暁の黄泉鴉   作:マサイのゴリラ

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42.連携

 四千前の中国。

 かの広大な土地を支配していたのは、三皇五帝と呼ばれる8人の帝王だった。

 彼らは神話時代の存在ということもあり、全員の実在が確かなものだったか否かは現在も解釈が別れている。

 『四凶』とは、この王たちの末裔であった。

 

 呪いか、それとも奇跡か。

 確かに人間から生まれた四名は、人智を超えた力、人の身からかけ離れた容姿をしていた。

 故に産まれた直後から人々からは忌み嫌われ、(きら)びやかな宮殿からゴミのように捨てられた。

 成長し、力を行使して独りで生きていた彼らは、自分たちが『四凶』と呼ばれ、人類の敵として扱われていることを知ると迫害してきた者どもに反抗する。そして悠久の時の中で、数千人もの呪術師たちの命と引き換えに封印された。

 

 

 四凶が"王"という言葉に反応するのは、こうした過去があったからである。

 彼らは王座に羨望し、憎悪し、憧憬し……そして希求する。

 

 

───────────

 

 

「はぁぁッ」

 

「フッ、ハァァッ!」

 

 鴉の刀と窮奇の手刀の高速の応酬。

 風を纏った窮奇の手は斬撃を放ち、貫手で鴉の体を貫こうとする。

 鴉は彼の攻撃を刀で弾きつつ、まず窮奇の動きを奪うために四肢に攻撃を加えようと狙い続けていた。

 しかし攻防は拮抗し、戦闘が始まって五分経過した現在でも二人は無傷であった。

 

 窮奇の腕には常に()()()()()()が渦巻いており、これが鴉と打ち合うための刃、もしくは彼の攻撃を防ぐ鎧の役割を果たしていたのだった。

 

「"鎌鼬(レンヨゥ)"!」

 

 手刀に渦巻く風の刃と鴉の刀がぶつかり、二人は弾かれたことにより一瞬よろめいてしまう。

 窮奇は鴉よりも先に体勢を立て直すと、掌を鴉に向けて斬撃の風を放つ。

 

「くっ!?」

 

 鴉は何とか身を翻し、鎌鼬の直撃を避ける。

 しかし彼の左脇腹を細かな刃の群れが掠めていき、コート、中のシャツの切れ端と鮮血が宙を舞った。

 

「くらえっ」

 

 

 バキュゥゥン!!

 

 

「うぐぅ!?」

 

 鴉はそのまま体を半回転させ、胸元から再度取り出したリボルバーを左手に握り、振り向くと同時に窮奇に向ける。

 銃口から硝煙が上がると同時に、窮奇の左肩からも血が噴き上がる。

 怯んだ彼の隙を逃さず、鴉は刀の(きっさき)を地面に擦りながら斬り上げを放とうと迫った。

 

「チィッ……!」

 

「なにっ……!?」

 

 刃が窮奇に当たる瞬間、鴉の刀の動きが止まる。

 間一髪のところで窮奇は風を纏った右手で刀身を受け止めたのである。

 

「掴んでやったぜ。このままバラバラにしてやるよッ」

 

「くッ!」

 

「くたばれッ、"広莫風(クァンモウフォン)"!!」

 

 鴉は咄嗟に刀を手放し、窮奇から距離を取ろうと後ろへ跳ぶ。

 だが間に合わない。窮奇の昂った妖力は既に全身に回り、後は爆発、放出の時を待つだけとなっていた。

 周囲一帯を暴風で襲い、斬り刻む窮奇の"広莫風"。鬼ほどの硬さは無い鴉の肉体で、果たして命を守れるのか。

 

「…………!?」

 

 窮奇の妖力が放たれる間際、数百メートル離れた位置に建つビルから爆発するように光の柱が空へ走った。

 その正体は妖力。窮奇のものとは別の妖力である。

 視覚と妖力を感じる仮想の第六感でその現象を捉えた窮奇は、つい風の爆発を止めてしまう。

 そして次の瞬間──

 

 

 ダァァアアアアアン!!

 

 

「うぐあああああッ!!?」

 

 突如、轟音とともに窮奇の左脇腹にピンポン玉大の風穴が空いた。

 強烈な痛みが彼を襲い、鴉という敵を前にしながらつい膝を突いてしまう。

 

 千年の眠りから目覚めたばかりの窮奇では想像もできないだろう。

 戦いの場に身を置かない一般人ですら、同じ状況に立たされれば()()()何を意味するのか察することができる。それほど、現代では浸透している攻撃。

 千年前には存在しなかった、狙撃である。

 

「なッ、なん──!?」

 

「何だ、知らないのか? それとも初めて喰らって戸惑いを隠せないか? いつか買おう買おうとは思ってた狙撃銃……(もも)()直々に改造した、もはや別物の九七式狙撃銃だ」

 

 鴉はうずくまって苦しむ窮奇に解説する。

 加山のマンションに戻って即、鴉はまた桃の婆の元へと赴いた。ボロボロになった服と魂灰、そして新たな武器を手に入れるために。

 その一つが、この魔改造九七式狙撃銃である。

 鴉は胸元から黒い無線機を取り出して、口を開く。

 

「初めてにしては上手かったな、覚」

 

『ああ、自分でも驚いている。まさか俺の()()がこんなことにまで通用するとは……』

 

 狙撃手は覚だった。

 窮奇が広莫風を放つ瞬間、ビルの屋上から妖力を解き放って集中を阻害したのも彼である。

 覚の『心を読む能力』は彼の瞳に宿っている。妖力を込めることで能力を発動し、対象の心の声を覗くことができるのだ。

 鴉の助言によって覚はこの能力を狙撃に組み込み、視覚と妖力によって確実に標的を捉えていた。

 尤も、捉えた標的を撃ち抜く実力は覚の才能だったのだが。

 

「てめぇぇ……!! 二対一かよッ」

 

「悪く思うな。これでも仕事でな。あの馬鹿でかい鋼鉄のタワーを崩すようなやつだ。俺たちも手は抜けない」

 

「チィッ!」

 

 窮奇は膝を突いたまま、悔しさと怒りに満ちた目で鴉を見上げている。鴉もまた、そんな窮奇を見下ろしている。強者と弱者の立ち位置である。

 だが、鴉は気づかなかった。

 ほんの一瞬、窮奇の視線が自身の背後にあるビルに向けられたことに。

 

(あそこか……鴉の仲間がいるのは。チッ……まさか遠距離攻撃ができるやつがついてるなんてな、考えてもなかったぜ。だが、俺を一撃で仕留めなかったのは大失敗だったな──!)

 

 窮奇は再び体に妖力を溜め込み始める。

 しかし広莫風を撃つ時とは違い、ほんの少しの妖力を。

 一瞬で行われたこの行動にも、鴉は気づけなかった。

 

「おらァッ!」

 

「うッ!?」

 

 窮奇は予備動作無く風を巻き起こし、鴉にぶつける。

 この風に斬撃は無く、ただ地面の塵を舞い上げて鴉の視界を潰すためだけに放たれたものだった。

 

 不意打ちを喰らった鴉は、思わず目を瞑り顔を窮奇から背けてしまう。

 鴉の刃と監視から逃れられた窮奇は後ろに飛び退くと、覚がいるビルを狙って右脚を大きく振りかぶり──空中を蹴飛ばすように、振り払った。

 

「"大馬風(ダーマーフォン)"!!」

 

 見えない暴風は巨大な鎌のように、一閃の斬撃となって放たれる。

 鴉は窮奇の声を聞き、それが技名だと判断して目を閉じたまま一瞬身構えるが、標的が自身ではなく覚だとすぐに思い直す。

 

「覚ッ、狙いはお前だ! 攻撃が行くぞ!」

 

『なにっ──』

 

 覚の声を阻むように、トランシーバーから音割れした轟音が響く。すぐに音は切れるが、これが何を意味するのか鴉には推測するしかなかった。

 

「次はてめぇだぜッ!」

 

「くっ」

 

 地面を蹴る音。

 それを耳にした鴉は腕で目を拭う。

 クリアになった視界に映ったのは、鴉に手で触れようと迫る窮奇の姿。

 渦巻く風を纏って、触れた瞬間彼を細切れにしてやろうと殺気も全開だ。

 

「オラァァッ!!」

 

 鴉の顔に迫る窮奇の掌。間一髪のところで鴉は頭をズラし、犠牲を左耳だけに抑える。

 切り刻まれた耳の血肉が舞い、燃やされたかのような熱さと痛さがその箇所を襲う。

 

「お前もガラ空きだぜっ」

 

 

 ドウンッ、ドウンッ ドウンッ──!!

 

 

「うぐぅぅ!?」

 

「はぁぁぁッ!」

 

「んがッ──!!」

 

 鴉は飛び込んできた窮奇の胸に、間髪入れずリボルバーの弾丸を撃ち込む。風の鎧で威力は落ちたものの、彼を怯ませるのには十分だった。

 そうして生まれた隙を突いて、鴉は窮奇を蹴飛ばし刀の峰で思いきり顔面を殴打した。

 鼻がひしゃげ、水風船を破裂させたかのように勢いよく鼻血を噴出する。

 

「ぶばッ……がっ、あああッ!」

 

「ふんッ!」

 

「うがあああああっ!? てめッ……短刀(ナイフ)まで!?」

 

「左腕を潰した、今度は命を貰うッ」

 

 両拳を打ち込んでくる窮奇の二撃を回避すると、鴉は瞬間的に懐から取り出したサバイバルナイフを渾身の力で窮奇の左腕に突き刺す。

 橈骨(とうこつ)を破壊され、大量の血が流れ出る。苦痛に耐えようとする窮奇だが、刀を両手持ちし迫る鴉の攻撃を回避するのは困難だった。

 

 

 ──このままならば。

 

 

「!?」

 

 窮奇の胴体を両断するつもりで、全力で刀を振るった鴉。

 しかし手応えは無く、窮奇の姿もそこには無かった。

 直後、彼の声が()()()()響き渡った。

 

「ここまでやれたのは褒めてやるぜ鴉ッ!!」

 

「なっ、空を!?」

 

「ハァ……ハァ……まあまあ遊びにはなったぜ。だが、加減してやられ続けるのも(しゃく)だ。決着をつけてやる」

 

 妖力で形成した巨大な白い翼。

 元々窮奇は空を駆ける獣だったのだから、飛ぶことができて当然だった。

 上空から鴉を見下ろす窮奇は、再び妖力を昂らせる。

 周囲が、空気ごと揺れるほどの妖力。

 彼の渾身の暴風が放たれんとしていた。

 

 

「"広莫風(クァンモウフォン)"!!」

 

 

 

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