■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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【チャプター①】大型輸送ヘリ撃墜②

爆炎が、夜の戦場を赤く染めていた。

 

 四脚作業重機の残骸はまだ燃え続け、溶けた装甲が赤黒い雫となって地面に落ちている。火花がぱちぱちと弾け、そのたびに焦げた金属の匂いが熱気に混じって鼻を刺した。

 

 その炎の向こうに、カヨコは立っていた。

 

 肩に銃を担ぎ、長い前髪の隙間から、静かな目でこちらを見ている。

 

 懐かしいと思った。

 同時に、嫌な予感もした。

 カヨコの視線が私から外れ隣に立つイチカへ向いた瞬間、空気が変わった。

 ほんの少しだけ、彼女の眉が寄る。

 

「……私しか狙ってないっすね」

 

 イチカが困ったように笑った。

 カヨコは何でもないことみたいに答える。

 

「当たり前」

 

 淡々と。

 感情を押し殺した、いつもの声で。

 

「あの人は生きてもらう」

 

 そして、銃口がゆっくりとイチカへ向く。

 

「でも、あんたは消せる」

 

 次の瞬間。

 

 カヨコの姿が、消えた。

 

「右っ!」

 

 イチカの声が飛ぶ。

 

 私は考えるより先に身体を投げ出した。

 直後、さっきまで立っていた場所を白い閃光が貫く。

 熱。

 轟音。

 コンクリートが斜めに切り裂かれ、赤い火花が散った。着地しながら、私は歯を食いしばる。

 

「速い……!」

「光学迷彩っす!」

 

 イチカが後ろへ跳びながらスコープを覗く。

 私は肩の武装を展開した。

 左肩の追跡型レーザードローンが青白い光を放ちながら浮かび上がる。右肩では、拡散バズーカの重い駆動音が響いた。

 

 通信機の向こうで、ナギサが一度だけ小さく息を吐いた。

 

『……鬼方カヨコの装備データを照合しました』

 

 視界の端に、赤い戦術ウィンドウが展開される。そこに映し出されたのは、カヨコのシルエットだった。

 細身。

 軽量。

 無駄がない。

 まるで獲物を狩るためだけに生まれたみたいな構成。

 ナギサが淡々と説明を始める。

 

『敵機——鬼方カヨコ。戦闘スタイルは種別は軽量型。機動力と潜伏性能に極端に特化した暗殺仕様です。主兵装は四つ』

 

 画面に武装情報が順番に表示されていく。

 

『第一兵装、光学迷彩。被弾後十秒間、ダメージを受けなければ再起動します。起動中は熱源、視覚、音響の全てを低減。通常索敵では捕捉不能です』

 

 情報が提示される。

 

『第二兵装——二挺式レーザーハンドガン。近距離での連続よろけ取りに特化。一度捕まれば、回避の猶予はほぼありません』

 

『第三兵装——高出力レーザーライフル。チャージ後の一撃は、イチカさんなら胴体直撃で戦闘不能です』

 

 イチカの声が震える。

 

「さらっと怖いこと言うっすね……」

 

 ナギサは無視した。

 

『第四兵装——緊急展開型のエネルギーアーマー。近距離での迎撃、もしくは撤退時の目くらましに使用されます。不用意に追撃しないように』

 

 一拍。

 ナギサの声が少しだけ低くなる。

 

『そして、最も警戒すべきは武装ではありません。彼女の思考です』

 

 私は思わず口を開く。

 

「……思考?」

『ええ』

 

 ナギサの声は、静かだった。

 

『彼女はあなたを優先しません。合理性ではなく、感情で行動しています。つまり——』

 

 戦術マップの上で、イチカの位置が赤く点滅した。

 

『狙われるのはイチカさんです』

 

 イチカが苦笑する。

 

「うわ、重いっすねぇ」

『ええ。非常に』

 

 ナギサは何でもないことみたいに続けた。

 

『対策を共有しますまず第一にカノさん。あなたは囮に徹してください。派手に動き、熱源と視線を集めてください。そうすれば鬼方カヨコはあなたを無視できません』

 

 続けてイチカに話しかける

 

『第二に——イチカさん。単独で高所へ移動しないこと。孤立した瞬間、カヨコさんの勝ちです。必ずカノさんの射線圏内で戦ってください』

 

 そして言う。

 

『第三にお二人共通です』

 

 戦術マップに二つの円が重なる。

 

『距離は十五メートル以内を維持。それ以上離れると、彼女は必ず分断を狙い、一方的に潰されるでしょう。そして最後に』

 

 ナギサの声が、少しだけ柔らかくなる。

 

『彼女は一対二ではなく、一対一を作る戦い方をします。ですから、お二人がやるべきことは単純です』

 

 一拍。

 

 そして、確信に満ちた声。

 

『——絶対に、離れないこと』

「基本通りでいこう」

「了解っす」

 

 短いやり取り。

 それだけで十分だった。

 私たちは、ずっとそうやって戦ってきた。

 私が前に立ち、イチカが後ろから支える。

 どちらかが見えない死角を、もう片方が埋める。

 

 派手じゃない。でも、一番崩れない。

 

 私は地面を蹴った。

 砂が爆ぜ、視界が流れる。焼けた大地を滑るように駆け抜けながら、私はわざと派手に動いた。

 遮蔽物を飛び越え、敵の残骸を蹴り飛ばし、土煙を大きく巻き上げる。

 

 囮。

 カヨコは私を撃たない。だからこそ、私が目立てば目立つほど、イチカを狙う角度が限定される。

 

「……来なよ、カヨコ」

 

 返事はなかった。代わりに、背筋がぞくりと粟立つ。

 左。

 違う。

 後ろ。

 

「イチカ!」

「っ!」

 

 振り返った時には、もう遅かった。いつの間にか、カヨコはイチカのすぐ背後に立っていた。

 

 黒い影みたいに、音もなく。

 レーザーが閃く。

 イチカが咄嗟にスナイパーライフルを盾のように構える。

 甲高い金属音。

 火花舞い散る。

 

「……っ、あぶなっ!」

 

 後ろへ跳びながら、イチカが苦笑する。

 

「元カノさん、重すぎないっすか」

「当たり前」

 

 カヨコは一歩踏み出す。

 その声に怒りはなかった。

 殺意すらない。ただ、静かだった。

 

「その場所は、私のだったから」

 

 胸の奥が、少しだけ痛んだ。でも、立ち止まれない。

 

「イチカ、距離を取って!」

「言われなくても!」

 

 イチカが遮蔽物の影へ飛び込む。

 カヨコの姿が、また消える。

 十秒。

 無被弾。

 再迷彩。

 

「また消えた……!」

 

 私はドローンの索敵範囲を広げながら、周囲へ視線を走らせる。

 

 熱気で揺れる空気。

 燃える残骸。

 崩れた壁。

 どこにもいない。

 でも。

 

「……見つけたっす」

 

 イチカの声が、静かに響いた。

 その瞬間。遠くの高架の上で、景色がほんの僅かに歪む。

 スコープ越しに捉えたのだろう。

 イチカが、迷いなく引き金を引いた。

 轟音。

 長距離弾が空気を裂く。高架の上で火花が散り、カヨコの姿が強制的に浮かび上がった。

 今だ。

 

「捕まえた」

 

 私は全力で地面を蹴った。

 空気が裂ける。

 一気に距離を詰める。

 カヨコが後ろへ跳ぶ。

 私は右肩の拡散バズーカを構えた。

 彼女が回避行動を取る。

 予想通り。だから、本命はそっちじゃない。

 

「そこ」

 

 左肩のドローンが、青白い閃光を放つ。

 逃げた先を正確に貫いた。

 

「……っ」

 

 初めて、カヨコの表情が揺れる。

 その一瞬。

 イチカの銃声。

 私のライフル。

 二つの火線が交差し、逃げ場を塞いだ。

 膝をつくカヨコ。黒煙が彼女の周囲をゆっくり流れていく。

 私は息を整えながら、銃口を下ろした。でも、カヨコは最後まで私を見なかった。

 彼女が見つめていたのは、イチカだった。

 悔しそうに。

 少しだけ、寂しそうに。

 

「……守られてるんだね」

 

 その声が、妙に優しかった。

 胸の奥が、少しだけ痛んだ。

 カヨコは今でも——あの頃みたいに。

 誰よりも、真っ直ぐ私を愛していた。

 

「ふぅ」

 

 カヨコが膝をついたまま、荒く息を吐く。

 黒煙が彼女の周囲をゆっくりと流れ、燃え残った残骸がぱちぱちと火花を散らしていた。

 

 私は銃を構えたまま、距離を保つ。

 油断はできない。

 カヨコは、ここからでも逆転してくる女だ。

 その時だった。

 通信機から、澄んだ電子音が鳴る。

 

『二人とも、そのまま交戦を継続してください』

 

 ナギサの声だった。けれど、その声音はさっきまでとは少し違っていた。

 柔らかいのに、どこか冷たい。

 何かを決めた人の声。

 

『用意が完了しました。遠隔スキャンを起動します』

 

 次の瞬間、私の視界の端に青白い光が走った。

 ヘイローの内側に、幾何学的な情報ウィンドウが次々と展開されていく。

 

 地形データ。

 

 熱源。

 

 残骸の配置。

 

 風向き。

 

 敵性反応。

 

 あらゆる情報が、一瞬で戦場に重なった。

 イチカが思わず声を上げる。

 

「うわ……なんすかこれ」

 

『トリニティ管制システムによる広域戦術支援です』

 

 ナギサが、当然のように告げる。

 

『お二人の感覚情報と私の演算を同期させました』

 

 そして、一拍置いて。

 

『これで隠れる意味はありませんよ、鬼方カヨコ』

 

 その瞬間。

 視界の左端に、赤い輪郭が浮かび上がった。

 瓦礫の影。誰もいないはずの場所。でも、そこに確かに“いる”。

 光学迷彩で景色に溶け込んでいたカヨコの輪郭が、赤くマーキングされていた。

 イチカが目を見開く。

 

「……マジっすか」

「見える……!」

 

 カヨコが、初めて明確に表情を歪めた。

 

「……桐藤、ナギサッ」

 

 低い声。

 感情のない彼女にしては珍しく、ほんの僅かに苛立ちが混じっていた。

 

 私は静かに拡散バズーカを構える。

 イチカも同時にスコープを覗く。

 もう、隠れる意味はない。

 私が前から圧力をかけ、イチカが死角を塞ぐ。

 カヨコの逃げ道が、少しずつ潰されていく。

 

 右へ跳べば、私の射線。左へ逃げれば、イチカの狙撃圏。

 上を取ろうとすれば、ナギサのスキャンが位置を暴く。

 完璧だった。

 カヨコはしばらく無言のまま立ち尽くし、やがて、小さく息を吐いた。

 

「……負けた」

 

 彼女は銃を下ろした。

 その視線が、真っ直ぐ私へ向く。

 懐かしいくらい、優しい目だった。

 

「またね」

 

 静かな声。でも、その奥にある感情だけは、昔と何も変わっていない。

 

「貴方と私の邪魔をする人たちは……」

 

 そこで視線が、ゆっくりイチカへ向く。

 

「みんな消すように頑張るから」

 

 イチカが苦笑する。

 

「物騒すぎるっすねぇ……」

 

 カヨコは、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

「そしたら、もう一度——」

 

 最後まで言い切ることなく。彼女の姿が、黒煙の中へ溶けるように消えていく。

 風だけが残った。

 私はしばらくその場所を見つめていた。

 

 胸の奥が、少しだけ痛かった。通信機から、ナギサの冷静な声が響く。

 

『ゲヘナ所属便利屋68、鬼方カヨコの撤退を確認しました。二人とも、任務を継続してください。残存する大型輸送ヘリ四機を破壊します』

 

 私は小さく息を吐き、銃を握り直した。

 

「了解」

 

 イチカも、いつもの調子でライフルを担ぎ直す。

 

「じゃ、後片付けっすね」

 

 私たちは顔を見合わせ、小さく笑った。

 次の瞬間、同時に駆け出す。残された輸送ヘリは、もう脅威じゃなかった。

 ナギサの支援。

 イチカの援護。

 そして、私の突破力。

 息を合わせるまでもなく、身体が勝手に動く。

 

 一機目。私の拡散バズーカが機体を貫く。

 

 二機目。イチカの狙撃がエンジンを撃ち抜く。

 

 三機目。ドローンが制御系を焼き切る。

 

 四機目。私の蹴りと銃撃で、そのまま地面へ叩き落とした。

 

 爆炎が次々と空へ上がる。

 ナギサの声が、静かに告げる。

 

『大型輸送ヘリ、全機破壊を確認——お見事です、二人とも。帰還してください』

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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