暁の黄泉鴉   作:マサイのゴリラ

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37.復活

「そうか……。鬼の王を立て、人間社会を打倒して鬼の時代をつくる、と……。それが茨木童子の目的か」

 

 パトカーの中で加山と覚の話を聞く鴉。

 傷も塞ぎきっておらず、体力も完全に回復していない。

 腕を組んで、冷や汗を垂らしながら痛みに耐えつつ二人の話を傾聴していた。

 

「そして、俺が目覚める直前に太陽が空に昇ってたと」

 

「ええ、赤黒い色の太陽だったわ……。SNSを見てみても、あの太陽を見たなんて呟きも無かった。夜空が真っ赤になるぐらいの明るさだったのに」

 

「……太陽…………」

 

 鴉は呟く。

 加山は「写真を撮っておけばよかった」と言っているが、妖怪か幻がカメラのレンズに捉えられるのかという疑問を鴉と覚は抱く。

 加えて、覚は太陽の正体について何か思うことがあるような鴉の反応に気づいていた。

 

「鴉。何か心当たりでもあるのか」

 

「いや……」

 

「俺に誤魔化しは効かないぞ」

 

「……」

 

 助手席から振り向いている覚が指摘すると、明らかに彼から視線を外す鴉。

 やはり彼は何か知っている。覚はそう確信する。

 読心の能力によって嘘はすぐバレると突きつけられ、観念した鴉はため息を吐いた。

 

「……わかった。だが、俺も太陽の正体はよく知らない。これは、俺の過去にまつわる話だ」

 

「鴉の……過去?」

 

「ああ。あまり話したくないことだったが、仕方ない。共有するに越したことはないだろうからな。しっかり聞いておけ──」

 

 鴉はそう前置きし、二人に話し始める。

 

「覚は知ってるだろうが、"鴉"というのは黄泉の神が作った人間だ。黄泉の元々の住人が、黄泉の神に命じられてなるもの……。だが、俺は違う」

 

「違うって?」

 

「俺は、元々はこっちの世界の人間。記憶は(おぼろ)げだが、俺は戦争の中で死に、鴉になった……」

 

「えっ!?」

 

「……そういうことか」

 

 加山は驚きの声を上げる。

 鴉は元現世の人間。そうとは微塵も思っていなかったからだ。

 それに対して覚は、合点がいったように頷いていた。

 彼が以前、鴉の心の中を覗いた時に見えた景色。それは戦争の風景だったのだ。

 弾丸や爆弾、戦闘機が飛び交い、多くの死体に囲まれた一人の兵士。あれが何なのか覚はずっと考えていたが、ようやくここで答え合わせがされた。

 

「大量の仲間が死に、戦場は焦土になった。俺には仲の良かった女がいたようだが、それが恋人なのか妹や姉なのかもわからん。とにかく記憶が断片的にしか残ってない」

 

「そうだったの……」

 

「……俺が覚えている現世での最後の記憶に、おそらくお前たちが見たという"黒い太陽"がある。無数の死体を見下ろすように……空に浮かんでいた……。だが、それだけだ。そこからの記憶は無い。いつの間にか俺は黄泉の国で暮らしていて、そして鴉となって妖怪を殺している今に至る」

 

 鴉の言うように、太陽の正体についてはわからない。

 だが、彼の過去を初めて知らされた二人は驚愕と憐憫、謎の太陽の不気味さから沈黙する。

 だが、それでもヒントは得られた。

 やはり太陽は幻ではなく、超常的な現象もしくは妖怪。覚は太陽の正体はそのどちらかと考える。

 

「今回の『一目連龍(はじめれんりゅう)』でも数十人の人間が死んだんだろう? 人間の死に反応して出ている可能性もあるな。俺の記憶でも、太陽は夜に出ていた」

 

「それか、お前に関わりがあるかのどっちかだろう。太陽が現れ、消えた途端にお前が復活したんだからな。鴉自体が太陽と関係しているのか、お前が特別なのかはわからないが」

 

「ああ」

 

「あの太陽、瑞子や鬼童丸たちにも見えていたのかしら……。もしそうなら、鴉と関係があるかもって考えに至られたら結構マズいんじゃない?」

 

「なんでだ?」

 

「もし妖怪なら、太陽の目的は謎だけど、四大財閥は邪魔者を排除するためにきっと太陽も鴉も狙ってくる。集中攻撃を受ける可能性があるってことじゃない」

 

「まあそうだな。向こうから来るなら歓迎……といつも通り言いたいが、あいにく瑞子鳴河にボロ負けしたからな」

 

 鴉は腹をさすりながら苦笑する。

 瑞子と相対した際、殺してやると吠えたものの結果は惨敗。四大財閥のトップとなれば、真正面から戦闘して勝てる相手ではないと思い知らされた。

 

 例の太陽を四大財閥がどのように捉えるのか。それは鴉たちにはわからないが、財閥と共に調査を進めるべき対象だと三人は決めた。

 そこで覚は進言する。

 

「鴉、加山さん。俺たちは力を合わせる他ない……と考えている。四大財閥の打倒、そして奴らから生き残るために。玉藻は世界を支配しようとしている。鬼も文明、社会を破壊しようとしている。月兎と瑞子の目的は不明だが、間違いなく俺たちの敵だ」

 

「お前たちは表立って敵意を表明しなければ、そうでもなさそうだがな。俺は狙われるが」

 

「……加山さん。さっきのアレを」

 

「ええ」

 

 覚に促され、加山はポケットから録音機を出す。

 そして鴉に向けて、再生ボタンを押した。

 小さなスピーカーから、茨木童子の声が発せられる。

 

「……加山、それは」

 

「茨木童子の言葉を録音したものよ。これは、四大財閥のトップが妖怪であり……日本社会と人間の敵であるという証拠」

 

「それを使って何をするつもりだ」

 

「奴らを倒す」

 

「その音声をばら撒くつもりか? やめとけ。確実に殺されるぞ。それにそれだけの証拠じゃ……」

 

「証拠はここからも集めるわ。それに、ばら撒くだけじゃなくてもっと別のやり方もある。味方を増やしたりとかね」

 

 鴉は眉間に皺を寄せる。

 加山の言葉には賛成できない。声に出さずとも、それを加山と覚が察せるほどに。

 

「奴らは世界中の国を滅ぼした大妖怪だ。人間の力だけでは何のダメージも与えられない。むしろ勢いづかせ、逆に滅ぼされるだけだ!」

 

「落ち着け、鴉。お前の言うことも一理あるが、直接この音声を使ってどうこうって以外の方法もある。それに、使うタイミングもな。そこも含めて、三人で力を合わせていこうってだけの話だ。それぞれできないことを、互いに補い合う。話し合って、より良い方向に進むんだ」

 

 鴉と加山の間に覚が割って入る。

 冷静で経験豊富な鴉も、物事を多角的な視点で捉えることは難しい。人間の加山は対妖怪の経験も無く、やや感情的である。

 この二人に覚が緩衝材として加わり、ブレーンとして働く。

 そうすることで、これまで以上に戦闘や情報収集を上手く行うことができる。

 覚は二人にそう語った。

 

「わかるか? 鴉。俺たち三人でだ。お前は使命のために、加山さんは人間を守るために、そして俺は仲間の無念を晴らすために。力を合わせよう」

 

「フン……」

 

「覚……」

 

 覚は運転席と助手席の間から、後部座席へ握り拳を突き出す。

 加山は彼の拳に、自分の拳をコツンとぶつける。覚を一瞥して微笑みながらそうした辺り、彼女は乗り気なようだ。

 鴉は面白くなさそうな顔をしながらも加山が覚に拳をぶつけるのを見ると、ため息を吐いて一拍置いてから同じように拳をぶつけた。

 

「フッ……トリオ結成だな」

 

 覚はほんの少しだけ嬉しそうに、そう呟いた。

 

 

───────────

 

 

 同時刻。

 場所は、かつて中国のあった広大な土地その南部。

 月明かりに照らされた荒野にて、金髪を(なび)かせたスーツ姿の男が両手を頭上に上げて()()をしていた。

 まるで一仕事終わらせ、達成感に浸っているように。

 

「んんーーっ! ハ──っ、丸三日かかったよ。これで四体全員分、封印の解除完了!」

 

 右肩をぐるぐる回しながら男、玉藻は独り言を張り上げる。

 そんな彼の背後で、何やら動く者が。

 ヤギのような(つの)を生やした人型の存在。しかし胴体は不定形で、一塊となった黒いスライムのように流動していた。

 その者は背後から玉藻に中国語で話しかける。

 

「いやぁ、流石ですねぇ。まさか本当に全員分解除できるとは。流石は、霊峰『青丘山(せいきゅうざん)』の神獣サマだ」

 

「フフッ、照れるじゃないか饕餮(とうてつ)。それに、そんな昔のことは忘れたよ。あの山ももう無いんじゃないのかい? ああ、神性が失われたって意味でね」

 

「……それで、()()は何をすればいいのですかぁ? ただ解放してくれただけ……なんてことはないでしょう? 見返りがあるはずだ……」

 

「察しが良いな。では、他三人もよく聞くんだよ」

  

 玉藻は自身の背後の闇の中へそう投げかける。

 二人は普通の人型。最後の一人は縦にも大きく、肥満体と呼べるほどの巨漢。彼らは玉藻の方へ顔を向け、()()()()()話を聞く姿勢を見せた。

 

「君たちには日本に来てもらいたい。そして、私の元で働いてほしい……なに、難しくもないし辛いことでもないよ。戦ってほしい相手がいるんだ。全てが済めば、君たちはこの世界をまとめる"王"になってもらう。素晴らしい提案のはずだ。君たちも、元は高潔な一族だったのだから」

 

 四人は沈黙したまま玉藻の言葉に耳を傾ける。

 どのように思っているのかは不明だが、少なくとも玉藻に対して反発心を抱いているようなことは決してなかった。

 

 

「これからよろしく頼むよ、"四凶"……」

 

 

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