■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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【チャプター①】第2工房調査①

 

 正義実現委員会の作戦室は、いつもより静かだった。誰も無駄口を叩かない。壁面モニターに映るのは、灰色の施設外壁と、通信途絶を示す赤い警告表示。

 

《第2工房》。

 

 トリニティとミレニアムが共同運営している兵装試験・危険物管理施設。

 その名を見ただけで、室内の空気がわずかに重くなる。

 あそこは、“事故”で済まない。何故なら事故ならば既にトリニティにもミレニアムにもなんらかの連絡が《第2工房》側から発信されるはずだ。

 それが、ない。

 情報を発信できず、外部から気付くまで隠匿されていた。

 事故処理ではなく、戦争の用意が必要だろう。

 私は端末を閉じ、視線を上げた。

 

 正面。

 ナギサがブリーフィング卓に片手を添え、静かにこちらを見ている。

 疲れている。たぶん、昨日も寝ていない。けれど彼女は、それを悟らせないように背筋を伸ばしていた。

 

「――状況を説明します」

 

 静かな声だった。けれど、作戦室の全員が反射的に姿勢を正す。

 

「三時間前、第2工房との定時通信が途絶しました。以降、応答なし。バックアップ回線も沈黙しています」

 

 モニターが切り替わる。

 工房内部の見取り図。赤い警告灯。封鎖された隔壁。そして、乱れた生体反応ログ。

 

「現在判明しているだけで、内部では複数区画のロックダウンが発生しています」

 

 私は思わず眉を寄せた。

 ロックダウン。つまり、“内部で何かが起きた”ということだ。

 外敵侵入だけじゃない。

 暴走事故、実験失敗、システムの反乱、危険物漏洩。

 最悪、自壊寸前。

 ミレニアム施設で通信が消える時は、大抵ロクなことにならない。

 隣でイチカが小さく息を吐く。

 

「……嫌な予感しかしないっすね」

「ええ。私も同感です」

 

 ナギサは即答した。

 その声に冗談はない。

 モニターに次々と情報が表示される。

 

《高圧縮炸薬保管区画》

《試作反応弾頭》

《神秘励起燃料》

《危険度:S》

 

 作戦室の空気がさらに冷える。

 私は無意識に唇を引き結んだ。

 

 工房は中身は“都市を消せる兵器群”もある。しかも第2工房は、ミレニアム主導の試作品の割合が高い。つまり、何が起きるか誰にもわからない。

 ナギサがこちらを見る。

 

「元鞘カノさん、仲正イチカさん。あなた達には現地先遣調査を担当してもらいます」

「目的は?」

 

 私が尋ねると、ナギサは一瞬だけ目を伏せた。

 ほんのわずか。でも、彼女が迷う時の癖だった。

 

「……生存者救助、事態把握、危険物暴走時の封鎖判断」

 

 封鎖判断。

 つまり場合によっては――。

 

「工房ごと切り捨てる可能性もある、ってことですか」

 

 イチカの言葉に、ナギサは沈黙で答えた。

 その沈黙だけで答えは十分だった。

 作戦室の空気が張り詰める。

 私はモニターを見る。

 無機質な工房に閉ざされた隔壁。沈黙した通信と、その向こう側にまだ誰かがいるかもしれない。

 助けを待っているかもしれない。でも同時に周辺自治区ごと吹き飛ぶ可能性もある。

 私は小さく息を吐いた。

 

「ミレニアム側との連携は?」

 

 その瞬間だった。

 ナギサが、ほんの少しだけ嫌そうな顔をした。

 珍しい。本当に珍しい。

 

「……既に向こうから技術支援を受諾するように提案が来ています」

 

 嫌な予感がした。

 イチカも同じだったらしい。

 

「誰っすか?」

 

 数秒の沈黙。

 それからナギサは、静かに言った。

 

「エンジニア部所属、ウタハさんです」

 

 ああ。

 私は思わず天井を見た。

 イチカが横で、「うわぁ……」と露骨に顔をしかめる。

 ナギサは表情を崩さないまま続けた。

 

「なお、彼女は既に先行して現地入りしているとのことです」

「それ、止めなかったんですか」

「止まりませんでした」

 

 即答だった。

 私は額を押さえる。止まらなかったのは想像できる。できてしまう。たぶん、“危険な試作品が放置されているかもしれない”と聞いた瞬間、飛び出したんだろう。

 そういう人だ。

 

「ウタハは技術者だし、今回の危険性は理解できる。更に性格も善だから、自分で動くだろうねぇ。適切な封印処理か、情報収集して撤退する判断もできる人だ」

 

 ナギサが静かに言う。

 

「繰り返します。第2工房には、現在も不明な危険物が多数残されています」

 

 モニターに赤い警告が灯る。

 

《内部エネルギー反応増大中》

 

 嫌な表示だった。

 嫌な予感しかしない。

 

「最悪の場合」

 

 ナギサの声が落ちる。

 

「工房内部で連鎖誘爆が発生して、すごく大きな被害が発生します。抽象的になりますが、この世界が滅びる可能性があります」

 

 作戦室の誰も口を開かなかった。

 全員、想像してしまったからだ。

 世界を焼き尽くす火柱を。

 ナギサは最後に、まっすぐ私を見る。

 その視線だけ、少し柔らかかった。

 

「――どうか、生きて帰ってきてください」

 

 それは、作戦命令というより。

 祈りみたいな声だった。

 

 

 大型輸送ヘリから投下され、作戦が開始される。

 

「うぁ」

 

 第2工房の正面ゲートは、半壊していた。

 爆発痕。

 焼け焦げた装甲壁に溶断された隔壁。まるで内側から何かが暴れたみたいだった。

 私はバーストライフルを構えながら、ゆっくり内部へ踏み込む。靴裏が砕けた金属片を踏み潰す。

 

「…………」

 

 嫌な音が静寂に響いた。

 空気が熱い。火薬と、機械油と、焦げた金属の匂い。鼻の奥が焼けるようだった。

 隣でイチカが低く呟いた。

 

「……静かすぎるっすね」

「うん」

 

 私は頷きながら周囲を見る。本来なら工房警備用のドローンやオートマンが巡回しているはずだった。

 定期巡回の駆動音や、整備ラインの稼働音が絶えず響いている場所だ。でも今は違う。死んだみたいに静まり返っていた。転がっている残骸は、見覚えのない機体ばかりだった。

 

「黒い装甲。識別コードなしっすね」

「量産型か」

 

 しかも――。

 

「ミレニアム製じゃない」

 

 私は膝をつき、壊れたドローンの断面を見る。内部構造が異様に簡素化されている。配線も粗い。必要最低限の機能だけを詰め込んだみたいな設計。

 軍用品。

 それも、“消耗前提”。

 イチカが周囲を警戒しながら言う。

 

「外部勢力? でもこんな規模の兵力、どっから……」

 

 私は答えなかった。代わりに、壁に残った弾痕へ視線を向ける。

 口径が大きい。しかも複数。ここではかなり激しい戦闘があったはずだ。なのに、死体がない。そのことが逆に不気味だった。

 その瞬間だった。

 

 ――ピッ。

 

 無機質な電子音。

 私は顔を上げる。

 天井。壁面。通路奥。赤いセンサー光。

 次の瞬間。

 

《TARGET CONFIRMED/標的を補足》

 

 機械音声が響いた。

 

「伏せて! イチカ!!」

 

 直後。

 無数の銃火が通路を埋め尽くした。

 床が爆ぜる。

 火花。破片。

 私は横へ滑り込みながら反撃する。バーストライフルが先頭ドローンのセンサーを撃ち抜く。

 イチカの狙撃がほぼ同時に後方機を貫通。

 

「数、多っ……!」

「ちょちょ、ちょ!?」

 

 黒い量産兵力が雪崩れ込んでくる。

 

 四脚ドローンに人型オートマン。浮遊砲台。しかも動きが妙に統率されていた。

 無駄がない。射線管理までされている。

 ただの量産自律システムじゃない。

 

「誰か指揮してる!」

 

 私が叫ぶ。返答代わりみたいに、重機関砲が壁ごと薙ぎ払った。

 私は瓦礫へ飛び込む。

 熱風。

 衝撃。

 鼓膜が揺れる。

 コンクリ片が頬を掠めた。

 

「狙い撃つっすよ」

「はは、良いね」

 

 でも怖くはなかった。

 イチカがいる。

 呼吸だけで位置がわかる。彼女の射線が、私の死角を潰していく。

 昔からそうだった。

 戦場に立つ時だけは、妙に息が合う。

 

「右三!」

「了解!」

 

 飛び出す。

 接近。

 至近距離。

 オートマンの腕を撃ち抜き、そのまま蹴り飛ばす。背後から来たドローンをイチカが狙撃してくれて爆散。火花の雨だ。

 

「モリモリ行こうか!!」

 

 さらに前へ。

 敵の中央制御機を見つける。他より装甲が厚い。通信アンテナが露出している。私は床を滑りながら撃ち込んだ。

 装甲貫通。

 制御核破壊。

 その瞬間。

 敵群の動きが止まる。糸が切れた操り人形みたいに、次々と沈黙していく。

 私は息を吐いた。

 ――直後だった。

 施設全体が震えた。

 低い警報音。

 

《WARNING/警告》

《HIGH ENERGY REACTION DETECTED/高エネルギー反応を検知》

 

 空気が変わる。

 熱と圧力。まるで工房そのものが唸っているみたいだった。

 天井の照明が明滅する。

 遠くで巨大な何かが駆動する音。

 イチカが顔を上げる。

 

「……なんすか、これ」

 

 私は奥を見る。

 暗闇、その中心に超高密度エネルギー反応。そして。ゆっくりと、“それ”が姿を現した。

 巨大。

 あまりにも巨大の獣だった。狼にも、獅子にも見える。でも生物じゃない。

 分厚い装甲に露出した動力炉。脈動する赤熱パイプがまるで血管のようだ。

 肩部兵装と脚部スラスター。そして口元には、灼熱するエネルギーブレード。

 

「お、おお」

 

 機械の獣。

 その一歩だけで床が軋む。重量だけで空気が震える。空間が歪む。赤熱した排熱が周囲を歪ませていた。

 私は思わず息を呑んだ。

 

「……何、あれ」

「……………????」

 

 イチカですら、珍しく言葉を失っていた。

 その時。

 後方から、聞き慣れた声。

 

「まさかアレが出てくるとは予想外だ」

 

 振り返る。煙の向こう。

 青白い排熱を纏いながら、一人の少女が歩いてくる。

 右手には、巨大なプラズマエネルギーレーザーキャノン《カラサワ》。

 左腕には、杭打式超近接兵装パイルバンカー《アッシュ・ミード》

 

 どちらも、浪漫を火力に変換したみたいな装備だった。

 発熱警告が出ている。普通なら携行すら無理な高負荷兵装。でも彼女は笑っていた。

 まるで遠足にでも来たみたいな顔で。

 

「久しぶりだね、カノ」

「ウタハ」

 

 彼女は私を見る。

 それだけで、少し嬉しそうに目を細めた。

 

「せっかくの逢瀬だ。楽しんでいこう」

 

 それからイチカを見る。

 

「そっちの可愛らしい人は君の彼女かい? カノ」

 

 私は即答した。

 

「いや。元彼女」

「そうか」

 

ウタハは頷く。

 

「ということは、今の君はフリーだったりするのかな?」

「そうだよ」

 

 私は笑う。

 それから、巨大な機械獣を見る。

 

「――あ、じゃあゲームする?」

 

 ウタハの目が少し丸くなった。

 

「ゲーム?」

「どっちが相手の撃破に貢献できたかの勝負。ダメージレース用の計測器は持ってるんでしょ?」

 

 数秒の沈黙。

 それからウタハは吹き出した。

 

「あるよ。なんでわかるんだ」

「遊び心が大切だからね。どう?」

 

 彼女は笑う。

 本当に楽しそうだった。戦場だというのに、子供みたいな顔だった。

 

「私が勝ったら、君の心を頂くよ」

「どうぞご自由に」

 

 私は肩を竦めた。

 

「ついでに体もついてくるよ。私が勝ったらミレニアムの最新技術ちょーだい」

「いいよ」

 

 即答だった。

 ウタハはそのままイチカを見る。

 

「君はどうする?」

 

 イチカはスナイパーライフルを構え直す。

 それから、小さく笑った。

 

「あー、そうっすね」

 

 スコープ越しに獣を睨む。

 

「マジでやらせてもらいます」

 

 私は前を見る。

 巨大な機械獣。赤熱する装甲。都市を壊せる質量。でも、不思議と怖くなかった。むしろ少しだけ高揚していた。隣には信頼できる仲間がいて。

 前には全力をぶつけられる敵がいる。だったら、やることは一つだ。

 

「よし、頑張ろう!!」

 

 その瞬間。

 機械の獣が咆哮した。耳を裂く金属音。灼熱のエネルギーブレードが振り上げられる。そして、こちらへ向かって、振り下ろされた。

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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