■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!! 作:あばなたらたやた
トリニティ行政棟、地下第三戦術指令室。
普段なら幹部クラスしか立ち入ることのないその空間には、今夜だけ異様な熱気が満ちていた。
壁一面を覆う巨大な戦術モニター。
無数に並ぶ補助端末。
通信士たちの小さな囁き。
キーボードを叩く乾いた音。
電子機器が発する低い駆動音。
それらすべてが混ざり合い、まるで作戦室そのものが一つの生き物みたいに脈動していた。
私は入口近くの壁にもたれながら、室内を見渡す。
トリニティの精鋭部隊。
情報参謀。
後方支援班。
補給統制官。
いつもは余裕を崩さない彼女たちですら、今夜ばかりは表情が硬い。
それだけ、この作戦が重いということだった。
視線を正面へ向ける。
指令室最奥。
一段高くなった戦術壇上。
そこに立つのは、ナギサだった。
白い制服に整えられた髪。
真っ直ぐに伸びた背筋。
余計な動きは一つもない。でも、彼女がそこに立っているだけで、この部屋の空気そのものが引き締まって見えた。
イチカが隣で小さく呟く。
イチカらしい、気の抜けた声だった。
「……毎回思うんすけど、ナギサ様が壇上に立つと、空気変わるっすよねぇ」
「それだけ信頼されてるってことじゃない?」
「いや、普通に怖いんすよ」
「聞こえてますよ、イチカさん」
壇上から、即座に返ってくる。
イチカが肩を跳ねさせた。
「うわ、聞こえてた」
「当然です」
ナギサは一切表情を変えない。
でも、ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。それも一瞬。次の瞬間には、戦術指揮官の顔に戻っている。
ナギサはゆっくりと前へ出た。その足音だけで、室内のざわめきが自然と止まる。
「これより」
静かな声だった。
決して大きくはない。でも、不思議なくらい全員の耳に届く。
「壁攻略作戦の最終ブリーフィングを開始します」
巨大モニターが一斉に切り替わった。
そこに映し出されたのは、白銀の世界だった。
一面の雪原。
吹雪に削られた岩肌。
凍りついた河川。そして、その中央を断ち切るように築かれた、巨大な鋼鉄の城塞。
思わず、私は息を呑む。
「……でかい」
全長数キロ。
高さは高層建築に匹敵する。
複数層の装甲壁。
監視塔。
ガトリング砲台。
迎撃用ミサイルポッド。
無数の赤いマーキングが、その危険性を示していた。
モニター中央に、赤文字が浮かぶ。
《温泉開発部防衛拠点——通称 “壁”》
ナギサが静かに説明を始める。
「本作戦の目標は二つ」
モニターがズームする。
「第一目標:温泉開発部が占有する交易上の要衝、および周辺街区の掌握」
壁の周囲に広がる街区。
物流拠点。
物資集積所。
エネルギー供給施設。
雪の中でも機能し続ける輸送ライン。
「ここは単なる防衛拠点ではありません」
ナギサの声が少しだけ低くなる。
「現在、北部交易の六割がここを経由しています。ここを押さえられている限り、トリニティ北部の補給線は慢性的に圧迫され続けます」
一拍。
「取り返す必要があります」
静かな声だった。でも、命令ではなく“決定事項”として響いた。
モニターが切り替わる。
壁の最上層。
そこに鎮座する巨大兵器。
鋼鉄の怪物。
砲身。
キャタピラ。
多連装ミサイル。
分厚い前面装甲。
「第二目標:壁上に配備された重装機動砲台の撃破」
室内の空気が、さらに重くなる。
私は無意識に腕を組み直した。
画面には、過去の戦闘記録が流れる。
雪原を進む無人兵器。
最新鋭の装甲車。
空中支援ドローン。
そのすべてが、数秒で撃ち落とされていく。
爆発。
黒煙。
沈黙。
「先行して攻略を試みたミレニアム機械化部隊は、ここで壊滅的損害を受けています」
イチカが、珍しく真顔になる。
「……ミレニアムが、ここまでやられるんすか」
「ええ」
ナギサは頷く。
「戦力差だけ見れば、温泉開発部は三大学園の脅威ではありません」
一拍。
「ですが、この要塞だけは別です」
ナギサの視線が、まっすぐ私へ向く。
「ここは、本物です」
モニターが戦術マップへ切り替わる。
開始地点。
雪原。そして真正面に架かる一本の巨大な橋。その先に、複数のガトリング砲台。赤い射線が、橋全体を覆っている。
「第一フェーズ、侵入経路の選択です」
橋全体が赤く点滅する。
「正面突破は可能」
一拍。
「ですが、おすすめしません」
イチカが吹き出す。
「その言い方、ほぼ“死ぬな”って意味っすよね」
「理解が早くて助かります」
ナギサは平然と返した。そして、マップ左側に青いルートが表示される。
「開始地点から直進せず、雪原左側を大きく迂回してください」
細いルートが、街区の裏手へ繋がる。
「多少砲撃は受けます。ですが、先に壁外周砲台を破壊可能。その結果、後続の四脚武装重機との交戦難度が大幅に低下します」
私は頷く。
「真正面から殴るより、先に牙を抜くってことか」
「ええ」
ナギサが、ほんの少しだけ微笑んだ。
「あなた向きの戦術です」
……まただ。
その言い方だけ、少し特別扱いが混ざる。イチカも気づいているのか、小さくニヤニヤしていた。
モニターが壁上へズームする。
巨大砲台。
赤い照準。
発射予測円。
「第二フェーズ、壁上からの砲撃について」
室内スピーカーから、電子警告音が流れる。
ピーピー。
ピーピー。
「この警告音。あるいは視界に表示されるHUD上の赤い矢印を確認した場合」
一拍。
「考えず、横へ大きく跳躍してください」
私は苦笑する。
「ずいぶんシンプルだね」
「あなたには、そのくらいが丁度いいでしょう」
「それ、褒めてる?」
「もちろんです」
ナギサは真顔だった。
本当に、どこまで本気かわからない。
そして最後に。
モニター中央に、《重装機動砲台》が映る。
その圧迫感だけで、思わず息を呑む。
「最終フェーズ」
ナギサの声が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
「壁の守護者。重装機動砲台」
前面装甲が赤く点灯する。
「正面攻撃は——無効です。キャタピラ部分も無効。上部、背面のみ有効」
私は笑った。
「要するに、真正面から行くなってことだね」
「ええ」
ナギサは静かに頷く。
そして他の誰にも気づかれないくらい、ほんの少しだけ視線を柔らかくして、私を見る。
「ですが」
一拍。
「あなたなら、問題ありません」
そして、誰にもわからないくらい小さく。
本当に小さく、彼女は続けた。
「……私が、見ていますから」
その一言だけが、不思議なくらい胸に残った。
交流がみたい元カノは?
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桐藤ナギサ(孤立操作
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白石ウタハ(献身依存
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調月リオ(崇拝偏愛
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鬼方カヨコ(他者排除
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仲正イチカ(自傷憎悪