■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!! 作:あばなたらたやた
百鬼夜行の復興支援に関わるようになってから、いくつかのことが見えてきた。
表向き、私たちの目的はきれいな言葉で飾られている。百鬼夜行の復興支援、物資や技術の提供、人員派遣に治安維持協力……けれど、その綺麗に調えられた建前の裏には、トリニティとしての明確な「本音」が隠されている。
百鬼夜行との関係を強化し、超常現象の共同研究を進め、彼女たちの持つ特殊技術を共有すること。そして何より、将来の脅威に備えた共同防衛体制を構築すること。
私たちが差し伸べる手には、未来の利益を見据えた計算が含まれている。だからこそ、その交渉相手である「百鬼夜行紛争調停委員会」には、揺るぎない組織であってもらわなければ困るのだ。
私は机の上に置かれた資料を手に取る。
そこには百鬼夜行が保有する特殊技術の一覧がまとめられていた。
百蓮。
結界術式。
神秘の運用技術。
超常災害への対処記録。
古い歴史の中で蓄積された知識。
私は資料へ視線を落としながら口を開いた。
「さて」
ナギサとカヨコがこちらを見る。
「今度は組織改革の任務じゃなくて、外交の情報共有をしてほしい」
そう言いながら資料を机の中央へ滑らせる。
「トリニティが本当に欲しいもの。ミレニアムが本当に欲しいもの」
ナギサが少しだけ笑った。その笑みはいつもの優雅なものだったが、同時に政治家の顔でもあった。
私はそれを見て苦笑する。
「まぁ隠さなくていいと思う。さっき話した通り百鬼夜行の技術が欲しいんでしょ?」
ナギサは否定しなかった。むしろ即答した。
『欲しいですね』
あまりにも即答だったので少し笑ってしまう。
ナギサは紅茶を一口飲みながら続ける。
『百蓮は非常に価値があります。神秘への干渉技術。超常現象への対処ノウハウ。結界技術。どれもトリニティ単独では持っていない知識です』
私は頷く。当然だった。学園ごとに得意分野は違う。
トリニティは教育と統治。
ミレニアムは技術と研究。
百鬼夜行は神秘と伝統。
それぞれが異なる歴史を歩んできた。だからこそ持っている技術も違う。
ナギサは続けた。
『そしてミレニアムはもっと露骨でしょうね。研究者達は未知の技術を好みます。むしろ抑える方が難しいと思います』
私は容易に想像できた。ミレニアムの研究者達が百蓮の資料を見つけた瞬間たぶん目を輝かせて、徹夜する。研究室へ引きこもり、予算を要求する。
非常に想像しやすい。
その時、今まで静かだったカヨコが口を開いた。
「でも」
短い言葉。
私は視線を向ける。カヨコは腕を組んだまま続けた。
「技術を欲しがる理由は理解できる。ただ奪うの?」
部屋が静かになった。
私はその質問を頭の中で反芻する。
奪う。
簡単な言葉だ。そして現実にはよくある話でもある。
技術を奪い、情報を奪い、利益を奪う。戦争の歴史を見れば珍しいことではない。だが、ナギサは即座に首を横へ振った。
『愚策です』
その声には迷いがなかった。
『仮に技術だけを手に入れても意味がありません。運用者の知識、経験、文化、思想。それらも含めて技術です。そして何より』
ナギサは少しだけ目を細めた。
『信頼を失います』
私はその言葉に強く頷く。
まさにその通りだった。技術だけなら盗めるかもしれない。だが味方は作れない。そして今必要なのは技術だけではない。
私は資料を閉じた。
「私は共同研究が良いと思う」
ナギサがこちらを見る。
『理由は?』
私は少し考える。そして窓の外へ視線を向けた。復興中の街が見える。壊れた家。修理される建物。そこに暮らす人々。
「長期的な利益かな」
私はゆっくり答えた。
「正直、もう学園一つで何とかなる段階を過ぎてる気がする」
そう言いながら私は別の資料を取り出した。
デカグラマトン関連の報告書。
それを見た瞬間、空気が少し変わる。
私は何度もその資料を読んでいる。
読むたびに思う。
嫌な敵だ。本当に嫌な敵だ。
正体も規模も見えない。目的も見えない。能力も見えない。当たり前だが見えている情報より見えていない情報の方が圧倒的に多い。
「デカグラマトン」
その名前を口にする。
私は資料を見ながら続けた。
「これが一番怖い」
ナギサも同意するように頷いた。
『情報不足です。敵を分析するには材料が少なすぎます。不気味ですね』
私は資料を閉じる。そして次の資料を開いた。
アリウス。
こちらは少し事情が違う。
敵の姿は見えている。構成員もいる。活動も確認されている。だが、それでも分からないことや不気味なものが多い。
「アリウスも同じ。見えているようで見えていない。資金源も不明、技術供給元も不明、背後関係も不明」
私は小さく息を吐く。そして最後の資料へ手を伸ばした。
黒幕。
まだ名前も分からない存在。しかし確実に存在している何か。私はその資料を眺めながら呟く。
「そして一番嫌なのが、黒幕がいること」
カヨコが頷いた。
「同意」
短い返答だった。だけど十分だった。私達は皆同じことを考えている。もし黒幕がいるなら、それはデカグラマトンやアリウスを利用している可能性がある。
つまり敵の上にいる敵だ。盤面を動かしている存在だ。ナギサが静かに口を開く。
『私個人の意見ですが、最終的に最も危険なのは黒幕です。当然ですが』
私は黙って聞く。
『デカグラマトンは脅威です。アリウスも脅威です。ですが彼女は駒かもしれない。しかし、もし盤面を作っている存在がいるなら、それらを操る存在がいるなら、やはり危険です』
私は深く頷いた。
同じ意見だった。そしてその瞬間、全てが一本の線で繋がった気がした。
百鬼夜行との同盟。
技術交流。
共同研究。
復興支援。
組織改革。
全てだ。
全部が未来へ繋がっている。
今の私達は復興支援をしている。だけど本当は違う。
もっと先を見ている。
その時に来るかもしれない大きな戦い。
それに備えている。
「問題を整理して、利害を確認して、妥協点を探す。そして合意する」
それだけだ。
私は椅子へ深く腰掛けながら、ノートパソコンの向こうにいるナギサを見る。
トリニティを代表する少女。
責任者であり、政治家であり、交渉人であり、そして私より遥かにそういうことが得意な人。
正直に言うと私は少し安心していた。
百鬼夜行へ来てから、アヤメの問題やナグサの問題を考え続けていた。
どう支えるか。
どう救うか。
どう壊さずに変えるか。
そんなことばかり考えていた。
だからこそ、こういう現実的な問題については、ナギサがいてくれることが本当にありがたかった。
「ねぇナギサ」
私が呼びかけると、画面の向こうでナギサが顔を上げる。
『何でしょう?』
「こういうの、私より得意だよね」
『当然です』
即答だった。あまりにも即答だったので思わず吹き出してしまう。
カヨコも小さく肩を震わせていた。
『私はトリニティの代表です。学園間交渉もします。予算交渉もします。外交もします。時には脅しもしますから』
「最後怖いなぁ」
『必要なら、です』
優雅に微笑む。
怖い。でも頼もしい。たぶんアヤメみたいな人が正面から道を切り開く英雄なら、ナギサは盤面そのものを整える人なのだろう。つまり黒幕はナギサと似たようなタイプだろうな、と思った。
私は机へ頬杖をついた。
「じゃあ任せる」
『何をです?』
「解決策」
ナギサが少しだけ目を細めた。
その瞬間、頭の中で何かのスイッチが切り替わったのが分かる。
普段のナギサではない。
ティーパーティーとしてのナギサだった。
私はその姿を見ながら思う。たぶん、こういう時のナギサはアヤメより怖い。
カヨコより怖い。
敵に回したくない。
本当に。
『では整理しましょう』
ナギサが淡々と言う。
『まずトリニティ側の目的です』
百鬼夜行との同盟。
超常技術の共同研究。
防衛体制の強化。
将来的な協力関係。
『この四つです』
私は頷く。
その通りだ。
『そして百鬼夜行側の目的』
トリニティからの復興支援。
人的支援。
技術支援。
物資支援。
『最後に外交的後ろ盾』
私は思わず感心する。
流石だった。整理が早い。頭の中で複雑に絡まっていた問題が、一つ一つ分解されていく。
ナギサは続ける。
『つまり利害は一致しています』
私は頷く。
「うん、そうだね」
『ええ』
ナギサは即答する。
『トリニティは百鬼夜行が欲しい。百鬼夜行は支援が欲しい。なら交換すれば良い』
恐ろしいほどシンプルだった。
私は思わず笑う。
「そういう言い方すると身も蓋もないなぁ」
『外交とはそういうものです』
ナギサは平然としている。
『友情だけでは続きません。利益だけでも続きません。両方必要です』
私は納得した。
確かにその通りだ。善意だけでは長続きしない。だが利益だけでも破綻する。
両方が必要なのだ。
カヨコが口を開いた。
「問題は百鬼夜行が技術を渡すか、かな」
『渡しませんね。百蓮は百鬼夜行の象徴です。復興支援の代わりに渡せと言われて渡すほど安いものではありません』
私は頷く。
その感覚は理解できた。だからこそナギサは続ける。
『なので共同研究、共同開発、共同運用、共有路線です。所有権は奪わず、共に新しい道を進む』
私は思わず感心する。
なるほど、確かにそれなら受け入れやすい。技術は共有するが、文化や歴史は尊重する。
非常にナギサらしい合理的な解決策だった。そして話題は自然と未来へ移っていく。
デカグラマトン。
アリウス。
そして黒幕。
「大変だなぁ」
スケールが小さい問題も、大きな問題も、悩みの種だ
交流がみたい元カノは?
-
桐藤ナギサ(孤立操作
-
白石ウタハ(献身依存
-
調月リオ(崇拝偏愛
-
鬼方カヨコ(他者排除
-
仲正イチカ(自傷憎悪