クソムズイ&尺が分からん。
《各ウマ娘、一斉にスタートしました》
レースは始まった。
クラシック級最初の栄冠、皐月賞。酷い出遅れの無い好スタートでゲートが上がる。
《逃げを宣言していたテンカフブが果敢に前へ出ます。次いでキングヘイローがスゥーっと上がって行った。三番手にはセイウンスカイ。最後方から三番目にはスペシャルウィークが待機しています》
順番を入れ替えながら一コーナー目で長い列のように整った彼女達は視線を周囲に、或いは真正面のみに向けて状況を読む。
ーー……先頭では無いの?どういう事?
四番手に落ち着いたキングヘイローはほぼ目の前を走るセイウンスカイの背を見つめる。
淀みの無い軽やかな走り。
だが胸中はそうでは無い。
ーー上手くいかない。こんなんじゃ全然ダメだ。もっと、じゃないとまた……。
セイウンスカイの中に湧くのは確かな焦り。
如何なる理由なのかを知る者はこのターフの上では彼女だけだ。
「何を企んでいるかは知らないけど…。勝つのはこのキングよ……!」
叫ぶキングヘイローの全身に力が渡っていく。
しかしまだ時ではない。渡った力は強靭な理性で抑え込み、彼女は決着の瞬間を待ち続けて溜める。
《先頭が三コーナーから四コーナーへと差し掛かります!ここで上がって来たのは…!》
高々に響き渡る蹄鉄の音を、女性実況者の声が覆う。
彼女が示すのは後方から上がって来た一人。
スペシャルウィーク。
「はぁぁぁぁ!!」
ーー仕掛けて来たわね…!
ーー…流石の捲りだね、スぺちゃん。なら、私も…!
《スぺシャルウィークが外から上がって来た!先頭テンカフブは僅かに辛いか。セイウンスカイが肩を並べます!》
四コーナーを超える直前、スペシャルウィークが仕掛ける。
それまで後方で溜めていた脚を全開にした走りは観客の歓声を呼ぶ。
対するセイウンスカイは思考を一点化。一気に走力を上げてテンカフブを交わして先頭へと躍り出る。
それと同時、キングヘイローが膝を深くした。
「…勝負よ」
跳ねたように。飛んだように。
一歩が出る。
捲れた芝の土くれは蹄鉄の音によって砕け。残された突風がキングヘイローの前に居たはずのテンカフブの横髪を揺らす。
「…さっすが一流。スぺちゃんもいつにないくらい怖いね」
「私だって…!」
三者がバ群から抜け出る。
離されていくテンカフブ。
彼女の脳裏に浮かぶ絶望。。が、今日までの努力と寄せられた期待の前にそれは霞んでいく。
「もう…ムリ…じゃない……!ムリじゃない…!!!」
上がる声は小さく、足音にかき消されてしまったとしても傍を走る者達には絶叫のように届き、鼓膜を叩く。
それは、或いは鼓舞とも言えた。
負けない。負けない。負けない。
勝ちたい。勝ちたい。
勝って、夢の最初を現実に。
一つの願いから延びる無数の欲。
貪欲に滾る【勝利】への本能。
瞳に、表情に、鬼気が宿る。
全身に、かつて親愛なる誰かと交わした誓いが満ちる。
勝てる。捲れる。ぶっちぎれる。
熱と共に沸き上がる自信。
それに違わぬ敷き詰めた轍。
勝利へと確かに繋がっていると確信を持てる日々を力に、それぞれがスパートを掛け始めた。
だがそれを。
彼女達は叩き折る。
「……でも、負けないよ」
《キングヘイロー肩を並べる!先頭のセイウンスカイに並ぶ!》
想いが人々の喉を叩く。
最終直線、刹那への道を往く両者の、その直ぐ背後に迫る一人の、それらを覆そうとする多くのウマ娘の最後の一押しになるべく大声援がレース場を満たす。
《セイウンスカイ!!キングヘイロー!!大外からはスペシャルウィーク!》
他者を己の風で殴りつけて捲ってくるはスペシャルウィーク。
追い越されたウマ娘の目に映る、ただ一つの背。
普段の様子からは想像もつかない雄大なその背に、彼女達の中には悔し涙を、歯ぎしりを見せる者もいた。
ーー勝ちたいのに……!どうして…ッ!
圧倒的な追い上げを見せるスペシャルウィークもその一人だ。
「キング…!」
「スカイさん!!」
まるで周りが見えなくなっていた。
すぐ裏にはスペシャルウィークが迫っていると言うのに、キングヘイローには真正面のセイウンスカイしか見えない。
ーー速い…!弥生賞の時よりも断然…!
僅かまで迫り、だが離される。
実力が多少超えている程度では足りないだけの溝がキングヘイローの目には映っている。
追い越したい。
キングヘイローの胸奥にはただ一点曇りなく、それだけが刻まれる。
「負けない…!負けないわよ!!!!」
叫ぶ。
振られる腕の先に付いた拳が一層硬く握られる。
「おんなじ気持ちだよ、キング…!」
《セイウンスカイ!セイウンスカイ先頭!しかしキングヘイロー!キングヘイロー迫る!スペシャルウィーキも追う!》
セイウンスカイの声は実況で届かない。
けれど、届かなくとも関係無い。
キングヘイローの脚はなお一歩、鷹が事く伸びるために外的要因など不要。
己の中にある決意だけで、事足りる。
「くっ…!はあぁぁぁぁぁ!!!」
誰よりも高く土くれが上がる。
誰よりも強く踏み込まれる。
まるで自分だけが動いているかのような錯覚。
それは違うとキングヘイローは知っているからこそ、苦悶を浮かべながら殊更に速度を求めた。
ーー通過点とは言わないわ。けど、けどね…!一流を示すのなら、勝たなきゃならないの!!!
見える。
見える。
見える。
そして届く。
セイウンスカイの手が、手を伸ばさずとも届くところで振られている。
バ身差などは無いも同然。脚さえ微かにでも速まれば雌雄は覆る。
ならば後は超えるだけだ。
《逃げ切るか!?三番セイウンスカイ!!逃げる逃げる!セイウンスカイ逃げる!》
「…でも、超えさせない」
「!!!」
《キングか!?追いつくか!!》
……瞬間、目端に入った。
目を見開くほどの唐突さだった。
最初に抜けたのは誰の背でも無い。ゴール板だ。
《セイウンスカイ!勝ったのは三番、セイウンスカイです!!》
「ふっ、はっ、はぁっ…!」
「はっ、はっ、はっ…!」
「げほ!くっ…!はぁっ、はぁっ…!」
三者がゴール板を超えた先で息を荒げる。
セイウンスカイは伸ばした膝に手を付きながらも客席を見据え、体勢は同様であれどスペシャルウィークは雫に濡れる芝を見下ろしている。
その両者の前で。キングヘイローは腰に手を当てて掲示板を見上げていた。
ーー負けた。後一瞬足りなかった。眼の前だったのに。……私は。
「おーっほっほっほ!流石ね、セイウンスカイさん!こんな大舞台で負かすなんて!流石はキングのライバルよ!」
脳裏を過る何かを遮り、キングヘイローは高笑いと共に皐月の王者を称える。
姿勢は普段と変わらぬ高飛車。まるで自分が勝ったかのような姿。
それをセイウンスカイは呼気を整えながら姿勢を戻して聞いていた。
「それにスペシャルウィークさんも凄かったわね。相手がこのキングじゃ無ければどこで交わされていたか分からなかったわ」
次いで、キングヘイローは俯いたままのスペシャルウィークに歩み寄り、手を差し伸ばす。
「だから、落ち込んでいる暇なんてないわよ?貴女の夢を阻むのはこの私なんだから」
「…次は、負けません。キングちゃんにも、セイちゃんにも…!」
だが、スペシャルウィークはキングヘイローの手を取らなかった。
彼女は目元を拭うと己の意思で立ち上がり、殺気とさえ見紛う意思を視線に乗せてキングヘイローとセイウンスカイを見遣る。
「…えぇ。それでこそ私のライバル」
差し出していた右手を胸下まで左手と共に持っていって両肘を持ったキングヘイローは微笑む。
「あはは、まるでキングが勝ったみたい。客席のみんなも戸惑ってるよ?」
「あら、予行演習はするに越した事無いわよ?だって、これからはキングの一人勝ちなんだから」
「にゃはは~。それは残念。じゃ、今日は目一杯センターで輝いちゃおっかなぁ~」
「えぇ、精一杯このキングのパフォーマンスを霞ませなさい!」
「あ、あはは…。そーいうとこはホントに敵わないなぁ」
「で、ですね~…」
僅かな間のレース後の余韻。そこで彼女達は言葉を交わし、控室に戻る。
その後行われたウィニングライブは皆が存分に輝き、ファン達の声援を十全に浴びた。
to be next story,
レースの序盤ってもっと長い方が良いか?それとも終盤に厚みを持たせた方が良いか?
何も分からん。
なのでその時書きやすいように書きま。