元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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リオ③

 

 

 私は階段を駆け上がる足音を、胸の鼓動と重ねていた。ブーツの底がコンクリートの段を叩くたび、乾いた反響が廊下の奥まで響き渡る。ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部棟は、普段なら賑やかな笑い声やBGMのテスト音が漏れ聞こえてくる場所なのに、今はただの静寂が支配している。

 

 窓から差し込む午後の陽光が、埃の粒子を金色に浮かび上がらせ、床に散らばったケーブルや破れたポスターを、忘れ去られた記憶のように照らしていた。

 

 肩にマウントされた拡散バズーカの重さが、背骨に食い込む。両手に握ったショットガンのグリップは、汗でわずかに滑りやすい。ヘルメットのバイザー越しに、世界が青みがかって見えるのは、いつものことだ。リオの声が、イヤホンから低く、しかし確実に届く。

 

『囲んだわ。アリスを守る子たちと戦闘が始まった』

 

 彼女の声には、感情の波がほとんどない。遠隔で六機の巨体を操りながら、冷静に数字を読み上げる。まるで株価の変動を報告するアナリストのように。

 私は階段の踊り場で一瞬だけ足を止め、息を整えた。

 

「了解。損傷は想定内だ。手早く終わらせる」

「わかった。あなたはアリスを優先。他の生徒は私が引きつける」

 

 その言葉で、会話は途切れる。私たちはいつも、そうやって言葉を最小限に済ませる。余計なものは、ただのノイズになるだけだから。

 

 階段をあと一段登りきったところで、突然、空気が変わった。視界の端で、光が爆発した。

 

 それは、太陽が一瞬だけ廊下の壁を突き破って現れたかのようだった。白く、青く、紫に滲む光の奔流が、私の正面を一直線に貫く。

 分厚いエネルギーの壁が、音もなく、しかし圧倒的な質量を持って迫ってくる。

 

 『虚式・紫』。

 ウタハが執拗に開発を進めていた、惑星破砕エネルギー対消滅砲。

 宇宙戦艦の最終兵器として設計されたはずのものが、今、ここで、私に向かって放たれている。

 

 反射的に体を捻り、階段の手すりを掴んで横に跳んだ。背後の壁が、一瞬で溶けるように抉られ、校舎のコンクリートが蒸発する音が耳を劈く。

 爆風が体を煽り、ヘルメットのバイザーが一瞬白く染まる。床が大きく傾き、崩落した瓦礫が背後で崩れ落ちる。アバンギャルド・シリーズの何体かが、金属の悲鳴を上げて倒れるのが、通信越しに聞こえた。重い衝撃音が、地響きのように伝わってくる。

 

 私は膝をつきながら、通信に指を伸ばす。

 

「初手から全力か。あれの開発はウタハがやっていたはず。しかもこの出力……200%の充電率だな。二発目を撃たないことを前提に、奇襲用に使い潰したか」

 

 リオの声が、すぐに返ってくる。いつも通り、冷静で、揺るがない。

 

「被弾したアバンギャルド君の損傷率は20%。構造体はまだ保っているわ。機能低下は主に左翼のミサイルコンテナと、第三機の火炎放射器。戦闘継続に支障はない」

 

 『虚式・紫』は、そんな簡単に連射できる兵器ではない。膨大な電力を必要とし、砲身の冷却に最低でも数分はかかる。だからこそ、彼女たちは一撃にすべてを賭けたのだろう。

 

 奇襲に特化し、火力を極限まで引き上げ、使い捨ての覚悟で放った一撃。私はゆっくり立ち上がり、ショットガンを握り直す。肩のバズーカが、カチリとロックを解除する音がする。

 

「……ウタハらしい。ロマンある200%の砲撃」

 

 階段の先、ゲーム開発部の扉が、半壊した状態で開いている。中から、淡い光が漏れていた。

 ヘイローの輝きだ。私は一気に駆け込み、扉を蹴破るようにして室内へ踏み込んだ。

 

 天童アリスが、そこに立っていた。黒い髪の、背の低い美少女。両手に抱えた『光の剣:スーパーノヴァ』が、低く唸りを上げている。

 

 彼女の瞳は、無垢で、好奇心に満ちていて、しかし今は明確な決意で輝いていた。私は両手のショットガンを構え、肩のバズーカを照準に合わせる。

 

「始めまして、こんにちは。そして、さようなら」

 

 引き金を引く。ショットガンの咆哮が部屋を震わせ、拡散バズーカが一斉に火を噴く。爆発音が耳を劈き、煙と火花が視界を埋め尽くす。壁紙が剥がれ、モニターが砕け散り、デスクがひっくり返る。

 

 煙がゆっくりと晴れるのを待つ間、私は息を潜めた。煙の向こうに、アリスは立っていた。電磁バリアが淡く青く輝き、周囲に複数の小型ドローンが展開されている。

 

「電磁バリア?」

 

 バリアが弾けた衝撃波で、彼女の髪がわずかに揺れる。小さな体が、しかししっかりと立っている。

 

「ウタハ先輩の言う通り、鍛治の加護をもらっておいて助かりました! なぜ、アリスを狙うのですか?」

 

 声は少し震えていたが、目はまっすぐ私を見据えていた。私はショットガンをリロードしながら、淡々と答える。

 

「君は世界を滅ぼすように設計されているんだ。だから消す必要がある。そのメンタルに関係なく、ね」

 

 アリスは首を小さく振った。

 

「アリスは勇者です。魔王ではありません」

 

 その言葉に、私は小さく笑った。喉の奥で、皮肉な響きが転がる。

 

「皮肉な話だ。なら、これは試練だ。私たちを倒せば勇者と認めて、君の味方になろう。そして魔王と勇者の魂を分離させる手伝いをする、という流れで」

 

 アリスの瞳が、一瞬強く輝いた。

 

「アリスわかりました! なら負けるわけにはいきません!!」

 

 彼女が『スーパーノヴァ』を構え直す。砲身が低く唸り、エネルギーが充填される音が部屋に満ちる。

 私はバズーカの照準を合わせ、静かに呟く。

 

「現代アートにしてあげよう」

 

 部屋全体が、再び光に満ち始める。外では、アバンギャルド・シリーズの残存機が、低く唸りを上げながら前進を続けていた。

 

『損傷率35%』

 

 まだ、戦える。リオの声が、イヤホンから届く。

 

『アリスを、確実に仕留めて』

「任せて」

 

 私は頷き、足を踏み出す。

 世界を救うために、一人を殺す。

 そのために、私はここにいる。

 リオの覚悟を背負い、静かに、しかし確実に、引き金を引く。

 

 部屋は、もはや戦場というよりも、破壊の芸術作品そのものだった。天井は半分以上が剥がれ落ち、剥き出しの鉄骨が赤く熱を帯びて歪み、時折パチパチと火花を散らしている。

 

 床は瓦礫の荒野と化し、砕けたコンクリート片、溶けたプラスチックの塊、ガラス片が足元でざらざらと音を立てる。空気は硝煙と焦げた樹脂の臭いが濃密に絡み合い、息を吸うたびに肺が焼けるように痛んだ。

 

 遠くの廊下からは、アバンギャルド・シリーズの残存機が低く唸りながら壁を削る重い衝撃音が、断続的に響いてくる。

 

 私は息を荒げながら、肩の拡散バズーカに指をかけた。残弾はもう、ゼロに近い。警告灯が赤く点滅し、熱で変形しかけた砲身が、かすかに煙を上げている。

 

「これで、最後だ」

 

 小さく呟き、私はバズーカのロックを解除して、パージした。重い金属塊が私の肩から外れ、ゆっくりと宙を舞う。私はそれを、アリスの方へ、静かに投げつけた。

 

 アリスはスーパーノヴァを構え直し、瞳を大きく見開く。

 

「え……?」

 

 その一瞬の隙に、私は両手のショットガンを構え直し、引き金を引いた。

 ドン! ドン!

 二発の散弾が、投げ捨てたバズーカのミサイルコンテナに直撃する。

 次の瞬間——爆発。

 

 誘爆したミサイルが連続で炸裂し、部屋全体を白熱の閃光と黒い煙で埋め尽くした。

 

 衝撃波が体を煽り、視界が一瞬真っ白になる。耳鳴りが響き、煙が肺に流れ込む。煙幕は瞬時に広がり、濃密な黒い霧が部屋を覆い尽くす。

 アリスの小さなシルエットが、煙の中でぼんやりと揺れる。

 

「見えません……! どこですか!?」

 

 彼女の声が、わずかに震えていた。私はすでに動いていた。全ての武器をパージする。

 

 ショットガンを床に投げ捨て、腰の予備マガジンも、膝のホルスターも、すべてを外して放り投げる。

 

 金属が瓦礫にぶつかる乾いた音が、煙の中で響く。体が、軽くなった。私は深く息を吸い、ヘイローの出力が一瞬だけ高まるのを感じた。

 

 筋肉が熱を持ち、視界がわずかにスローモーションのように鮮明になる。

 超高速化。

 次の瞬間、私は煙の向こう側にいた。アリスの懐。彼女がスーパーノヴァを振り上げようとした瞬間、私の拳が彼女の腹に沈み込む。

 

「ぐっ……!」

 

 小さな体が折れ曲がる。私は容赦なく、続けて左フックを顎に叩き込んだ。アリスの頭が大きく揺れ、ヘイローが一瞬乱れる。

 

 彼女は後ろによろめき、スーパーノヴァを支えに立とうとするが、私の膝蹴りが彼女の脇腹に炸裂する。

 

「うあっ……!」

 

 

息が詰まるような呻き声。私はさらに踏み込み、右ストレートを彼女の頬に叩き込む。小さな顔が横に跳ね、黒髪が乱れ、唇の端から血が一筋、滴り落ちる。

 

「アリスは……まだ……!」

 

 彼女が弱々しく叫び、スーパーノヴァの砲身を振り上げようとする。しかし、私はその腕を掴み、関節を極めてひねり上げた。

 

「もう、終わりだ」

 

 低い声で呟き、私は彼女の腕を捻り上げたまま、左の掌底を彼女の胸に叩き込む。

 

 衝撃がヘイローを通じて全身に伝わり、 アリスの瞳が一瞬白く濁る。

 

「みんなを……守る……勇者に……」

 

 彼女の声は、途切れ途切れになっていた。私は最後に、右の拳を彼女のこめかみに叩き込んだ。

 乾いた打撃音が響き、アリスの体がぐらりと傾く。ヘイローの光が、ゆっくりと弱まり、淡い金色が霧散するように消えていく。

 

 彼女の小さな体が、膝から崩れ落ち、床に倒れ込んだ。スーパーノヴァが、彼女の手から滑り落ち、重い金属音を立てて転がる。

 

 アリスは、気絶した。黒髪が床に広がり、頬に赤い腫れが浮かび、唇の端から血が細く流れている。

 

 小さな胸が、弱々しく上下する。まだ、息はある。私はゆっくりと息を吐き、拳を下ろした。

 

 煙が徐々に薄れ、部屋の惨状が再び視界に広がる。リオの声が、イヤホンから静かに届く。

 

『……完了したわね』

 

 私は倒れたアリスを見下ろし、静かに頷いた。

 

「いや、まただ」

 

 声は、かすれていた。世界を救うために、一人を殺すはずだった。しかし、今の私は、ただ彼女を気絶させただけだ。拳が、わずかに震える。アリスの小さな手が、床の上で、弱く動いた。

 

「……勇者……か」

 

 私は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。戦いは、終わった。だが、私の心の中の戦いは、まだ終わっていない。リオの覚悟の影として、私はここに立っている。

 彼女の光を、守るために。そして、罪を、分担するために。煙が、ゆっくりと部屋から流れ出ていく。

 気絶したアリスの首に手をかけて、ゆっくりと力を込める。

 

【再起動】

【オペレーティングシステムをKeyへ移行】

【殲滅を開始します】

 

 私の両手がズタズタに切り裂かれて、更に謎の衝撃波で吹き飛ばされる。

 動画の逆再生のように損傷が直ったアリスが立ち上がる。しかし瞳は血のように真っ赤だった。

 

【脅威判定を更新。最優先目標として抹消します】

 

 

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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