■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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【チャプター②】不信の軍勢③

 

 崩れた街の中心部。

 黒煙が空を覆い、燃え残った木材がぱちぱちと音を立てる。

 

 風が吹くたび、黒い灰が雪のように舞い上がった。その静寂を切り裂くように、地面へ黒い泥が滴り落ちる。

 

 ぴちゃり。

 ぴちゃり。

 

 不快な音と共に、瓦礫の隙間から影が這い出してくる。

 私は銃を構えた。隣ではアヤメも百蓮を静かに構え、その表情を強張らせている。

 

「……来る」

 

 空気が重くなる。

 肌を刺すような悪寒。

 デカグラマトン反応。

 クロカゲ反応。

 二つの異質な気配が、一つへと溶け合っていく。

 

 黒い泥が人の形を取り始めた。

 長い銀髪。

 夜桜の刺繍が施された羽織。けれど、その羽織は泥と返り血に染まり、もはや本来の美しさを失っている。

 

 頭上には歪んだ光輪。

 赤黒い演算式が絶え間なく明滅し、耳障りな電子音を響かせていた。

 顔を覆う鏡面の鉄仮面。

 そこへ映る私の姿は、ぐにゃりと歪み、人ではない何かへ変わって見える。

 右腕は巨大な長銃と完全に融合していた。まるで骨と鉄が区別なく癒着した、生きた兵器。

 その銃口が、ゆっくりと私へ向く。

 

「……ナグサ」

 

 私が名を呼ぶ。

 返事はなかった。代わりに仮面の奥から、小さな笑い声が漏れた。

 

「……ふふ。」

 

 獣が喉を鳴らすような笑い。

 壊れた機械のノイズが混ざった、不気味な声だった。

 彼女は銃口を微かに震わせながら、一歩踏み出す。

 

「見つけた」

 

 その声に、私は息を呑む。

 ナグサの声だ。

 間違いない。だけど、その響きは、あまりにも空虚だった。

 

「元鞘カノ」

 

 私の名前を呼ぶ。

 その瞬間、仮面へ映る私の姿が赤黒く滲んだ。

 

「貴方が全部、全部、奪った」

 

 私は黙って彼女を見つめる。

 否定はできない。

少なくともナグサには、そう見えてしまったのだから。

 彼女はゆっくりと首を傾げる。

 

「アヤメは、本当は分かってた。分かってたはずなの。私達が、一緒にいる場所が。私達の帰る場所が」

 

 その声は震えていた。

 怒りではない。悲しみだった。

 

「なのに。偽物」

 

 銃口が私を捉える。

 

「偽物の可能性が、私達から、アヤメを連れて行った」

 

 電子音が激しく鳴る。光輪が赤く点滅する。泥が彼女の足元から噴き上がり、獣の四肢のように蠢き始めた。

 彼女は一歩。

 また一歩。

 私へ近付いてくる。

 

「私は何でもできなかった。アヤメみたいじゃなかった。でも」

 

 仮面越しでも分かるほど、その身体が震える。

 

「アヤメの隣だけは私の場所だった」

 

 一瞬、泣きそうな声になった。

 

「そこまで、奪わないで」

 

 その言葉に、胸が締め付けられる。

 これは憎悪じゃない。

 喪失だ。

 自分の居場所を失った少女の、最後の悲鳴だった。けれど、もう、その悲鳴は彼女自身のものだけではない。

 

 デカグラマトンの演算が混ざる。

 クロカゲの怨念が囁く。

 二つの異物が、その悲しみを際限なく増幅していく。

 

「今は、違う。これは間違っている」

 

 ナグサは首を横へ振る。

 

「これは全部、貴方が悪い」

 

 銃身が唸る。

 赤い照準線が私の胸へ重なった。

 

「元鞘カノ。貴方さえ消えればアヤメはきっと私のところへ帰ってくる」

 

 彼女はゆっくりと引き金へ指を添える。

 その指は震えていた。

 恐怖で。悲しみで。

 それでもなお、止まれない狂気によって。

 

「だから消えて」

 

 銃声が轟いた。

 それは開戦の合図だった。

 轟音。

 大気を裂くような銃声と共に、神鉄長銃から放たれた一撃が一直線に私の胸を貫こうと迫る。

 

 私は咄嗟に地面を蹴った。

 頬を掠める熱風。

 直後、背後の蔵が轟音と共に爆散し、太い柱が紙細工のように吹き飛んだ。

 

「威力が違う……!」

 

 以前のナグサなら、こんな火力は出せない。

 

 クロカゲ。

 デカグラマトン。

 その二つが融合した結果なのだろう。

 着地と同時に私はバーストアサルトライフルを構え、三点射を繰り返した。

 

 ダダダッ!

 ダダダッ!

 

 正確に胸部と肩を狙う。しかし。ナグサの姿が消えた。

 

「速い!」

 

 四足獣のような低い姿勢。

 瓦礫を蹴り、地面を滑り、常識ではあり得ない軌道で私の視界から消えていく。

 次の瞬間、背後に気配。

 私は振り返ることなく前方へ飛び込んだ。

 ゴォン!!

 巨大な銃床が地面を叩き潰す。石畳がめくれ上がり、破片が雨のように降り注ぐ。

 その衝撃波だけで身体が吹き飛ばされた。

 

「カノ!」

 

 アヤメの声。

 同時に乾いた狙撃音が響いた。

 百蓮、スナイパーライフルモード。

 超高速弾がナグサの肩を正確に撃ち抜く。しかし黒い泥が蠢き、傷口を覆う。

 まるで生き物のように弾丸を飲み込み、数秒で傷が消えていく。

 アヤメの表情が曇った。

 

「再生……!」

 

 ナグサさんは撃たれたことなど意にも介さず、仮面越しにこちらを見る。

 

「アヤメ」

 

 その声だけは少し柔らかかった。

 

「どうして? どうしてその人を守るの?」

 

 返事を待たず、長銃が縦に裂ける。

 ギギギギ……。

 金属が悲鳴を上げる。内部から溢れ出した黒い泥が巨大な刃を形成し、長銃は異形の大剣へと姿を変えた。

 私は息を呑む。

 

「変形……!」

 

 直後、視界から消えた。

 速すぎる。

 反応が一瞬遅れる。

 横薙ぎ。

 私はバーストサブマシンガンを交差させて受け止めた。

 

 ガァァン!!

 

 凄まじい衝撃。

 腕が痺れる。

 そのまま十メートル近く吹き飛ばされ、瓦礫へ叩き付けられた。

 

「くっ……!」

 

 肺から空気が抜ける。

 立ち上がるより早く、黒い泥が足元へ広がってきた。

 

 靴裏へまとわりつく。

 重い。

 足が動かない。

 嫌な感覚が頭の奥へ染み込んでくる。

 不安。焦燥。恐怖。誰かの負の感情が、自分のもののように流れ込んでくる。

 

「これが……クロカゲの泥!」

 

 私は泥を避けるように跳び退きながら、サブマシンガンを乱射した。

 弾丸が泥を弾き飛ばす。しかし、その奥からナグサさんが飛び出してくる。

 

「元鞘カノ!」

 

 大剣が振り下ろされる。

 私は横へ転がる。

 轟音。

 地面が真っ二つに割れ、黒い泥が噴水のように噴き出した。

 

「邪魔、邪魔、邪魔!」

 

 振るう。

 振るう。

 振るう。

 その剣筋は獣のように荒々しい。けれど、その一撃一撃は恐ろしいほど正確で、私の回避先を読んで置かれている。

 

「演算してる……!」

 

 デカグラマトンの計算能力。

 クロカゲの怪異。

 二つが完全に噛み合っている。

 

「カノ!」

 

 アヤメが叫ぶ。

 

「三秒!」

 

 私は意味を理解した。

 時間を稼げということだ。

 

「了解!」

 

 私はナグサへ真正面から駆け出した。

 恐怖を押し殺す。この距離なら考えるより反射だ。

 大剣が振り下ろされる。

 一歩、二歩、三歩。

 私は紙一重で懐へ潜り込み、ライフルをゼロ距離で撃ち込む。

 連続する銃声。泥が弾ける。

 ナグサさんの身体がわずかによろめいた。

 その瞬間だった。

 遠方。

 アヤメが静かに息を整え、百蓮を構える。

 引き金が引かれる。

 一発。

 世界が静止したかのような精密射撃。白い光が一直線に走り、ナグサさんの仮面へ命中した。

 甲高い破砕音が戦場へ響く。

 鏡面の鉄仮面に、一本の亀裂が走った。

 

 

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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