■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

19 / 19
8話:私は貴方の味方

 

 そこには、“壁”があった。

 ただ大きいだけではない。

 ただ硬いだけでもない。

 それは、こちら側と向こう側を明確に分断するために存在している、巨大な意思そのものだった。

 

 雪原を横断するように築かれた鋼鉄の防衛線は、吹雪の中でも圧倒的な存在感を放っている。

 見上げるほど高い外壁。

 幾重にも重ねられた装甲。

 規則的に配置された無数の砲台。

 その砲口は、まるで侵入者を待ち構える獣の眼みたいに、静かにこちらを睨んでいた。さらに地上では、四脚型作業重機が巡回している。

 

 本来は採掘用の機械。

 でも今は違う。装甲が増設され、マシンガンとグレネードランチャーを搭載され、戦闘用兵器へと変貌していた。

 四本の鋼鉄脚が雪を踏み潰すたび、低い振動が地面を伝ってくる。

 その姿は、巨大な蜘蛛にも見えた。

 

 吹雪。

 白い視界。

 鋼鉄の要塞。

 その光景を前に、私は無意識に小さく息を吐いていた。

 

『ミッション開始です』

 

 通信機から、ナギサの声が響く。

 静かな声だった。落ち着いていて、冷静で、いつも通り感情を抑えている。でも、その声を聞くだけで、胸の奥にあった余計な雑音が消えていく。

 私は銃を握り直した。

 

「了解」

 

 視界の先。

 正面には巨大橋。

 その向こうで、ガトリング砲台がゆっくりと旋回している。

 赤いレーザーサイトが吹雪を切り裂き、橋全体を覆っていた。

 正面から行けば、数秒で終わる。

 

『正面橋梁ルートは推奨しません』

「うん。わかってる」

 

 私は小さく頷く。

 

「左から回る」

 

 通信越しに、ナギサがほんの少しだけ息を吐いた気がした。

 

『ええ』

 

 一拍。

 

『あなたなら、その方が速いでしょう』

 

 隣でイチカが小さく笑う。

 

「ナギサ様、完全に信頼しきってるっすね」

「期待されてるだけだよ」

「いやぁ、期待だけじゃない気がするんすけどねぇ」

「何それ」

「なんでも」

 

 イチカは肩を竦めながらスナイパーライフルを担ぎ直す。その何気ないやり取りが、不思議と緊張を薄くしてくれた。

 私たちは雪原を大きく迂回する。

 吹雪が頬を叩く。

 視界は悪い。でも、その悪天候のおかげで敵の索敵精度も落ちていた。

 私は低姿勢のまま壁沿いへ接近する。

 足音を殺す。

 呼吸を整える。

 視線の先には固定砲台。

 その周囲を巡回する警備兵。

 まずは砲台。

 これを減らさないと後が苦しくなる。私は壁面の陰へ滑り込み、右肩の拡散バズーカを展開した。

 

 金属音。

 ロック完了。

 照準。

 発射。

 轟音と同時に、巨大な砲台が内側から吹き飛ぶ。

 

 爆炎。

 火花。

 砕けた鉄片が雪原へ降り注いだ。

 

『固定砲台、一基破壊確認』

 

 ナギサの声。

同時に、近くを巡回していた四脚重機がこちらへ振り向く。

 赤いセンサー光。

 警告音。

 マシンガン展開しているが、でも——遅い。

 

 私は地面を蹴って一気に間合いを詰める。

 吹雪を裂きながら加速。左肩のミサイルポッドが開く。

 白煙。小型ミサイルが四脚重機の関節部へ突き刺さる。爆発して巨体がわずかによろめく。そこへ真正面から飛び込む。

 右手のバーストライフル

 左手のバーストサブマシンガン。

 両方の引き金を引き切ると耳を裂くような連続射撃音が鳴った。超高密度の弾幕が、至近距離から重機の装甲へ叩き込まれる。

 

 火花。

 警告灯。

 装甲破断。

 内部フレーム露出。

 そこへ更に撃ち込む。

 止まらない。

 撃つ。

 撃つ。

 撃ち続ける。数秒後、四脚重機のコックピットが爆散した。

 巨体が崩れ落ちる。

 雪煙が舞い上がる。

 

「次」

 

 自分でも驚くくらい、感情が薄かった。

 敵を倒すことに躊躇いがない。

 壊すことに抵抗がない。まるで、“前へ進むことだけ”に最適化されているみたいだった。

 その感覚に、少しだけ寒気がした。

 

 砲台を壊す。

 重機を潰す。

 索敵兵を排除する。

 その繰り返し。でも、不思議なくらいスムーズだった。

 

 私が前へ出て、イチカが後ろを守る。

 私が敵を引きつけ、イチカが狙撃で要所を抜く。

 呼吸が合っていた。戦闘のリズムが自然に噛み合う。背中を預けることに、一切の不安がない。

 

『外周火力の大半が沈黙。侵入口を確認しました』

 

 ナギサの声。壁下部の鋼鉄扉が半壊している。内部へ続く暗い通路。

 

「行こう」

「了解っす」

 

 壁内部は薄暗かった。

 非常灯だけが赤く点滅している。警報音や怒号が響き渡り、慌ただしい足音がやってくる。温泉開発部の隊員たちが、次々とこちらへ向かってくる。

 

「強引に突破する」

 

 私は走り、撃つ。

 敵が倒れる。

 その横を通り抜ける。

 また撃ち。足を止めない。

 

 迷わない。ただ前へ進む。

 イチカの狙撃が背後を守る。

 死角を埋める。敵が私へ銃を向ける前に、頭を撃ち抜いてくれる。

 

「余裕っすね」

 

 イチカが軽く笑う。私は敵を撃ちながら答える。

 

「うん」

 

 倒れた敵を飛び越える。

 

「そうだね」

 

 その瞬間。

 

 自分の言葉に、少しだけ違和感を覚えた。

 本当に余裕なのか。

 それとも。

 “余裕だと思い込もうとしているだけ”なのか。

 

 最近、ずっとそうだった。

 壊れた都市。再会した元恋人たち。

 カヨコ。

 ナギサ。

 みんな、私を見ている。

 必要としていて、求めている。

 でも私は『その場で大切だと思ったものを大切する』。無理なら無理で次の大切なものを前へ進もうとしている。

 

 昔から、何も変わっていない。

 誰にでも優しくして。

 誰も嫌えなくて。

 その結果、誰かを傷つける。

 それをわかっているのに、やめられない。

 

「変なこと考えちゃうな」

 

 エレベーターへ辿り着く。

 重厚な防爆扉が閉じる。

 低い駆動音と共に上昇していく。

 静かな密室。イチカが壁にもたれながら、小さく息を吐いた。

 

「……なんか嫌な予感するっすね」

「珍しいね」

「こういう“最後の部屋”って、大体ヤバいのいるじゃないっすか」

 

 私は少し笑った。

 

「ゲームみたいに言う」

「いや、だいぶゲームっすよこれ」

 

 その時。

 エレベーターが停止する。

 重いロック解除音。そして——巨大シャッターが、ゆっくりと開いた。

 

 吹雪が流れ込む。

 冷たい風。

 視界が開ける。

 壁の最上階。

 そこに——いた。

 

 鋼鉄の怪物。

 巨大砲身。

 分厚い前面装甲。

 無限軌道。

 多連装ミサイル。

 『重装機動砲台』

 見た瞬間、脳裏にブリーフィング映像が蘇る。

 

 雪原を進む無人兵器。

 最新鋭装甲車。

 空中支援ドローン。

 全部。

 全部、数秒で吹き飛ばされていた。

 爆発して、黒煙がたちのぼり、沈黙する。

 

 ミレニアム機械化部隊壊滅。

 その記録映像が、頭から離れない。

 私は無意識に息を呑んでいた。

 

「……これを壊すんだ」

 

 イチカが乾いた笑いを漏らす。

 

「いや〜、厳しそうっすね」

 

 私は視線を逸らさないまま答える。

 

「頑張ろう」

 

「そうっすね」

 

 その瞬間。

 

 『重装機動砲台』のセンサーが赤く発光した。

 次の瞬間、世界が爆発した。

 ロケット、ミサイル、榴弾。それらの砲撃。

 壁上全体が、一瞬で火炎地獄へ変わる。

 

「っ——!」

 

 私は横へ飛ぶ。

 

 爆風の熱。

 衝撃が体を硬直させる。

 着地した瞬間、また爆発して床が抉れる。吹雪すら熱風で吹き飛んでいた。

 

 硬い。

 速い。

 それ以上に火力が異常だった。

 撃っても効かない。回り込もうとしても砲撃が止まらない。

 

 『重装機動砲台』はまるで、“絶対に前へ進ませない”という意思そのものだった。

 

「右っす!」

 

イチカの声で私は反射的に跳ぶ。

 

 直後、巨大砲弾が地面を抉った。

 

「ありがとう!」

「どういたしまして!」

 

 イチカは笑いながら、爆炎の中を駆ける。スナイパーライフルを抱えたまま。吹雪と火炎の間を真っ直ぐ。

 

「イチカ!?」

「センサー潰すっす!」

 

 無茶だ。

 近すぎる。でも、彼女は止まらない。

 ジャガーノートの副砲が展開する。

 赤い照準。

 嫌な予感。

 私は叫んでいた。

 

「下がって!!」

 

 間に合わない。

 轟音が響き渡り、閃光が爆ぜる。イチカの身体が爆風で吹き飛ばされる。細い身体が宙を舞う。そのまま——『重装機動砲台』の巨大キャタピラの進行方向へ落ちた。

 

「……え」

 

 世界の音が消えた。

 次の瞬間。

 鋼鉄の無限軌道が、イチカの身体を踏み潰す。

 

「イチカっ!!」

 

 喉が裂けるくらい叫んでいた。

 頭が真っ白になる。呼吸が止まる。心臓が痛い。視界が揺れる。理解したくなかった。

 理解した瞬間、壊れてしまいそうだった。でも『重装機動砲台』は止まらない。

 

 私は銃を握っている。戦わなきゃいけない。わかってる。でも。身体が動かない。

 怖い。苦しい。嫌だ。

 

「っ」

 

 私の動揺その一瞬の隙を、敵は見逃さなかった。移動型重装砲台の主砲が、ゆっくりと私へ向く。

 

 赤い照準光。

 逃げられない。近すぎる。間に合わない。

 私は思わず、目を閉じた。

 ——終わった。

 そう思った、その瞬間。

 

「やらせない」

 

 静かな声だった。でも、聞き間違えるはずがなかった。

 

「……え?」

 

 次の瞬間、身体が強く引っ張られる。

 景色が横へ流れる。直後、さっきまで私がいた場所を、主砲の閃光が貫いた。

 轟音と爆炎。遅れて熱風。でも、私は生きていた。

 誰かの腕に引き寄せられたまま。

 ゆっくり目を開く。

 そこにいたのは——爆炎を背に立つ、黒い影。長い前髪。静かな目。そして、懐かしい横顔。

 

「……カヨコ」

 

 カヨコは、私を庇うように立ちながら、小さくため息を吐いた。

 

「情けない」

 

 その声は、いつも通り淡々としていた。

 

「やっぱり私がいないとダメみたい」

 

 カヨコは銃を肩に担ぎ直しながら、移動型重装砲台を睨む。

 

「あんな雑魚に、やられかけるなんて。昔のアンタなら余裕だったでしょ」

「返す言葉がない。」

「アンタの相棒は生きてるよ。そこらへんに捨てたけど」

「え」

「ほら、早く立って。死ぬよ」

 

 私は、思わず笑ってしまった。

 こんな状況なのに。

 こんな戦場なのに。

 彼女の声を聞いた瞬間、少しだけ安心してしまった。

 

「……共闘してくれるの?」

 

 カヨコは視線をこっちへ向けないまま答える。

 

「今は一人なんでしょ。カノを攻撃する理由はないし、襲ってくるヤツもいる。手伝うよ」

「わかった」

 

 私は銃を握り直した。

 

「感謝するよ、カヨコ。ありがとう。嬉しい、ありがとう」

 

 その瞬間。

 カヨコの肩が、ほんの少しだけ揺れた。

 

「……そういうところ」

 

 小さく呟いて。

 

 彼女は首を横に振る。

 

「何でアンタは……」

 

 最後までは言わなかった。代わりに、彼女は一歩前へ出る。その背中は、小さく見えるのに。不思議なくらい、頼もしかった。爆炎の向こうにそびえる、鋼鉄の怪物。

 それを真っ直ぐ見据えながら、カヨコが静かに言う。

 

「行こう」

 

 一拍。そして、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

「壁越えを成すんでしょ? アンタの敵は全部消してあげる」

「久しぶりのツーマンセル。モリモリ行こうか」

 

 私は隣に並び、笑った。

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

君は無邪気な夜の暴虐(作者:ミカ推し)(原作:ブルーアーカイブ)

▼そう。これこそは、伏黒甚爾という男に本気で憧れてそんな男の身体能力を持つモノに転生したのだから、せめてそんな男らしい生き方をしてみようと憧れた1人の少女のお話である!!▼ウルト兎様からファンアートをいただきました!ありがとうございます!!▼https://img.syosetu.org/img/user/235664/124751.png▼https://…


総合評価:6721/評価:7.65/連載:55話/更新日時:2024年07月01日(月) 21:00 小説情報

絶対にデレない敵役生徒(作者:有機栽培茶)(原作:ブルーアーカイブ)

ただし先生からは檄重感情を向けられる模様。▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼※転生タグは二章終盤より前作「引き篭もりアーカイブ」と同様のキャラが出るため念の為につけております。オリ主ちゃんは転生者ではありません。


総合評価:4761/評価:7.9/完結:34話/更新日時:2024年06月22日(土) 06:00 小説情報

本人無自覚のうちにクソ重感情を向けられてるやつ(作者:占城稲)(原作:ブルーアーカイブ)

愛されたいと思い、好きな小説の人たらし主人公の性格を真似てみるが、思ったより効果がなく自己嫌悪に陥ってる自己肯定感クソ低少女の話(ただし、本人は気づいてないだけで周りからはクソ重感情を向けられているし、摩擦はないものとする。)▼キャラ設定▼御形ミコト ▼トリニティ、2年生、銀髪、うすほそ、健気


総合評価:2798/評価:8.3/連載:11話/更新日時:2026年04月12日(日) 03:48 小説情報

どうか私を、終わらせて(作者:めめ師)(原作:ブルーアーカイブ)

初めまして、篠崎 ナナと申します。▼突然ですが、皆さんは自分が好きですか?▼私は私が嫌いです。▼これは私が、自分を否定するお話。▼うちの子描いてみました。▼【挿絵表示】▼普段絵とか描かないのでクオリティはお察し。▼ブルアカっぽく描きたかったけど、全身書くのムズすぎて諦めました。


総合評価:738/評価:7.68/連載:39話/更新日時:2026年05月16日(土) 00:19 小説情報

まずい、皆の好感度を上げ過ぎた(作者:ヘルタ様万歳)(原作:ブルーアーカイブ)

トリニティ総合学園。白く完璧に整えられたこの学園で1人の生徒が静かに舞台を降りようとしていた。彼女はかつて、ティーパーティーの中枢に立ち、合理的で冷静、そして多くを切り捨てることを厭わないその姿勢は、後輩たちに大きな影響を与えていった。▼誰かに何かを託し何も言わずに去ることを選んだ一人の人間が、最後まで「自分である」ことを貫こうとする、別れと擦り切れた物語。…


総合評価:3947/評価:8.53/連載:8話/更新日時:2026年01月02日(金) 16:45 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>