■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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【チャプター①】閑話

 

 ミレニアムとの合同会議から数日後。

 私はトリニティのティーパーティー専用テラスで紅茶を飲んでいた。

 柔らかな陽光。

 丁寧に手入れされた庭園。

 遠くで揺れる花々。

 戦争だの政治だのを忘れてしまいそうな穏やかな景色だった。

 

 向かい側にはナギサが座っていて、相変わらず背筋は真っ直ぐで静謐だ。

 紅茶を飲む所作一つ取っても絵になる。こういうところは本当に育ちの良さを感じる。

 私は焼き菓子を一つ摘まみながら、のんびり空を見上げた。

 

「平和だねぇ」

「平和ではありませんよ」

 

 即座に返ってきた。

 予想通りだった。

 私は苦笑する。

 

「ナギサらしい」

「現実を見ているだけです」

 

 そう言いながらも、ナギサの表情はどこか柔らかい。最近は以前より余裕があるように見える。

 壁越え後の各地の安定化に復旧活動。

 問題は山積みだけれど、一つずつ前へ進んでいる実感はあるのだろう。

 私はカップを置いた。

 

「それで? わざわざ二人きりってことは何かあるんでしょ」

 

 ナギサは静かに頷いた。そしてテーブル上の端末を操作すると空中に戦術図が投影された。

 三つの勢力圏。

 トリニティ。

 ゲヘナ。

 ミレニアム。

 学園都市を三分する巨大勢力。

 

「現在の情勢確認です」

 

 ナギサが言う。

 

「まずトリニティ」

 

 勢力図の一角が光る。

 

「内部に不穏因子を抱えています」

「それは知ってる」

「ですが戦力面では依然として強力です」

 

 映像が切り替わる。

 ミカ。

 セイア。

 ツルギ。

 それぞれの戦闘記録が映し出される。

 

「圧倒的な個人戦闘能力と高い統率力。練度の高い通常部隊。そしてシスターフッドや正義実現委員会などによる補完戦力」

 

 ナギちゃんは淡々と説明する。

 

「総合力では依然として最上位勢力です」

 

 私は頷いた。実際そうだと思う。トリニティは派手さよりも安定感がある。一人が突出しているというより、全体で強い。

 組織として完成されている。

 続いてゲヘナが表示される。

 

「ゲヘナ」

 

 私は少し笑う。

 

「問題児の集まり」

「否定はしません」

 

 ナギサも珍しく否定しなかった。

 

「ですが空崎ヒナさんの存在は極めて大きい」

 

 戦闘映像が流れた。敵部隊が消し飛ぶ。別の敵部隊も消し飛ぶ。さらに消し飛ぶ。

 私は苦笑した。

 

「相変わらず理不尽だね」

「ええ」

 

 ナギサも認める。

 

「単独戦力としては現状最高峰です。ただし、ヒナさんに依存している部分が大きい」

 

 そこが問題だった。

 ゲヘナはヒナがいるから回っている。逆に言えばヒナが倒れれば揺らぐ。

 強力だが脆い。

 そんな印象だ。

 最後にミレニアムが映る。

 

「ミレニアム」

 

 私は少し身を乗り出した。

 最近一番読めない勢力だ。技術、資本、生産、組織どれも高い。しかも新兵器が次々出てくる。

 正直、一番戦いたくない相手かもしれない。

 

「特記戦力こそ少ないですが安定性では三勢力随一」

 

 ナギサが言う。

 

「つまり」

 

 私は紅茶を飲む。

 

「三つとも強い」

「はい」

 

 ナギちゃんが頷いた。

 

「だからこそ均衡している」

 

 テラスに少し沈黙が落ちる。

 私は戦術図を見つめた。

 三つの巨大勢力。

 どこか一つが傾けば戦争になる。大戦争だ。きっと学園都市キヴォトス全体を巻き込む。

 

「それで」

 

 私は笑う。

 

「ナギちゃんは均衡を維持したいんだね」

「はい。私は三勢力が相互補助関係になるべきだと考えています」

 

 その言葉に私は少し感心する。昔ならトリニティ優位を目指していたかもしれない。でも今のナギサは違う。

 

 戦争を知った。

 混乱を知った。

 だからこそ安定を求めている。

 

「具体的には?」

「空崎ヒナとの接触です」

 

 予想通りだった。

 

「エデン条約の締結時期を前倒しにして、さらにゲヘナとミレニアムの橋渡しも行う」

 

 なるほど、確かに理にかなっている。

 ヒナはゲヘナでも比較的穏健派だ。話が通じるだろうし、信頼もある。

 最初の窓口としては最適だ。

 

「オンライン会議じゃ駄目?」

 

 私が聞くと、ナギちゃんは首を横に振った。

 

「通信は傍受や妨害もされる可能性が大きいです。そして何より」

 

 一拍。

 

「誠意が伝わりません」

 

 私は少し笑った。それはナギサらしい。合理的なのに、そういう部分だけは妙に人間臭い。

 

「会話できなくても、歩み寄る意思を示したい」

 

 ナギちゃんは静かに言う。

 

「こちらから会いに行くことに意味があります」

 

 私は頷いた。たぶん正しい。信頼というのはそういう積み重ねだ。

 

「つまり、ゲヘナへ行く」

「ええ」

「護衛が必要」

「はい」

 

 ナギサが私を見る。

 真っ直ぐ。迷いなく。

 

「あなたにお願いしたいのです」

 

 私は少しだけ考えるふりをした。

 実際にはもう答えは決まっている。

 ゲヘナ。

 ヒナ。

 外交。

 面倒事の匂いしかしない。でも面倒事ということは、きっと何かが起きる。そして私は大抵のことをどうにかできる。

 今までだってそうだった。

 壁も越え、戦争も生き残り、死地も突破した。だから今回もどうにかなる。私は椅子にもたれながら笑った。

 

「いいよ。護衛くらい任せて」

「ありがとうございます」

 

 ナギちゃんが微笑む。

 本当に僅かな笑みだった。でも、それだけで十分だった。

 私は立ち上がる。

 青空を見上げる。

 ゲヘナ行き。きっと面白くなる。

 私はそんな予感に少しだけ胸を弾ませていた。

 ナギサが紅茶を口元へ運ぶ。

 その仕草はいつも通り優雅だった。背筋も伸びている。言葉も淀みない。外から見れば、自信に満ちたトリニティの指導者そのものだった。でも。私は知っている。

 そんな単純な人じゃないことを。

 私はテラスの向こうに広がる庭園を眺めながら、静かに考える。

 

 ナギサは怖がりだ。

 慎重で疑い深い。

 最悪の可能性を考える。

 失敗を恐れる。

 裏切りを恐れる。

 人が死ぬことを恐れる。

 

 だから準備をする。

 だから情報を集める。

 だから考え続ける。

 誰よりも。

 私は戦場でそういう人を何人も見てきた。

 自信満々な人。

 恐怖を知らない人。

 無謀な人。

 そういう人は意外と多い。でも本当に強い人は違う。

 怖いから考える。

 怖いから備える。

 怖いから責任を負う。

 ナギサはそういう人だった。だから私は少しだけ笑う。

 この人は、たぶん。本当はこんなことをしたくないのだと思う。

 戦争なんて嫌いだろう。争いも好きじゃない。誰かと敵対することも苦手だ。できるなら平和に終わらせたいと思っている。

 それでもやる。やらなければならないから。

 トリニティのために。

 生徒たちのために。

 自分が動かなければいけないと思っているから。

 

 私は目を閉じる。

 エデン条約。ゲヘナとの接触。ヒナとの会談。

 どれも危険だ。失敗すれば大問題になる。政治的にも、軍事的にも、命の面でも。

 それをナギサ自身が一番理解している。理解した上で進もうとしている。怖くないわけがない。不安じゃないわけがない。

 それでも歩く。立ち止まらない。

 それがどれだけ難しいことか、私は知っている。

 

 戦場でも同じだ。怖くない人間なんていない。本当に怖いのは怖いのに前へ進む人だ。

 私はナギサを見る。彼女は今も次の計画を説明している。

 地図。

 補給路。

 想定される妨害。

 会談場所。

 護衛配置。

 全部を整理している。

 たぶん昨夜も寝ていない。きっと何度も考え直した。何度も迷った。何度も不安になった。それでも結論は変わらなかった。

 会いに行く。

 歩み寄る。

 戦争を少しでも遠ざけるために自分が動く。私は胸の奥が少し熱くなるのを感じた。

 ああ。

 凄いと思った。

 純粋に。本当に。凄い。

 私は強いし、戦うことなら得意だ。撃つことも、壊すことも、突破することも。たぶん大抵の戦場はどうにかできる。

 

 でも。ナギサがやっていることは違う。

 誰かを撃つことじゃなく、誰かを守ることでもない。もっと難しい。互いに憎しみ始めた人たちを繋ぎ止めること。

 壊れる前に支えること。

 戦争を起こさせないこと。

 それは私にはできない。

 少なくとも今はできない。だから尊敬する。敬意を抱く。

 この人は本気だ。言葉だけじゃない。理想論だけでもない。ちゃんと自分で危険を飲み込んでいる。自分が傷つく可能性も、失敗する可能性も、全部理解して、それでも前へ進んでいる。だったら私は自然と笑っていた。

 

 助けようと思った。難しい理屈じゃない。損得でもない。義務でもない。ただ単純に友達だからだ。私が困っていた時ナギサは助けてくれた。

 私を信じてくれた。危険だと理解した上で、それでも必要だと言ってくれた。だったら今度は私の番だ。

 戦うことならできる。盾になることもできる。銃を向けられたら前に立てる。危険地帯を突破することもできる。それくらいしかできないけれど。それくらいなら、いくらでもやれる。

 

 私はナギちゃんの説明を聞きながら、小さく頷いた。

 大丈夫。たぶん何とかなる。いや、何とかする。だってこの人は、ここまで頑張っているのだから。それを支えないで友達を名乗るのは、少し格好悪いと思った。

 

 ティーカップを静かに置く音が響く。

 先ほどまで友人として話していたナギサの表情が、少しだけ変わった。

 ティーパーティーの一員。

 トリニティの政治家。そして、これから行われる作戦の責任者としての顔。

 

 私は自然と背筋を伸ばした。ナギサはテーブルの上に資料を並べる。

 そこにはゲヘナ方面の地図。

 予想進行ルート。

 危険地域。

 過去の襲撃記録。

 様々な情報が整理されていた。

 

「それでは改めてブリーフィングを開始します」

 

 穏やかな声だった。けれど、その奥にある緊張も私は感じ取っていた。

 

「今回の目的は単純です」

 

 ナギサは地図を指差す。

 

「ゲヘナ自治区へ到達し、風紀委員長である空崎ヒナとの接触をして、そして無事にトリニティへ帰還すること以上です」

 私は頷く。

 簡単なようで難しい。こういう任務ほど厄介だ。戦争なら敵を倒せばいい。でも護衛任務は違う。守り切らなければ失敗になる。

 

「想定される脅威ですが」

 

 ナギちゃんが次の資料を開く。

 

「まずゲヘナの各部活動です」

 

 私は苦笑した。それだけで十分危険だった。

 ゲヘナは自由だ。自由すぎる。善意で爆発を起こす人もいる。面白そうだから襲撃する人もいる。善悪ではなく、ノリで動く。正直、予測が難しい。

 

「次にアリウス」

 

 空気が少し重くなる。

 

「暗殺者たちです」

 

 私は静かに頷く。こちらは笑い事ではない。

目的を達成するためなら手段を選ばない。真正面から来る保証もない。

 毒。

 狙撃。

 爆発物。

 なんでもありだ。

 

「そして最後に」

 

 ナギちゃんが少しだけ困ったような顔をした。

 

「普通のチンピラです」

「普通かなぁ……」

「ゲヘナ基準なら普通です」

「なるほど」

 

 妙に納得してしまった。私は椅子にもたれながら資料を見る。

 危険だ。間違いなく。不思議と不安はなかった。今までだって似たような修羅場はいくらでもあった。

 

 私は生き残った。今回もたぶん大丈夫だろう。そんな楽観が自然と湧いてくる。ナギちゃんは少し黙る。そして。今までの作戦説明とは違う声で話し始めた。

 

「一つだけ。作戦とは関係ありませんが」

 

 私は顔を上げる。ナギサが私を見ていた。

 真っ直ぐ。

 逃げずに。

 真剣に。

 

「みんなは貴方を恐れます」

 

 静かな声だった。

 

「怒る人もいます。警戒する人もいます。危険だと思う人もいます」

 

 私は黙って聞く。それは事実だから。壁越え以降、そういう視線には慣れていた。

 猟犬。暴力装置。怪物。

 色々言われた。別に気にしていない。そう思っていた。でも。次の言葉は少しだけ予想外だった。

 

「ですが」

 

 ナギちゃんは微笑む。

 

「私は貴方を信じています」

 

 私は目を瞬かせる。

 

「貴方がどんな人なのか知っています。どれだけ優しいか知っています。どれだけ誠実か知っています。どれだけ他人のために動けるか知っています」

 

 その言葉は不思議なくらい真っ直ぐだった。

 政治的な言葉じゃない。

 上司としてでもない。

 一人の友人としての言葉。

 

「そして」

 

 ナギサは少しだけ視線を逸らして。

 本当に少しだけ頬を赤くした。

 

「私は貴方のことが大好きです」

 

 思わず笑いそうになる。でも茶化したくなかった。それくらい真剣な言葉だったから。

 

「素晴らしい人だと思っています」

 

 テラスに風が吹く。

 花びらが揺れる。

 私は何も言えなかった。

 ナギサは少し照れたように咳払いした後、再び責任者の顔へ戻る。

 

「だからお願いがあります」

 

 その声は少しだけ弱かった。きっと本人は隠しているつもりなのだろう。でも私は知っている。ナギちゃんは怖がりだ。不安になる人だ。それでも前へ進む人だ。

 

「私は秩序と安定のために行動します。戦争を少しでも遠ざけたい。三勢力の衝突を避けたい。そのためにゲヘナへ行きます」

 

 一拍。

 

「ですが危険です」

 

 ナギちゃんは静かに言った。

 

「正直に言えば怖いです。何が起きるかわかりません。失敗するかもしれません。襲撃されるかもしれません。帰れないかもしれません」

 

 その本音に、私は少しだけ目を細める。

 この人は本当に正直だ。怖くないふりをしない。不安を隠し切れない。

 それでも歩く。だから尊敬できる。

 

「ですから」

 

 ナギちゃんは深く頭を下げた。

 トリニティの指導者が。

 ティーパーティーの一員が。

 私に。

 

「どうか私を守ってください。貴方にしか頼めません」

 

 私はその姿を見て自然と笑っていた。

 大丈夫。

 そんな言葉が自然と浮かぶ。だって、この人はここまで頑張っている。だったら私がやることは一つだけだ。

 私は立ち上がり、胸を軽く叩いた。

 

「任せて」

 

 そしていつもの調子で笑う。

 

「ナギサは難しいこと考えてればいいよ。危ないことは私が何とかするから」

 

 それは根拠のない自信だった。でも不思議と。ナギサは少し安心したように微笑んだ。

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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