■元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!! 作:あばなたらたやた
あの戦いから数週間。
百鬼夜行自治区は、ようやく日常を取り戻し始めていた。
焼け落ちた建物には新しい柱が立ち、崩れていた石畳は一枚ずつ丁寧に敷き直されていく。
瓦礫を運ぶ百鬼夜行の生徒たちの中には、見慣れない制服の姿もあった。
トリニティの復興支援部隊、その増援だ。
資材の輸送。医療支援。そして、百鬼夜行の外縁部へ潜伏していたアリウス残党の掃討。
百鬼夜行だけでは手が回らなかった任務を、両学園が肩を並べて進めている。街には久しぶりに、人々の笑い声が戻っていた。
私は瓦礫の片付けを終え、一息つこうと委員会本部へ向かう。
庭先では、一人の少女が静かに竹箒を動かしていた。
「ナグサ」
私が声を掛けると、彼女は顔を上げ、小さく頭を下げた。
「こんにちは、元鞘さん」
以前のような張り詰めた空気はない。
あの日の戦いで負った傷は、まだ完全には癒えていないだろう。
それでも、その表情には穏やかさが戻っていた。ナグサは箒を持ち直し、庭へ視線を戻す。
「今日は当番をやっているんだ」
「庭の掃除?」
「まだ修繕が終わっていない場所も多いから」
その声は落ち着いていた。
アヤメの名前を口にすることもない。以前なら考えられなかった変化だった。私は軽く手を振り、その場を後にする。
執務室の扉を開けると、書類の山と格闘しているアヤメが顔を上げた。
「あ、カノ。忙しそうだね」
「忙しいよ」
苦笑しながら肩を竦める。
「復興計画に、各自治区との調整。それにトリニティとの共同会議……委員長って、本当にやることが多い」
机の脇には、一挺の白銀の長銃が静かに立て掛けられていた。
百蓮。
あの日、闇を祓き、ナグサを救い出した神秘の銃。
今では誰の目にも分かる。
百蓮はアヤメを認めたのだ。
百鬼夜行紛争調停委員会委員長。
その名に相応しい人物として、名実ともに、アヤメは委員長になった。
私は向かいの椅子へ腰掛ける。
「ナグサ、元気そうだった」
その言葉に、アヤメは少しだけ微笑んだ。
「うん、まだ危ういところはあるけど……前へ進こうとしてる」
「前みたいに付きっきりじゃないんだね」
アヤメは静かに頷く。
「付き従ってはくれるよ。でも、それだけ。必要以上には甘やかさない」
私は黙って続きを待つ。
アヤメは窓の外を眺めながら、小さく息を吐いた。
「私ね。やっと分かった。愛は、人を強くする」
一拍置く。
「でも、駄目にする時もある。」
その言葉は、自分自身へ向けたものでもあった。
「私はナグサに頼り過ぎてた。ナグサは私に寄り掛かり過ぎてた。お互いがお互いを支えているつもりで……実は、お互いを閉じ込めてたんだ」
私は静かに頷く。
あの日を思い出す。
泣きながら「帰ってきて」と叫び続けたナグサ。
世界を巻き込んででも、その場所を守ろうとした少女。あれは愛だった。けれど、同時に呪いでもあった。
アヤメは優しく笑う。
「だから、私とナグサは、きっと少し距離があるくらいがちょうどいい。困った時には助ける。でも、自分で立てるところは、自分で立ってもらう」
ちゃんと一人で立てるように。
「心の拠り所は、一人だけじゃなくていい。私じゃなくてもいい。そう思えるようになってほしい」
私は自然と笑みを浮かべた。
「健全だ」
アヤメは照れくさそうに笑う。
「そうかな」
「うん」
「今まで拒絶していた百蓮が認めた理由が、少し分かった気がする」
アヤメは机の脇の百蓮へ視線を向ける。
白銀の銃身が、窓から差し込む陽光を受けて静かに輝いていた。
「私は、まだまだ未熟。でも、今度は一人で抱え込まない。まずは貴方に相談する」
その言葉には、以前にはなかった確かな強さがあった。
私は立ち上がり、窓の外を見る。
復興が進む街。
笑い合う人々。
支え合う百鬼夜行とトリニティ。
失われたものは戻らない。
それでも、人は前へ進める。
そう信じられる景色が、そこには確かに広がっていた。
復興が進む街を眺めながら、私たちはしばらく無言で並んで歩いていた。瓦礫だった場所には新しい建物が建ち始め、人々の笑い声が風に乗って聞こえてくる。
「……ねぇ、カノ」
アヤメが立ち止まる。
私は振り返った。
「どうしたの?」
彼女は少し困ったように笑う。
「実はね。一つ、お願いがあるんだ」
「お願い?」
アヤメは胸の前で両手を重ね、深呼吸を一つした。あれほど堂々としていた委員長とは思えないくらい、緊張している。
「私、いっぱい考えたから。依存と、愛情の違い。誰かに寄り掛かることと、一緒に歩くことの違い」
私は黙って耳を傾ける。
「ナグサとのことも、百鬼夜行のことも、委員長としての責任も全部。その上で、一つだけ分かったことがある」
アヤメは真っ直ぐ私を見つめた。
逃げることなく。
縋ることなく。
ただ、自分の気持ちを確かめるように。
「私は、貴方が好き」
その一言は、とても静かだった。
「助けてくれたからじゃない。救われたからでもない、一緒に悩んで、一緒に怒って、一緒に笑って。そんな時間を積み重ねてきたから」
彼女は照れ隠しのように、小さく笑う。
「だからね。依存じゃなくて、恋をした」
一歩だけ、私との距離を縮める。
「だから」
耳まで赤く染めながら、少しだけ視線を逸らした。
「予約したから」
また私を見る。
今度は、はっきりと。
「今、恋人になってよ」
「……予約、ね」
「うん」
アヤメは恥ずかしそうに笑う。
「委員長だから予定を入れるのは得意なんだ。だから、一番大事な予定も先に押さえようと思って」
肩をすくめるその姿に、思わず笑みがこぼれる。
「ずいぶん委員長らしい告白だね」
「でしょ?」
彼女もつられて笑った。
「返事は急がせない」
「でも、この気持ちは今日、ちゃんと伝えたかった」
「依存じゃない。逃げ場所でもない。それでも私は、貴方と一緒に歩きたい」
夕日が二人を優しく照らす。
復興を続ける街の喧騒の中で、その言葉だけが、不思議なくらい穏やかに胸へ響いていた。
アヤメの言葉を聞いて、私はしばらく何も言えなかった。
風が吹く。
夕焼けに染まった街を、人々が笑いながら行き交っている。その景色を見つめながら、私はゆっくりと息を吐いた。
「……アヤメ」
「うん」
彼女は真っ直ぐ私を見つめていた。
不安そうで。でも、目を逸らさない。あの日のように「失いたくない」と縋る瞳ではない。
自分の気持ちを受け止めてもらえるか、ただ静かに待つ瞳だった。
私は自然と笑みを浮かべる。
「ああ、全く、最初に予約なんて言われた時は、一瞬、何事かと思ったよ」
「えへへ……」
照れくさそうに笑うアヤメを見て、私もつられて笑ってしまう。
「でも」
私は一歩、彼女へ近付いた。
「私は、その予約を受ける」
アヤメの瞳が大きく見開かれる。
「本当に……?」
「うん、私も、アヤメが好きだ。委員長だからじゃない。助けたかったからでもない。一緒に歩いてきた時間の中で、いつの間にか好きになっていた」
言葉にすると、不思議なくらい胸の中が軽くなった。
アヤメは唇を震わせ、小さく笑う。
その目には涙が浮かんでいた。
「……ありがとう」
私は首を横に振る。
「一つだけ約束してほしい。」
「約束?」
「恋人になっても、一人で全部背負わないこと」
アヤメは静かに頷く。
「うん。もう、一人で抱え込まない」
「私も約束する」
「カノも、一人で無理しないで」
「ちゃんと頼って」
私は笑って頷いた。
「分かった」
そっと右手を差し出す。
「これからよろしく」
アヤメは少しだけ驚いたあと、嬉しそうに微笑み、その手を優しく握った。
「よろしくね、カノ」
握った手は温かかった。
依存ではない。
互いを縛る鎖でもない。
それは、それぞれが自分の足で立ちながら、隣を歩いていくために結んだ、小さな約束だった。
夕日が二人の影を長く伸ばす。
復興を続ける百鬼夜行の街には、今日も穏やかな風が吹いていた。
新しい季節は、もう始まっていた。
Happy end
チャプター②終了です。読んでくれてありがとうございます。これで貴方と私は戦友です。
【次回予告】
元鞘カノに新しい恋人ができた。
それを優しく認めるほど元カノ達の気持ちは小さくない。
カノとアヤメ。さらにアヤメについてくるナグサ。その三人に対して、元鞘ハーレムのメンバー達は何をするのだろうか?
【元カノ達による恐怖の策謀、NTR作戦開始! 〜今カノさん見てる? 貴方の大切な恋人は私の隣で寝てるよ〜 】
【チャプター③NTR作戦編】お待ちくだいさい。
交流がみたい元カノは?
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桐藤ナギサ(孤立操作
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白石ウタハ(献身依存
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調月リオ(崇拝偏愛
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鬼方カヨコ(他者排除
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仲正イチカ(自傷憎悪