不屈の緑   作:カピバラ@番長

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 キングほんますこ。


First to

 

 メイクデビューから数えて通算五度、キングはレースに出た。

内一着は三回。充分過ぎる強さを見せつけた。

残り二つも二着と三着で、誰もがキングの強さに期待に胸が膨らんだ。

……自分も同じ気持ちだ。

だからこそ、違えるわけにはいかなかった。

 

 「……トレーナー」

 

暗い部屋、テレビの明りだけが自分を照らしている。

背後から聞こえるのはキングの心配そうな声。

 

 「お疲れ様。まだ帰ってなかったの?」 

 

 「それはこっちのセリフよ。ちゃんと朝ご飯は食べた?」

 

 「あ…。あー、うん、食べたよ」

 

 「…うそつき」

 

ため息交じりの声に苦笑いが出る。

……またやっちゃったみたいだ。

 

 「皐月賞は明後日でしょう?無理して倒れたりしたら許さないわよ?」

 

そう言いながら窓の方まで歩いて行ったキングは締め切っていたカーテンを開けてくれる。

射し込む朝日と、窓越しから微かに届く生徒とそのトレーナーの声。

それと、目の前に散らばるノート。

 

 「…私のためにそこまでしてくれるのは嬉しいけどね、なんでも過ぎれば毒よ。勝利への執着だってね。固執になっては意味が無いわ」

 

 「あはは、返す言葉も無い」

 

 「今日で三徹目でしょ?おばかね」

 

 「まさか。朝練が終わったら仮眠を取ってるから大丈夫。徹夜じゃないよ」

 

 「………おばか」

 

太陽の日を背負って自分の傍に来たキングはテーブルの上に何かを置く。

長方形で、持ち手の付いたそれほど大きくないそれ。

何か分からず首を傾げてしまうと、今日一番の大きなため息を吐いたキングにデコピンをされた。

 

 「どう見てもお弁当でしょ。そんなに落ちた識別能力で前回のレースを見直しても何も分からないわよ」

 

 「うっ……。…はい」

 

ひりひり痛い額を両手で抑えながらキングのお叱りを受ける。

全くもってその通り過ぎて情けない返事しか出てこない。

 

 「分かればいいわ。今日の朝練は私一人でやってくるから、それまであなたは寝る事。いい?」

 

 「いや、そういうわけには…」

 

 「一緒に一流だと示すんでしょ?だったらそんな目の下の隈があっていい訳ないわ。私が女王様みたいに思われてしまっても困るしね」

 

 「それは……心外だね。こんなに優しいのに」

 

 「でしょう?なんて言っても私は盟友と一流の道を歩くキングなんだから」

 

キングの有無を言わせない言葉に頷いてしまう自分。

情けない。本来なら自分がするはずの心配を教え子にされてしまった。

 

 「じゃ、二時間後に。キングお手製のお弁当はそれまでお預けよ」

 

 「分かった。今度はデコピンくらい避けられるようにしておくよ」

 

 「よろしい。メニューはいつものでいいわね?」

 

 「いや、今日はそれに加えていつもより前が塞がれた時の事を意識して走って。レース場にはいつもキングといる三人が待ってるはずだから、詳しくは彼女達に」

 

 「あら、あの子達が居るのね?なら尚更あなたを連れて行かなくてよかった。そんな顔を見たらみんな怯えてしまうもの」

 

 「はは、目付きが悪いかな」

 

 「かなりね」

 

冗談のつもりで言った言葉に、そんなに笑っていないキングの本心が返ってくる。

参ったな。それじゃあキングの事だって怯えさせてしまうかも知れない。本当に改めないと。

 

 「じゃあ、行ってくるわね。…ありがと。それと、おやすみなさい」

 

 「うん、おやすみ」

 

言葉を交わし終えると、キングは一度だけ振り返ってからトレーナー室を後にする。

 

 「…まぁ、疑われるよね」

 

じっと見つめて来たキングの目を思い返してつい笑ってしまう。

集中すると時間を忘れてしまうこの悪い癖は早いところ直さないといけないな。

 

 「…っと、寝ないと」

 

危うく考え込んでしまう前に座っていたソファに横になる。

それから床に落ちていたタオルケットをお腹に掛けて瞼を瞑る。

……そうしたらすぐに意識が途絶えて。

次に気が付いたのは、汗を拭くキングに起こされた時だ。

 

           ーーーー    ーーーー    ーーーー

 

 キングが作って来てくれたお弁当を食べつつ、彼女と次のレースの話をする。

少し焦げた卵焼きを『美味しい』と言うと何故か怒るキングに聞いたのは[次のレースで気になる相手]の事。

 

 「スペシャルウィークさんとスカイさんね」

 

彼女は自身のお弁当を食べる手を一度止めてその理由を教えてくれる。

スペシャルウィークは自分と同様目指すモノがあって、それを支える驚異的な意志があるから。

セイウンスカイは読み切れない性格と、魔法と見紛うレースセンスがあるから。

中でも、目下のレースである皐月賞ではセイウンスカイが怖いと彼女は言う。

 

 「スペシャルウィークさんを侮っているわけでは無いのだけど。……彼女、速いわよ」

 

 「…最も速いウマ娘が勝つ、ってヤツだね」

 

 「えぇ。得意なのは、知ってるでしょうけど逃げ。私達の代では多分一番よ。それに読み切れない性格っていうのはレースだと特別怖いわ。どんな作戦を取るか分からないもの。それをいつ変えるのかも」

 

 「この前の弥生賞も何かを試している風だったよね。それが何かまでは分からなかったけど…」

 

 「あなたも感じた?実は私もなの」

 

視線が合わさり、浮かんだ同様の疑問に思考が奪われる。

そう、彼女は逃げのウマ娘。余程強い娘でもない限り途中で沈んでしまう事も多いその走りは、けれど今回はセイウンスカイの強さを確信させる要因になっている。

前回の弥生賞では確かにスペシャルウィークに敗れてはいる。けど、それは疲れて沈んだからじゃない。あくまでもスペシャルウィークのすさまじい末脚に僅かに交わされてしまったからだ。

どちらかの調子が少しでも違えば、或いはスペシャルウィークの仕掛けがほんの少しでも遅ければ結果は変わっていたはずだと断言できるくらい、彼女の逃げは鮮やかだった。

 

 「…なんて言うのかしらね。こう、少しだけ走り難い感じがしたの。芝の状態とか、みっちり塞がれていたからとかでは無くて、……水が足に引っかかるような、そんな感じだったわ」

 

 「………難しいね。不自由を覚えるっていうのは自分らしくいられなかったって事にはなるんだろうけど…」

 

伏し目がちに答えるキングの様子は明るくは無い。

当然と言えば当然だ。万全の状態で迎えたはずのキングは二人に遅れての三着。

今答えたような曖昧な敗因は当時語らず、自身の仕掛けるタイミングの甘さを答えたキングは自分と一緒に考えたメニューをこなす事でその失敗から多くを学んだ。

仮に今、同じメンバーで弥生賞を走ればぶっちぎるのは間違いない。それだけの確信を持って言える成長だ。

……けど、今の感覚を自分同様に感じていたのであればやり様は変わってくる。

 

 「……うん、それじゃあキング。自分がレースを見直して得た見解を君の感じた全てと照らし合わせて欲しい。付け焼刃にはなるかもしれないけど、立てられる対策は全部立てよう」

 

 「そうね。同じ轍を踏むつもりは無いわ。…当然、あなたもそうでしょ?」

 

キングに問われ、頷く。

着順は三着でも一着とのタイムは0.8秒差。二着のセイウンスカイはスぺシャルウィークと0.1秒差しかなかったのにだ。

二着と三着で出た一着とのタイムの違いはあまりに大きい。

こんなにも悔しい事は無い。そしてその気持ちはレースに出ていたキングの方が遥かに大きいに違いなく、一流であると認めさせる自分達の現実を遠くに追いやってしまう結果に違いないなかった。

はっきり言えば、自分のリサーチと作戦の甘さが招いたナンセンスな結末だ。

 

 「そうと決まれば……」

 

視線が合った自分達は朝食もそこそこにノートを広げて認識の擦り合わせを行う。

それはホームルームの予鈴が鳴るまで続き、慌ててスクールバックを手にするキングを見送る事で終わった。

……明後日は皐月賞。

全てのウマ娘の憧れが詰まったクラシック級三冠レースの初戦だ。

 

 「必ず勝とう。キング」

 

生半可な覚悟じゃ釣り合わない。

この三冠のために懸けられるもの全てを懸けよう。

 

               ーーーー    ーーーー    ーーーー

 

 

 ファンファーレが鳴る。

実況が歓声の中に割り入っていく。

キングヘイローが立つはゲートの入り口。

殆どのウマ娘達は既にゲートインが終了し、残されたのは三名。

即ち、スペシャルウィーク、セイウンスカイ、そしてキングヘイロー。

一番人気のスペシャルウィークは自信と気合いに満ち溢れた表情で。

二番人気のセイウンスカイは眠たげに欠伸と背伸びを交え。

三番人気のキングヘイローは高笑いをもって。

三者で三番人気までを分け合った彼女達は顔を見合う。

 

 「負けません。皐月賞も、ダービーも、菊花賞も、全部私が勝ちます!」

 

 「お、やる気だねぇ~。じゃあ私もぜ~んぶ頑張っちゃおうかな~」

 

 「二人とも気が早いのね。でも、嫌いじゃないわ。…私は二人から嫌われちゃうかもしれないけど!」

 

 「……!挑戦状、確かに受け取りました。負けませんよ、キングちゃん!」

 

刹那に焔が立つ。

スペシャルウィークの瞳に宿る熱は明確にキングヘイローに届く。

けれどキングヘイローは何も答えずに視線だけを届け、スペシャルウィークは笑みを浮かべて振り返って誘導員の待つゲートへと向かう。

その背からは並ではない闘志が溢れ出ていた。

 

 「あ~あ、余計に火が灯いちゃった。スぺちゃん、怒ると怖いよ~?」

 

 「あら、だからこそ勝つ事に意味が生まれるのよ?」

 

 「…あちゃー。こっちはこっちでもう燃えてたのか」

 

 「そう?私にはスカイさんにもかなりやる気があるように見えるわよ?」

 

 「まっさかぁ~!少なくともキングとスぺちゃんほどじゃ無いよ」

 

そう言ってニヒニヒと笑ったセイウンスカイは両手を頭の裏で組んでゲートへと歩き出す。

軽やかに進む背中。彼女の言うように、普段の眠たげで雲のようなつかみどころの無い歩き方だ。

その背に、キングヘイローは小さな笑みを向けて呟く。

 

 「上手くいく、なんて思っちゃダメよ?だって、このキングと走るんだから」

 

彼女の声は芝を揺らす風に乗って消える。

微かに強いその風はゲートに到着したセイウンスカイの耳を少しだけ揺らす。

 

 ーー思って無いよ。特に、キングだけにはね。

 

僅か一瞬。

瞬きよりも速い一瞬に、セイウンスカイの身体から目には見えない何かが溢れ、即座に宙に霧散する。

それをゲートインしたキングヘイローは見逃さなかった。

 

 ーーほらね?このキングに隠し通せるわけないのよ。独特だから分かるまでは気が付けなかったけど。

 

ゲートの蓋が三つ、同時に締まる。

歓声は静まった。

遠くに起立する針時計の秒針が時間を刻み続けている。

特別の一つを知らせる、その瞬間のために。

 

 

 

to be next story,





 スぺとスカイはキャラ崩壊してたらごめんなさい。
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