不屈の緑   作:カピバラ@番長

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未だにハロンとか昇りとかコーナー番号とか分からん。
私は雰囲気でウマ娘小説を書いている(逃げ)。


Strongest the

 

 その日が来る。

クラシック三冠と呼ばれるレース、その最後の日が。

ーー菊花賞。

最も強いウマ娘が勝つと言われている、三冠レースの中でも最長の菊花賞は心技体全てが要求されるレースとなっている。

故に、勝てるのは[最も]強いウマ娘だけだ。

 

 「…行ってくるわね、トレーナー」

 

控え室にて、二者が向かい合って立っている。

片方は彼女のトレーナ。もう片方は出場するウマ娘のキングヘイロー。

日本優駿の後、二度のGⅡレースに出た彼女はどちらでも一着を取る事が出来ていなかった。

神戸新聞杯では三着、京都新聞杯ではダービーウマ娘のスペシャルウィークにクビ差で敗れての二着。

それでも、彼女は菊花賞で二番人気。それも本来なら短距離・マイル路線にも関わらずだ。

多くのファン達が彼女に夢を見ている。

最も速いウマ娘、最も幸運なウマ娘に並ぶ力があると。

三つの冠を別つにふさわしい一人だと。

少なくとも、彼女のトレーナーはそう信じて疑わなかった。

 

 「…キング」

 

 「大丈夫。安心しなさい。ダービーの時みたいな失態は二度と繰り返さないわ」

 

 「それは大丈夫だよ。この六カ月で君は心身共に成長した。技術だって充分だ」

 

 「なら、心配事って?」

 

キングヘイローに問われてトレーナーは一瞬口を噤む。

けれど、直ぐに答える。

 

 「……セイウンスカイには気を付けて。彼女は…」

 

 「それも、分かっているわ」

 

キングヘイローは微笑みと共に答えた。

理解しているーートレーナーにそう受け取ってもらえるようにと。

 

 「……分かった。それなら自分から言う事はもうないよ。君の強さは、自分が一番目にしているからね」

 

彼女の想いが通じ、トレーナーはそれ以上の言葉を控える。

その目にはキングヘイローを信じるという一念だけが灯っている

 

 「じゃ、レースの後に」

 

 「冠を磨く準備をして待ってる」

 

振り返り、キングヘイローは控え室を後にする。

残されたトレーナーは僅かな沈黙の後、傍にあった椅子にどっかりと腰を下ろし、両肘を膝に立てて祈ると、面持ちを引き締めて観客席へと向かった。

 

 

                ーーーー 

 

 ファンファーレは既に鳴り止んだ。

ゲートには各ウマ娘が一瞬を待ち望んで固唾を飲んでいる。

そのうちの一人。キングヘイローは、スペシャルウィークは、数秒前の事を思い出す。

セイウンスカイがすれ違いざまに残した一言を。

 

 『何もさせないよ』

 

ハッタリでも脅しでもない、と。力強い笑みを目にした両者は直感する。

同時、悪寒が全身を巡た。

 

[何か仕掛けて来る、或いは既に]と。

 

はっきりとそう感じた。

走る前から流れ出た一滴の汗は、彼女達の心を更に引き締めるに充分だ。

 

 ーー普段は自分の言葉ですらはっきり言う事の少ないセイウンスカイさんが、あれだけ明確に宣戦布告するなんてね。

 

そよ風の音が聞こるほどの静寂の中でキングヘイローはちらりと先のゲートを見る。

視線が捉えるのはセイウンスカイ。

普段通りの猫のような隙の多さは、だが、今日この瞬間に限っては余裕の表れにも受け取れた。

 

 ーーいいわ。のってあげる。私と、トレーナーで築き上げて来た全てをぶつけてあげる。

 

『その上で』。そう決意した時、ゲートは開いた。

 

 「私が勝つわ」

 

 《各ウマ娘、スタートです》

 

僅かな出遅れが起きたスタート。

が、大きく支障が出るほどでは無かった。そのため全員は意識の埒外にその事実を棄てる。

何処かで雑念になって勝敗を決めぬ為にと。

 

 ーーこのレースは、私が創る。

 

瞬く間に先頭を陣取ったのはセイウンスカイ。

追走するウマ娘を尻目に行った彼女は妙だった。

何処か、一気に先頭を取ったようだと。

故に、二番手以下の彼女達は気が付く。

 

 【皐月を連れ出すつもりか】と。

 

 ーーマズいわね。そう来るの。

 

 ーー大丈夫、大丈夫……。最終直線からでも私なら追いつけます…!セイちゃん!!

 

背後より届けられる怒りにも似た視線を浴びながら、二百メートル地点を真っ先に通過したセイウンスカイはこの日のために鍛え上げた体内時計を読む。

 

 ーー十三秒……二か三、かな。うん、良いカンジだ。

 

小さく微笑み、一段、踏み込みを強くする。

僅かに、けれど徐々にセイウンスカイの速度が上がる。

彼女以下のウマ娘達にもそれは伝わった。

やはり彼女は…セイウンスカイは、皐月賞が如く[速さ]を持って勝つつもりだと。

実際、その後の四百メートル地点での通過タイムは十一.五秒。中・長距離では二百メートル間で平均十二~三秒の所を一~一.五秒近く縮めての走りに、異様な速さを体感で理解したウマ娘達は掛かったかのような焦りを見せる。

その中には当然のようにキングヘイローとスペシャルウィークも居た。

両者は己の脚に対する自信と、彼女の更なる作戦に対する恐怖に逸るべきか否かを問い質し続ける。

 

 ーーそう。そうだよ、キング、スぺちゃん、みんな。私はここをターフから釣り場に変える為の魔法を作ったんだ。時間が変になる釣り場に、ね。

 

千メートルを超えてレースは中盤戦へ入る。

その段階での通過タイムは六百、八百、千と全て十一秒台。

その全てで先頭に立っていたのはセイウンスカイ。

そうであるならば最も疲労しているはずの彼女は、だが笑っている。

 

 ーー速い…速すぎるわ。こんなの、体力が持つわけが無いじゃない…!!

 

僅かに呼吸が荒くなり始めたキングヘイローは眉間にしわを寄せて苦悶を見せる。

彼女の最も得意とする距離は短距離・マイル。そこでなら分かる。嫌というほどに知っている。場合によっては十一秒を切る事だってある。だからそれだけなら彼女の得意とするところだ。

しかしこれは長距離・三千。そんなモノを千二百や千六百のペースで走ればどうなるかは一番よく分かっていた。

 

 ーーやっぱり、もっと前目に…ダービーのスカイさんのように走るべき…?

 

目尻から後方に流れていく汗。

五番手で走り続けるキングヘイローの心を揺らす大敗の日の光景。

逸る想いが彼女の脚を叩く。

……けれど。

 

 ーーいいえ…いいえ!私は私よ!!!

 

ダービーから今日まで。徹底的に鍛えた彼女の理性が感情を抑える。

 

 ーー最初から最後まで、自分の走りを貫いてこその一流!その上で勝てなければ誰も認めてくれないわ!お母様を見返せないわ!

 

よって、彼女は脚を溜めた。

全てを曝し出すべき最後の時の為に。

 

 ーーセイちゃん、私は…負けません。どんなに疲れててもです。

 

キングヘイローの後方、十番手前後で駆けるスぺシャルウィークはバ群の中で瞳を研ぐ。

その視線が切り裂き、創り上げていく進路の先にはセイウンスカイの背。

先頭で疾風のような速さを纏う、皐月の仇。

 

 ーー夢だったダービーは勝ちました。この手には叶えた煌めきがあります。……でも、他の冠が要らないわけじゃありません。私は、日本一になりたいんです!

 

ーー刹那。

スペシャルウィークの横を、後ろを、前を、走るウマ娘達に畏怖が触れる。

太く、うねり、触れば気圧される先端が確かに触れる。

 

 ーー日本一の邪魔をするなら…この脚で!切り伏せます!

 

その畏怖は、セイウンスカイにまで伸びる。

多くを巻き込みながら、当然キングヘイローにも及びながら、先頭で駆け続けるセイウンスカイにまで届く。

 

 「…好きじゃないんだけどなぁ。意地の張り合いって、女神様が好きだしさ」

 

運動による汗では無い、嫌な雫がセイウンスカイの背を流れる。

 

 「けど、良いよ。こ-ゆー時に受けて立たないのはウマ娘じゃないからね」

 

下り八百メートルカーブ。

スペシャルウィークが動く。

深く、深く、足裏の蹄鉄がターフに食い込む。

瞬間、周囲のウマ娘が……いや、全てのウマ娘が、彼女に意識を向けた。

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 「やらせないわよ!!!誰にも!!!!」

 

荒い呼吸を呑み込み、キングヘイローの瞳に焔が宿る。

それに押されてなのか。

否。

誰もが勝つために。

全員が脚を開放する。

溜めに溜めた力を解き放つ。

下すはバ身差の付いた先頭。勝つは己と定めて。

一斉に駆け出す。

 

 「……誰が来ても負けないよ」

 

僅かに背後を見て、セイウンスカイは全霊をその一歩に込める。

ここまでにしかけた魔法の集大成として、誰もを術中に陥れるために。

完膚なきまでの勝利を得る為に。

 

 「勝つのは、私なんだ!」

 

最終カーブを超えて直線。

全員が仕掛けている。

それまでの仕返しをしてやると疾風と成っている。

……だが。

 

 《セイウンスカイ逃げ切るのか…!》

 

等しく、実況が降り注いだ。

 

 《セイウンスカイ先頭だ!逃げた、逃げた逃げた!セイウンスカイ逃げた!》

 

 「く、うぅぅ…!うううう!!負けません!負けません!!私が勝つんです!!」

 

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ!無様は…晒さないわ…!勝つのは、この、キングヘイローよ!!!」

 

残りおよそ百メートル。

スペシャルウィークが後方より捲って上がってくる。恐ろしい末脚でまとめてなぎ倒していく。瞬きの内に切り伏せていく。

やがてキングヘイロー達に並ぶ。その上で尚超えようと疲労を殺して駆け上がっていく。

 

 《外を通ってスペシャルウィーク!しかしセイウンスカイの逃げ切りか!》

 

それをむざむざと許すキングヘイロー達では無い。

いや、今張り合うべきはこの相手では無い。

 

 《そして内からキングヘイロー!》

 

分かっている。分かっているのに、届かない。

その背に向って例え手を伸ばそうと届きはしない。

吐き気を覚えるほどの疲労が全身を掴んで離さない。

ただ一人のウマ娘を除いた誰もがそうだった。

 

 「この…!動きなさい![貴女]はキングヘイローでしょう!?」 

 

 「…なんで、どうして…!届かない……!!セイちゃん!!!!」

 

 「…私がレースを創ったからだよ」

 

たった、たったコンマ六秒の差が埋まらない。

僅かなはずの、けれど致命的なその差。

その差こそが、セイウンスカイの望んだ勝利への魔法。

脚だけじゃない、生半可じゃない心の持ち主の二人を下す為に創り上げた魔法。

 

 「自分のレースで負けたら…悔しいなんてもんじゃないんだ」

 

ならば、必然。

 

 《逃げ切った逃げ切った!セイウンスカイ逃げ切った!!》

 

誰よりも速くゴール板を駆け抜けたのはセイウンスカイだ。

 

 「は、ははは…。げほ、はぁ、はぁ…」

 

僅かに進んだ後立ち止まり、空を見上げる。

後ろより続々と届く蹄鉄の音は蚊帳の外。今の彼女を満たすのは青空と白い雲。そして伸ばした己の左腕。

荒ぶる呼気を治める為に深い呼吸を二度行い、僅かに収まると彼女は伸ばした左手で拳を作りながら大きく引く。

 

 「これからも、勝つからね」

 

彼女の心底からの呟きは誰の耳にも届かない。

会場は今、レコードタイムの更新に湧いているのだから。

 

 「…恐れ入ったわ、セイウンスカイさん。速くて、強い。トレーナーの言った通りね」

 

そう、キングヘイローは掲示板を見上げながら呟く。

彼女の声も誰かに届く事は無かった。

その背を見守る彼女のトレーナーを除いては。

 

 

 

 

to be next story.





 スカイもスぺもこんな事言うか…?
言いそうだとは思うんだが、どうなんだ……。
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