不屈の緑   作:カピバラ@番長

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アラナン尊師ダメそうです。


Indomitable me

 

 二度、勝った。

GⅢ・東京新聞杯

GⅡ・中山記念

どちらも素晴らしい走りだった。

差し切り、捲り、会場を沸かせる。

あの高笑いが自分の誇りだった。

 

 『…行こう。次のステージだ!』

 

 『ええ!』

 

無邪気なモノだ。

そう易い世界では無い事を充分に理解していたのに。

 

GⅠ・安田記念

 『抜け出せなかったわ。盟友(トレーナー)、次までにパワーの強化をするわよ』

 

 『だね。映像も見返して、どうすれば抜け出せたかを研究しよう』

 

十一着。

 

 

GⅠ・宝塚記念

 『…私とした事がらしく無い走りをしたわ。これじゃ去年に逆戻りね』

 

 『そこまで悲観する必要は無いよ。…スペシャルウィークとグラスワンダーのあの熱意。観客席に居た自分達にも伝わるほどだった。二人をよく知る君が、当てられもせずに一切の埒外に置けるわけも無い』

 

 『それは慰めかしら』

 

 『いいや、客観視だよ。メンタルトレーニングを強化しよう。猛る闘志を抑えて、最後に爆発させられれば差し切れない相手はいないよ』

 

八着。

 

 

GⅡ・毎日王冠

 『秋天の前哨戦で五着、ね。ごめんなさい、弾みをつける予定だったでんしょう?』

 

 『謝らなくていいんだ。得られたものもある。秋天で目に物を見せてやろう』

 

五着。

 

GⅠ・天皇賞(秋)

 『……怖かったね』

 

 『言い訳にも成らないわ。今の私が触れられる一流より遥かに先だった。それだけよ』

 

 『なら独り言だ。聞かなくて大丈夫。……元々苦手なセイウンスカイとは言っても、だ。ゲート入りを異常に恐がるほどの鬼気迫る覇気が、スペシャルウィークには確かにあった。ファンですら怯えていたよ。その胸の内を分かるとはとても言えないけど…』

 

 『やめなさい』

 

 『…キング』

 

 『言わなくてもあなたなら分かっているでしょ。それ以上はあの娘達だけの領域だって。部外者が覗き見て良い窓じゃないの』

 

 『…そうだね。口が過ぎた』

 

七着。

 

 

GⅠ・マイルチャンピオンシップS

 『良い走りだったよ。特に最終直線の追い上げはすさまじかった。やっぱり君にはこの辺りの距離が良いみたいだ』

 

 『えぇ。悪く無い手ごたえだったわ。…その分、悔しいのが難点ね』

 

 『そうだね……。けど、その悔しさを忘れられないのならそれだけ強くなれるって事でもあるよ。だから、次のレースだ』

 

二着。

 

 

GⅠ・スプリンターズS

 『やっぱりキングの末脚は凄いね。あそこから上がって来るなん…』

 

 『ねぇ、トレーナー』

 

 『……うん』

 

 『一度だけ、私の我儘に付き合ってもらえるかしら。新境地の開拓、とでも思ってもらえればいいの。……ね、ダメかしら』

 

 『勿論、構わないよ。全力で支えるから何だって言って欲しい』

 

三着。

 

 

GⅠ・フェブラリーS

 「この挑戦は決してムダじゃなかった。断言できるよ」

 

 「…ええ。あなたがそう言うのなら、きっとそうなのね。私は…私には……」

 

帰路に着く車の中で。

珍しく……いや、もう珍しくもなんともなくなってしまった後部座席に座るキングヘイロー。

彼女は、それ以上の声を殺した。

 

 「…キング」

 

 「ごめんなさい。今は話す気分になれないわ」

 

 「ならそのまま聞いていて欲しい。……キングヘイロー」

 

前置いてくれた通り、キングの返事は聞こえない。

 

 「敗北は弱さじゃ無い。挑戦は気の迷いでも無い。積み上げたモノは崩れない。全て、輝きと共にそこに有る。望まない輝き方だったとしても、全て、一つに繋がっているんだ」

 

 「…」

 

 「有り体な物言いなのは分かってる。けど、だ。人であろうとウマ娘であろうと似通った姿、酷似した心を持っている以上それは決して変わらない」

 

 「…………」

 

 「全て繋がるんだ。……勝利に」

 

大通りから少しそれ、広くはある道に出る。

そこはこの時間、車通りが極端に減り、停車するのに申し分ないふくらみもある。

 

 「もしもその[積み上げたモノ]を[繋がり]を絶ち切るモノがあるとすれば。……それは何だと思う。キングヘイロー」

 

街灯の真下、停車に適したふくらみに車を入れて、パーキングまでを入れる。

幾度、敗北を経験した。

幾度、彼女は心を保ったまま地獄を感じた。

全て知っている。

共に在ったのだから知っている。

けれど、聞かなければならない。

キングヘイローはどうしたいのかを。

その返答が無ければ、自分も腹を括るしかない。

彼女のお母さんが言っていた事態を招くくらいなら、彼女に恨まれた方がよっぽどいい。

こんなにも努力できるモノを自分のような他人が奪っていいはずが無い。

だから、……運命だと断ずるしかない。

 

 「……め、よ」

 

そんな言い訳と変わらない思考の中で、か細い声が割って入る。

何と言ったかは……聞こえた気がした。

視界が、少し濁る。

 

 「二度も、言わせないで」

 

次いで聞こえたはっきりとした声に視界が殊更濁る。

前がまともに見えなくなる。

不安だった。

自分の妄想や幻聴の類じゃないのかと。

聞きたい言葉で無意識に鼓膜を揺らしたのかと。

けど、けど。ぁぁ、けど。

キングは、キングヘイローは。

 

 「諦めよ」

 

不屈だ。

 

 「次に出るレースを決めるわよ。…ほら、いつまでも情けの無い声で泣かないの。泣きたかったのはこっちの方なんだから」

 

辛うじて視界に捉えられたバックミラーにキングヘイローの差し出した手が、彼女の顔が、見える。

 

 「ああ、ああ。やろう、キング。君の名をレースの歴史に刻む為に。君が認める君だけの一流になれるその日の為に」

 

 「…ふふ、おばかな人、はじめて聞けたあなたの夢が私だなんてね」

 

差し出された手に触れ、強く握り締める。

ただ、顔は見せられなかった。

大の大人のこんな顔、見せられるはずなかった。

 

 「ゆっくり帰りましょう。大丈夫、寮の門限まではまだあるわ」

 

 

 

 

 

to be next story,





 多分そろそろ終わる。
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