暁の黄泉鴉 作:マサイのゴリラ
「戦祭りだアアアアアァァハハハハハハハハハッ!!」
「……!!」
天を仰ぎ、高らかに咆哮を上げる
その音圧は風となり、目の前に立つ鬼童丸の髪が激しく揺らされた。
巨大なクマのような体躯となり、
赤く光る目で鬼童丸を捉えると、レンガ畳がシャーベットのように崩れるほどのパワーで、床を蹴る。
「ガアアアアアアァァッ!!」
「ッ!」
腕を大きく開いて突進する檮杌。
鬼童丸は腰を落として、迫り来る筋肉の塊との衝突に備えた。
「ッ…………!!」
檮杌が両腕でホールドしようとするのに合わせ、鬼童丸は彼の両手を掴み、防御する。
両手を塞がれ、足だけで檮杌の突進に抵抗しようとするが、それまで鬼童丸が上回っていたパワーは完全に逆転されており。
鬼童丸は両足でレンガ畳を削りながら、檮杌に押されていってしまう。
「ウラアアアアッ」
「っ……!」
最後に頭突きを胴体に食らい、鬼童丸は吹き飛ばされてしまう。
檮杌の強化に合わせ、地面から生えてきた古臭い長屋の列に激突。木でできた壁を易々と突き破り、鬼童丸は二人が着地してきた地点まで戻された。
「ハァァァァァ……! ああ、良い
土埃を上げる長屋の前で止まった檮杌は、あるものに気がついてその場を離れていく。
高く跳躍し、長屋を飛び越えてその場に戻った鬼童丸。彼が目にしたのは、ゾウの檻に近づいていく檮杌の後ろ姿だった。
「……」
「ギャアギャアギャアッ!」
「キィィィィッ!」
鬼童丸は檮杌の背中から視線を移し、左手側の檻でけたたましく騒ぐ猿たちに目をやる。
彼らも檮杌と同じように目が赤くなっていた。
檮杌の能力である、"本能の解放"。その影響を受けて、縛られることのない野生への回帰を果たそうとしていたのだ。
「ギギャッ──」
「!」
突如、檻の下から瓦屋根そのものが生え、檻の猿たちが天井と挟まれて圧死。そして、檻そのものが下から生えてくる木造家屋に潰されていった。
これが"記憶の解放"の影響だった。
「ウラアアッ、大人しくしろォ!」
「パオオオォッ! ファオオオッ」
檮杌はロープや杭を破壊し、ゾウの檻の中へと侵入。中にいるアジアゾウ三頭のうち、二頭の殺害した。
そして残る一頭が暴れる中、その鼻を掴んで頭を押さえつけ、言うことを聞かせようとする。
「……」
完全に意識をゾウに向けている檮杌に、鬼童丸はチャンスを見出す。
軽やかに、跳ねるように地面を蹴ると、音を一切立てず一瞬で檮杌の背後を取った。
「あ? ブガッ──!?」
鬼童丸は檮杌の横顔に飛び蹴りを食らわせた。
怯んだ檮杌は思わずゾウの鼻を放してしまい、大きくよろける。
先程までの攻撃よりも、明らかに彼が受けているダメージが小さくなっている。鬼童丸はそれを察する。
膨れ上がった筋肉が、檮杌の頑強さをさらに向上させているのだ。
「チッ、テメェ……今良いとこなんだよ! 待ってろ、おもしれぇ武器見せてやるから」
「パオオオォォッ!」
追撃を食らわせようとする鬼童丸だったが、彼が拳を振り上げたところで檮杌は手を出して制止する。
そして放してしまったゾウの鼻を再び──握りつぶすように持ち直し、力いっぱいに引っ張った。
5
そして、その大きな背中で鬼童丸を打ちつけた。
「……!」
大したスピードではなかった。
鬼童丸はゾウでの攻撃を避けも防ぎもしなかったが、全くダメージを負わず。軽く吹っ飛ばされるも、すぐに足の裏で勢いを殺す。
「ハッハッハッ……どうだ! 象ハンマーだぜ! テメェも武器使えよ! 何でもいいぞ。クマとかどうだ!」
檮杌はゾウの鼻を握り、棍棒のようにして鬼童丸に振り下ろす。
体重5トン。体長6メートル。体高3メートル。
加えて分厚い皮膚に覆われ、その下にはギッシリ詰まった筋肉の層がある。
それを軽々と振るい、棍棒として使うのだ。
鬼童丸は跳び退いて回避するが、ゾウの体が叩きつけられたレンガタイルに蜘蛛の巣状のヒビが入った。
「オオォォ……!」
「……」
人間とは違い、ゾウは頑丈である。
地面が割れるほどのパワーで叩きつけられても、ゾウは死なず、形も失わない。
弱々しく鳴き声を上げるが、檮杌は一切意に介していなかった。
「ハアァァァッ!」
「フッ──」
檮杌は再びゾウを振り上げ、檮杌に打ちつけようとする。
鬼童丸はそれに合わせ、カウンターのハイキックを繰り出した。
剛力により振り下ろされる、数トンに及ぶ肉の塊。それを片足で跳ね除けた鬼童丸は、すぐさま腰を落として構えを取った。
「う、おおッ──!?」
「ッ──!」
──"
両手を合わせ、妖力を爆発させる。
爆炎として顕現する妖力は、噴流のように勢いよくゾウと檮杌を呑み込み、焼き払った。
「ガッ、ハハハハハハ! ああ〜〜〜〜……
ゾウの檻全てを焼き払うほどの鬼火を放ったが、檮杌は相変わらず無傷の頃の彼自身を記憶から解放し、生き延びていた。
手に握られていたゾウは骨となり、炭化も進んでいたというのに。
「やっぱり鬼の
「……!」
「カァアアアッ!」
檮杌は妖力を
すると──
「オオオォォォォッ!!」
「ウオオォォォォン!!」
「グオオオオオオオッ!!」
動物園のあちこちから、猛獣たちの咆哮が轟き始める。
檮杌の能力が、彼らにも強く働きだしたのだ。
咆哮だけでなく、硬いものが破壊されるような轟音すらも鬼童丸の耳に届き、何が起こりだしたのかも理解する。
「ハ、ハハハハ…………。どうダ、出力は八割ぐらイといったとコろだぜェ……!」
「…………」
「まだまダこれカラさァァ……もッと楽しモうぜェェ!!」
檮杌は鬼童丸に三度飛びかかった。
剛拳を振りかざして迫る猛虎の怪物に、鬼童丸も拳で応戦する。
檮杌の眉間を狙って右拳を放つが、直撃した瞬間、鬼童丸の右腕から何かが砕ける音が発せられ──激痛が走った。
鬼の腕が、負けた。
「オルルァアアアアアアッ!」
「ッ!?」
檮杌の巨大な拳が鬼童丸の左半身を強打し、大きく吹き飛ばす。
動物園内の順路の中でも広い空間に飛ばされ、転がる鬼童丸。倒れる彼を大きな影が覆った瞬間、上から檮杌が殴りかかってくる。
巨拳は地面にめり込み、直径2メートルのクレーターをつくりだす。
間一髪で避けた鬼童丸は、すぐさま腕を再生させて鬼火の塊を檮杌の顔面に投げつけた。
「ンガッ!」
檮杌の反応はそれだけだった。
鬼童丸も全力の鬼火を放ったわけではないとはいえ、軽い火傷しか与えられなかったことに目を見開く。
「グオオオオッ!」
「!?」
突如、
振り向くと、そこには二本足で立ったヒグマが。
鬼童丸を引っ掻いたようで、"
だが痛がる様子は見せず、赤い目で鬼童丸を見下ろすばかり。
「ハッ! そいツも混ザリてぇみたいだなっ」
「……」
「グオオオ!!」
ヒグマは吠えながら鬼童丸に襲いかかった。
だが、生まれながらの戦闘種族である鬼がただの哺乳類に負けるはずもなく──鬼童丸は左手をヒグマの口の中に突っ込み、内側から喉を掴む。
そしてそのまま、片腕で背負い投げを実現。背中から倒れるヒグマの頭を踏み抜き、絶命させた。
「……!」
周りを見回せば、飢野動物園は地獄絵図と化していた。
あらゆる動物が檻から抜け出し、逃げ惑う来園客やスタッフを追い回し、食いつき、殺していた。
ライオンが老人に噛みついたまま振り回しており、カバが女性をパキパキと音を立てながら噛み潰し、オオワシが子どもを空から
トラやバイソンも、鬼童丸と檮杌を挟み込んで迫ってきていた。
「いイネェ! これが、コレガ祭りってモンだロ!! 熱くなッてキタな!? オラァ、鬼童丸ゥ! テメェもヴォルテージを上げロォ!! じゃねぇとテメェも──」
「食い尽くされンゾォォ!!」
檮杌が鬼童丸に掴みかかろうとすると共に、バイソンとトラも突進する。
猛獣の方は大したことはないが、彼らに気を取られて檮杌の巨拳をまともに食らえば、流石の鬼童丸でも命が危険に晒される。
そう判断した彼は──
「……──」
妖力を、動物園一帯を包み込むほどに放出した。
飢野動物園の各地に、野球ボール大の鬼火が無数に出現、生成される。
数百の鬼火が浮かんだ時、鬼童丸は火種をまいた。
「死ネッ、鬼童ま──」
──"鬼火・
「る────!!?」
次の瞬間、動物園を完全に呑み込み、巨大な炎の柱が天に向かって昇った。