■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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【チャプター①】第2工房調査③

 

 戦闘終了から数時間後、私たちはトリニティへ戻っていた。

 正義実現委員会本部にある作戦会議室。

 大型モニターには、先ほどの戦闘映像が映し出されている。

 沈黙の中。

 最初に口を開いたのはナギサだった。

 

「まず結論から申し上げます」

 

 モニターが切り替わる。

 黒い機械兵。

 量産ドローン。

 そして巨大な機械獣。

 

「今回確認された兵力は、既知のミレニアム製兵器ではありません」

「だろうね」

 

 私は椅子にもたれた。

 

「私も見たことない」

 

 ウタハも頷く。珍しく真面目な顔だった。

 

「少なくともミレニアム制式採用された兵装ではないね」

 

 モニターに別の映像が映る。

 機械獣の胸部にある砲撃口や内部構造。

 

「戦闘データは既にミレニアムの特異現象捜査部へ送信済みです」

 

 ナギサが言う。

 

「解析結果では、あの機体は『デカグラマトン』と呼ばれる存在が運用していた兵器である可能性が極めて高いそうです」

 

 室内が静かになる。

 イチカが眉を寄せた。

 

「結局、そのデカグラマトンって何なんすか」

 

「不明です」

 

 ナギサは即答した。

 

「正確には、“何者かすら判明していません”」

 

その言葉に私も顔を上げる。

ナギサが続ける。

 

「ミレニアム側の記録では、超高度AI群説、古代自律兵器説、神秘的存在説など複数の仮説があります」

 

「ミレニアムでも解析できないよくわからない存在ってことか」

「ええ、そうなるでしょう」

「なるほど。いつものミレニアムだね、ウタハ」

「失礼だな、カノ」

 

ウタハが即座に反応した。

 

「ちゃんと研究した結果、分からないんだ」

「余計悪いっす」

 

 イチカが呆れた顔をする。少しだけ空気が緩んだ。だがナギサはモニターを切り替える。

 その瞬間。

 室内の空気が変わる。映し出されたのは、一人の少女だった。

 黒い制服と特徴的な装備。

 私は見覚えがない。でもナギサの顔は険しかった。

 

「デカグラマトンの問題ありますが、こちらの方が問題です」

 

 彼女は静かに言う。

 

「戦闘記録内部から発見された人物」

 

 映像が拡大される。

 少女の姿。鮮明になる輪郭。その制服と校章を拡大させて、表示させた。

 ナギサが告げた。

 

「所属――アリウス」

 

 イチカが息を呑む。

 ウタハも表情を変えた。

 私だけが置いていかれる。

 

「そんなに危ないの?」

 

私が尋ねると、三人とも同時にこちらを見た。その反応で危険度を察した。

 ナギサがゆっくり口を開く。

 

「危険です」

 

 短い。けれど断定だった。

 

「……カノさんは、アリウスについてどこまでご存知ですか?」

「何も」

 

 私が答えると、ナギサは小さく息を吐いた。そしてモニターを操作する。

 古い記録と破損した写真。

 断片的な公文書。

 

「本来であれば、あまり表に出したくない記録です」

 

 その声には僅かな苦味が混じっていた。

 

「ですが、現状を考えれば共有する必要があります」

 

 画面に映し出されたのは、かつて存在した学園の資料だった。

 

「アリウスは、現在のトリニティ総合学園が成立する以前に存在した分校です」

 

 私は資料を見る。だが次に続いた言葉に思わず眉をひそめた。

 

「当時のトリニティは複数の宗派に分かれていました」

 

 ナギサは淡々と説明する。

 

「そして各宗派が一致団結するための“共通の敵”として、アリウスが利用されたのです」

 

 モニターには崩壊した校舎の写真が映る。

 

「校舎は破壊され、教義は否定されました。生徒たちは追放です」

 

 ナギサは一度言葉を切った。

 

「記録上は、『よくわからない場所へ追放された』としか残っていません」

「なるほどね」

 

 当時のトリニティは複数の宗派に分裂していた。しかも宗教的な学園だけに、教義の違いはただの意見の相違ではなく、勢力争いや資源配分の対立に直結する。

 そこに「共通の敵」としてアリウスを位置づけたのは、古典的だが極めて効率的な統治手法だ。

 

「極めて合理的。分断された組織を統合するのに、これほど少なくとも低コストで済む方法は少ない。リオがやりそう」

「確かに会長はやりそうだ。というかそれで失敗してなかった?」

「成功した結果がご覧の有様です」

 

 私の呟きに、ウタハが言葉を返す。

 ナギサはコツコツと頭を指で叩く。苛立ちつつも頑張って抑えているようだ。そして言う。

 

「一つの明確な悪を作ることで、内部の小競り合いを抑え込める。各宗派が『アリウスを叩く』という共通目標に向かうことで、結束を強制的に高められる。結果として、現在のトリニティ総合学園という一つの大きな枠組みが成立したというのは、そうなりますね、と思います」

「当時の人たちにとってアリウスはもう学園ではなく道具扱いだね。破壊、教義の否定、追放——これらはすべて、統合プロセスを完遂するためのステップだ」

 

 アリウスという「分校」を犠牲にすることで、トリニティ本体の正当性と優位性を確立した。

 

「我々は正しく、彼らは間違っていた。そういう二元論を明確に描くことで、残った生徒たちや教職員、ひいては外部に対するトリニティのイメージを強化した」

「はぁ。アリウスはトリニティ総合学園という巨大組織の礎石だったわけっすね。排除されることで、初めて本体の輪郭がはっきりした、と」

 

 そこまで聞いていたウタハが言う。

 

「効率的で、ポジション取りとしても完璧だ。政治判断としては成功だろう。問題はただの分校の生徒たちの扱いだ」

 

 同じトリニティの生徒でありながら、宗派の都合で「敵」に仕立て上げられ、校舎を破壊され、教義を否定され、記録上は「よくわからない場所へ追放」された。

 

 これは単なる派閥闘争じゃない。組織的な迫害であり、ほぼ粛清に近い。利用された挙げ句悪」として歴史に刻まれた。

 

「重い話だ。しかも難しい」

「はい、カノさんの頭で理解できるかは怪しいのは否定はしません」

 

 私に失礼なこと言いながらナギサは目を伏せた。

 

「私個人としては、歴史の教科書の一文に乗っている程度の存在であって欲しいのですが」

 

 静かな声だった。だが続く言葉は重い。

 

「しかし、追放された側がそう考えるとは限りません」

 

 モニターには現在確認されているアリウス関連情報が並ぶ。

 

「もし彼女たちが当時の遺恨や復讐心を受け継いでいるならテロ行為や破壊活動に加担する危険性は十分にあります。そして私はトリニティの統治者として、それに対応する責任があります」

 

 ナギサは額を押さえた。

 珍しく疲れた表情だった。

 

「正直に申し上げれば、頭の痛い問題です」

 

 追放された生徒たちからすれば、突然「存在自体が間違い」と宣告されたようなものだろう。彼女たちが復讐心を抱く可能性をナギサが警戒しているのも当然だ。

 

 沈黙。

 その空気を破ったのはイチカだった。

 

「だったら、もう根絶やしにしちゃえばいいんじゃないっすか。というか昔の人がアリウス分校に生徒がいる時に丸ごと消滅させてたら問題なかったわけっすから」

 

 全員が彼女を見る。

 イチカは一瞬固まった。

 

「あ」

 

 どうやら本音が漏れたらしい。

 

「いや、その……過去のことをいつまでも引きずるのって面倒じゃないっすか」

 

 彼女は頭をかいた。

 

「向こうが本気で敵対するなら、こっちから先に潰した方が早いっすよ。ミレニアムの技術とトリニティの資本を合わせれば、拡散構造相転移砲とか波動砲とかグラビティブラストとか」

「イチカさん」

 

 ナギサが低い声でたしなめる。

 

「分かってるっす」

 

 イチカは肩をすくめた。

 

「選択肢の一つとしてなら、あっても良い気はしますけどね」

 

ウタハが苦笑する。

 

「ふふ、物騒だ」

 

 そして彼女はモニターへ視線を向けた。

 

「ただ、気になる点はある」

「気になる点?」

 

 私が聞き返すと、ウタハは頷いた。

 

「今回出てきたデカグラマトン兵器だ」

 

 画面に機械獣の解析図が映る。

 

「アリウスだけで、あれだけの戦力を用意できるとは思えない」

「つまり?」

「誰かが繋げた可能性がある」

 

 ウタハは真剣な顔で言った。

 

「デカグラマトンの戦力を利用できる存在がいて、それと復讐する戦力を欲するアリウスと繋げた」

 

 会議室の空気が再び重くなる。

 

「黒幕がいるかもしれないってこと?」

「可能性は高い」

 

 ウタハは断言した。

 

「少なくとも偶然で片付けるには出来すぎている」

 

 私は椅子にもたれながら考える。

 アリウス。

 デカグラマトン。

 そして正体不明の黒幕。

 面倒な話だ。

 正直、今すぐ全部解決できる気はしない。だから私は素直に言った。

 

「私はさ」

 

 三人の視線が集まる。

 

「今やりたいことなんて特にないんだよね」

 

 イチカが首を傾げる。

 突然、何を言い出すのか? という顔だ。

 

「ないんすか」

「ない」

 

 私は笑った。

 

「だからこそ、今を全力で楽しみたい」

 

 少しだけ空気が和らぐ。学園都市キヴォトスが平和になる方向なら、より嬉しいかな」

 ナギサが静かに聞いていた。

 私は続ける。

 

「だから最初は対話と交渉を頑張るそれで解決できるなら一番いいだろうし」

 

 そして肩をすくめる。

 

「でも無理なら――暴力で叩き潰す。全てを焼き尽くす圧倒的な暴力で殲滅する」

 

 数秒の沈黙。

 

「カノさん」

 

 ナギサが言う。

 

「最後の一文で全てが台無しです」

「いやでも必要でしょ」

「否定はできないっすね」

 

 イチカが頷いた。

 

「そこは同意する」

 

 ウタハまで頷いている。

 ナギサだけが頭を抱えた。それでも少しだけ表情は柔らかかった。やがて彼女は最後に映像を停止させた。

 少女の顔が画面中央で止まる。

 

「改めて、現時点では断定できないと前置きしつつ」

 

 静かな声だった。

 けれど。

 

「ですが、今回の事件は単なる施設襲撃ではありません」

 

 彼女はまっすぐ私を見る。

 

「誰かが、意図的にデカグラマトンを動かした可能性があります」

 

 私も無意識にモニターを見つめた。

 戦いは終わった。そう思っていた。でも違う。どうやら私たちは、ようやく入口に辿り着いただけらしい。

 

「アリウス、デカグラマトン。そして黒幕。それらを私たちは対峙する可能性が高いです。皆さんの協力をお願いします」

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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