■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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【チャプター①】ゲヘナ探索③

 

 背筋が冷えた。理由はわからない。視界には何も映っていない。音もない。気配もない。

 それなのに、首筋を氷の指でなぞられたような悪寒だけが、じわりと全身を這い上がってくる。

 

 嫌な予感だけがあった。

 戦場で何度も死線を潜り抜け、何度も命を拾ってきた経験が、理屈を置き去りにして警鐘を鳴らしている。

 

 ――後ろ。

 私は反射的にナギサの肩を抱き寄せる。

 

「っ!?」

 

 ナギサが驚く。

 その瞬間だった。

 赤い閃光が走る。

 鋭く二本。正確に私の頬を掠めた。

 熱い。皮膚が僅かに焼ける。もし反応が一瞬でも遅れていたら。頬では済まなかっただろう。たぶん頭を撃ち抜かれていた。

 私は振り返る。

 そこにいたのは黒いコート。

 レーザーハンドガン。そして見慣れた顔。

 鬼方カヨコだった。

 カヨコは珍しく目を丸くしていた。

 

「なんでわかったの?」

「なんとなく」

 

 私が答える。

 カヨコは数秒黙った。

 それから。

 

「キッショ」

 

 酷い言われようだった。でも否定できない。私自身、説明できないのだから。

 ただ。今はそんなことを考えている場合じゃない。

 私はライフルを構える。

 カヨコを見る。カヨコもこちらを見る。

 その瞳には迷いがなかった。

 依頼を遂行する者の目。

 敵を見る目だ。だったら私も同じだ。

 デートした相手でも、元恋人でも今は戦場だった。

 

「来るの?」

「依頼だから」

「そう」

「うん」

 

 それだけだった。

 余計な言葉はない

 言い訳もない。

 次の瞬間、私は引き金を引いた。

 バーストライフル。

 三点射。

 三点射。

 三点射。

 連続する発砲音が空気を震わせ、圧縮された弾幕が一直線にカヨコへ襲い掛かる。だが姿が消えた。

 光学迷彩。

 視界から完全に消失する。普通の相手なら厄介だ。けれど私は前へ出る。迷わない。

 カヨコは距離を取る。

 距離を取って狙撃する。隠れて暗殺する。そういう戦い方だ。なら近付けばいい。

 私は地面を蹴る。

 加速。爆発的な推進力で距離を詰める。

 右。

 左。

 上。

 

 レーザーが飛ぶ。

 

 避ける。

 避ける。

 避ける。

 焼けるような光線が髪を掠め、肩を掠め、足元を穿つ。それでも止まらない。そして肉薄。

 

「っ!」

 

 カヨコの表情が変わった。

 近い。近すぎる。暗殺者にとって最悪の距離。

 私は銃床を叩き込む。

 カヨコが後退する。追う。さらに追う。逃がさない。

 カヨコは再び姿を消す。でも意味がない。

 私は突っ込む。

 気配。

 音。

 空気の流れ。

 僅かな足運びの振動。

 全部を頼りに位置を読む。そして再び接近。

 

「うわ」

 

 カヨコが本気で嫌そうな顔をした。

 

「近い」

「逃がさない」

「重い」

「そっちが襲ったんでしょ」

「それはそう」

 

 言いながらも後退を続ける。完全にペースは私だった。あと少し。あと一歩。そこまで追い詰めた時だった。

 

 空間が割れる。

 ガラスが砕けるような音。

 黒い裂け目。そして銀髪の少女が現れた。

 私とカヨコの間に。

 何の前触れもなく私は反射的に停止する。

 

 少女は変わらず穏やかな顔だった。そしてカヨコが一歩下がる。

 

「助かった、依頼人」

「いいよ」

 

 少女は答える。

 

「でも難しそうだね」

「でしょ」

「私は強いから」

 

 少女は当たり前のように言った。

 

「命を奪わず倒すのは難しい」

「すごい自信」

「世界を滅ぼすのは得意だから」

 

 私は数秒黙った。聞き流してはいけない発言だった気がする。でも本人は真面目な顔をしている。冗談に見えない。だから余計に怖い。

 私はライフルを下ろさないまま問い掛ける。

 

「それで」

「改めて聞くけど」

「誰なの?」

 

 少女は静かに微笑んだ。

 

「ん」

 

 そして。

 

 少しだけ嬉しそうに言う。

 

「私は砂狼シロコがテラー化した存在」

 

 聞き慣れない単語だった。けれど少女は続ける。

 

「ついでに未来の姿でもある」

「未来?」

「ん」

「だから」

 

 少女は私を見る。

 真っ直ぐに。

 愛おしそうに。

 どこか懐かしそうに。

 

「貴方からはシロコテラーって呼んでほしい」

 

 私は少し考えた。

 よくわからない。

 本当に何もわからない。でも本人がそう呼んでほしいなら。

 

「わかった」

「シロコテラーさん」

 

 少女の表情が少し柔らかくなる。

 

「ありがとう」

「それで」

「目的を聞いてもいい?」

 

 私が尋ねる。

 

 シロコテラーは首を傾げた。そして本当にあっさりと答える。

 

「ん」

「会いたくて来た」

「それだけ」

「それだけ?」

「それだけ」

 

 怖い。やっぱり怖い。でも敵意はない。本当にない。それだけはわかった。シロコテラーはナギちゃんを見る。

 それから再び私を見る。

 

「空崎ヒナとの同盟締結。頑張って。応援してる」

「ありがとう」

 

 私が答えるとシロコテラーは満足そうに頷いた。

 

「じゃあまた」

 

 空間が再び割れる。

 黒い裂け目。

 別世界への扉みたいな亀裂にシロコテラーはその中へ歩いていく。

 

 最後まで私から目を離さないまま。

 

「またね」

 

 そして。

 姿は消えた。裂け目も閉じる。

 静寂。残されたのは私たちだけだった。私は数秒その場に立ち尽くした。そして。

 

「……なんだったんだろう」

 

 心の底からそう呟いた。隣でナギサも珍しく困った顔をしていた。

 

「私にもわかりません」

 

 その返答に私は思わず苦笑した。

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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