元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!! 作:あばなたらたやた
キヴォトスの空は重たい灰色の雲に覆われていて、冷たい雨が絶え間なく降り注いでいた。
ゲヘナ学園の自治区は、濡れたアスファルトと建物と意欲的な建築物が混ざり合って、いつも以上に混沌とした空気を漂わせている。
私は傘も差さずに、ずぶ濡れのまま狭い路地を歩いていた。髪が顔に貼りつき、服が重く体にまとわりついてくるけど、そんなことはどうでもよかった。
ポケットからキャンディーを取り出して口に含む。甘さが、雨の冷たさを一瞬だけ和らげてくれた。
雨の日は、いつもあの記憶が蘇る。ミレニアムの生徒だった頃、好奇心でゲヘナの自治区を観光していた私をヘルメット団が襲ってきた日。乱雑な銃声と罵声の中で、クールな声と鋭い眼光で現れた少女――鬼方カヨコ。
彼女は無駄のない動きで敵を蹴散らし、私に手を差し伸べてくれた。あの日の白い髪と赤い瞳は、今でも脳裏に焼き付いている。
「……今、何してるのかな」
呟きは雨音に消えた。カヨコは、私が「試した」相手の多くとは違う。特別な存在だった。
恋人というより、親友に近い関係。
彼女のクールな態度と、深いところで繋がっている感覚が、私の心に小さな居場所を作ってくれていた。
気まぐれと懐かしさに突き動かされて、私はゲヘナの自治区の奥へ足を踏み入れた。
雨に濡れた通りは、武装したロボットやヘルメット団が蠢く戦場みたいだ。路地に私の姿が現れると、すぐに敵意の視線が集まった。不良生徒か、ただの荒くれ者か――いずれにせよ、ヘルメット団の連中が私を囲む。リーダーらしき奴が、錆びた銃器を振りかざして叫ぶ。
「貴様! ここにいるということは奴らの仲間だな! お前をエサに他の奴らも全員血祭りにあげてやる!」
私はキャンディーを舌で転がしながら、首を傾げた。
「何の話?」
声は軽く出た。次の瞬間、私の体が動く。拳がリーダーの腹に沈み、別の奴の銃を奪って無造作に投げ飛ばす。
雨の跳ねるアスファルトに、倒れた敵の呻き声が響いた。戦いが終わって、雨音だけが路地に残る中、陰から白い髪がひょっこり覗いた。
赤い瞳が私を捉えて、クールな声が雨を切り裂く。
「カノ?」
私の顔がぱっと明るくなった。キャンディーを口から外す。
「カヨコじゃん。やっほー、どうしてこんなところにいるの?」
カヨコは黒いコートを着て、雨に濡れた白い髪を軽く払う。いつも通り無愛想だけど、赤い瞳に懐かしさと微かな驚きが滲んでいる。
「それはこっちのセリフ。ごめん、巻き込んだみたい。風邪ひくからうちで風呂入っていきな」
「カヨコの家ってこのへんなの?」
「このへんだよ。で、どうする?」
「行く行く!」
声が弾んだ。昔の冒険を思い出したみたいに。カヨコの住処は、自治区の外れにある雑居ビルの最上階。
狭い部屋は簡素な家具と音楽プレーヤー、散らかった楽譜で埋まっている。
雨の音が窓を叩き、薄暗い照明がカヨコの白い髪を柔らかく照らしていた。風呂を借りて、濡れた服を脱ぎ、カヨコの大きめのシャツを着た。
髪はまだ湿っているけど、キャンディーを口に含んでソファに寝転がる。カヨコはキッチンでインスタントコーヒーを淹れながら、クールに聞いてきた。
「随分久しぶりだね。ミレニアムを出てから、何してた?」
「色々だよ。ゲマトリアで探求したり、トリニティでナギサと揉めたり、ミレニアムでリオやウタハと再会したり。ナグサとも最近、付き合い始めたんだ」
カヨコの赤い瞳が一瞬細まった。コーヒーカップを持ってソファに腰掛ける。
「相変わらずだね。節操がない」
軽い皮肉と、懐かしさが混じった声。私はソファから身を起こして、カヨコの肩に寄りかかった。
「カヨコはどう? 便利屋68で忙しいんでしょ?」
「まぁね。相変わらず騒がしい。けど、悪くない」
そっけない言葉だけど、仲間への信頼が滲んでいる。私はカヨコの白い髪を指で弄びながら、軽く笑った。
「カヨコ、昔と変わんないね。クールで、でも優しい」
カヨコは私の手を軽く払って、赤い瞳で睨む。
「カノが勝手に懐いてるだけでしょ。風呂上がりのコーヒー飲む? インスタントだけと」
「飲む飲む。カヨコのコーヒー、懐かしいな。上手いんだよね」
「いや、インスタントだから味は変わらないって」
二人はコーヒーカップを手に、雨の音を聞きながら静かな時間を過ごした。ナグサとの関係や、ナギサの執念、リオやウタハとの複雑な過去――それらが一瞬遠ざかって、カヨコとのシンプルな繋がりが胸を温かくした。
カヨコが隣に移動してきて、肩が触れ合う。赤い瞳は雨の降る窓を見つめている。
「なんで隣? 普通は対面じゃない?」「良いでしょ、別に」
そっけないけど、無意識に距離を縮めたい気持ちが伝わってくる。私はキャンディーを口に含みながら、ふと真剣に聞いた。
「カヨコは、私がいなくなったあと、悲しかった?」
カヨコの動きが止まって、カップを握りしめる。
「悲しかったよ。でも、仕方がないとも思った」
クールさを保ちながら、微かな傷が隠せない。私はキャンディーを外して、静かに言った。
「私も寂しかった」
カヨコの赤い瞳が私に向く。小さく息を吐いて。
「はぁ、ならなんで連絡を絶ったの」
苛立ちと未練が混じった声。私は目を伏せて、掠れた声で答えた。
「だって、迷惑かけちゃうし。便利屋にも被害がとんでいくのは嫌だからさ」
カヨコを巻き込まない為にやった行動の罪悪感と、絆を失った寂しさが胸に渦巻く。
過去の痛みは消えない。カヨコは私の肩にそっと頭を預けて、呟いた。
「便利屋はともかく、私にはいくら迷惑かけて良いのに。で、なんでそんな話をするの?」
「いや、私も寂しかったなって」
「はぁぁぁ、面倒臭い女」
「ごめんごめん」
軽く笑ったけど、心の奥で罪悪感が疼く。カヨコの肩に頭を預けたまま、彼女が静かに言う。
「もう、あの頃みたいには戻れないのかな」
その言葉は、カヨコの心の奥からの願いだった。私はカヨコの髪を撫でて、静かに答えた。
「戻れないよ。だって私、今彼女いるもん」
カヨコの体が一瞬硬くなったけど、すぐに肩をすくめる。
「そっか。さっき言ってたもんね。なら、仕方ないね」
クールさを取り戻した声。でも、赤い瞳に微かな寂しさが滲む。私はカヨコの肩を抱いて、軽く笑った。
「でも、友達としてはこれからもよろしくね、カヨコ」
カヨコは私の肩に頭を預けたまま、小さく頷く。
「うん、もちろん」
雨音が部屋に響く中、二人はコーヒーを飲みながら静かな時間を過ごした。カヨコとの再会は、私にとって一時的な安息だった。
面倒な現実を忘れさせてくれる、優しい鎮痛剤みたいに。
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