暁の黄泉鴉 作:マサイのゴリラ
「きゃああああああああッ!!」
爆発音を聞きつけ、エントランスに戻ってきた受付の悲鳴が響き渡る。
玉藻によって惨殺された記者たちの残骸が、いよいよ人間に発見されたのだ。
しかし妖怪たちは一切気に留めず。玉藻は饕餮に投げかける。
「君なんだろう? 『あすこここ』の力を鬼たちに漏らしたのは」
「……ウフフフフフ」
玉藻が鋭い視線を饕餮に向ける。
これに対し
饕餮も、同じだった。
「いやぁ〜〜……バレちゃいましたねぇ〜〜。だぁい正解ですよぉ、玉藻さん」
「やっぱりな」
「私が犯人だとわかったのは、やはりあれですか。性格からして?」
「『四凶』の中で一番頭が働くのは君だからな。茨木童子たち鬼が、テレビで暴露だなんて真似をするとは思えなかった。百歩ゆずってやるとしても、バレたら終わるあの場面で行動に移すとも思えない──」
「つまりぃ、『あすこここ』の力で過去に戻り、会話を録音してきたのではないかとぉ〜〜?」
「ああ」
玉藻の推理は当たっている。
饕餮は『四大財閥』との初
それから饕餮はあすこここの破片をいくつか盗み出し、その一つを使って茨木童子たちと接近できる日を知る。
さらに未来にも向かい、瑞子や茨木童子の腹の内まで探った上で、茨木童子にあすこここの破片を渡したのだ。
「……窮奇、ちょっと静かにさせてくださいな」
「……。ほらよ」
頼まれた窮奇は、小さく指を振る。
発生したそよ風が玉藻の頬をかすめ、広いエントランスホールにいるスタッフたちを真っ二つにしていった。
悲鳴を上げていた受付や集まってきたスタッフは全員死亡し、これで再びホールは人外だけの空間となる。
「どうして私を裏切るようなことを、というのは問わない。なんとなくわかっているからね」
「では、答え合わせを」
「私が気に食わないからだ。王座を君たちに渡すという言葉を信じられず、現状全ての頂点に立つ私を引きずり下ろすため。これから始まる乱戦こそ、君たちの本領を発揮できる舞台となる……。私を倒せる条件が整った、というわけだ」
「まあ、そんなところですかねぇ。一つ間違いがあるとしたら、これから乱戦が始まるというところ。間違いではありませんが、きっと玉藻さんの想像しているようにはいきません」
「ほう」
「なぜなら貴方は、ここで死ぬからです──」
饕餮がそう言うやいなや、檮杌が床を蹴って玉藻に飛びかかる。
握った拳を振りかぶって玉藻を空中から殴りつけるが、その攻撃が届くことはなかった。
檮杌の体は空中で止まっていた。
「チィッ! 結界か!」
「さっき見せたばっかじゃないか……。相変わらず頭が残念だね、檮杌。いや、君たちが到着する前だから見れてないか?」
記者たちを自分から引き離した、透明な壁の正体。それは玉藻が妖力によって編み出した結界だった。
彼から半径2メートルほどの、球状の障壁。
檮杌の拳はこれによって止められた。鬼を超えるほどのパワーが、である。
さらに、饕餮の横から渾沌の姿も消えていた。
玉藻が背後に目をやれば、渾沌はいつの間にか背後に回っており、檮杌と同じように玉藻に向けて拳を放ち、止められていた。
「窮奇、手はず通りにお願いしますよ」
「言われなくてもわかってるぜ……いちいち命令すんじゃねぇ! "
苛立ちを隠すことなく、窮奇は手をかざして玉藻に向けて風を放つ。
無数の刃を隠したひと吹きの風は、玉藻の結界に直撃。
しかし結界に傷が付くことはなかった。
窮奇は続けて"鎌鼬"を放つ。
「無駄という言葉の意味を知らないようだね……」
結界を破ろうと窮奇は風を放ち、檮杌と渾沌も絶えず拳をぶつけ続けた。
後者二名の連撃は
玉藻は結界の内側で腕を組んで余裕そうにしており、絶対に破れないとたかを括った上で窮奇たちの行動に呆れを見せていた。
「……少しうるさいな。黙ってもらおう」
「うがあッ!?」
「…………!?」
玉藻はおもむろに人差し指を檮杌と渾沌に向ける。
指先に紫電色の妖力が収束。そして、閃光と共に質量を持ったビームとして解き放たれた。
妖力のビームは檮杌の顔面、
「次は君だ」
「くっ──!?」
玉藻は窮奇に目をやる。
一瞬で反撃された檮杌たちが床に倒れゆく中、窮奇は攻撃に備えて
刃の風をまとう彼のガードを見ても、玉藻は構わず指先を彼に向ける。
ガードごと、窮奇の命を貫かんとしていた。
その刹那──
「──ッ!」
玉藻の前に、巨影現る。
結界の外に真っ黒な何かが突如現れ、人一人を簡単に呑み込めそうなほどの大口を開けて玉藻に迫っていた。
「おおっとぉ〜〜! 食べさせてはくれませんかぁ」
玉藻は瞬時に結界を解除し、巨影の
真っ黒なそれは、饕餮の足元から流れている黒い粘液。それが玉藻の元まで伸びてきており、形を持って彼を襲ったのだ。
黒い粘液に現れていた"口"はすぐに、元から存在しなかったかのように消滅する。
玉藻はここで気がつく。粘液はエントランス中に広がり始めており、すでに池のようになっていた。
玉藻を囲むようにして、安全地帯が徐々に狭まってきていた。
「…………」
(一瞬迷ったが……あのまま結界を出していれば、おそらく食われていた。
「おやぁ、怖い顔ですねぇ。まだまだですよ。ほら、檮杌、渾沌、早く立ってください!」
「うるせーーっ! 言われなくても、玉藻をぶっ殺すのはこのオレだ!」
「……!」
饕餮に命令されて立ち上がる渾沌と檮杌。彼らの姿を見て、玉藻は驚く。
妖力で撃ち抜いたはずの檮杌の顔面から、なんと傷口が綺麗に消えていた。
渾沌も、切り離された腕を拾うと雑に切断面をくっ付ける。そして、「どうだ、もう治ったぞ」と言いたげに接着させた左手を動かして見せた。
「……どういうことだ。再生能力? 一名を除いて、それがあるとは聞いてないが」
玉藻の言う一名とは当然、渾沌のことである。
喋らないため、能力が何かということを聞けてもいない。
だが、檮杌の能力については彼はちゃんと押さえている。しかしそれは再生や回復に関わるものではない。
渾沌の再生力は知らなかった、で済ませられるが、檮杌の復活は玉藻も理解できなかった。
「勝手に知った気でいんじゃねぇよッ、クソまぬけ!!」
「フッ!」
「ゴハッ、あああ……ッ!?」
再び玉藻に飛びかかる檮杌。
結界を解除した今なら、肉弾戦が可能と判断したのだ。
しかし玉藻は自分の肉体に妖力を流し、強化を行うと、檮杌の放った飛び蹴りを腕一本で止めてしまう。
そしてもう一方の手で、再び妖力光線を放射した。
高速で三発撃ち、檮杌の
「"
「おっと」
「おあああッ!?」
窮奇の放った風の刃は、玉藻を確実に捉えていた。
だが彼の元には今、ちょうどいい
玉藻は檮杌の右腕を掴み直すと、飛んでくる不可視の刃にタイミングを合わせて、彼の体をぶつけて防いでしまう。
檮杌の背中に無数の切り傷が刻まれ、血が噴出する。檮杌本人も声を上げるが、どこかわざとらしく、全く苦しげではなかった。
「うぐッ!?」
窮奇の攻撃を防げたのも
玉藻の左半身に強烈な衝撃が走り、エントランスの巨大な柱まで吹っ飛ばされ、激突する。
彼を殴り飛ばして檮杌を解放したのは、渾沌だった。
「……はぁ、まったく、汚されたのはいつぶりだろうね。高くつくぞ」
(しまったな……。
「ほらほら皆さん、攻撃を止めてはいけませんよ! 何されるかわかったもんじゃないんですから」
柱の根本はすでに饕餮の粘液で呑み込まれており、玉藻が触れた瞬間、その体を食べ尽くそうと
玉藻は自分が柱にぶつかった影響で欠けた部分に体を預けたまま、再びフィンガースナップをしようと手を掲げる。
彼の目は、四凶たちの魂をしっかり捉えていた。
が、記者たちを爆殺した技は発動されなかった。
間一髪のところで、柱を登った粘液──そこに現れる大量の口──が玉藻の指を食いちぎろうと迫っていたから。
「くっ」
玉藻はその場から瞬間的に姿を消す。
「ああっ!? どこに行きや──」
檮杌が周囲を見回す。
彼が負わされた傷は、すでに全て回復していた。
自分を盾にした報復をしてやろうと探した結果、玉藻の姿をいち早く視界に収める。
玉藻は、饕餮の背後に移動していた。
"転移"の能力。それは
「まずは君からだ、饕餮!」
「なにっ!?」
黒い粘液に覆われた胴体は狙わない。
無防備である首元に向けて、鋭い手刀を放つ。
しかし──
「うぐッ……!?」
「なぁーーんちゃってぇぇ。ありがとうございます、窮奇。貴方のことですから、てっきり守ってくれないものかと」
「うるせぇな。てめぇがやれっつったんだろうが」
玉藻の手に無数の切り傷が刻まれる。
饕餮の周りには、窮奇の風が渦巻いていた。
威力は弱いが、触れるものを切り刻む
「"
「"
窮奇は
饕餮は大口を開けた黒い粘液の塊を盛り上げ、玉藻を丸呑みにしようと攻撃を放つ。
だがそれらは回避されてしまう。
再び転移した玉藻は、渾沌と檮杌の頭上に移動して四凶たちを見下ろす。
「……なかなかやるじゃないか。まさか、血まで流すことになるとは思ってなかったよ。君たち如きに」
「ウフフ、まぁだまだ。貴方の治世はここで終わりです。王座は、正統な者にお譲りなさい」
玉藻と四凶の戦いは、まだ終わらない。
どちらかが、完全に消え去るまで。