■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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【チャプター①】幕間① 周囲の評価

 

 壁越え作戦から数日後。

 あれだけ激しい戦闘が行われたとは思えないほど、“壁”周辺は慌ただしく動いていた。

 吹雪の中を行き交う輸送車両。

 瓦礫を撤去する工兵部隊。

 破壊された砲台を解体する整備班。

 トリニティの旗を掲げた復旧部隊が、占領下に置かれた街区の再建を急いでいる。

 

 壁は落ちた。

 

 温泉開発部が築き上げた要塞は、今やトリニティ管理区域へと変わりつつある。でも、それは“終わった”という意味じゃない。

 むしろここからが始まりだった。

 占領地維持。

 補給線再建。

 治安管理。

 残党掃討。

 行政復旧。

 壊すより、創り、守る方が遥かに難しい。

 私は復旧護衛任務として、一人で壁周辺を巡回していた。

 雪を踏む音だけが静かに響く。

 右肩には拡散バズーカ。

 左肩にはミサイルポッド。

 両腰には予備弾倉。

 いつもの重武装。

 

 工兵部隊の護衛としては、少し過剰なくらいだった。でも。この場所では、“抑止力”が必要だった。遠くでは、工兵たちが壁面の修復作業を行っている。

 温泉開発部特有の無骨な鉄骨構造は、少しずつトリニティ式の白い外装へ置き換えられていた。

 鋭く威圧的だった要塞が、少しずつ“都市”へ戻っていく。その様子を見ながら、私はゆっくり歩く。

 

 復旧部隊の生徒たちが、私を見ると視線を逸らした。

 小声。

 囁き。

 聞こえないふりをしていても、耳には入る。

 

「……あれが」

「正義実現委員会の」

「壁越えした人……」

「猟犬……」

「違うって、暴力装置の方」

「でも味方見捨てたんでしょ?」

「敵と内通してるって噂も……」

 

 私は足を止めなかった。

 慣れている。

 こういう視線。

 こういう噂。

 怖がられること。

 距離を置かれること。

 それ自体は昔からあった。でも最近は特に酷い。

 壁越え作戦以降、一気に増えた。

 私は歩きながら、小さく息を吐く。

 ……猟犬に暴力装置。更に敵と内通して仲間を見捨てた。

 

「好き勝手言ってくれるなぁ、もう」

 

 でも、完全に否定できない言葉が混ざっているから苦笑いしかできない。

 

 カヨコと共闘した。

 敵だったはずの彼女と。しかも私は、それを完全には拒絶するどころか喜んだ。

 

 イチカが倒れ、死にかけた時、助けてくれたのはカヨコだった。もし彼女がいなかったら私はあの場で死んでいたかもしれない。あるいは、重装機動砲台を突破できなかったかもしれない。

 

 それは事実だった。でも、だからといって、“正しい”わけじゃない。

 正義実現委員会の人間が、ゲヘナの便利屋と共闘。しかも相手は私の元恋人。

 噂になるには十分すぎた。

 

 私は壁上の通路へ出ると吹雪が頬を叩く。見下ろせば、復旧中の街区で人が動いていて物資が運ばれている。

 私は、その景色を静かに見下ろした。

 吹雪の音だけが響く。

 

「透明だ。気分が良い」

 

 その時だった。後ろから、少女たちの声が聞こえる。

 

「でも……助かったのは事実だよね」

「え?」

「壁越えの時、あの人が前に出なかったら私たち死んでたし……」

「でも怖いよ……」

「うん、怖い」

 

 一拍。

 

「でも、“必要”なんだと思う」

 

 私は振り返らなかった。壁上通路をゆっくり歩きながら、白い息を吐く。吹雪の向こうでは、復旧部隊が黙々と作業を続けている。

 

 誰も私に近づかない。誰も軽々しく話しかけてこない。でも、視線だけは感じる。

 恐怖。

 警戒。

 緊張。

 そして——期待。

 

 厄介事が起きたら、あれを向かわせればいい。

 

 敵が来たら、あれを出せばいい。

 あれなら壊してくれる。

 あれなら突破してくれる。

 そういう視線。

 私はその視線を、不思議と嫌だと思わなかった。むしろ安心した。役割だけ果たせばいい。

 その方がずっと楽だった。

 必要だから使うし、怖いから距離を取る。でも、結果を出す限りは切り捨てない。

 その割り切った関係が、今の私にはちょうど良かった。

 

 私は壁の外側を見下ろす。

 白い雪原。

 遠くで動く輸送車両。

 再建されていく防衛設備。

 秩序。

 管理。

 統制。

 その光景を見ながら、私は小さく笑う。

 

「……居心地いいな」

 

 自分でも少し驚くくらい、自然な本音だった。

 トリニティは賢い。少なくとも、上層部は。

 特にナギサは。

 私を“正義”として扱わない。

 英雄としても扱わない。ましてや善人だとも思っていない。

 でも利用価値がある限り、最大限活用する。その代わり、成果を出す限りは庇護する。

 非常に合理的だった。だから動きやすい。

 トリニティという巨大組織の庇護下。

 正義実現委員会という大義名分。

 行政復旧。

 治安維持。

 対テロ制圧。

 

 その名目さえあれば、大抵のことは許容される。

 多少強引でも。

 多少危険でも。

 多少血塗れていても。

 “結果”さえ出せばいい。

 実にクレバーだった。

 感情論で縛られず理想だけで運営されていない。

 必要だから使うし、危険だから管理する。

 その冷たさが、逆に居心地良かった。

 今くらいが丁度いい。

 怖がられるくらいでいいし、利用されるくらいでいい。距離を置かれるくらいが、安心する。

 その方が間違えないし、その方が壊れない。

 その方が、誰かを期待させずに済む。

 

 私は歩く。

 吹雪の中を。

 トリニティの猟犬として、暴力装置として、必要だから使われる存在として。

 その在り方は、とても静かで。

 とても合理的で。そして少しだけ、心地良かった。

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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