暁の黄泉鴉   作:マサイのゴリラ

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27.尋問

「わ、私をどうするつもりなんだ……!」

 

 玉藻と通じていたことが判明した高橋。

 長濱、加山、覚、鴉の四人は彼をソファに座らせ、取り囲むようにして立っていた。

 

「別にどうもしねぇよ。覚さんが言うには、この問題はかなり根深いところにまで闇が浸透してるみたいだしな。どうもできないってのが正しいだろうぜ」

 

 長濱はもう完全に吹っ切れてしまったらしく、妖怪と繋がっていた事実を暴けただけで失脚したわけではない高橋に対して、すっかり敬語を使わなくなっていた。

 尤も、裏口入学の件については調べればボロが出るだろう。

 玉藻もそこまでフォローするとは思えないと覚も言っている。

 だが、今やるべきはそんなことではない。

 

「さて、高橋警視にはこれからいくつか質問をさせてもらう。喋らなくて結構だ、俺が勝手に心を読むからな」

 

「やっ、やめろっ。玉藻社長にバレたら、お前たちタダじゃ済まんのだぞ!」

 

「それは君だって一緒だ。我々は最初から敵対しているしな。命が惜しかったら、俺たちの言うことを聞け」

 

 往生際の悪い高橋を脅す覚。

 ここからは彼の専門分野である。

 黙って立っていた鴉は覚の隣まで来て、彼と一緒に高橋を尋問するため、質問内容を覚へ指示し始める。

 

「覚、まずは玉藻との関係についてだ。いつから始まったのか? どう知り合ったのか? 玉藻は妖怪についてどれだけこいつに喋ってるのか? 頼む」

 

「……さて、高橋警視。質問を始めるぞ。君はいつから玉藻草司とつるむようになったんだ? どう知り合ったのか、君がどれだけ(あやかし)のことについて知ってるのか。教えてもらおう」

 

「くっ……! うぅっ……!」

 

「頑張って心を無にしようとしても無駄だぞ。めちゃくちゃわかりやすいな、君は」

 

 高橋は目と歯を食いしばり、まるで力むか何かに耐えるかのような様子を見せる。

 しかしそんなことでは覚の読心を防ぐことはできない。

 覚の目の中に、「読まれてたまるか!」「心を無にするんだ!」という言葉が流れ込んでくるだけで、多少鬱陶しい程度で済んでいた。

 

「……ふぅむ。なるほど。玉藻から近づいてきたのか。最初から金をチラつかせられて……簡単に食いついたな。国家公務員もこんな程度か」

 

「や、やめろっ」

 

「知り合ったのは六年前。当初は自転車で人を轢く事故をした娘のために金が必要だったところ、玉藻につけ込まれたようだな」

 

「あっ……そういえば、確かに警視の娘さんと同じぐらいの女の子が、登校中に高齢者を轢いたって事件があった気がするわ。重い後遺症があったって話だったけど、それからあんまり報道されなかったような」

 

「なるほどな。最初はそれを隠すために……」

 

 覚は自身の顎を手で撫でながら、高橋の心に見えたことを全て口に出して述べていく。

 事故を穏便に済ませ、被害者への治療費や慰謝料を支払うために金が必要だった時、玉藻が近づいてきたそう。

 その頃高橋は今の地位に至ったばかりであり、厄介な揉め事を公にするわけにはいかなかったということだ。

 加山と長濱は納得する。

 

「妖怪のことは……存在は知っているが、あまり見たことはない。玉藻と私だけ、か。長濱さんたちのボディカメラに妖怪が映っていたのは知っているが、確認せず全て記録を消去させたようだ」

 

「くそッ、やっぱりか!」

 

「や、やめたまえ長濱くん! 暴行だぞ!?」

 

 拳を振り上げる長濱と、それを制止しようとする高橋。

 しかし長濱の鉄拳が振り下ろされることはなかった。

 クズに振るう拳はない、と彼は吐き捨てるばかりだった。

 

「覚、次の質問だ」

 

「ああ」

 

「鴉の存在を知っているかどうか。そして四大財閥について知ってることを全て吐け、と言え」

 

「了解した」

 

「……? お、お前はさっきから一体誰と喋ってるんだ……?」

 

 高橋には未だ鴉のことを話してはいない。

 それは少なくとも覚や加山たちからという意味だが、玉藻から聞かされているのかは知っておきたかった。

 鴉にとっての敵が妖怪だけでなく、人間まで含まれるとなれば。

 彼の今後の動きも変わっていくだろう。

 

「警視、"鴉"を知っているかね?」

 

「なに? か、カラスだと? そんなもの、外を飛んでるし知らないわけないだろうっ」

 

「……知らないみたいだな」

 

「心の中も読んだか?」

 

「ああ。さっぱりわかってなさそうだ。嘘は吐いてない」

 

 高橋は鴉については知らない。

 玉藻も、流石にそこまでは喋っていなかったようである。

 自然な考え方をすれば、それは人間が自身を裏切り鴉へ情報を渡さないようにするためと想像できるが、玉藻はまだ掴みどころが少ない。

 単に面倒だから話していないということも想像できるのだ。

 

「他の四大財閥についても、何か知ってることがあれば教えてもらおうか。各トップが人間ではなく妖だっていうのは知ってるね?」

 

「う……」

 

「知ってるな。だが、めぼしい情報は特に無い」

 

「なんかこう、四大財閥の妖怪たちの弱点とか知らないんですか?」

 

「し、知るワケない! 私は玉藻社長としか会ったことがないんだからな。他の三人は知らない……!」

 

「おや……?」

 

 加山の質問についてもNOの返答。

 玉藻以外の社長とも会ったことは無いようだった。

 しかし、覚は高橋の心の中にある情報を見つける。

 

「これは……新情報だな」

 

「何かあったのか?」

 

「どうしたの? 覚」

 

「『幻明芸能事務所』社長、月兎(げっと)についての話だ。これは俺も知らなかったが……月兎は、黄泉から出てきた妖ではないらしい」

 

「「!?」」

 

 月兎。四大財閥の中でも特に謎に包まれた存在だ。

 以前鴉と加山の二人は、加山の部屋で四大財閥について資料を集め情報を得ていたことがあった。

 月兎は四名の中で唯一顔写真を手に入れられず、詳細な情報も手に入らなかったのだ。

 茨木童子や覚から月兎は妖怪であるというのはわかったが、それ以上の情報は待ち合わせていなかった中で、この事実が発覚したのである。

 

「……これは玉藻から聞いたらしい」

 

「鴉……黄泉から蘇った妖怪じゃないってことは……」

 

「……」

 

 加山は鴉に言いかける。

 鴉の使命は黄泉から復活した妖怪を殺し、連れ戻すことである。

 しかし月兎は黄泉から出てきた妖怪ではない、つまり覚と同じく一度も死んだことのない妖怪というのだ。

 鴉の標的、ではなかったのだ。

 

「ん……? まだ何かあるな。月兎の顔を見てはいけない……? どういうことだ?」

 

「知らない! 玉藻社長がただそう言ってただけだ! 見たらどうなるかも知らないんだ私はっ」

 

「……謎が深まるな。やつに関しては」

 

 覚は相変わらず顎を撫でつつ呟く。

 

「鴉……」

 

「月兎のことか?」

 

「月兎も日本を狙っているというのなら……私は、彼とも戦いたいわ」

 

「お前にそんな力は無いだろう」

 

「……あなたは戦う気は無いのね……」

 

「場合による。やつが俺に対して明確に敵対して、邪魔しようっていうなら容赦なく殺すつもりだ」

 

「……」

 

 逆に言えば、邪魔をせずに大人しくいるのなら、鴉は月兎を狙うつもりは無いということであった。

 彼が言うように加山に妖怪に対する力は無い。

 鴉がいなければ何もできない。

 加山は日本のため、人々のためにと妖怪を討ちたいと本気で考えている。

 しかしその思いを鴉に押しつけていたのも、また事実なのだ。

 

「……よし。まあ、尋問はこんなもんだろう。最後に仕上げをしておくとしようじゃないか」

 

「し、仕上げだと!? 私に何を……!?」

 

 加山と鴉の様子を眺めていた覚だが、二人の間に流れる空気が悪くなるのを察し、手を叩きながら仕切り直そうとする。

 

「とりあえず、だ。この男は玉藻と繋がっていて、我々四名は玉藻の敵対者だということも警視にはバレた。警視から玉藻へこの話が渡れば、我々はかなり危ない」

 

「か、かなりで済むのか?」

 

「いいやぁ? 済みませんよ。特に長濱さんは鴉の庇護にもいないわけですから」

 

 長濱を脅しつつ、覚は右手を開閉させながら「私は多少腕に覚えがありますけど」と話す。

 そして覚は高橋のデスクへ歩いていき、勝手に引き出しを開けると、中からペーパーナイフを取り出した。

 

「な、何をっ……!?」

 

「安心しろ。君を傷つけるわけではない。傷つけるのは()()()だ」

 

 覚はペーパーナイフを握りしめて逆手持ちにすると、その鋒を自身の左前腕に突き立てる。

 そして思いきり皮膚に突き刺した。

 

「覚っ!?」

 

「何をしてるんだ!?」

 

 加山と長濱が驚きの声を上げる。

 ナイフが突き刺された箇所からはじわりじわりと血が溢れ出し、腕の側面を血が伝っていくと、カーペット床材に垂れて赤黒い痕を残す。

 出血を確認した覚はペーパーナイフをテーブルに置くと、人差し指で血を(すく)いとる。

 赤く染まった人差し指を掲げ、覚は高橋に迫った。

 

「今から君に呪いをかける」

 

「ひっ、ひィィィィっ!」

 

「落ち着け。すぐ死ぬようなものじゃない。死が確定するものでもない」

 

 覚は自身の血を、高橋の脂ぎった頬に塗っていく。

 円を描き、線を走らせ、覚は高橋の左頬に何かの印のようなものを描いていく。

 そしてそれが完成すると、覚は高橋に言った。

 

「俺が君にかけた呪いは、言うなれば"禁句"だ。君が、玉藻を含めた他者に対して我々の情報を喋った場合、即座に君を呪殺する。ついでに君の家族も呪われる」

 

「ひィィえぇっ……!!」

 

「酷い方法で死にたくなければ、我々のことは忘れることだ。決して、喋らないことだ。わかったね」

 

 覚が脅しをこう締め括ると、高橋は顔面蒼白、怯えきった表情で頷き続ける。

 加山も長濱も、自分たちのことが玉藻にバレてはまずいと思っていたところでの覚の呪いの登場に、心底安堵した様子であった。

 

(まあ、呪いは嘘なんだがな。本気で心の底から怯えてるし理解したっぽいから、長濱さんの監視をつけつつこのままでいこう。本当に呪いをかけたら逆に玉藻にバレそうだ)

 

 結局は覚のブラフであった。

 加山と長濱、高橋はそれを知ることはないが、鴉だけは気づいていたようで呆れた表情を覚に向けていた。

 しかし落としどころは文句なしの満点だと、心の中で覚を評価していた。

 

「さて、それじゃあ行こうか。鴉も用事ができたみたいだしな」

 

「え、そうなの?」

 

 覚がそう言うと、加山は鴉の方へ振り向く。

 この部屋に入るまで、鴉から彼女へ何も言っていなかったからだ。

 というのも、その鴉の用事というのは覚と高橋のやりとりの最中にできたものである。

 

「呼ばれたんだろう? 鬼たちに」

 

「……ああ。茨木童子から通達だ。これから、西神宿にある『一目連龍(はじめれんりゅう)水道』を襲撃する」

 

 株式会社『一目連龍水道』。

 四大財閥の一角であり、その支配者は……

 瑞子鳴河(みずこめいが)である。

 

 

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