元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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【チャプター②】チャプター②最終話:恋人

 

 あの戦いから数週間。

 百鬼夜行自治区は、ようやく日常を取り戻し始めていた。

 焼け落ちた建物には新しい柱が立ち、崩れていた石畳は一枚ずつ丁寧に敷き直されていく。

 瓦礫を運ぶ百鬼夜行の生徒たちの中には、見慣れない制服の姿もあった。

 トリニティの復興支援部隊、その増援だ。資材の輸送。医療支援。そして、百鬼夜行の外縁部へ潜伏していたアリウス残党の掃討。

 百鬼夜行だけでは手が回らなかった任務を、両学園が肩を並べて進めている。街には久しぶりに、人々の笑い声が戻っていた。

 

 私は瓦礫の片付けを終え、一息つこうと委員会本部へ向かう。

 庭先では、一人の少女が静かに竹箒を動かしていた。

 

「ナグサ」

 

 私が声を掛けると、彼女は顔を上げ、小さく頭を下げた。

 

「こんにちは、元鞘さん」

 

 以前のような張り詰めた空気はない。

 あの日の戦いで負った傷は、まだ完全には癒えていないだろう。

 それでも、その表情には穏やかさが戻っていた。ナグサは箒を持ち直し、庭へ視線を戻す。

 

「今日は当番をやっているんだ」

「庭の掃除?」

「まだ修繕が終わっていない場所も多いから」

 

 その声は落ち着いていた。

 アヤメの名前を口にすることもない。以前なら考えられなかった変化だった。私は軽く手を振り、その場を後にする。

 執務室の扉を開けると、書類の山と格闘しているアヤメが顔を上げた。

 

「あ、カノ」

「おはよう、アヤメ。忙しそうだね」

「忙しいよ」

 

 苦笑しながら肩を竦める。

 

「復興計画に、各自治区との調整。それにトリニティとの共同会議……委員長って、本当にやることが多い」

 

 机の脇には、一挺の白銀の長銃が静かに立て掛けられていた。

 百蓮。

 あの日、闇を祓き、ナグサを救い出した神秘の銃。

 今では誰の目にも分かる。

 百蓮はアヤメを認めたのだ。

 百鬼夜行紛争調停委員会委員長。

 その名に相応しい人物として、名実ともに、アヤメは委員長になった。

 私は向かいの椅子へ腰掛ける。

 

「ナグサ、元気そうだった」

 

 その言葉に、アヤメは少しだけ微笑んだ。

 

「うん、まだ危ういところはあるけど……前へ進こうとしてる」

「前みたいに付きっきりじゃないんだね」

 

 アヤメは静かに頷く。

 

「付き従ってはくれるよ。でも、それだけ。必要以上には甘やかさない」

 

 私は黙って続きを待つ。

 アヤメは窓の外を眺めながら、小さく息を吐いた。

 

「私ね。やっと分かった。愛は、人を強くする」

 

 一拍置く。

 

「でも、駄目にする時もある。」

 

 その言葉は、自分自身へ向けたものでもあった。

 

「私はナグサに頼り過ぎてた。ナグサは私に寄り掛かり過ぎてた。お互いがお互いを支えているつもりで……実は、お互いを閉じ込めてたんだ」

 

 私は静かに頷く。

 あの日を思い出す。

 泣きながら「帰ってきて」と叫び続けたナグサ。

 世界を巻き込んででも、その場所を守ろうとした少女。あれは愛だった。けれど、同時に呪いでもあった。

 アヤメは優しく笑う。

 

「だから、私とナグサは、きっと少し距離があるくらいがちょうどいい。困った時には助ける。でも、自分で立てるところは、自分で立ってもらう」

 

 ちゃんと一人で立てるように。

 

「心の拠り所は、一人だけじゃなくていい。私じゃなくてもいい。そう思えるようになってほしい」

 

 私は自然と笑みを浮かべた。

 

「健全だ」

 

 アヤメは照れくさそうに笑う。

 

「そうかな」

「うん」

「今まで拒絶していた百蓮が認めた理由が、少し分かった気がする」

 

 アヤメは机の脇の百蓮へ視線を向ける。

 白銀の銃身が、窓から差し込む陽光を受けて静かに輝いていた。

 

「私は、まだまだ未熟。でも、今度は一人で抱え込まない。まずは貴方に相談する」

 

 その言葉には、以前にはなかった確かな強さがあった。

 私は立ち上がり、窓の外を見る。

 復興が進む街。

 笑い合う人々。

 支え合う百鬼夜行とトリニティ。

 失われたものは戻らない。

 それでも、人は前へ進める。

 そう信じられる景色が、そこには確かに広がっていた。

 

 復興が進む街を眺めながら、私たちはしばらく無言で並んで歩いていた。瓦礫だった場所には新しい建物が建ち始め、人々の笑い声が風に乗って聞こえてくる。

 

「……ねぇ、カノ」

 

 アヤメが立ち止まる。

 私は振り返った。

 

「どうしたの?」

 

 彼女は少し困ったように笑う。

 

「実はね。一つ、お願いがあるんだ」

「お願い?」

 

 アヤメは胸の前で両手を重ね、深呼吸を一つした。あれほど堂々としていた委員長とは思えないくらい、緊張している。

 

「私、いっぱい考えたから。依存と、愛情の違い。誰かに寄り掛かることと、一緒に歩くことの違い」

 

 私は黙って耳を傾ける。

 

「ナグサとのことも、百鬼夜行のことも、委員長としての責任も全部。その上で、一つだけ分かったことがある」

 

 アヤメは真っ直ぐ私を見つめた。

 逃げることなく。

 縋ることなく。

 ただ、自分の気持ちを確かめるように。

 

「私は、貴方が好き」

 

 その一言は、とても静かだった。

 

「助けてくれたからじゃない。救われたからでもない、一緒に悩んで、一緒に怒って、一緒に笑って。そんな時間を積み重ねてきたから」

 

 彼女は照れ隠しのように、小さく笑う。

 

「だからね。依存じゃなくて、恋をした」

 

 一歩だけ、私との距離を縮める。

 

「だから」

 

 耳まで赤く染めながら、少しだけ視線を逸らした。

 

「予約したから」

 

 また私を見る。

 今度は、はっきりと。

 

「今、恋人になってよ」

「……予約、ね」

「うん」

 

 アヤメは恥ずかしそうに笑う。

 

「委員長だから予定を入れるのは得意なんだ。だから、一番大事な予定も先に押さえようと思って」

 

 肩をすくめるその姿に、思わず笑みがこぼれる。

 

「ずいぶん委員長らしい告白だね」

「でしょ?」

 

 彼女もつられて笑った。

 

「返事は急がせない」

「でも、この気持ちは今日、ちゃんと伝えたかった」

「依存じゃない。逃げ場所でもない。それでも私は、貴方と一緒に歩きたい」

 

 夕日が二人を優しく照らす。

 復興を続ける街の喧騒の中で、その言葉だけが、不思議なくらい穏やかに胸へ響いていた。

 アヤメの言葉を聞いて、私はしばらく何も言えなかった。

 風が吹く。

 夕焼けに染まった街を、人々が笑いながら行き交っている。その景色を見つめながら、私はゆっくりと息を吐いた。

 

「……アヤメ」

「うん」

 

 彼女は真っ直ぐ私を見つめていた。

 不安そうで。でも、目を逸らさない。あの日のように「失いたくない」と縋る瞳ではない。

 自分の気持ちを受け止めてもらえるか、ただ静かに待つ瞳だった。

 私は自然と笑みを浮かべる。

 

「ああ、全く、最初に予約なんて言われた時は、一瞬、何事かと思ったよ」

「えへへ……」

 

 照れくさそうに笑うアヤメを見て、私もつられて笑ってしまう。

 

「でも」

 

 私は一歩、彼女へ近付いた。

 

「私は、その予約を受ける」

 

 アヤメの瞳が大きく見開かれる。

 

「本当に……?」

「うん、私も、アヤメが好きだ。委員長だからじゃない。助けたかったからでもない。一緒に歩いてきた時間の中で、いつの間にか好きになっていた」

 

 言葉にすると、不思議なくらい胸の中が軽くなった。

 アヤメは唇を震わせ、小さく笑う。

 その目には涙が浮かんでいた。

 

「……ありがとう」

 

 私は首を横に振る。

 

「一つだけ約束してほしい」

「約束?」

「恋人になっても、一人で全部背負わないこと」

 

 アヤメは静かに頷く。

 

「うん。もう、一人で抱え込まない」

「私も約束する」

「カノも、一人で無理しないで」

「ちゃんと頼って」

 

 私は笑って頷いた。

 

「分かった」

 

 そっと右手を差し出す。

 

「これからよろしく」

 

 アヤメは少しだけ驚いたあと、嬉しそうに微笑み、その手を優しく握った。

 

「よろしくね、カノ」

 

 握った手は温かかった。

 依存ではない。

 互いを縛る鎖でもない。

 それは、それぞれが自分の足で立ちながら、隣を歩いていくために結んだ、小さな約束だった。

 

 夕日が二人の影を長く伸ばす。

 復興を続ける百鬼夜行の街には、今日も穏やかな風が吹いていた。

 新しい季節は、もう始まっていた。

 




Happy end

チャプター②終了です。読んでくれてありがとうございます。これで貴方と私は戦友です。

【次回予告】
元鞘カノに新しい恋人ができた。
それを優しく認めるほど元カノ達の気持ちは小さくない。
カノとアヤメ。さらにアヤメについてくるナグサ。その三人に対して、元鞘ハーレムのメンバー達は何をするのだろうか?

【元カノ達による恐怖の策謀、NTR作戦開始! 〜アヤメさん見てる? 貴方の大切な恋人は私の隣で寝てるよ〜 】

【チャプター③NTR作戦編】お待ちくだいさい。

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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