暁の黄泉鴉 作:マサイのゴリラ
「ラストスパートだ。……"
玉藻がそう呟くと、金色の九尾が揺れる。
輝く妖力は人の形を得て、玉藻の隣に出現。
彼と全く同じ背丈、同じ
「……!」
『……』
相対する
渾沌は腰を落としつつ、鋭い爪を見せつける構えをとった。
「フフフ……私の"
「……」
玉藻は指で「三」を示しながら、得意げに解説する。
「"
「……」
『……』
「……ふむ。まあ、いいか。話の続きだが、三貴子の名前を冠したものは私が人間の科学から学び、生み出したものだ。"素殺嗚"は反物質を、"天魔照"は放射線を──」
玉藻が言いかけたところで、"月夜深"は彼の前に
妖力で形成されているただのシルエットにすぎないが、それは確かに、渾沌と帝江を見据えていた。
「そして"
「……!」
「私が作った、私そっくりの知能を持つ妖力の塊さ。だから放っておけば、勝手に学んで勝手に強くなる。派手に破壊をふりまく"
やれやれ、と首を振ってそう言う玉藻。
しかしその表情には笑みがあり、本気で言っているのか言っていないのか、相手に悟らせないよう振る舞っていた。
勝手に学んで強くなるというセルフラーニングの機能は、
それが玉藻の手によって生み出されたものならば、その学習スピードは人間が作った機械よりも、ずっと速い。
「んじゃ、始めようか」
玉藻がそう言って右手を突き出す。手のひらに妖力を圧縮し、妖力光線を放つ予備動作だ。
それと同時に、"月夜深"も動き出す。
構えている渾沌に飛び込むと、拳を握って格闘戦を仕掛けた。
「ッ……!」
渾沌と"月夜深"の実力はほぼ同じ。
拮抗する殴り合いが繰り広げられる中、渾沌の後方へ移動した
玉藻の狙いは、そちらへ絞られる。
『ッ…………!?』
「させないよ」
踊り出そうとした帝江の左腕を妖力光線で吹き飛ばし、妨害する。
帝江は舞踊によって、妖力で形作られている"月夜深"を破壊しようとしていたのだ。
すぐに腕を再生させて舞踊を再開しようとする帝江に、玉藻は妖力を打ち込み続ける。
「踊らせなければ大した脅威じゃないなぁ、
『……!!』
「もっとすごいもの、見せてやるか」
玉藻は帝江のさらに後方へ転移する。
渾沌と殴り合う"月夜深"も、隙をついて渾沌を蹴飛ばして距離を取る。
玉藻と"月夜深"は、その間に渾沌と帝江の二人を挟み、全く同じ構えを見せた。
手を重ね合わせ、妖力を収束させる。
「くらえ──"
『「……!」』
黄金と紫電色が混ざり合う閃光が、二方向から放たれる。
呑み込まれた渾沌と帝江は、光にその姿を真っ白に塗りつぶされていき──消滅する。
「そう、"
妖力の奔流は、月面の荒野を広くえぐった。
二つの閃光がぶつかった──渾沌たちのいた地点の周囲数十メートルは、円型に削り取られたかのような地形に変わっている。
誰もいないその場へ声を投げかける玉藻は、渾沌が復活してくるのを待っていたのだ。
「だから力や、知能で私に完全に及ぶ前に消さないと、少々面倒なことになる──」
「ッ!!」
玉藻が言いかけた瞬間、背後から一本の腕が現れて彼の胸ぐらを鷲掴みにする。
渾沌だ。
復活を果たし、玉藻の結界の内側に現れて攻撃を仕掛ける。
「"
「!?」
スーツの襟を、引きちぎられそうなパワーで掴まれる玉藻。
しかし彼は平静を保ち、背後に立つ渾沌へおもむろに右手を向けた。
ほとばしる紫電色の妖力が収束し、極太の
「"
玉藻は妖力のシルエットへそう呼びかけると、無重力空間へ放られた渾沌の後を追った。
残された"月夜深"は、背後へ振り返る。
渾沌の肉体から分裂して生まれた
『……』
『……』
睨み合う
最初にアクションを起こしたのは"月夜深"だった。
ただの妖力の塊は、全身に妖力を
すると、"月夜深"にさらに無数のシルエットが重なり始めた。
『『『『…………』』』』
"月夜深"は、技としての"
何人分もの妖力のシルエットが出現し、帝江を包囲する。
その光景に帝江は驚いたように狼狽して、動きを止めてしまう。
十人を超える"月夜深"たちは、帝江に向けて紫電色の妖力を放とうと構えた。
───────────
完全な無重力空間に放り出された渾沌は、妖力光線に呑み込まれた際の負傷を再生させながら何も無い場所を漂っていた。
どのようにして月に戻ろうかと、顔を淡い黄色に光る衛星へ向けたところ──
「ッ……!?」
月から迫る、無数の妖力の塊。
まるで花火か、流星群。
放たれたそれらは渾沌の体に次々と直撃し、彼を一方向へ押しやっていく。
玉藻の仕業である。
「"
渾沌を追って、同じく宇宙空間に飛び出してきた玉藻は手のひらから妖力弾を連射する。
勢いを殺す空気の無い宇宙で連撃を当てられれば、そのたびに加速し、吹き飛ばされてしまう。
渾沌はなす術なく"天魔津甕星"の全弾をもらい、マッハを超えるスピードで地球へ追いやられた。
「史上初じゃないか? 宇宙から地球に戻ってくる
呑気に呟きながら、玉藻は地球へ落ちていく渾沌に続く。
大気圏に至り、重力の影響を受け始めつつある渾沌の体は徐々に熱を持ち──発火する。
マッハ数十というスピードで大気圏に突入する物体は、空気をそれだけの勢いで追いやり、圧縮する。急激な圧縮により空気は熱を放ち、火をつける。
妖怪であっても、その現象からは逃れられないということだ。
「地上からは隕石に見えているかな? まあ渾沌は石じゃなく肉だから……どちらかというと、途中で消える火球か」
玉藻は渾沌の後に続きながら、彼に再三右手を向ける。
膨大な妖力がその一箇所に込められ、再び妖力弾を連射しようと構えた。
「……落ちるのは大西洋じゃなくて、日本がいいか? お仲間に帰還を祝ってもらおうじゃないか」
放たれる"
無数の妖力弾は弧を描き、墜落していく渾沌の体の側面に直撃していく。
渾沌の落ちる軌道を無理やりねじ曲げ。
大西洋から西へ、アメリカを横断させるように吹き飛ばしていった。
玉藻の放つそれは紫電色であり、実体を持つ渾沌は炎に包まれ赤く輝いている。
北アメリカ大陸の地上からは、その様子は火球と紫色の流星群が西へ流れているように見えていた。
二十分以上にわたり、渾沌は玉藻に撃たれ続けて巡行。
陸地がほとんど無い太平洋を飛び続け、ようやく渾沌は陸地に近づく。
日本の地が、雲と雲の隙間から覗き始めていた。
「よぅし、
後ろから追い続けていた玉藻は、一際大きな妖力の塊を発射する。
渾沌は紫電色の光に呑み込まれ、そのまま真っ逆さまに東饗湾へ落下。高さ500メートルに届くほどの水飛沫を上げ、着水した。
「…………!?」
数千発の妖力弾を浴び。
墜落による熱で燃えて。
マッハ20を超える速度で上空から海面に叩きつけられた衝撃を受け、渾沌の体は水中でバラバラになっていた。
そんな中、東饗湾の底に渾沌はある物を発見する。
それは巨大な、巨大な貝だった。
「……!」
渾沌は海水と
海水と一体化した彼は海坊主のような姿となったが、能力を解除することで元の獣人の容姿へと早変わり。戻った。
「……どうだい渾沌、何か見えたかな」
「……」
「東饗湾の底にある、"
フワッと海面まで降下してきた玉藻は、渾沌にある妖怪の名前を教える。
「あれはこの東饗の……いや、今の日本の
「…………」
渾沌は首を傾げてみせる。
玉藻は言葉を続ける。
「我々『四大財閥』は、海外の強力な国々を襲撃して回ったというのは教えたね。世界というのは、我々が産まれた時よりもずっと強固に関わり合っていてね……外国との繋がりが消えると、人間はすぐに異変を察知する」
「……」
「たとえば海外旅行さ。いきなり飛行機が使えなくなったら、国民は大混乱、航空会社には世界の状況が丸わかりになるだろ? 蜃は、そうした問題を解決してくれた」
現在の四大財閥の発足は三十年近く前のこと。
日本を取り巻く好景気は、さらにその三十年前に始まった。
第二次世界大戦を終え、世界の国々は良くも悪くもつながりを強くし、国民も海外の情勢を無視できない社会を構築した。
『四大財閥』が強国を滅ぼして回った事実は、
「元々は、ただ蜃気楼を出すだけの貝の妖だった。だが、私の妖力を長く食わせ続けて……あそこまでの大きさになったのさ」
蜃の大きさは東饗湾のおよそ四分の一、面積にして200平方キロメートルを超えるほどの大きさに育った。
妖怪の強さは"名前"により裏打ちされ、妖力量によって決まる。
大妖魔である玉藻の、あまりにも多く質の良い妖力を餌とした蜃の力は、当然大妖怪と言えるほどにまで育っていた。
「私はあの蜃によって日本を支配したと言っても過言ではない。あの大きな二枚貝一つが、日本を幻に取り巻き──蜃気楼の世界へ、閉じ込めたのさ」
蜃の能力は蜃気楼をはるかに逸脱したものとなった。それは、強力な幻覚。
海外旅行も、海外企業との出資提携も、国際電話も。全て成り立つのである。
幻の世界ならば。
キャラクター紹介
種族:半人半妖 年齢:3000歳以上
身長・体重:167cm・97kg
古代中国を支配していた、三皇五帝の末裔たる人間である。しかし生まれながらに持っていた異形と異能を理由に、捨てられた過去を持つ。
『四凶』の実質的なリーダーであり、知略に長ける。封印から復活してからは荒くれ者の同胞たちをまとめ、玉藻の側近として数週間過ごしていた。
非常に貪欲な性格かつ、
どんなものでも食べられるという能力に加え、普段の黒い粘液に覆われた容姿(=捕食形態)から変化した「狩猟形態」では、食べたものの性質や技をコピーすることができるという能力を持つ。
基本的に実体のあるものしか食べられないが、初めて黄泉へ送られ、世界の境界を食い破ったことで貪食の対象に制限が無くなった。空間も、時間も喰らえるようになったが、黄泉の神により、大妖魔ではない者で唯一直接管理されることになってしまった。