元カノに未練たらたらの女✕女の話見てぇ!!   作:あばなたらたやた

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リオ④

 

 瓦礫の荒野と化したゲーム開発部棟は風が強く吹き抜けていた。崩れたコンクリートの破片が足元でざらざらと音を立て、遠くの爆音が断続的に地響きのように伝わってくる。

 

 空はまだ午後の青さを残しているのに、煙と硝煙が混じり合って視界をぼんやりと霞ませ、陽光が淡く濁った色に変わっていた。

 

 アバンギャルド・臨戦の巨体がゆっくりと前進するたび、地面が震え、鉄骨の残骸がカタカタと揺れる。

 

 背部の法陣が淡く青白く輝き、静かに回転を続けている。その音——ガコン、という乾いた金属音が、戦場の喧騒を切り裂くように響く。

 

 私は息を整えながらその光景を遠目に眺めていた。体中の筋肉が熱を持ち、汗がを伝う。パージした武器の残骸が足元に転がり、焦げた金属の臭いが鼻を突く。

 

 天童アリス——いや、今の彼女はKeyという制御システムに精神を乗っ取られた、純粋な破壊の化身だ。

 

 彼女の周囲には、異次元から呼び出された機械兵士が無数に展開している。銀色の装甲が陽光を反射し、まるで無限に増殖する金属の群れのように見える。

 

 量子演算による未来予測と、多次元並行世界の観測を併用した『攻撃を受けない未来』を強制的に選択。

 どんな弾丸も、レーザーも、爆発も、彼女の体が存在しない軌道をただ通り過ぎるだけ。

 物量と予測の完全なる支配。

 忘れられた神々の遺産としか言いようがない、圧倒的な理不尽さ。

 私は小さく舌打ちし、通信に指を滑らせた。

 

「無理だろこんなもん。アバンギャルド・臨戦と交代。あれを崩すなら事象の適応しかない」

 

 リオの声が、すぐに返ってくる。

 いつも通り、感情の揺らぎが一切ない、冷たい鋼のような響き。

 

『了解。交代を指示するわ。アバンギャルド・臨戦、優先目標をKeyに切り替え。適応開始』

「ずるいなー、忘れられた神々の遺産。基礎性能が違いすぎる」

 

 私は自嘲気味に笑って、肩を回した。体が軽くなるのを感じながら、ゆっくりと後退する。

 

 私の役割はここまでだ。

 これ以上は、あの法陣が回り続ける破壊の化身にしかできない。

 アバンギャルド・臨戦が、瓦礫を踏み砕きながら前進する。全高三十メートルを超える二脚の巨体が、ゆっくりとアリス——Keyの前に立ちはだかる。

 

 右腕のレールガンが低く唸り、左腕のガトリングが回転を始める。肩のミサイルコンテナがカチャリとロックを解除し、背中の火炎放射器が赤く熱を持つ。そして、背部の巨大な法陣が、静かに回転を加速させる。

 

 ガコン。戦場全体に響き渡る。

 それは、まるで時計の針が一歩進むような、静かな宣告だった。私はその光景を眺めながら、ゆっくりと息を吐いた。そして、視界の端に、静かに近づいてくる小さな影に気づく。

 

 白石ウタハ。元彼女。彼女はいつもの作業着の上に白衣を羽織り、額にゴーグルをずらしたまま立っていた。

 口元に薄い、しかしどこか寂しげな笑みを浮かべている。風が彼女の白衣の裾をはためかせ、紫髪が軽く揺れる。

 

「頑張ってるね、カノ」

 

 その声は、穏やかで、少しだけ懐かしい響きがあった。

 昔、深夜の研究室で何度も聞いた、あの柔らかい呼び方。私は肩をすくめて、苦笑した。

 

「初手200%の宇宙戦艦用のエネルギー砲はびっくりしたよ。『虚式・紫』だっけ? あれを次を撃たないことで、ぶっ放すなんて、無茶苦茶すぎる」

 

 ウタハは小さく頷く。彼女の靴にコンクリートに触れる乾いた音がする

 

「そこはカノを信用したんだよ。アレくらいなら何とかするって、わかってたから」

「よく理解しているな」

「君と交流のある人の中で、私が一番理解しているからね。あ、でも被害は君に請求するから」

「どの口で?」

 

 私は目を細めて、彼女を見た。風が強く吹き、彼女の白衣が再びはためく。

 

「私を理解しているなんて随分と自己評価が高いね」

「客観的な事実だよ」

 

 彼女の瞳は、静かで、しかし底に熱を秘めていた。昔と同じように、計算高く、しかしどこか切実な光を宿している。私は小さく息を吐き、視線を遠くのアバンギャルド・臨戦に戻した。

 法陣が、二度目の回転を始める。ガコン。

 

「ならわかるんじゃない? 私は今、友達を助けている最中だ。それを辞めるのは、私のスタイルではないだろう」

 

 ウタハは、ゆっくりと首を振った。その動きは、静かで、しかし決定的だった。

 

「そうだね。君は誰にでも優しいけど、順番と履行中の約束は守る人だった。昔から、そうだった」

「そうそう。理解しているじゃん」

 

 彼女は一歩近づき、ポケットから小型の工具箱の蓋を開けた。中から取り出したのは、新しい試作兵器のプロトタイプらしきもの。

 

 細長い筒状の装置で、先端に淡く青い光が点滅している。彼女の指が、それを優しく撫でる。

 

「だから、ここで潰す。約束を履行できないように無効化してしまえば、次に約束できるのは私だ。このまま連れ去ってしまえば、君は私としか約束できない」

 

 私は小さく笑った。喉の奥で、乾いた音がする。

 

「ヤンデレじゃん」

 

 ウタハは、わずかに頰を赤らめて、しかしすぐに真顔に戻った。ゴーグルを額から下ろし、目を細める。

 

「違う、クーデレだよ」

 

 彼女の声は、静かだった。でも、その静けさの中に、底知れぬ執着と、諦めきれない想いが沈んでいるのがわかった。遠くで、アバンギャルド・臨戦の武装が一斉に火を噴く。

 レールガンが虚空を切り裂き、ガトリングが機械兵士の群れを薙ぎ払う。ミサイルが弧を描いて飛んでいくが、すべてが空を切る。

 Keyの体は、決してその攻撃の先に存在しない。未来予測が、すべてを無効化する。

 ガコン。三度目の回転。

 

 私はウタハを振り返り、静かに言った。

 

「まだ終わらないよ。あいつが適応を完了するまで」

 

 ウタハは小さく頷き、試作兵器を構えた。青い光が、彼女の手の中で強く輝き始める。

 

「わかってる。だから、私も準備してる。君に勝つ準備は終わった」

 

 風が、再び強く吹いた。煙が舞い上がり、遠くの爆音が続く。

 私達は瓦礫の上で静かに立ち尽くす。

 

 アバンギャルド・臨戦の法陣が、四度目の回転を始める。ガコン。その音が、私の胸に深く響く。

 

 崩れたコンクリートの破片が足元でざらざらと音を立て、遠くのアバンギャルド・臨戦の重低音が地響きのように響き続ける。煙が薄く立ち込め、陽光を濁らせて淡いオレンジに染めていた。

 

 瓦礫の隙間から漏れる光が、白石ウタハの白衣の裾を揺らし、彼女の紫髪を軽く乱す。

 

 その乱れた髪の隙間から覗く瞳は、いつもより少しだけ深く、静かに私を捉えていた。ウタハはリモコンを握りしめたまま、ゆっくりと一歩近づいた。

 

「さぁ、私と君の子供たちだ。その成長をぜひ見せていってくれ」

「多産だね。後輩と関係持ってないと産めない量だ。それで純愛を気取るとは笑わせる」

「ふふ、そんなことはしないさ。これは全部、君の理論を発展させて、自ら開発、製造した。文字通り純血の子供だよ。私達は結婚している」

「事の解釈を広げた良い思考回路だ」

 

 彼女の周りに機械が溢れる。

 ウタハの特徴として、自ら制作したテクノロジーや成果物を『子供』と表現する特徴がある。それに私が関わっているなら確かに二人の子供という解釈は成立する。

 

 彼女の足音は小さく、しかし確実に、私の胸に届く。彼女にとって私は、ただの「元恋人」ではなかった。

 

 それは、彼女のロマンと技術と、すべてを共有できる唯一の存在だった。

 

 私が彼女の職人気質を受け入れ、面倒な交渉や対人関係を代わりに引き受け、彼女と同じ目線で技術とロマンを語り合えたあの時間。

 

 ウタハは、あの頃から私を「マイスターの相棒」として、深く、執拗に愛していた。

 それは、恋という言葉では収まりきらない、もっと純粋で、もっと病的な執着だった。

 

 彼女の心の奥底では、私が他の誰かと約束を交わし、他の誰かを守ろうとするたびに、静かな嫉妬と、切ない痛みが渦を巻いているのだろう

 

 私が「友達を助けている最中だ」と言った瞬間、彼女の瞳の奥で何かがきしむ音がした。

 

 それは、彼女のロマンに並ぶ大切な価値を持つ私という存在を失うかもしれないという、最大の恐怖だった。

 

「私が君を一番理解している。でも君は私を理解していない」

 

 ウタハの声は、穏やかだった。でも、その穏やかさの奥に、静かな刃のようなものが潜んでいる。

 彼女は、私のすべてを知っているつもりだった。

 私の癖、私の呼吸の間、私が本気で笑うときの目の細め方、私が嘘をつくときの指の微かな震え。

 すべてを、彼女は記憶していた。そして、その記憶を、彼女は自分の「子供たち」に注ぎ込んでいた。

 

 私の理論、私の言葉、私の視線——それらが組み込まれたメカは、彼女にとって、私との「子」だった。

 

 私が他の誰かを守ろうとするなら、彼女はその「子」たちを使って、私を止める。

 

 止めて、傍に置いておく。

 永遠に、彼女の傍に。私は麻痺した体で、わずかに唇を動かした。

 

「恋愛とは夢からの脱却だよ」

「違う。融合だ。私は君を愛している。だが君はその愛と好意の質量を理解していない」

「そうかな? そうかも、そうかもね」

「だからこうして罠にハマる」

 

 彼女がリモコンを軽く押す。空気が震えた。周囲に、無数の小型自律兵器が展開する。

 手のひらサイズの球体が、銀色の装甲を輝かせながら浮遊し、赤いセンサーアイを点灯させる。

 

 それらが一斉に私に向かって散開し、淡い青い光の粒子を放ち始める。

 

「概念麻痺弾」

 

 ウタハが静かに命名した。光の粒子が、私の体に触れた瞬間——神経が、筋肉が、思考が、一瞬で凍りつくような感覚が走る。

 体が動かない。いや、動かせない。行動という概念そのものが、私から剥ぎ取られたように。

 

 同時に、ウタハの周囲に、透明な膜のような障壁が展開する。

 衝撃拡散演算物量防御——概念障壁。どんな攻撃も、拡散・無効化・再分配される、理論上の絶対防壁。彼女はゆっくりと歩み寄り、私の目の前で立ち止まった。

 

「私の子供たちだ。君と私が恋人として色々な議論した時に残したロマンの種を、私が産んだんだ。優秀だし、可愛いだろう?」

 

 ウタハの瞳が、優しく、しかし狂おしく輝く。

 もう一度確認する。

 彼女は、自分の作ったメカを「子供」と呼ぶ。そこに私の技術や理論が組み込まれていれば、それはもう、ウタハと私の「子供」という理論になる。

 彼女にとって、それは歪んだ家族の形だった。私が他の誰かを守ろうとするたび、彼女はその「子供」たちに、私を止める命令を下す。

 

「大好きな人が離れるのを、大好きな人ともに作った子どもがつなぐ。それは最高に美しく、幻想的で、愛しいシチュエーションだ。私はこれをロマンと定義するよ」

「ロマンを定義か。解釈を広げるのではなく、狭めることで関係を強固にするとは……マイスターよりライターになった方が良いんじゃないか?」

 

 止めて、傍に置いておく。

 永遠に、彼女の傍に。

 それは、愛だった。

 彼女なりの、純粋で、毒のある愛。

 私が盲目にくる毒ならば、彼女は麻痺させる毒だった。

 私は、麻痺した体で、掠れた声で呟いた。

 

「そういうぶっ飛んだところ……最高に可愛いくて好きだ」

 

 本心だった。

 彼女の狂気も、執着も、ロマンのためにすべてを投げ出す姿も、すべてが愛おしかった。だからこそ、私は彼女を傷つけてきたのかもしれない。

 

 彼女の愛を、受け止めきれずに、他の誰かを守ろうとしてきたのかもしれない。ウタハの頰が、わずかに赤らむ。

 彼女は目を伏せ、すぐにまた私を見上げた。瞳の奥に、涙が光っているように見えた。

 

「もう一度、結婚しようか、カノ。既に準備はできているよ」

「ウタハと結婚した覚えはないけど」

「ああ。前は恋人だったね。つい結婚したつもりだったよ。君は私の心を奪って離さないからね。なら私が君を奪うことで対等だ」

 

 その言葉は、静かで、しかし確信に満ちていた。彼女の心の中では、もうすべてが決まっていた。

 私が動けなくなるこの瞬間から、私たちは永遠に一緒にいる。他の約束は、無効化される。他の誰かを守る約束も、すべて無効化される。

 

 次に私が交わす約束は、彼女だけに向けられるものになる。私は動けない体で、ただ彼女を見つめた。

 

「君は、私を理解していないって言うけど……私は、君のそういうところを、全部受け止めてきたつもりだよ。ちゃんと。誠実に。真っ直ぐに付き合って、それで破局した。やり直しても同じだよ」

 

 ウタハは小さく首を振った。

 

「だとしても。それでも。かもしれないけど。私の子供たちは君を止める。他者との約束を、二度と履行できないように。二度と私から目が離せないように」

 

 彼女はリモコンを握りしめ、静かに微笑んだ。

 

「私を、君の最優先にしてみせる」

 

 風が、再び強く吹いた。煙が舞い上がり、遠くの爆音が続く。私の体は、まだ動かない。

 

 概念麻痺弾の効果は、徐々に深みを増していく。ウタハは、私の頰にそっと手を伸ばした。

 

 冷たい指先が、温かく感じるのは、錯覚だろうか。

 

「君の未来と幸福は私が保証するよ、カノ」

 

 彼女の声は、囁きだった。

 

「だから……ずっと、傍にいてくれ」

 

 アバンギャルド・臨戦の法陣が、七度目の回転を始める。ガコン。その音が、まるで二人の運命を刻む時計の針のように、ゆっくりと響き続ける。ウタハの瞳は、私を静かに、しかし深く、見つめていた。

 

 そこには、愛と執着と、ロマンと、毒が、すべて混じり合っていた。そして、その瞳の奥で、彼女は静かに祈っていた。

私が、永遠に彼女の傍にいてくれるように。他の誰かを守ることを、忘れてくれるように。

 彼女だけを見て、彼女だけを愛してくれるように。

 それは、彼女のロマンだった。そして、彼女の、最大の毒だった。

 大きな爆発。

 ウタハは呟く。

 

「共倒れ。アリスの世界の破壊と、事象の適応バトルはここまでのようだね。アリスの肉体はあるが、世界を滅ぼす精神は封印された。反面、アバンギャルド・臨戦は消滅。リオ会長の手駒は全て殲滅済み、本人も別働隊が確保した。この戦いは終わりだよ」

「そうか、残念だ」

「悲しくはないよ、これからは家族と一緒だ。私達が共にいる」

 

 白石ウタハとその子供たち(超兵器)が、私のことの囲んでいた。

 

 

 

交流がみたい元カノは?

  • 桐藤ナギサ(孤立操作
  • 白石ウタハ(献身依存
  • 調月リオ(崇拝偏愛
  • 鬼方カヨコ(他者排除
  • 仲正イチカ(自傷憎悪
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