■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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【チャプター②】アヤメとナグサ①

 

 百鬼夜行への道を歩きながら、私は何度も夢の内容を反芻していた。

 七稜アヤメ。

 真面目で、優秀で、責任感が強い。

 そういう言葉で片付けるのは簡単だ。でも、あれはそんな単純な話じゃない。

 アヤメは苦しんでいる。

 誰かに傷つけられたからではない。自分自身に責め続けられているからだ。

 人を助けたい。困っている人を見捨てたくない。その優しさが少しずつ義務になり、呪いになり、自分を縛る鎖になってしまった。

 

 周囲に頼られれば助ける。

 疲れていても助ける。

 嫌だと思っても助ける。

 そしてそのたびに『嫌だ、と思ってしまった自分は最低だ』と自分を裁く。

 まるで終わらない裁判だ。

 被告人も裁判官も検察官も全部アヤメ自身。だから誰も止められない。

 私は小さく息を吐いた。

 

「……辛いな」

 

 思わず漏れた言葉だった。

 きっとアヤメは弱くない。むしろ強い。強すぎる。だから壊れそうになっている。

 人は弱い。

 失敗もする。

 誰かに頼る。

 それは当たり前のことだ。だけどアヤメは、その当たり前を自分にだけ許せない。

 

 自分だけは完璧でなければならない。

 自分だけは助ける側でなければならない。

 そう思い込んでいる。そして誰にも言えなかった。

 

『助けて』

 

 という一言を。

 私は立ち止まる。

 もし今のアヤメに会ったとして。

 私は何を言うのだろう。

『頑張ったね』だろうか。

『休んでいいよ』だろうか。

 違う気がした。

 

 アヤメは賢しく優しい。だからそんな言葉を向けられても、『私はまだ頑張れていません』『より大変な人がいます』『休む資格なんてありません』と返してしまう気がする。

 

 それは彼女が素直じゃないからではない。

 本当にそう信じているからだ。なら私は何をすればいい。

 

 考える。

 ずっと考える。そして一つだけ分かったことがあった。

 

 私にアヤメを救えない。少なくとも私が一方的に救うことはできない。だって彼女は今までずっと救う側だった。だから「救われる」という行為そのものが分からない。

 受け取り方を知らない。なら私がやるべきことは救世主になることじゃない。

 

 隣に立つことだ。助ける人と助けられる人になるんじゃない。同じ人間になる。完璧な委員長じゃなく、百花繚乱の象徴でもなく、強い人でもなく、ただの七稜アヤメとして話す。

 

 愚痴を聞く。

 文句を聞く。

 弱音を聞く。

 苛立ちも聞く。

 綺麗じゃない感情も聞く。そして否定しない。

 

『そんなこと思っちゃ駄目だよ』

 

 なんて言わない。だって思ってしまったものは仕方ない。

 人間なんだから。

 私は少し笑った。

 

「案外、難しいな」

 

 救う方法は分からない。

 正解も分からない。だけど一つだけ決めている。

 もしアヤメが、『助けてほしい』と言えないのなら私の方から隣に座ろう。

 もしアヤメが『休みたい』と言えないのなら一緒にサボろう。

 もしアヤメが『苦しい』と言えないのなら。

 私が先に苦しいと言おう。

 そうやって少しずつ。

 委員長でも英雄でもない七稜アヤメを知りたい。

 そしていつか、彼女が自分自身を許せるようになった時。

 

 その時はきっと。

 誰かを救うことしか知らなかった少女が初めて誰かに救われることを覚えるのだと思う。

 私は百鬼夜行へ向かって歩き出した。

 会いたい。助けたいからじゃない。救いたいからでもない。

 ただ今までずっと一人で頑張ってきた少女にひとりじゃないと伝えたかった。

 

「仕事もしないとね」

 

 トリニティから私に与えられた立場は『同盟の使者』だった。

 超常特異現象。

 デカグラマトン。

 アリウス。

 そして、その裏で糸を引いているかもしれない黒幕。

 

 一つの学園だけで解決できる問題ではない。だからこそ、今は少しでも味方を増やしておくべきだった。

 

 そんなわけで私は百鬼夜行連合学院を訪れ、紛争調停委員会の会議室へ案内されていた。

 

 部屋に入る。

 そこには二人の少女がいた。

 一人は金髪をおさげにまとめた少女。明るい雰囲気を纏い、人当たりも良さそうだ。夢で見た顔。

 七稜アヤメ。

 

 そしてもう一人。

 銀髪の長いストレートヘアを揺らす少女。どこか儚げで、人との会話があまり得意ではなさそうな雰囲気を感じる。

 御稜ナグサ。

 

 私は二人へ軽く頭を下げる。

 

「トリニティ正義実現委員会所属、元鞘です。本日はよろしくお願いします」

 

 するとアヤメが朗らかな笑みを浮かべた。

 

「遠いところからありがとう、元鞘さん。トリニティが提案してくれた最近の治安悪化に伴い、学園都市全体で協力していく姿勢には賛成です。良好な関係を築いていきましょう」

「ありがとうございます」

 

 形式的な挨拶。だけど彼女の口調は柔らかい。話しやすい空気を作るのが上手い人だ。けれど私は知っている。

 

 その笑顔の裏で、彼女がどれだけ疲弊しているのかを。

 

 もちろん今は知らないふりをする。

 夢のことを話しても仕方がない。

 まずは普通に話すべきだ。

 アヤメは少し困ったように笑った。

 

「ただこっちもトラブルがあって、そっちの復興が終わらないと、なんともね」

「なるほど。なら物資に関してはトリニティから送ってもらえるよう相談してみます」

 

 一瞬。

 アヤメの表情がぱっと明るくなった。

 

「本当に!? 助かります、ありがとうございます!」

 

 その反応を見て私は確信する。

 予想以上に切羽詰まっている。

 余裕があるなら、ここまで露骨に喜ばない。

 

「今、どんな状態なのかわからないので、被害地域を見て回ることはできますか?」

 

 私が尋ねると、アヤメは少し眉を下げた。

 

「危険ですけど、大丈夫?」

「ええ」

 

 私は後ろを振り返る。

 

「私には優秀な護衛がいますから」

 

 部屋の壁際。

 静かに立っていた少女が小さく肩をすくめた。

 

 鬼方カヨコ。

 今回、私が護衛として同行を頼んだ相手だ。

 相変わらず気怠そうな表情。

 眠そうな目。だけど実力に関しては疑う余地もない。むしろ護衛としては過剰戦力かもしれない。

 カヨコは短く言う。

 

「面倒事なら慣れてる」

 

 それだけだった。けれど十分だった。

 アヤメは少し安心したように頷く。

 

「なるほど。それなら案内できるかな」

 

 そう言って立ち上がる。

 私はその様子を見つめる。

 動作は自然だ。

 笑顔も自然だ。

 受け答えも完璧だ。

 

 だからこそ分かる。

 頑張りすぎている人の空気だった。

 誰かに頼る前に自分が動く人。

 弱音を吐く前に仕事を優先する人。

 助けられるより助けることを選び続けた人。

 今はまだ何も言わない。いきなり踏み込むつもりもない。

 信頼関係もない相手に『無理してるよね』なんて言われても困るだけだ。だから今日は見る。

 

 百鬼夜行の現状を。

 アヤメの仕事ぶりを。

 ナグサとの関係を。

 そして七稜アヤメという人間を。

 委員長としてではなく。

 英雄としてでもなく。

 一人の少女として知るところから始めようと思った。

 

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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