肩のキャノンをぶつけた。衝撃波が空気を歪ませて、胴体が粉々に砕ける。
『右後方から三機接近! ミサイルの準備してるよ!』
「見えている」
跳躍して、着地と同時に乱射。ミサイルを準備していた一機が蜂の巣になって爆発した。
装甲にミサイルが何発か当たって、機体が揺れる。ウタハの声が響く。
「装甲損傷3%。まだ余裕だけど、そろそろ一掃しないと面倒だよ」
「分かった。全力で行く」
エネルギーを最大に引き上げた。装甲が熱を持ち、スラスターが白熱する。
「全武装解放」
突進。エネルギーライフルの弾幕とキャノンの咆哮で敵を薙ぎ払い、ブレードで叩き潰し、残りを撃ち抜いた。
最後のロボが爆発して、ようやく静かになった。
「終わった。発電システムは無事だ」
「お見事! やっぱり君の再現は最高だね」
「さて、秘密基地で祝杯でも?」
「その前に、整備だ。ロマンよりリアリスティックだからね」
重い足音を響かせながら基地へ戻った
基地の休憩スペースで、りんごジュースのグラスを掲げた。
「「かんぱーい!」」
甘酸っぱい味が喉を通る。戦闘の緊張が解けて、ほんの少しだけ満足感が胸に広がった。ウタハがテーブルに肘をついて、私をじっと見つめてくる。
頬がほのかに赤い。場に酔っているみたいだ。
「また、私と一緒になるのは駄目かい?」
動きが止まった。グラスを持ったまま、ゆっくり彼女を見た。
「……酔ってるね、場酔いにしても唐突だ」「君がいなくなってから、寂しかったんだよ。ホントにさ」
その言葉が、胸を鋭く刺した。罪悪感が一気に蘇る。あの事故、追放、すべて私のせいだとされている現実。
「私はミレニアムから追放されてるからね。君にも迷惑がかかる」
「あの事故は君のせいじゃ……!」
「だとしても、私のせいになっていることに今更声を上げても仕方ない」
ウタハの声がさらに切実になる。
「だからといって、別れることはなかった……! 君となら地獄でも一緒に行けたさ」
心が大きく揺れた。彼女の純粋な想いが、捨てたはずの絆を突きつけてくる。でも私は、もう違う道を選んだ。
「今、私はゲマトリアという組織に所属している。神秘の探求。崇高へ至るための学問。科学を用いて世界を分解する。それは楽しい日々だ。だから、君の元へは戻らない」
静かに、でもはっきりと告げた。決意は揺るがない。でも、言葉を吐き出した瞬間、心のどこかが軋む音がした。
ウタハは言葉を失って、私を見つめるだけ。彼女の目に悲しみと、かすかな希望が混じっている。
私はグラスを手に取り、もう一口飲んだ。りんごジュースのはずなのに、なぜかひどく苦かった。
外では、キヴォトスの夜が静かに流れている。クレスト強襲型のシルエットが薄暗い光に照らされて、私たちを見守るように佇んでいる。でもその鋼の巨体は、私とウタハの間に横たわる距離を、決して埋めてはくれない。
交流がみたい元カノは?
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桐藤ナギサ(孤立操作
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白石ウタハ(献身依存
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調月リオ(崇拝偏愛
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鬼方カヨコ(他者排除
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